表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
石勒〜奴隷から始まる英雄伝説〜  作者: 称好軒梅庵
15/60

第十五話 怒り

 「“汲桑(きゅうそう)軍の勢い止まるところを知らず、鄴城に禍乱が及ぶのも時間の問題です。陛下、今こそ死中に生を求める時です。財物などまたいくらでも得られます。願わくば……”」


「もうよい」


魏郡太守の馮嵩(ふうこう)からの書状を読み上げる兵士を、司馬騰(しばとう)は不機嫌そうに遮った。


「兵糧はくれてやったではないか。さらに我からむしり取ろうなどと、あつかましいやつめ。足りん足りんは努力が足りん、そういうことよ」


司馬騰の守る鄴には非常の蓄えはあまりなかったが、司馬騰個人には莫大な蓄えがあった。

しかし、汲桑軍の迎撃に出た馮嵩に対して、司馬騰からもたらされた兵糧は米数升、帛一丈数尺程度と、わずかなものであった。


「我が并州に在ること七年、(えびす)どもが城を囲んだ事もあったが、遂に勝つことなど出来なかったのだ。ましてや汲桑とやらはつまらぬ盗賊あがりだとか。どうして臆するに値しようか」


「では、兵糧は……」


司馬騰は兵士から竹簡を奪い取るとバラバラにして床に放り投げ、踏み躙った。


「何をぼやぼやしておる。さっさと片付けろ」


 押し寄せる汲桑軍の前に馮嵩は呆然としていた。

もう城中の兵糧は尽きる。

ついに司馬騰からの増援も、兵糧も、返事すらも届かなかった。


「司馬騰のあほんだらが死ぬのは、あれが自分の吝嗇(けち)が原因でくたばるのは構わない。勝手にしやがれ。だが、俺まで巻き込まれるなんて全く納得いかん」


そう言いながらも、一本角の兜を被り、その緒を締める。

賊軍をかつて打ち破ったときとは状況が違いすぎた。

戦友の趙驤(ちょうじょう)は怪我が原因で臥せっており、指揮を執っていた丁紹(ていしょう)も帰ってしまった。

もちろん、今度は苟晞こうきもいない。

軍馬に跨り、兵士らの間を巡って声をかける。

兵士らの目にも怯えが見えた。

対する賊兵達の姿は何か異様な熱気に包まれていた。

囚人や敗残兵の集まりと聞いたが、その熱気がこの雑多な集団を一つの強固な力の塊に変えていた。

この熱気の正体はなんだろう。

司馬穎の復仇の大義、そんな綺麗なものではないはずだ。

賊兵達が鬨の声を挙げた。

大地が震えていた。

どうしてこうなったのだろう。

晋王朝は、天下は、この大地はどうしてこうなってしまったんだ。

馮嵩は自分の血が熱くなるのを感じた。

怒り、怒りだ。

あれらの熱気の正体は。

この世界を狂わせた連中への怒り。

狂った世界そのものへの怒り。

馮嵩もまた、ひとりでに叫んでいた。


「さあ、かかってこい! 俺も怒っているぞ! なんでもいいから、この怒りをぶつけさせろ!」


賊軍の中から悍馬に跨った将が躍り出て剣を抜いた。

以前剣を交えた賊軍の副将、石勒だ。


「その意気や良しッ! 決着をつけようぜ!」


石勒を先頭に、賊軍は雪崩をうって攻め寄せてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=460295604&s 小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ