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入学初日

学園の門を抜け、馬車から降りてきたのは王国の第一王子パリスだった。

錆色の髪を靡かせ一般生徒と同じ制服の胸元には3学生を示すピンバッジを付けている。

隣でエスコートされた新学年に入学する予定、だった、アイリスと一緒に校舎を目指す。


「パリス様とアイリス様よ」

「パリス様は編入されたのね!」

「今日も美しい二人だわ」

「一緒に王家の馬車から乗ってくるなんて…アイリス様はパリス様に愛されているのね」

「朝から一緒にいたかったのね」


通るたびに聞こえる賛美の声。パリスとアイリスは当たり前のように受け止めて歩く。


宿舎の前にある階段でパリスはアイリスに手を添えて支える。その仕草すら絵になり周りは頬を赤くしたのだ。




新入生を前に在校生を後ろに。教師は周りを囲むように式は行われた。

学園長の挨拶、学園での過ごし方の注意事項に加え今回は第一、第三王子の入学だ。主席のアイリスの挨拶の後はロイとパリスの挨拶が待っている。


「ーーーーこの善き日に新たな出逢いを下さった学園の方々に感謝いたします。また、自分自身は至らない部分が多く、一緒に入学した新たな学び人と共に切磋琢磨し日々磨いていきたいと思います。ご指導の程よろしくお願い致します」簡単に述べると仲良くしましょうね、勉強頑張ります。そんな流れである。王子達より目立ってはいけないので地味に当たり障りのない言葉をチョイスした。


次にロイ。コレは酷かった。まぁ、王子なので逆らうなよ?と言うニュアンスの上の者らしい話だった。宰相側で教育を行なっていると思ったがどうやら間違いだったようだ。


最後にパリス。身分問わず自分に接してくれ。編入という形で学びの機会を与えてくれて感謝する。あと一年で卒業になるが楽しい思い出を作っていきたい。ロイとは逆のことをほぼ言ってる気がしないでもないが、下級爵位の子供にはうけていた。


そしてクラス分けでアイリスが2学年に飛び級した事を知らされると一部の者は顔を顰めたのであった。





アイリスは2-Bに案内された。運が良くローラと特徴の似ている生徒を発見した。好都合だ。拳を握り締めほくそ笑む。

「公爵家のアイリスと申します。よろしくお願い致します」

見事なカーテシーを行い微笑む。実質は1歳年上の方達だ。年下の自分に嫌な印象しかないだろう。顔を見てあからさまな態度の者もいる。

幸いな事にローラは嫌な顔ではなく、少し気まずそうな表情だ。まさか恋人の婚約者がここに来るとは思わなかっただろう。少し顔が青白い。


ふと窓の方から視線を感じ合わせた先には意外な人物がいた。

本当に神様は私の味方ね!運が良い。

教師は空いている席に、という事でその意外な人物の隣を指差した。






「夏ぶりね、ユージン」

小声でユージンと呼ばれた少年はバツが悪そうにアイリスを一瞥し、前を向く。

周りの視線がアイリスから離れないからだろう。関わりたくないオーラを出している。


新入生の今の時間は授業ではなく注意事項や自己紹介を行っている時間だろう。在校生は普通に授業がある。教師は教科書を開くように指示し、周りの生徒もそれに習いノートを取り始めた。アイリスは教科書をまだ配られてないので、ユージンと呼んだ少年と一緒に見ていた。



[何でここにいる?]

少しクセがある字がノートに書かれる。

[いてはいけないの?王子と交渉したのよ]

[何を?]

[貴方の義姉になる事を]


目を見開いた先のアイリスは微笑んだ。

「協力よろしくね、幼馴染」

恋人の弟に呟いた。










休憩時間。

アイリスの周りにはあっという間に上級貴族が集まってきた。

表向きは王太子確定の婚約者だ、媚を売りたいのだろう。

ユージンは席から離れた。


協力してね、って言ったのに…薄情者め。


少し恨めしげに友人と会話しているユージンを見、すぐに鉄仮面を被り対応に追われる。


「アイリス様は賢いのですね。流石未来のお妃様ですわ」

「そんな事ございませんわ。恵まれた環境にいてただ運が良かっただけですの。殿下の(臣下として)支えになれるよう教師を多めに付けていただけた結果ですわ」

「淑女の鏡であるアイリス様が婚約者なんて、パリス様が羨ましいですわ!」

「そんな事ございませんわ。私が至らないばかりに殿下の弱みになっていないか不安ですわ。少しでも不安を取り除けたらよろしいのですが…」

あえて、弱々しく儚げる。目を伏せ、自分は特別じゃないアピールをする。

「お母様と一緒に休養していた期間が長くお茶会などで皆様と交流出来ていませんのであまり人となりがわからないんです…よろしければアイリス個人として見て[友人]として接していただければ嬉しいのですが」

休養ではなく田舎の街で暮らしていたのでそれなりにやんちゃした記憶しかないが。実際外にあまり出ないままパリスに会い淑女教育が始まったので貴族社会の同世代との交流がない。

ユージン以外のクラスメイトの人となりがわからないままでは敵か味方か線引きが難しくなるだろう。

そして年上という事でアイリスに求められるのは年上として敬う心意気。

深い仲にならず、ある程度距離のある。

一般的な[友人]とはほど遠い関係を。




授業の時間になりユージンが隣に着く。

「よくも逃げたわね、薄情者」

「うるせー、ばぁあか」

友人以上に親密な彼には敬語は不要だ。伊達に平民出ではない。彼も子爵家だが貧しい貴族だったから平民に近い生活だった。マナーがあまりなっていない。


「お前の笑顔とか口調とかめっちゃ胡散臭かったわ」

「あぁん?伊達に淑女教育受けてないわよ。それよりあんたはどの一派?」

第一?第三?それとも第二?

少しでも情報が欲しい。

「何だそれ?」

全く役に立たなかった。流石次男坊。


親と子でも支持する派閥が違うのは時々ある。だからこその確認だったのに…

ローラより先に敵味方の区別をつけ対策を練っておきたい。

一週間ほど様子見だ。



「お前、授業聞いてんのかよ?」

「殿下と一緒に卒業できるほどの内容を終えてるわよ。学園に来たのはそれが目的じゃないから」


勉強より己らの未来のために。

アイリスの初日は終わった。




帰り。

廊下で絶対に何か起きるのは、流行っている小説の展開だ。アイリスは教室を出て校門を目指していると隣のクラスの令嬢だろう。取り巻きを引き連れて目の前に現れた。

「アイリス嬢?少しお話があるのですが」

キツめの瞳に縦ロール。ここで話す展開でなく呼び出すパターンか。

公爵の次の位、候爵の令嬢か。たしか、パリスに心酔している。

あ、コレは妃に相応しくないって罵られるパターンの奴だ。

瞬時に理解した。パリスを関わらせたら悪手になる。


「はい、わかりました」

「ついて来てくださいまし」


強制ですね。

取り巻きに周りを囲まれ、縦ロール令嬢を先頭に誘導される。薄暗い中庭にお一人様ご案内である。



「不正までして首位になり更には編入?!公爵家の権力を使い自分がパリス様の隣にふさわしいと思ってるの?恥を知りなさい。その気持ち悪い白髪も不吉ですしパリス様の隣には私がふさわしいの?わかる?!」

金色の髪で傾げると縦ロールから効果音が聞こえそうだ。背景化した取り巻きが賛成の声を浴びせている。

「不正まで…とは?学力試験は学園で行われましたし、編入試験も学園の教師を3人、公平な立場で行いました。編入については学園長と相談のもと過去あった事例に沿って行いました。白髪ですか…」

髪をひとすくいし、縦ロール令嬢と同じように首を傾げる。

白髪…ねぇ? 少しピンクがかった銀色だとは言われているけれど。見た目の嫌がらせは少し捻りが必要ですこと。

ここで試験を採点した教師に会いに行きましょう、なんて正論を吐いたらさらに買収したなんて言われてしまうのは目に見えてる。

手っ取り早く感情的にさせて暴力を振るってくれたら問題に出来るんですが。

煽りがたりませんかね?


「うるさい!家の力でパリス様の婚約者になったくせに!」

縦ロール令嬢の聞き手がアイリスの手を掴み反対の手が上に上がる。よし、キタ!叩く手前!条件反射で目を閉じる。






「そこで何しているの?」

「ひゃっ!」



周りの令嬢の悲鳴が聞こえる。

シルヴィオ様…と、誰かが呟きアイリスは目を開けた。


物語や恋愛小説ではピンチには王子様が現れてくれる展開が主だ。

この場合は王子であるパリスなのだろう。


目の前のミルクティ色の髪色の澄んだ空の色をした瞳の少年は。

間違いなく、アイリスの王子様だった。




パリスが青年寄りだとすればシルヴィオは少年寄りだった。実弟のユージンより肩幅が狭く数センチ低い。いつも胡散くらいくらい似非笑いしている目元が珍しく開いていた。


「黙りなさい、下級貴族!」

一瞬怯んだか縦ロール令嬢は止まらない。一応、年上なのに。


「まぁまぁ、落ち着きなって。セルシーもそう思うでしょ?ね!」

シルヴィオの言葉に縦ロール令嬢は呼ばれた方を振り返りアイリスの手を離す。

愛称で呼んだ相手、セルティルは候爵貴族の…


「最悪…っ!」


誰にも聞こえないようにアイリスは呟く。


眼鏡をかけ直して現場を冷静に眺める男は宰相の息子だった。

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