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4 俺の好物デミグラスハンバーグ

「お待たせしました。


こちらハンバーグセットです。」


目の前に来たのは、


馴染み深いそれ。


ぐつぐつとデミグラスソースと湯気が立ち上るご飯が食欲をそそる。


きっと疲れてさえいなければ、


口元に小さいながら笑みを浮かべたことだろう。


今はそんな間さえなく、次々に切り分け口に運ぶ。


一皿が食べ終わる頃、それぞれもう一皿注文する。


そんな様子を見て、イケメンは感心したように口を開く。


「相変わらずよく食べるな。」


当然のように俺はそれを無視して、食事に集中する。


すると窘めるようにもう一人が口を開く。


「お兄様、食事中に話しかけるのはどうかと・・・でも、言うのもわかりますね。


すごい勢いです。」


「だろう?


氷見は見かけのわりに食べるんだよ。


そのせいか、見ているこっちもより美味しく食べられるんだ。」


「なるほど・・・ですが、私みたいな女の人は気を付けないといけないかもしれないですね。」


「そうかもな。」


そういうと俺の前に座った二人は笑い合う。



・・・まったくこっちの気も知らないで。


俺はその言葉を食事とともに飲み込む。



先ほど、


駅前にて2人は再会した。


2人は再会を喜び、


それを分かち合った。



2人が互いの名を呼び合い、


抱きしめ合う。


美男美女の抱擁。


その様子は映画のどんなシーンよりも心打たれるものがあった。


その場の誰もが足を止め、


その様子に見入っていた。


俺も涙腺を刺激され、


少しばかり涙を流しそうになったが・・・それはいつの間にかなくなっていた。



それはなぜか?


1分、2分、3分・5分・・・10分。



これが答えだ。



初めのうちは2人の再会に目を釘付けになっていたのだが、


その視線は徐々に離れていき、駅には普段の日常が戻っていった。


日常の喧騒の中、


抱き合う2人。


それを冷めた視線で眺める俺。


このまま2人を置いて帰ってしまおうかと考えたところで、


和樹の腕の中でもぞもぞと動いている存在に気が付いた。



そこで俺は溜め息を吐き、


イケメンに近づくなり軽く頭を小突く。


「って、何・・・何をする・・・。」


彼は不満気な顔を向けてきたが、


そんなことを気にせず言葉を吐く。


「長い。」


そして、見ろとばかりに顎で和樹の腕の中にいた存在を指す。


すると、俺が小突いたことで腕が緩んだのか、


息が漏れるような音が聞こえた。


「ぷはっ。た、助かりました。」


「あっ!わ、悪い。」


こうして2人を引き離し、


顔を真っ赤にした妹と申し訳なさそうなイケメンを引き連れその場を離れた。


近場を少し案内し、


昼の時間になったので行きつけの喫茶店で昼食を摂ることになった。



2人は似たようなパスタを。


そして俺は大好きなハンバーグを。



現在、2人は食べ終わり、


食後の一服がてら同じ種類の紅茶を頼み、楽しそうにおしゃべりをしている。


ここまでどうやって来ただの、


道に迷わなかったかだの、


過保護だなと思いつつ、


まあ10年ぶりならそんなもんかと聞き流す。



そうこうするうちに、


俺の方も食事を終え、


食後のコーヒーに口をつけていると、


不意に話しかけられた。


「ところで氷見はカレンのこと知っているみたいだったけど、


知り合いなのか?」


「いや、初対面。」


「・・・・・・。」


俺がそういうと無言の妹が威圧を掛けてくる。


いや、実質そんなもんだろうと、


俺は溜め息を吐くと、


言いなおす。


「・・・というのは嘘で、可愛いかったからナンパ。」


「何だとっ!?貴様っ!?」


どうやら俺の言葉に激昂したようだ。


おいおい、そう怒るなって・・・。


それにしても2人してどうしてこうも・・・いや、何も言うまい。


人を信じることはいいことだしな。


「・・・というのも冗談で、道案内したことがあるだけだ。


だからそう大声を出すな。


店に迷惑だ。」


俺がそう言うと周囲を見渡し、呆れたような声を出す。


「・・・お前な・・・。」


「まったく揶揄い甲斐があるよな、お前は。」


いや、お前たちは・・・か・・・。


俺は口元に小さな笑みを浮かべると、


コーヒーを飲み干し、


店を出るように促す。


まだまだ先は長いのだから、


そろそろ店を出ないと日が暮れてしまう。



俺はなぜか再び顔を真っ赤にした妹とどこか項垂れたその兄を連れて、


店を後にしたのだった。



ところで、なんで妹は顔が真っ赤なんだ?


ああ、兄が大声出して視線が集まったからか、


まったく困ったシスコンだ。



この後、公園なんかを案内して、俺も帰途に着いた。


本当のところは商店街の案内もしたかったようなのだが、


かなり歩き回ったこともあり、


後日に回すそう。


その日はきっと俺には予定があることだろう。


仲良く買い物でもするといい、


まあ、和樹は荷物持ちかもしれないがな。




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