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石勒〜奴隷から始まる英雄伝説〜  作者: 称好軒梅庵
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第四話 石氏昌

 ベイは口笛を吹きながら街道を歩いていく。

街道沿いには(まば)らにみすぼらしい民家や怪しげな商店がある。

城郭(じょうかく)の外に半ば自然に発生した、いわゆる“(むら)”であった。

三国時代の戦乱によって、外壁を構えた都市や街である(ごう)()は諸勢力の攻略対象となり、荒廃するものも多かった。

戦火に郷や里を追われた者、あるいはかえって危険だと判断して自発的に離れた者。

彼らが作った城郭外の集落は(むら)と呼称された。

村という言葉は、後世には小集落の呼称として一般化することになった。

街道沿いの村の中に、今にも崩れ落ちそうな建物があった。

古ぼけた看板に武器の絵が描かれている。

ベイは、その店の扉をくぐった。

薄暗い店内に、剣や矛が架台にかけられて並んでいる。

店の外観とは裏腹に商品の手入れは行き届いているようだ。

店主らしき無精ひげの男は、いらっしゃいの一言もなく、ベイを睨みつけている。


「よう、親爺。この金で新しい剣を売ってくれよ」


ベイは帳場に師懽夫人からもらった路銀を置いた。

店主は虫歯だらけの黒い歯をむき出しにして、笑った。


「冗談言うな。これっぽっちじゃあ、釘ひとつ売れねぇよ。出直してきな」


ベイはこいつをひねり殺してやろうかと思ったが、やめて腰に提げている錆びた剣を帳場に置いた。


「こいつもつけるから、たのむよ」


「ゴミまで押し付けようったって、そうは問屋が………!」


店主は急に目を(みは)ると、剣を持ち上げたり下ろしたり、なめるように調べだした。


「若いの、これ、しばらく預かってもいいか?そこで待っていてくれ」


しばらくすると、店の奥から何かを滑らせるようなシューシューという音がする。

ベイは店の床に座り、いつしか寝てしまった。


「おい、生まれ変わったぞ!見てみろ!」


ベイは起き抜けに自分の顔を見ることになった。

水鏡のように輝く刀身に、顔が映りこんでいるのだ。


「これがあの錆びた剣?すげぇな、親爺」


店主は得意満面で、ベイにその剣を渡した。

ベイが剣を振ると風を切る激しい音がなる。

刀身は薄暗い店内でも妖しく(きら)めいた。

柄の部分の朽ちた(あつらえ)は、新しく簡素ながら頑丈そうなものに取り替えられていた。

研いだことにより、根本の篆刻(てんこく)が鮮やかに蘇っていた。

しかし、ベイには読めないのだ。


「この三文字、なんて書いてあるんだ」


店主は静かに返す。

「“石氏昌(せきししょう)”、石一族が盛んとなる、という予言の文句だな。あんた、名前が石とか、そんなことは」


「ねぇな。この剣だって、人の畑で拾ったんだ」


店主は咳払いをする。


「だとしても、何らかの導きがあってあんたのところにその剣は来たんだ。いい剣は持ち主を選ぶという。せいぜい大切に使うんだな」


ベイは研ぎ代として、路銀を置いた。しかし、店主はズイとその代金を押しかえすのだった。


「久々に良い剣を見させてもらった。お代はいらねえよ」


ベイは口笛を吹きながら店を後にした。

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