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(1)妖精姫の作り方

 恋愛物を書こうと書き出しだけ作ったけれど、後は何も考えていません。

 つまり、暫く……数ヶ月?……いや、半年くらい? は放置になるかも。

 それでもちょっと気になるなぁと思って頂けましたら、ブックマークの片隅にでも入れて置いて頂ければ。

 いやぁ、恋愛物が書けるとも思わないんですけれどね?

 私はリンデール王国の僻地に在るオスタミク領で、領主の娘として産声を上げました。

 リンラシアの名前には、果樹の妖精の様に恵みを齎す存在になって欲しいという願いが込められているそうです。

 魔境に接する辺境までには他領を一つ挟み、海に出るには二つ挟み、王都へ行くには六つは他領を越えて行かなければならないそんな土地。

 小川は幾筋も流れているけれど大河は無く、土地も痩せているとは言えないけれど輸出出来る程の大規模な耕作には向いていない、言ってみれば田舎です。

 そんな土地で外貨を得るのは、放牧された獣達が頼りでした。

 子爵として領地を任されている父は頭を抱えていましたけれど、私はこのオスタミク領が大好きなのです。


 幼い頃私に付けられていたメイドが、清麗として落ち着いたアデリナと、快活として活動的なリッテだった御蔭で、私は貴族の娘らしいお淑やかさを失わないままに、結構好き勝手していました。

 大体はリッテと一緒に庭の毛虫を缶に山盛りうにょうにょと集めていたのをアデリナに見付かったりして、リッテと一緒にぴゅ~、と逃げたりしていたのです。

 本当にそんな野生児を捕まえて、よくぞここまで外面を取り繕える様に仕込んだものと、アデリナには感謝の念が絶えません。

 まぁ、元々は子供が苦手だとリッテ任せにしていたのもアデリナなんですけれどね。


 聞いた話によれば、私は這い這いが出来る様になって直ぐに館の中を探検する様になって、不幸にもメイドの一人に踏んづけられてしまうという事件が起きてしまったらしいです。

 それ故に危ないからとリッテに押し付けられる事になったらしいのですが、そのリッテのした事は、這い這いする私を広大な畑に解き放つ事でした。


 リッテ曰く、畑には小石も無ければ、ふかふかした土で怪我をする筈も無く、赤子一人が御乱行の限りを尽くしたところで被害なんて知れたものと、まぁそれなりの理由は有ったみたいです。

 館の人にはとても言えませんけれどね。何と言っても赤子ですから、目に付いた野菜も食べますけれど、土も食べれば蚯蚓も食べるという具合で、それを笑って見守っていたリッテに何のお咎めも無いとは思えませんし。

 小作人の人達もまさか領主の娘とは思っていなかったのでしょうけれど、私が食に拘りを持つ様になったのは、この時の体験から来ているのかも知れません。


 そうは言っても流石に私も赤子の頃の事は覚えておらず、記憶に鮮明に残っているのは三歳を過ぎた頃に、館の裏に在る森の中で輝く黄金ベリーを摘んで食べたその時の想い出です。

 丸く綺麗な黄金ベリー。見付けた事をリッテに驚きと共に褒められながら食べたその味は、鮮烈な甘みと突き抜ける爽やかさでした。

 しかしその時の私は何を思ったのか、嘗て無い悔しさに身を焼かれていたのです。


 物凄く美味しい黄金ベリー。初めの一粒は丸ごといってしまいました。

 強烈な美味しさに、眼を見開いてリッテを見上げれば、リッテはお腹を抱えて笑っていました。

 こんなに美味しい黄金ベリーなら、家族にもお土産に持って帰るべきでしょう。

 でもその前に、もう一粒。

 そう思って今度は小さく囓り取った筈なのに、初めと同じだけの美味しさを口に中に感じました。

 そしてその次は更にちびっと。でも、やっぱり同じだけ美味しいのです。


「なんで不機嫌?」


 リッテの疑問を聞き流しながら、更にちびっと。もう舐めるのと変わりが無い位になって、漸く美味しさが落ち着きます。

 つまり私の舌は、この黄金ベリーの美味しさを、舐める程度迄しか感じられない程にレベルが低いという事です。

 がぶりと食べたその美味しさの殆どを、私は感じる事も出来無いのです。


 それを思うと悔しくて悔しくて、この時、(よわい)三歳にして、私は舌を鍛える事を決意したのです。


 それからは毎日の食事でも、舌を駆使して味の秘密を解き明かしていきました。

 硬いチク竹の甘露煮を、お口の中で舌で割る事百本余り。

 パンを噛まずに舌でほじくって食べ切る事十個ばかり。

 様々な方法を試しては、館の中にも設けられている祭壇へと走る事数十回。

 それで結局分かったのは、舌を鍛えるのには細かな味の違いを利き分けるのが一番という、分かってみれば当たり前な結論でした。


 因みに祭壇は小さな村でも必ず一つは設けてある四角い台座で、手を当てれば既に得ている『能力(アビリティ)』が脳裏に浮かんで分かります。

 でも祭壇の大切な役目は他にも有って、祭壇で儀式を行うと、その人のそれまでの経験により『ユニーク』と呼ばれるその人固有の『能力』が得られる可能性が有るのです。

 尤も、殆どはそれまでに得ていた『能力』の強化に終わるらしく、『ユニーク』を得る事が出来る人なんて、一心に一つの事を集中して手懸けていた人くらいらしいですけどね。

 でもそれだけに『ユニーク』は強力な力を持っている事が多いのです。


 因みに、田舎の村に有り勝ちな木で造った簡素な祭壇で遡れる経験は一年程。多くの街に設けられている石の祭壇では五年程。館に有るのも五年物で、世の中には二十年物の祭壇も有るらしいですけれど、そこまで行くと生き方もぶれてしまって却って『ユニーク』を得られる人も少ないのだとか。

 何れにしても、五歳に満たない私では、『能力』を磨くのがその時出来る全てでした。


「このスープは……シェフを呼びなさい!」

「は! お(ひい)様、如何為されました?」

「このスープにはオンデルさんの小麦と塩、砂糖、ペグの実を使っていますね!」

「流石はお姫様。よくぞ見破りましたな! しかし、生産者まで何故分かったのでしょうか?」

「オンデルさんの畑の土と同じ味がしました」

「は?」

「ですから、オンデルさんの畑の土の味がしました」


 そんな感じで食事の度に看破したりと、舌を鍛える事に余念の無い私でしたが、どうやらそんな私は父や母、兄や姉達、そしてリッテ以外のメイド達からも、可愛いけれど何かがおかしいと認識されていたみたいです。


 それがはっきりしたのは五歳になった誕生日。

 館に設けられた祭壇の間で、普段は仕舞い込まれている儀式用の銀杯に何処からとも無く光る水が満ち溢れ、それが宙に飛び出して私に降り注がれたその時に、私はある一つの『ユニーク』を得ました。


「……『野生の姫』、とは何だろう?」


 父は首を傾げましたが、『ユニーク』を五歳で得るのは僥倖です。

 しかしそんな名前の『ユニーク』を何故私が得たのかという事で、リッテは糾弾され、私の教育は見直される事となりました。

 私の自由は目減りしてしまいましたが、実の所少々行き詰まりを感じていた私にとって、その決定はそれ程不利益となる物でも無かったのです。


 三歳で美味しいに目覚めた私は、まず舌から鍛える事にしましたが、これは言ってみれば味覚です。直ぐに、美味しいは味覚だけでは無く匂いでも楽しむものだと気が付きました。

 そして嗅覚も育っていけば、目でも楽しむものだと直ぐに繋がり、歯応えやパリッという響きから触覚に聴覚も影響していると分かります。

 つまり、味覚、嗅覚、視覚、触覚、聴覚の五感全てが美味しいに繋がっているのです。

 それだけでは無く、その日の体調も大いに関わっているのが分かりました。ちょっとぼーっとしているだけでも、味はぼやけてしまうのです。


 ですから私にとって正しい姿勢を学ぶ機会や、お勉強の時間というのは、リッテと二人だけでは得られない事を知る、貴重な時間だったのです。

 実際に規律正しい生活をして、頭がいつもしゃっきりとしている様になってから、ご飯が更に美味しくなりました。

 ダンスや護身術で姿勢が整う様になってからは、味にも減り張りを感じる様になりました。

 八歳になる頃には『能力』として得ていた『味覚強化』、『嗅覚強化』、『視覚強化』、『触覚強化』、『聴覚強化』は全て最大値を示す☆付きとなり、統合されて『五感強化』の☆付きに変化しました。それと同時に第六感とも言われる『直感』を獲得したのですが、これについては後で述べる事として、『五感強化』はそれまでと違って温度の変化も捉えられる様になっていて、それら様々な感覚が複雑に味に絡んでいました。

 暖かい時に美味しい食べ物。寒い時にはお鍋が美味しい。お椀や匙が木か銀かでも味わいが変わって、時には着ている服の材質でも何かが違う。明るさ、湿度、凡ゆる事柄。舌だけに拘っていた幼い私の何と未熟だった事でしょう。

 目の前が開けた気分で、八歳の私は凡ゆる事柄へと手を延ばしたのです。

 全てはご飯を美味しく食べる為に。


 『五感強化』でも手の届かない部分を『直感』に頼った為なのか、九歳になる頃には『直感』も☆付きとなりました。それで獲得したのが『魔素感性』――第七感とも言われている力です。

 結局の所、五感も直感も魔素への感性も、受け身で感じるだけなので私から他への影響は与えられません。ですが、目を閉じ耳を塞いでは真面に動く事が出来無い様に、魔素への感性が育ってなければ魔術を使う事も出来無いのです。

 本来ならば体の出来上がってきた十歳を目安に、能力に『魔導』を持つ上位者が導くものらしいのですが、オスタミク領の様な田舎ではそんな魔導師が訪れる事も無く、学園に通うまでは魔法を覚えるのは望む可くもないと諦めていた事でした。ですが、『魔素感性』が目覚めてさえいれば、独学で魔術だって使える様になるでしょう。


 そう思っていたのですが、中々私に魔術の目覚めは訪れず、結局十歳の誕生日が先に来てしまいました。


「……『健啖家』? 何故? どうして?」


 十歳でも得られた『ユニーク』に皆が頭を悩ませていますけれど、私にとってもリッテにとっても納得の結果です。

 尤も、太ってしまうとこれも味覚が鈍くなると分かりましたから、健啖と言える程に食べていた訳では有りませんが、私の全ての行動は美味しく食べる為に有ったのです。これで『淑女』だなんて能力を得てしまったなら、遣り切れない哀しみに苛まされていたでしょう。


 とは言え、振る舞いだけ見れば其処に居るのは幼い淑女の鑑。すらりとした体型で姿勢良く凜と立ち、身嗜みにも清潔感が溢れてます。兄姉達が学園に行く準備もしないといけない事も有って、再び私に自由な時間が訪れたのでした。

 久しぶりにリッテと一緒に森の奥へと入ってみたり、秘密の畑を作ったり。ダンスの時間が減った分、畑仕事や護身術の鍛錬に時間を費やし、時には弓を持って狩りに出掛けたり。

 ええ、やっぱり体を動かした後はご飯も美味しいと思います。


 自分の魔力を何とか少し動かせる様になった十一歳。森の奥で妖精の一族と知り合いになりました。

 言葉は通じないながらも、妖精の魔法を見て盗み、漸く私も魔術師と名乗る事が出来そうです。

 その頃には庭の一角にも私専用の畑を造り、私専用の牧場(まきば)も調えました。美味しくご飯を食べる為には、ふかふかで気持ちのいいベッドと、ちくちくしないで私の体を包み込む服も必須でしたから。


 妖精魔法が唸りを上げる十二歳。この頃から騎士団の訓練に交ぜて貰う様になりました。小さな体で大きな力を発揮する妖精魔法の身体強化が火を噴きます。

 新兵相手には結構互角な立ち回りをして、大人達を驚かせます。何と言っても幼い頃から森を遊び場にしていたのですから、身の熟しには少々自信が有りました。

 でも即刻魔法がばれて、兄姉達や騎士達に魔法の手解きをする様になったのもこの頃からです。


 微妙な顔で送り出された十三歳。騎士団と一緒に魔物の討伐です。

 魔物は別名世界に仇なす現象(・・)と呼ばれていて、斃すと煙の様に消えてしまう化け物です。

 魔物が居るとその周りは瘴気に侵されて、疫病や飢饉の原因となるので討伐が必要です。

 私にとっても食材を駄目にする魔物は大敵です。でも、それが無くても魔物を斃せば、ご褒美に身体レベルが上がる事が有るのですから、参加しない理由が有りません。

 『能力』レベルはレベル十まで上げればその次は☆付きとなりますが、身体レベルは今の所上限は知られていません。レベルが一つ上がれば大体身体能力が二割から三割上がります。レベル十ならレベル一の約十倍。レベル二十で約百倍と聞きますが、そんな人は滅多にお目に掛かれません。

 序でに狩猟ギルドへ登録したのもこの頃です。オスタミク領の領主直轄地ならば兎も角、他の場所で狩りを行おうとしても大抵狩猟制限が掛かっていたりするものです。

 更に言うなら魔物の討伐も傭兵ギルドと並んで狩猟ギルドの仕事ですから、登録して損は有りません。

 美味しいご飯の為には無くてはならない資格なのです。


 驚きの十四歳。何と、妖精魔法で魔物の眷属化に成功しました。

 小動物を丸齧り出来そうなべったりした気持ち悪い蜘蛛の魔物が、眷属化すると掌に乗る小さな可愛いハエトリ蜘蛛の姿になって、魔物の頃とは違って何だか存在自体も安定した感じです。

 その蜘蛛の糸で織った布が美事です。触れた肌にはさらさらと、汚れは弾き、見た目にも輝く様な美しい布です。

 この布ならば、刺激も無く匂いも無く、どんなご飯も美味しく食べられるに違い有りません。

 早速一枚御披露目したら、一番上の姉の婚礼衣装に化けました。


 何故か父の方が気合いを入れていた十五歳。今回の『ユニーク』には神の一文字が付いていました。

 『ユニーク』は得る方が難しいと聞いているのに、一度も外した事が無いのが自慢です。


「……『餐神』……。五歳の時には『野生の姫』、十歳で『健啖家』、そして今回のこれか。我が家の末っ子はどれだけ食いしん坊なんだ?」

「“神”の一文字が付くなんて凄い事なのに、これでは微笑んでしまいますわね」

「『剣神』で曾婆さんの世代。今の近衛師団長でも『剣聖』だっけ?」

「つまり私の妹は、神懸かった野生の食いしん坊なのね?」


 父母だけでは無く、私の誕生日だからと学園から帰ってきていた兄や姉にまで言われてしまいました。

 でも、それは彼らが美味しいの魅力を知らないからなのです。

 そう思うと、何と無く憐れになって、私は今の私の心尽くしを振る舞ってみる事にしました。

 勿論全員お風呂に入って貰ってから。食堂に服にとコーディネートに半日掛けての晩餐です。


「「「「ぅおおおおおおおおお!!!!!」」」」


 滂沱と涙を溢して、叫びが喉から迸っています。

 ふふふ、それでは丸で、舌のレベルも低かった、昔の私みたいですよ?


「師匠! ぜ、是非とも師匠に!!」


 我が家のシェフが膝を突いて縋り付いてきますけれど、私が伝えられる事なんてそう多くは有りません。まずは五感を☆付きにして貰うしか無いでしょう。

 そうすれば、我が家のご飯も今よりもっと美味しくなるに違い有りません。

 家族が私への理解を深めてくれた事にもにまにまと口元を緩めながら、私はそんな事を考えていたのでした。


 そして十六歳の今日。私は王都に在る学園へ通う為の準備をしています。

 男爵家までなら地方の学校でも構わないのですが、子爵家ともなると王都の学園に通わなければなりません。尤も期間は二年と短く、既に領地で学んだ事の総浚えと言ったところです。

 要はその領地の子供の資質を確かめて、あの領地の次代は期待が出来るから隣接している王家直轄地の管理も任せてしまおうだとか、その逆に彼処はどうにも頼り無いから何か問題を起こした時の為に接収の準備を進めておこうだとか、そういう見極めもしているらしいです。

 他には魔導師の居ない領地の次代に、魔法を伝授する事もその役目に含まれているらしいですけれど、幸いな事に私は既に『魔導』を得ていますから大丈夫ですね。

 入れ代わりで学園を卒業する下の兄と、私と一緒に一年通う事になる一つ上の姉には、『魔素感性』を得られるまで私が特訓しましたから、オスタミク領を見る目も少し変わってきているかも知れません。


「お鍋とそれからフライパンに……」

「リーン、も~、そんなのは王都で手に入るわよ?」

「使い慣れたお鍋が無いと落ち着かないのよ?」


 少なくとも鍋と包丁と菜箸は必須です。

 それに、妖精魔法で仕舞い込んでいるのを確かめるだけですから、荷物が増える訳では有りません。

 それで大荷物が無いのを知っている母は、呆れた様に首を振りました。


「学園には眷属も連れて行くのね? はぁ、吃驚されてしまうわ」

「猫に乗って行きますし、蜘蛛も三匹は連れて行きますけど、他は残っていて貰いますわ。お世話はリッテに任せているから大丈夫よ?」

「はぁ……リーンの眷属小屋に平気なのはリッテくらいだから、あの子に居なくなられるのは困るけれど、もう結婚させないといけない歳なのに……。残るなら残るでメイド長でも目指して欲しいけれど、あの子じゃねぇ……」

「ふふふ、リッテのお婿さんなら、狩猟ギルドか傭兵ギルドの凄腕とかいいかもね」


 アデリナは疾っくに私の専属メイドから外れていて、ボーイをしていた青年と結婚しています。アデリナには蜘蛛糸のストールを、そのお相手には蜘蛛糸のハンカチーフをプレゼントしました。

 多分、何か有った時にも売れば一財産になるでしょう。


 リッテは今も楽しく私の専属メイドをしてくれています。

 母は心配しているけれど、結構私はリッテにお遣いを頼んでいて、その先の各種ギルドではその性格も込みで凄い人気が有りました。

 だから、そういう意味ではきっと心配は要りません。

 私としても、眷属小屋のお世話を含めてリッテが居ないと大変ですから、リッテにはいつまでも私の専属でいて欲しいと思います。


 因みに、眷属は物凄く増えました。

 初めに眷属にした蜘蛛は、暫くしてから別の蜘蛛の魔物を、その糸で雁字搦めにして連れて来ました。

 小さな体で遥かに大きな蜘蛛の魔物を引き摺ってくるのには、少し吃驚した物です。

 眷属が二匹になると、更に効率良く新たな蜘蛛の魔物が連れて来られる様になりました。

 蜘蛛達の様子を観察していて気が付いたのは、どうも魔物であった頃の蜘蛛は辛い苦しいという思いをしていて、私の眷属と成る事を促しているのはそこから解放したいが為の様です。

 仲間思いの優しい蜘蛛ですけれど、他の魔物も同じと考えるのは危険な感じがします。

 森の近くに建てた私の眷属小屋には常に二十匹ぐらいの蜘蛛が居て、機敏に跳んで糸巻きに糸を巻き付ける競争をしたりと遊んでいますけれど、他にも数百匹居る筈の蜘蛛達は、森の中で思い思いに過ごしています。

 恐らく森に居た蜘蛛の魔物は全て眷属と入れ替わっていますから、この森の平穏は私の蜘蛛に護られているのでしょう。


 猫と呼んでいる眷属は、元々は私が蜘蛛に案内された先に居た、小屋程もあるでろでろとした粘体の塊でした。

 眷属化した今は子猫の姿を取らせていますけれど、猫以外の姿にも成れるし、私を乗せて走れるだけの大きさに成る事も出来ます。

 蜘蛛達はお腹が空けば森で狩りをしているみたいですが、猫は水と土と私の魔力があればそれでいいみたいです。


 学園の受験勉強は大丈夫ですかって?

 実技は心配していませんし、美味しいに関わる地理や気候学もばっちりです。

 歴史……? ――知らない人ですね。

 貴族名鑑……? ――羊羹なら大歓迎です。

 そもそも私が大人しく王都へ行こうとしているのは、王都には各地の美味しい産物が集まるからに(ほか)なりません。でも、それらの産物の一番美味しいのは、それらの産地に決まっていますから、まぁ王都に留まるつもりも無いのです。

 三男四女の末子ですから、言ってみれば自由に生きていいのです。ならば私は煌めく王都での時間を美味しい探しに費やしましょう。


「王都にはどんな美味しい物が有るのでしょう。とてもとても楽しみなのよ?」

「もう、本当にリーンは食いしん坊なんだから」


 母はそう言って、私の頭を撫でたのでした。

 まぁ、こういう世界観なので、大体の人はユニークを得ようとして極振りしていたりする世の中です。

 そういうのもストーリーに絡められたらいいなぁと思いつつ……マジで何の設定も考えてないので、暫く続きが投下されないのはご勘弁。

 あ~、でも、この主人公が恋愛出来そうに思えない。主人公に惚れた回りの人々が次々に玉砕していく物語に成ってしまうかも知れませんねw

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― 新着の感想 ―
[良い点] 凄く濃厚な設定内容ですね。 (薄めてないカルピスくらい) 文章を読んでやはりみれにあむ作品だってなんか一発でわかる気がします。 [一言] 子爵令嬢リンラシアが最高の食べ物を求めてるうちに、…
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