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石勒〜奴隷から始まる英雄伝説〜  作者: 称好軒梅庵
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第五十三話 祖逖の最期

 夜空に赤い星が妖しく輝いていた。

この星を見て、ある方士がこう言った。


「九月に西北の大将が死ぬだろう」


 祖逖(そてき)は、石勒と一度は妥協しつつも、その裏で更なる北伐の準備を進めていた。

しかし、晋本国から送られてくるお目付け役はそんなつもりは更々ないようで、かえって邪魔をするような素振りを見せた。

本国では大将軍の王敦(おうとん)と帝の関係が悪化しているという。

祖逖は大いに嘆いた。


「国を挙げて夷狄と戦わなければならないというこのときに、権力争いなどに没頭するとは、愚の骨頂だ!」


憂憤の内に、祖逖は発病し、倒れてしまった。

家族の看護も虚しく、病状はみるみる内に重くなった。

寝室に臥せる祖逖を、弟の祖約(そやく)が見舞う。

祖逖は弟にいった。


「石勒と一時でも和平など結んだから、天から罰せられているのだ」


弟の祖約は目を伏せる。


「あれは仕方のないことでした、兄上」


祖逖はふっと笑う。


「いつだったか、妖星が出た時、変な方士が言っていただろう。九月に西北の大将が死ぬだろうって。それが私だ」


そんな馬鹿な、という弟に祖逖は窓の外を見るように促す。

夜空には不気味に赤く光る星があった。


「それが私なんだ。あの星は、劉琨(りゅうこん)が亡くなったときも夜空に憎らしく輝いていた。死を兆す妖星なのだろう」


祖逖は両手で顔を覆う。

指の間から、乾いた眼が覗いていた。


「これから河北を平定しようというところで、天は私を殺そうとしている。晋を見捨てるつもりなんだ。あぁ、劉琨に合わせる顔がないな」


祖逖はその夜の内に死んだ。

祖逖の奪取した地域の民衆はみな父母を亡くしたかのように悲しみ、祖逖のために祠を立てた。

王敦は祖逖の死を知ると、自身の行動を止める者はいなくなったと判断し、その四ヶ月後に乱を起こした。

王敦は強大な軍事力を背景に反王氏の勢力を攻撃し、自らの権力を帝に認めさせることに成功した。

しかし、そのような内乱に見舞われた晋は、ますます石勒討伐どころではなくなってしまった。

祖逖の弟である祖約は、兄の遺志をついで趙を攻撃した。

しかし、祖約は祖逖に似るも祖逖に及ばず、やがて敗死することとなった。

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