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1 電話番号

太陽が昇りきり、外には鳥のさえずりより人のやかましい声が響くようになったころ、


ベッドの中でまどろみに身を任せていると、


妹の瑞希にいい加減起きろとたたき起こされた。


時刻は11時半。つまり、夕方ではない。


折角の春休みなのだから、


もう少しくらいと思わなかったわけではないが、


口に出すのはやめる。


こんな言葉を発したら最後、昼や夜の食事がひどく侘しいものに変わるだろうから。


俺の二大欲求における最重要項目にけちがつくのは許されない。


俺は掛け布団を干す瑞希にバレないように小さく溜め息を吐く。



それからもうすぐご飯だから下に降りてくるようにと言うと下に降りて行ってしまう。


どうやら余計な一言を言わなかったおかげか、


昼飯にありつくことができるようだ。


俺はすぐにパジャマであるジャージから着替え、


下に向かわんとする。


すると、


机の上に置いた携帯が着信音をけたたましく響かせ始めた。


俺は相手の名前を確認する。


すると自然とため息が出る。


居留守を決め込まんとするもいつまでたってもそれが止む気配はない。


俺は再び溜め息を吐き、通話ボタンを押す。


すると、聞こえてきたのは・・・



「・・・はあはあはあはあ・・・。」



・・・男の興奮したような激しい吐息だった。



・・・プツッ!


俺はすぐさま電話を切った。


「・・・なんだ・・・ただの変態か・・・。」


俺がそう一言呟き切るや否や、再び電話が鳴る。


画面を見る。


先ほどと同じ相手だ。


「・・・何か用か?」


「何か用か?じゃない・・・なんで急に切ったんだ、氷見・・・。」


なんで?


そんなのは言うまでもない。


友人からの電話かと思い、


断腸の思いで電話に出てみれば、


男の変質者の興奮した吐息がダイレクトで耳へと伝わったのだ。


そんなの誰であっても通報しようと思うことだろう。


実際、氷見は一息置いた先ほど110・・・いや、119に、アンビュランスへ通報しようと、


1をタップしようとしていた。


まあ、それは冗談としても、なぜそんなに興奮していたのだろうか?こんな疑問が氷見の頭の中へ浮かぶ。


すると、問いかけるより早く、白峰和樹の返答が得られた。


「・・・まあいいけど、聞いてくれっ!!」


どうやら興奮の理由が聞けるらしい。


正直、聞きたくない。


こいつがこういう時は大抵俺にとって得のないことだ。


知らない女に会ってほしいだとか、


少し2人で話さないかだとか・・・。


そして俺が特に何かを話すことはなく、


あいつが話す内容を聞いて、それで終わってしまう。


けれども、


「・・・で?」


氷見はあらん限り不本意だという意思を込めて短く聞き返す。


そんなことを繰り返しているのに、


なぜ話を聞くのか?


理由は簡単。


先ほど切った電話が間髪入れずかかってきたことからもわかるように、


それが何度もかかってくるから。


・・・まったくイケメンのくせに。


・・・モテるイケメンのくせにそういうことはわからないのか・・・。


氷見はイケメンには3割増しで厳しいためか、そんな意見を持つ。


そう不本意さマックスだった氷見だったが、


そんな彼の機嫌が直るような言葉を和樹が発した。



「やっと妹と暮らせるようになったんだっ!」



・・・興味、関心という感情が生まれた。



俺は一瞬、その言葉の衝撃に言葉を失いつつ、とりあえずの言葉を紡ぐ。


「・・・・・・おめでとう?」


・・・妹?


こいつに妹なんていたのか?


記憶にない。


氷見は和樹とはそれなりの付き合いになるが、そんな存在を確認した覚えはなかった。


でも確か・・・


そう言えば昔、


誰も実在を確認したことがないそんな存在がいるという話をどこかで聞いたことがあったかもしれない。


恐らくは他ならぬこいつ本人からだろうが聞いた覚えが・・・。


なんでも花が咲くような笑みを自然に浮かべられ、


気遣いもできる兄想いの優しい娘だという。


昔はよく後ろをくっついて歩いて・・・長いから省略。


当時は戯言だと思っていたが・・・。


「・・・まさか本当に実在しているとは・・・。」


そんな都合のいい妹が・・・設定の中の存在ではないとは。


俺は内心冷や汗を拭う。


「ああ、ありがとう。


今日はその連絡をしたかったのと、


カレンに氷見を紹介したいんだが、


いつならいい?」


カレン?ああ、妹の名前か。


寝ぼけ頭のせいか、一瞬戸惑ったが答えを返す。


「・・・ああ、別にいつでも。」


「そうか、なら丁度いいっ!明日の・・・。」


そうこうするうちに予定は決まり、


俺は明日、駅前に行くことになってしまった。


それにしても・・・。


本日休みだった目覚まし時計に視線を動かすと、時刻は昼の2時。


まったく長話が過ぎる。


まあ、今回はそれには目をつぶろう。


「・・・10年ぶりに会えた妹か・・・よかったな・・・。」


少しばかり内容のいい小説を読んだ時の余韻に浸っていると、


さらに時間は進む。



俺は遅ればせながら、リビングに向かい、


俺の実在する妹に昼食の所在を聞く。


すると彼女は皮肉たっぷりの晴れやかな笑顔を浮かべ、


俺にこう返すのだった。


「ご飯?なんのこと?」



いろいろと台無しだったのはいうまでもないことだろう。


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