執務室にて
母は国唯一の公爵家第一子。下に弟、妹、妹といて恵まれた環境だった。没男爵系の平民の男を駆け落ちした後アイリスが産まれた。
「父は辺境の街のお医者でした。そこの子爵様とは友人でして家族共々交流がありました。元々父は邸に贔屓されるお医者様でしたから。10歳の歳、両親が流行病の地域からの帰り道馬車事故により亡くなりましたわ。母の出を知る子爵様のご好意により公爵家、お祖父様に引き取られましたの。
表向きは身体の弱いお母様を休養のため領地に母子共々匿っていた。とされていますが」
アイリスは感情の無い声で話す。
「両親が亡くならなければ、私、婚約者と一緒になれてたのですけどね」
「婚約者?」
「えぇ、子爵家のご子息と。生まれた時からの婚約でしたの」
優雅に紅茶を飲みアイリスはパリスに
「本当に誠実ですね」
微笑んだ。
「私が正妃になった際は彼を愛人として迎えようとしていましたのに」
腹黒だった。
それからは話が早かった。
今までが嘘の様に本音を語り合い、最後は人生のビジネスパートナーを見つけたかの様に握手した。
「お前は最高の理解者だぜ!」
「私も殿下が隣にいてくれてよかったですわ!」
もし、周りに誰かいたならば、聞いている周りは仲睦まじい恋人たちの囁きに聞こえるだろう。
事情を把握している乳兄弟は、虚な目で窓から外を見ていた。
入学まで一ヶ月。
パリスは入学準備と手続きにむけて。アイリスは進級試験の勉強をしながら作戦会議をしていた。
あの日を境にアイリスは毎日登城し情報交換をしている。
今日は改めて2人の中での約束事を正確に照合にすることにしていた。
一.他の令嬢がパリスに近づかない様に仲の良い婚約者のフリをすること。
一.パリスの恋人と公の接触はアイリスのみ。それとなく近づきマナーを教える。
一.側室の王子には関わらないこと。
側室の王子とは、ロイの事である。
第三王子は王族ではあるが、アイリスと同学年の新年生として入学予定だ。婚約者の令嬢も、アイリスと同じ学年だ。
アイリスの恋人はパリスと同じく15歳。(ちなみに第二王子も)3学生。
パリスの恋人と第二王子婚約者は14歳。2学生。
アイリスと第三王子、並びに婚約者は13歳。新年生。
アイリスは2学生を目指し一年分の勉強をし、特例の進学を申し入れたのだ。
ちなみに恋人とは夏の時期の両親の墓参りの特にちゃっかりデートしていたので片想いということでは無いです!とどさくさに紛れてカミングアウトしていた。
「もし、俺と婚約してなかったらどうなってたと思う?」
「地盤は固めておりますので爵位を買い彼に嫁ぐつもりでしたわ。お祖父様は私の味方ですもの。交際は反対されてませんわ」
愛人は公爵公認だったらしい。
裏ルートで化粧品製造や製菓販売を行なっていて個人収入あるんですの!と声高々と宣言された。茶葉も取り扱っているらしい。
強かである。
「殿下の恋人様のお名前は?」
「ローラ、だ。とても心が強く清らかな女だ」
「ローラ様ですね、覚えておきます。入学したら考えている事があるのでその件で殿下の名前を借りても宜しいでしょうか?」
「あぁ、任せる。何をするつもりだ?」
「平民の皆様や下爵位のご子息ご令嬢は上流階級の知識に乏しく格差が出来ていると思います。学園に卒業し優秀な成績を取り社会に出た時に少しでも役に立てる様にマナー講座を放課後に取り組みたいと思いまして… その際、少しでもローラ様と逢引できる機会を設けたいと考えております」
「まぁ、学園の子供達はいわや、王城貴族のミニチュアだもんな… 俺やマイナはまだ貴族や平民にそこまで贔屓などしていないが、いるもんな。特に宰相側の奴らは」
貴族贔屓をして平民をなんとも思ってない奴らが。
「俺が王になれば腐敗した膿を炙り出してやるけどな」
「ええ、私もお手伝いしますわ。民は宝です。だからこそ少しでも立場の弱い方々を支える準備をしたいのです。父親がそうでしたから…」
私達家族はたまたま運が良かったのですが。
一言付け足してアイリスは微笑んだ。
「マイナ王子は学園には通っておりませんよね?」
「ああ。マイナは身体が弱いからな。代わりに隣国の婚約者姫が留学という形で通ってはいるが」
「ルイ王子は…」
「臣下に下ると言って城を出て冒険者をしている」
「…我が領地の近衛隊に似た人物がいるとの報告があがっております」
自由だなぁ。
「ロイは野心はないが婚約者一族が厄介だ」
「ええ、宰相側ですね。婚約者は宰相の姪でしたよね」
「ああ。ロイは純粋だからもし王になったら傀儡にされているのが目に見える。本人も少し貴族のプライドが見え隠れしているからな」
パリスは圧倒的カリスマを持ち合わせており万能。正妃の王子という圧倒的地位。差別をしないという事で民からの信頼も熱い。
マイナは第三側妃の王子でパリスと5ヶ月違いの弟。武術の心得はあるがどちらかと言うと学者肌で一部の貴族からの支持は得ている。身体が弱いのが欠点ではあるが生活する分無茶をしなければ暮らしていける。
ロイ、ルイは第ニ側妃の王子。ロイは光る原石と言うべきか、磨けば輝くが磨く相手により輝きの色が違ってくる、とアイリスは思った。現に今支持している宰相側は貴族贔屓が強くロイもそれに倣っている。ルイはその光景を間近で見ていたからか自由を求めて後継放棄をして平民として城を出た。担ぎ上げる一派が出てきたとしても本人が嫌がるだろう。
「学園に入学したら独立機関であるため王以外は口出しできない。お前のことを悪くいう奴がいるかも知れない。極力側にいるが絶対に守るという約束は出来ない」
「覚悟の上ですわ。確実に来るのは殿下の婚約を妬んでいる令嬢の嫌がらせ。公爵家に恨みを持つ一派の脅しなどでしょうか? 私、これでも護身術習ってますのよ?家の暗部から」
見せれませんが、スカートを捲ったらナイフ隠してますの。
「薬も混ぜれば毒になりますし…ね。ふふふ」
「ははっ!最高だぜ!」
あはははは!
ふふふふふ!
2人の笑い声が執務室にこだました。
そして入学の日を迎えた。