2 和樹のやりそうなこと1
駅前に着くと、
春休みということもあり、それなりの人であふれていた。
それは主に学生。
これから友人と近くの街へ繰り出す。
これから恋人とどこか遠出。
など持っている荷物からある程度想像できる。
そんな中に誰かを待っているような、特に荷物も持っていない二人組の男がいた。
片方は清潔感のある所謂イケメン、色男という人種、
もう片方は、清潔感はあるが、どこか目つきの鋭い、本当に堅気かと疑うような男。
そんな二人が並んで和やかに話していた。
「・・・おい。」
「うん?
どうかしたか?」
「なんでお前がここにいるんだ?」
「なんでって・・・連絡しただろう?」
イケメンの方、白峰和樹が不思議そうな顔をする。
それに対して、なお視線を鋭くするのはイケメンじゃない方こと、黒井氷見だ。
連絡。
これは前日、朝の11時に駅前に来るようにというこれのことだろう。
いや、おそらくではない。
ここにきての連絡と言えば、それしかあるまい。
ではなぜ?
・・・いや、こいつがいることはいいんだ。
問題は・・・なぜこいつしか来ないんだ?
・・・妹は・・・?
この言葉が氷見の頭の中でめぐる。
氷見が和樹と合流して十数分、
チラチラとこのイケメンを見つめる女性はいるが、
かの絶賛していた妹御の姿が見えない。
その十数分間、氷見はあらゆる思考を繰り返した。
妹の方の予定が合わなくなってしまったのか?だとか、
体調を崩してしまい、来れなくなってしまったか?だとか、
もしかしてもっと大変なことに・・・などと。
でもどうやらそんなことがあったわけではなさそうだ。
今も無意味に機嫌のよさそうな鼻歌が聞こえてくる。
となると・・・
氷見がさらに思考を深めていくと驚くべき答えが出てきた。
・・・まさか・・・本当は俺と遊びたかっただけ・・・か・・・?
実は妹は本当にこいつの空想上で・・・それを餌に俺を・・・?
「・・・・・・ぐっ。」
氷見が唇を噛みしめると、呻き声が漏れた。
・・・流石にきつい・・・吐きそうだ。
想像してみたが、
厳しいものがあった。
大の男が2人そろって仲良くお出かけ。
それも待ち合わせ場所でウキウキと十数分。
そんなやつだったとしたら、もしかしたら友人をやめているかもしれない。
となれば他には・・・
さらに考えを巡らせると、ある意味ではさらに不快になるようなことを思いついた。
「・・・・・・。」
・・・あった。
・・・こいつならやりそうなこと・・・。
いや、待て。
いくらなんでもそれは・・・ない・・・はずだよな・・・。
確証がないためか、自信のない否定を繰り返すが、答えは出ない。
ちょっと一服して落ち着こう、こう思い機嫌のよい和樹に声を掛ける。
「おい!」
「どうした?氷見?」
「ちょっとコーヒー買って来い。」
「えっ!?」
「さっさと行ってこい。」
「・・・わ、わかった・・・。」
一瞬、冷や水を掛けられたような顔をしたが、
和樹は顎に手を当て得心したような顔をしてコンビニに向かって歩いていく。
その時にこう言っていたのは聞き逃せなかった。
「ちょっと興奮しすぎだったかな?
なにせ10年だからね・・・。」
予想が確信に変わった。
このことでふと思う。
・・・俺はコーヒーは飲まない方が良さそうだな。
コーヒーには興奮作用がある。
氷見が額に手を当て、
己の友人の残念さを嘆き、
そのまま自宅へ帰還せんとすると、不意に後ろから声を掛けられた。
「あの~?」