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石勒〜奴隷から始まる英雄伝説〜  作者: 称好軒梅庵
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第二十九話 六日天下

 「さて、どうするか」


二人の男が顔を見合わせる。

田密でんみつ劉璿りゅうせんの二人は、新たに漢の皇帝となった劉和りゅうかより、その弟である劉乂りゅうがいを殺害せよとの命を帯びていた。


れるのか、劉乂様を」


「殺れる。問題は……」


二人は同時にため息をついた。


「問題は、別働隊が殺しに向かった劉聡りゅうそう様だ。あれは手強い。先帝の死が万が一漏れ伝わっていれば、警備は厳重だ。そうなっては難しかろう」


二人の間に沈黙が流れた。

劉乂の殺害に成功したところで、劉聡が反撃に出れば情勢は危ういのだ。

そして劉聡と劉乂は仲がよい。

劉聡が勝利した場合は、劉乂殺害に関わった二人は処刑されてしまうだろう。


「田密よ。仮に首尾よく全ての部隊が暗殺に成功したとして、だ。俺たちは建国の功臣として扱われるのだろうか」


「それは……」


「ないない。あの猜疑心の塊のような劉和様が、陰謀に関わった連中を残しておくはずがない」


田密は黙って頷いた。


「十中八九、暗殺に成功しても俺たちは消されるね。よしんば消されなかったとしても、なあ、劉和様が俺たちの労に一度でも報いてくださったことがあったかよ」


「うーむ……ないな。対して、大司馬の劉聡殿は勘気の強いところはあるが、配下には気前よく恩賞を与えると聞く」


二人は再び顔を見合わせる。


「決まりだな」


その日、田密と劉璿は行き先を変え、劉聡の元に向かった。

そして劉和による兄弟殺害の計画を洗いざらいぶち撒け、そのまま劉聡に寝返ったのであった。


 「これで首は二つ」


劉和はこの三日間に討ち取った兄弟、劉裕りゅうゆう劉隆りゅうりゅうの首を前に微笑んだ。

劉和についてこの陰謀に加担した安昌王の劉盛りゅうせいと安邑王の劉欽りゅうきんは、恐怖を押し隠して愛想笑いを浮かべる。


「素晴らしい。これであと二つ、劉乂りゅうがい劉聡りゅうそうの首が届けば、陛下の世は盤石となりましょう」


「いや、あと四つ、いや六つだ」


劉和が指を鳴らすと兵士が進み出て狼狽える劉盛と劉欽を斬り捨てた。


「これで今度こそ後四人。後は劉乂と劉聡、戻ってきた劉鋭りゅうえい、そして哀れな寝たきりの劉恭りゅうきょうを殺してしまえば、余の治世は盤石となるだろう」


陶然とする劉和の前に、扉を突き破るようにして伝令兵が転がり込む。


「火急の知らせであります! 劉聡討伐軍総崩れ! 宮殿に向かって敗走中です」


 敗走してきた劉聡討伐軍は西明門に殺到した。

討伐軍の大将である劉鋭は、閉ざされた門を見て声を涸らして叫んだ。


「開けろッ開けてくれ! 殺される」


しかし、門の上から投げかけられたのは救いの手ではなく、矢だった。


「陛下は、何人もここを通すな、と仰せである」


「ふざけるな、開けろ! 開けろぉ!」


遂に城門に殺到した劉鋭たち敗兵は門を打ち破ってしまった。

その様子を認めた劉聡は直ちに全軍に向けて前進を命じるのであった。


光極殿であっさりと捕らえられた劉和は、劉聡の前に引き出された。


「兄上、こんなことになって、残念です」


冷然と見下ろす劉聡を劉和は睨み返した。


「縄を解け、これは大逆だ! 余は天子、大単于だいぜんうであるぞ!」


「もう違う」


劉聡は剣を抜き払うと、兄を袈裟斬りに斬って捨てた。


劉和の叔父である呼延攸こえんゆうは、甥の死を目の当たりにして、額を地に擦り付けた。


「ひっ、我々は劉和様に脅されて仕方なく、お許しを」


劉聡は地に臥した呼延攸の首に容赦なく剣を振り下ろした。

他の捕らえられた劉和派の人々は絶望のうめきをあげた。


劉聡はその日のうちに、劉和派の悉くを処刑した。

そして、劉和とその一派の首は市中に晒された。


劉和が即位してから、わずか六日目の出来事であった。

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