(4)パチパチ弾ける☆新感覚
取り敢えずここで打ち止めですな! 続きは、また半年後?
結局主人公がTUEEEしている感じになってますが、戦ったりする為の力と言うよりも、寧ろイリュージョンの仕込みみたいな感じと思って頂ければ。
学園の敷地を出て、城下町へと向かう。
朝食の後に、壁を剥がしたりしなければ部屋の模様替えは自由と寮管から聞いて、リンラシアは勢い込んで猫と蜘蛛と呼ぶ眷属に、部屋の模様替えを頼んでいた。
イリナはすっかり不思議な子を見る様に見ているが、多分猫と蜘蛛は見事に部屋の模様替えをするのだろうと、ニーナルアは呆れた笑いを溢している。
「悪意って程でも無かったのよ?」
突然何の事かとニーナルアは首を傾げたが、どうやらリンラシアは食堂での事を言っているらしい。
「悪気が無ければいいと言う訳では有りませんわ!」
つい力を込めてしまったニーナルアは、当惑した様子のリンラシアへと説明した。
「オスタミク子爵領は何も無いど田舎と、リーンも馬鹿にされる事になるわよ!?」
「お~、流石に学園生は分かっているのよ?」
イリナが思わず小さく噴いて、ニーナルアは胡乱気にリンラシアを見てしまった。
「だ、だって本当の事なのよ!? オスタミク領もミルクは美味しいし、黄金ベリーみたいな特別な物も有るけれど、生物だから領外に売り出せないし、外から見たら何も無いど田舎なのよ?
チーズでも作れば売り物に出来るけど、ミルクの味が落ちるから私は反対ね」
「……チーズを作るとどうしてミルクの味が落ちるの?」
「チーズを作るには大量のミルクが必要で、大量のミルクを用意しようとしたら、今より何倍もの乳を無理矢理搾り取らないといけなくなるからよ。
王都のミルクは美味しくないでしょう? 大量の餌を詰め込まれて、乳を搾られるだけの生き物になって、仔牛と一緒に生きる喜びも知らないなら、ミルクが美味しくならないのも当然ね。
オスタミクの牧畜は、生業にしていても、商売にしていないから美味しいのよ」
この時の会話が、後日ニーナルアに無表情で「そうね、オスタミク領はど田舎でしたわ」と答えさせる事になり、軽はずみな級友を大いに慌てさせる事になるのだが、それはまた別の話である。
「うぅ……そうね、確かにオスタミクはど田舎でしたわ。――ど田舎でしたのね……」
遠い目をしたニーナルアが、溜め息を吐く様にそう溢したのである。
さて、そんなこんなで城下町へと出た三人だったが、まず向かったのは宿屋だった。
学園は貴族街の外壁近くに建てられていて、その近くに在る貴族街の中では最底辺の宿屋。しかし、田舎子爵家の三男ならば、充分に寛げる場所だろう。
「ご免なさい、ハルカお兄ちゃん。お兄ちゃんが私の馬車を当てにしていたなんて、知らなかったのよ」
しかし、そんな場所で頭を抱えて頽れたハルカラドに、更なる揺さ振りをリンラシアが掛ける。
「お兄ちゃんもゆったり旅路を楽しみたかったと思うけど、オスタミクに送るだけなら私の部屋からでも出来るよ。だから、安心ね!」
少しも安心出来ない事を言って笑顔を見せるリンラシアだが、やはりハルカラドはそんなリンラシアを見ながら呆けるばかりである。
そのままハルカラドは荷物を纏めさせられて、その荷物はリンラシアが妖精空間とやらに収納して、ハルカラド自身には姿隠しの妖精魔法とやらで周りから認識されなくした上で、学園の女子寮に在るリンラシアの部屋へと連れ込まれた。
そこでリンラシア自身が面倒で大変と言うその言葉通りに、三十分程寝室に籠もった後で出て来たリンラシアは疲れた顔を隠さずにいて、そのリンラシアが案内する寝室の中の扉を潜ると、其処はオスタミク領の領主邸の庭に設けられたリンラシアの眷属小屋――その中に設けられたリンラシアの作業部屋だった。
人間理解の出来ない現象に直面すると、頭の働きが鈍くなるものだ。
何事も無いかの様にハルカラドの荷物を運び込んだリンラシアに執事やメイドは目を見開き、しれっと昼食に加わるリンラシア達と混乱しながらも給仕に回るイリナの姿に父母共に呆然と口を開け、慌ただしくハルカラドへの尋問が始まるのはリンラシアとニーナルアが不思議な扉から再び王都へ戻った後。
しかしそれも当初は相槌ばかりで使い物にならず、漸く頭が回り始めて「どういう事だ!?」と叫んだのは、夜、ベッドに潜り込んだ後だという。
しかし、ハルカラドは或る意味これからリンラシアの非常識に晒される学園から解放されたとも言えるのだ。
学園に残るニーナルアと何方が幸せだったのか、この時点では誰にも分からない事である。
さて、王都に戻ってから、乾いた笑いを浮かべたニーナルアは、イリナと共にリンラシアへと王都を案内した。
次の日から、リンラシアは何も彼もが真っ黒い仮面のメイドを連れて王都を廻っている。
代わりにリンラシアが連れていた筈の猫の姿が消えていたから、きっと言っていた通りにそのメイドが猫なのだろうとニーナルアは理解した。
いや、理解してはいなかったかも知れないが、そういう事にする他は無かったのだ。
しかし、そうやって呆れられながらも、リンラシアの行く先はぶれる事無く食材屋巡りである。
「ねぇ、リーン。王都を出歩くのが楽しいのは分かりますけれど、試験勉強は大丈夫なのかしら?」
「無理をして点数を取っても、私の生き方が崩れてしまうので駄目なのよ? 『餐神』が失われてしまったら元も子も無いでしょ?」
与えてはいけない御墨付きを得てしまった妹を見る様で、ニーナルアは苦笑いしか漏れない。
しかしそれでいて、到頭試験の初日を迎えたその日、座学の試験を終えて戻って来たリンラシアは、何故か難しい顔をしながら呟いたのだ。
「もしかすると、思いの外に解けたかも? 雀麦の産地として知られるまるまるで起きた何たらかんたらとか、問題文を読むまでも無く答えが分かってしまうのよ? 紋章当ても思ったより特産品の食べ物が紋章に描かれていて、それなりに当てられた様な気がするのよ?」
思ったよりも出来が良かったと首を捻るリンラシアに、別の意味でニーナルアは苦笑を漏らす。
二日目の実技の試験では、ニーナルアも助勢に駆り出されている。既に領の騎士団の誰よりも強いと噂には聞いていても、ニーナルアもリンラシアが戦う所は見た事が無い。
騎士団員より強い新入生も居ない訳では無いが、それが女性となると試験官もやり辛いだろうと、ニーナルアは心中察してまたも苦笑いを浮かべるのだった。
リンラシアと一緒の学園生活では、どれだけの苦笑いを浮かべる事になるのだろうと思いつつ、魔法試験の助勢に入ったその日、覚悟していたその通りにニーナルアは理不尽が蹂躙するのを見る。
いや、もしかしたらニーナルアが理を解していないだけかも知れない。でも、それは周りの全員が同じで、寧ろ教師の方が衝撃を感じている様だった。
そもそも、屋外に在る魔法の試験会場に現れたその様子からしておかしかった。
何故かリンラシアがほぼ先頭に立って、他の受験生が御付きの様に従っている。
その中に、今年入学すると噂が飛び交っていた第四王子が含まれているのはどういう事だろう?
学園には財力と信用が有れば平民でも入学は出来るという触れ込みだが、実際には身分の上下に厳格に従った振る舞いが求められている。
学園の中でほぼ最下層となる子爵家の子女は、こうして助勢に回る事も多い事からも、立場の低さが窺えるだろう。
翻って王子ともなれば、基本的にお待たせする事の無い様に配慮され、恐らく試験の順番も一番最初に組み込まれていた筈だ。
魔法試験の前に行われていた筈の、武技試験。その会場で何かが有ったとしか思えない。
その集団を離れ、一人駆けてきたのはニーナルアと同じく子爵家の娘であるアミテール。いつも子爵家子女の憂いを冗談として飛ばし合った友人だ。
武技試験の助勢をしていた筈だけれど、こちらに来たという事は、武技試験はもう終了したという事なのだろうか。
「リーン! リーン! 凄いよ! 妹さんでしょう!? もう凄かったのよ!」
言語が崩壊している友人から聞き出してみれば、そこにはいつも通りのリンラシアの姿が浮かんでくる。
しかし、まず口火を切ったのは、リンラシアでは無くオーステニ第四王子だったのだとか。
「初めに待ったを掛けたのは殿下だったわ。私達は集会で強く配慮を求められましたけれど、受験生達は殆ど入れ違いで王都に来てから手紙で知らされた子も多いでしょう? 殆ど伝説でしか無い神の『ユニーク』なんて言われても実感が湧いて無くて、それは先生方も同じだったみたいで、最初に試験に呼ばれたのはオーステニ殿下だったのよ。
それで殿下が優先されるべきは他に居るって促して、それで先生方もはっと気が付いたみたいなんだけど、指名された妹さん自身が首を傾げてね、『食材の調達に狩りには行きますけど、対人戦は不得手ですから、手加減出来ないかも知れません。他の方々の試験もございますから、私は最後でも構いませんよ?』って。どんな自信よって思うけれど、実際妹さんの順番になったら、何でも大体扱えるって言葉通りに、弓も投げ槍も一発必中! 手に取ったら直ぐ放って狙いも付けていないみたいに見えるのに、全部ど真ん中でしかもバカンバカン的を砕くってどんだけ凄いのよ! 最後には先生との試合になったけど、悩んだ末に選んだ得物が只の棒で、それで結局先生に何もさせずに勝っちゃったのよ! もう凄いの! 何をしたのかも分からない内に、頽れて動けないでいる先生の首に棒をそっと当ててたんだから! 訳が分からないくらいに凄かったのよ!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて興奮した友人が語る言葉で、ニーナルアも状況を理解する。ニーナルア自身、王子が居るなら試験は王子が一番初めで、リンラシアは子爵の子女らしく最後の方だと思っていたが、言われてみればその通りだ。
きっと周りに居る人達も、アミテールの燥ぐ声で、同じく状況を理解したのだろう。
魔法試験は、そもそも受験する人数も少ない。そもそも『魔素感性』を得ている入学生が半分程の状況で、放てる程の魔法を扱えるのが更にその一部だけだからだ。
王族であれば当然の如く既に学んでいる事だろうが、そのオーステニ王子がリンラシアの試験が終わるまで待っていたのだとすれば、魔法試験の会場に誰も来なかったのは納得だ。
魔法試験には対人戦は無い。故に魔法試験の試験官は、武技試験の試験官と同じ過ちを犯さない様にと、まずリンラシアに声を掛けるのだった。
「それでは、リンラシア=ラーライト=オスタミク。君から受験するという事で良いのかな?」
腕を組んだオーステニ王子が当然の様に頷いたが、今度もリンラシアは首を傾げている。
「あの、私の魔法は妖精の魔法を視て憶えた物ですから、知られている魔法とは違うみたいなのですけれど、構いませんか?」
人前だからと取り繕っているリンラシアを見るのは口元がによによしてしまうと思いつつ、ニーナルアは周りの様子に目を走らせる。
思ったよりも欲深く顔を歪めた者が居ないのを見て、ほっと胸を撫で下ろした。
そんなリンラシアが見せた魔法。
弓矢の的とは違って、壊される事が前提に置かれた丸太の標的に、何でもいいから使える魔法を放つ様に言われたリンラシアは、どこからともなく小さな茸を取り出してから、丸太へと視線を向ける。
そして、普段の口調で気の抜ける呪文を唱えた。
「軽く炙って~」
リンラシアの声と共に、丸太がほんのり赤い光を放ってから、じゅわっと湯気を噴き上げる。
「濡らして~」
丸太が靄に包まれて、靄が消えた時には赤い光は収まっている。
そこでリンラシアが徐に手に持った茸を投げると、茸は丸太の周りを三周飛び回ってからリンラシアの手元に戻って来た。
「ちょっと腐れて~」
良く分からない黒い空気に丸太が包まれたと思ったら、現れた丸太は少し黒ずんでいる。
「はい、ビリビリ~!」
丸太が一瞬雷光を纏った。
「いち、にぃ、さん、で、茸っ!」
そしてリンラシアの掛け声に合わせて、丸太から茸がぽこぽこ生えた。
誰も着いて行けてない。皆口を開けて呆けている。
「収穫して~」
丸太から切り離された百本近く見える茸が宙を舞う。
「今度はじっくり焼き上げて~」
良く分からない赤い空気に包まれてから、茸の焼けるいい香りが漂ってくる。
ちょっと縮んでいい感じに焼き上がった茸を手元に引き寄せたリンラシアは、今度は普通に塩を振った。
「出来上がりなのよ!」
見学者の手元に一つずつ、ほくほくの茸が飛んで行く。
何を見せられているのか分からない試験官。
呆然と手に取ってその熱さに慌てている入学生。
遣り切った表情のリンラシア。
「どうぞ、召し上がって下さいな。促成茸魔法ですのよ? 丸太がホダの木でしたからこの魔法にしましたけれど、丸太が有ればご飯に困らない、優秀な魔法ですわね」
そう言ってリンラシアは美味しく焼けた手元の茸をぱくりと一囓り。
顔をほわりと緩ませた。
そんなリンラシアの様子と、それからどうにも胃袋を刺激する香りや指先の熱さに当てられて、残る全員が一斉に配られた茸に齧り付く。
一囓りした途端に目を見開いて、あっと言う間に小さな茸は食べ尽くされた。
ほわっと緩んだ空気が辺りに漂った。
暫くしてから、まずオーステニ王子が吹き出す様に笑い始めた。
直ぐにその笑いは感染して、全員が笑い声を上げ始める。
お腹を抱えて頽れる者も、涙を拭いつつ友人に凭れ掛かる者も、思わず笑い過ぎて嘔吐いている者も。
「し、試験官、参考に聞きたいのだが、これはどう採点するつもりなのだ?」
「く、くく……意地悪ですな、殿下。我々に採点出来るものでは無いでしょう。これはもう、美味しいとしか」
その言葉に更なる笑いが膨れ上がり、笑い声の響く中、リンラシアが残る茸を口へと運ぶのだった。
結局その後はオーステニ王子が主動して、恙無く魔法試験も終了した。
流石に王子は魔法の腕もかなりの物で、放った火の玉が標的の丸太を炭へと変えた。
そんな魔法をリンラシアが難しい顔をして見ているのにニーナルアは気付いていたが、リンラシアへ感想を求めた王子に「それでは折角の食材が台無しになってしまいますわ。魔物相手なら中級下位までは通じそうですわね」と答えるのを聞いて、そういう事かと理解した。
何より笑い声が木霊して、その時は深く考える事は出来そうに無かったのである。
そしてこの時、リンラシアに続いて魔法試験を受けた入学生達は、笑いに緊張を吹き飛ばされて、過去最高の結果を引き出す事となった。
これをして、気分を盛り上げて能力を引き上げる事を、リンラシア効果と密かに囁かれる様になるのだが、これはまた別の話。
ともあれ、リンラシアはこうして学園に鮮烈なデビューを果たしたのである。
ニーナルア視点はここまで。
次話はまた別の人でしょうね。
他者視点多目でこの作品は進めていきたいと思います。
ではでは~♪