友人
帰りのHRを終え、学校に留まる理由もなくなった私は早々に下校しようとしていた。目の前に広がる景色、行きかう制服姿。かつて私が通っていた高校だ。これは夢だと、瞬時に理解した。
母校の玄関には大きなガラス窓が並んでいて、下校時間にはいつも強烈な西日が差し込んでいたものだ。日光が眼を眩ませるので、私たちは皆何かしらで眼を覆って外へ出ていた。そのせいで、真正面から近づく一人の男に気付けなかった。
眼鏡を掛けた男が私の前で立ち止まった。やいやいとはしゃぐ生徒たちの中で、私とその男だけが浮いている。
「お前、死んだって聞いたぞ」
彼が飛び降り自殺で亡くなったと聞いたのは、その死から二年が経過した頃だった。それなりに仲が良かった彼の死が知らされるのにどうしてそんな時間が掛かったのか、今でも分からない。
彼には両親がいなかった。彼の葬式に、いったいどれだけの人が参列できたのだろう。高校の三年間を彼の前の席で過ごした私でさえ、墓の場所も知らされていないのに。
「お前、自殺したって」
「そんなこともあるよ」
驚愕を隠せない私に対し、彼は常と変わらない様子で応えた。それだけ言って、私を通り過ぎてしまう。
「どこ行くんだ。帰ろうぜ」
「いや、図書室に行く」
彼は本の虫だった。昼食を食べた後も、図書室に行けば彼がいた。
「おい、葬式に――」
葬式に行けなくて悪かった。私はそう言おうと振り返ったが、既に彼は消えていた。