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石勒〜奴隷から始まる英雄伝説〜  作者: 称好軒梅庵
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第十二話 転進

 「我らは転進し、先日は平原郡太守を、今日は清河郡太守を討ち取ることに成功した。この赫赫たる戦勝により、司馬穎陛下の救援にまた一歩近づいたのである! 悲願達成の日は近い、皆の者、力を振り絞り……」


壇上で熱のこもった演説をする公師藩(こうしはん)を、石勒(せきろく)はどこか冷めた表情で見ていた。


「転進ねぇ。慌てて逃げ出して、すれ違った奴をぶん殴ってるだけって感じだが」


苟晞(こうき)丁紹(ていしょう)に手酷い敗北を喫してからも公師藩軍は進行方向を変えつつ攻勢を続けていた。

公師藩の言うように幾人かの太守を討ち取るなど成果もないではないが、焦燥に駆られたような力任せの戦い方に、石勒は一抹の不安を感じていた。

そんな石勒の様子に気がついた汲桑(きゅうそう)は、弟分の肩に手を置いた。


「何をむくれていやがる。持ち直してきたっていうのに」


石勒は肩に置かれた手をゆっくりと退けた。


「お頭、油断してたら、パツイチでクシャ、だぜ」


 屠伯(とはく)こと苟晞は黄河のほとりに張り付いた工兵達を巡察していた。

作業を行っている兵士達の表情は真剣そのものだ。

苟晞は、この作業が始まってから、勤務態度の悪い者や作業の進捗の遅い者を既に十数人ほど斬首刑に処している。

尊い犠牲だ、と苟晞は思う。

その犠牲が無駄ではなかった証拠に、今では皆が謹直に職務に取り組み、公師藩の到来する前に準備が完了するであろう。

公師藩が南下を続ければ必ずここを渡河する。

しかし、渡らせない。

ここが公師藩にとって、最期の地となるであろう、そう苟晞は決めている。

水に潜った工兵は河岸の土中に鋭く尖らせた木杭を埋め込んでいく。

ぎりぎり水面からは見えない高さだ。

敵は接岸直前に船に穴が空くことで始めて罠の存在に気づく。

苟晞の目前で、また一人の工兵が水中に飛び込んだ。

しかし、彼はしばらく経っても浮かんでこなかった。

水中で杭に引っかかって溺れて死ぬ者も後を絶たない。


「私は必ずやここで賊を討つ。犬死にではないぞ」


苟晞はしばしの間、その場で黙祷を捧げた。

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