第五十話 徐龕
「うはははは、大義名分を得ての掠奪三昧は美味しすぎる。俺様ってば機を見るに敏な男!要領が良すぎてサーセン!」
笑っているのは、群雄が一人、徐龕である。
徐龕は、晋朝の臣を称しながら山賊まがいの行動を繰り返し、石勒が趙を建国するや降伏してその臣下となったが、石勒苦戦の報を聞くや、石勒からお目付役として送られていた王伏都以下三千人を皆殺しにして再び晋に帰順、泰山周辺で掠奪の限りを尽くした。
徐龕の素早い掠奪ぶりは嵐のようであった、と史書に記される程であった。
徐龕がこのような挙に及んだのは、石勒が祖逖への対応で自分に関わり合っている暇はあるまいという計算が働いたからであるし、王伏都が徐龕の妻にちょっかいをかけたことなども起因していた。
「徐龕さま、石勒が祖逖と停戦! 石虎率いる四万の大軍が猛烈な勢いで我が方に迫ってきています。間も無く接敵します」
「うそお!?」
徐龕は妻子を人質に送って命乞いをした。
石勒は王伏都がいらぬことをしたということも踏まえ、苦々しく思いつつも徐龕の降伏を受け入れた。
◇
徐龕が降伏してしばらくすると、西方から鮮卑族の鬱粥なる族長が趙の領内に侵入し、暴れ回った。
「鮮卑の何部だかしらねぇが、次から次へとめんどくせぇな」
「陛下、これを抑えて、そして曹嶷を蹴散らせば、後は劉曜との決戦です。覇業までもうすぐ……」
張賓はそこまで言うと激しく咳き込んだ。
「右侯、どうした! 医者を呼べ、医者だ」
ばたばたと医者を呼びに行く兵と入れ違いに別の兵が朝堂に駆け込んできた。
「徐龕殿、またまたご謀反!」
「よし、ぶっ殺す! それはそれとして、おい! 医者はまだか! 急げ!」
◇
「中原が俺に輝けと囁いている」
鮮卑族の対応に手を焼く石勒を見て、徐龕は再び晋朝に帰順し、掠奪を再開した。
「徐龕さま! 鮮卑の鬱粥が瞬殺されました! 石虎軍が急速に接近! もはや包囲されています!」
「ゲーッ!」
今度はどうにもならなかった。
籠城の末に捕えられた徐龕は袋詰めにされて趙国の都である襄に送られた。
三千人の配下は石虎がみな生き埋めにしてしまった。
石勒は徐龕の入った袋を担いで、襄で一番高い櫓を登ると、その百尺の楼上から徐龕の入った袋を投げ落とした。
櫓を降りると、袋の近くに女が立っていた。
女はすごい形相で包丁を手に握り、血に染まった袋を睨みつけていた。
「お前はなんだ」
「徐龕に殺された王伏都の妻にございます。陛下! どうか、この骸を私にください」
「いいけど、何のために?」
「憎い夫の仇ですので、切り裂いて食べます」
「おぅ……」
石勒は王伏都が徐龕の妻に淫行を働いたことは言わずに、袋を女にやって、その場を後にした。





