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#3 戦乙女スクルド

 荒野の先の岩肌がデコボコしているクレバスに着くと、私達は金色に輝く糸紬が空から吊り下げられているのに気づいた。これが、ロキの言っていたシステムの鍵なのかしら。

「これ……なんでしょうか?」

 私は、それを引っ張ろうと命いっぱい背伸びをし手を伸ばした。しかし、届かない。

「ティナ。私が貴女を肩車いたしますから、それを手にとって見てください。あの糸紬は、紋章が彫られています。きっと、天に繋がっているはずですから、私達を導いてくれるでしょう」

 ラースはそう言うと、跪き肩車が出来る体勢に入った。私は、白いフワフワドレスのまま、気恥ずかしい気分になったけど、それしかないかもと思い、ラースに肩車をしてもらう。そして、その金の糸紬を掴んだ。

 糸紬を掴んだ瞬間、辺りは真夜中から太陽の昇る世界へと変貌した。それは、夜明けのような世界。夜の無いヴァルハラに、光が満ちる。そして、私達は天へと駆け上るかのような勢いで、引き寄せられる。それは、七色の虹の掛け渡しのような空間を通って。

 

 天空に着くまで私は、夢を見ているかのような光景を目の当たりにした。目の当たりというには言葉が違うかもしれない。そう、その人物達と同化していた。きっと体験しているのは私だけなのでは?これがロキの言っていた私の過去の記憶の一つ。

 私は、ノルニル。運命を司る女神の一人。そして、三人の女神、長女ウルズ、次女ヴェルザンディ、三女スクルドという姉妹の内の三女スクルドである事を想いだした。

 私は、未来を司る運命の女神。世界樹であるユグドラシルの根元にある泉で寛ぐ三人の女神の中に私は存在していた。気が強く、勝気なウルズお姉様と、大人しく、心優しいヴェルザンディお姉様と一緒にいる私。

 お姉さま方は、常に泉の水を汲み出してはユグドラシルに水をやる事を心がけていた。後は、ルーン文字を刻む。ルーン文字とは、一種の魔法文字。神々の長オーディンが発明したといわれる物。

 しかし私は、お姉さま達とは異なり、ワルキューレ。そう、ラースと同じ戦士、女戦士ヴァルキリーである。戦いそして、戦死者を選ぶ人間。いわゆる、戦乙女。というのであろうか。

 私が戦い、そして、未来は在る。

 そこで目が覚めたような感覚。気がつくと、ヴァルハラの天空の雲の上。ラース皇子が、心配そうに寝込んでいる私の顔を覗き込んでいるところで目が醒めたと言う訳。

「ごめんなさい。私寝込んでた」

 一気に情報が頭の中に入り、クラクラとするけれど、今見たのは、確かに私の過去。そして使命としてきたことなのよね。

 記憶媒体の一部が自分自身で把握できる事は一つ。私は、戦わなくてはならない人間だったって言う事。

「いえ、ティナ。貴女に架せられた使命というものは絶大でした。女神様でありながら戦うという使命を担っていた。三人姉妹の中で貴女は他の女神様達とはまた違った未来をも担う戦士という重い枷。それを、転生した平和な世界から私は呼び戻した。だから謝らないで下さい」

 そう言って、ラース皇子は私の額に優しく手を乗せて辛そうに微笑む。何て大きな手。この手で、この世界を守ってきたのね。私は、それをヒシッと感じて、ラース皇子を見上げた。貴方こそ、そんな顔をしないで……

 確かに私は、この世界に来なければ、戦うなんて辛い事を目の当たりにしてはいなかっただろう。だけど、私のいるべき世界だって、競争社会であり、強者が弱者を押さえつける世界だ。

 学校で言うならば、テストはあるし、試験。社会に出たらもっと大変な醜い世界だって有るに決まっている……私はそれを見て見ぬ振りをしてきた。だって辛いでしょ? だから今まで考えようとはしなかった。それは、あの世界にも確かにあるんだ。キリスト教で言うなれば、バビロン社会と言えそう。ただ、死をもたらすような争いごとではないけどね。

「ありがとう。でも私は、自分が何であったのか。それを想い出してしまった。だから、ラグナロクを私も守らなければならない。今はラース、貴方と共に……」

 私は、横になっているその体を起こし、そして、立ち上がった。そして、戦うために、今身に纏っている白いフワフワドレスの裾をビリビリと破った。

「ティナ!」

 ラース皇子は、それを止めようとしたけれど、これで身動きが出来やすくなる。転生前の鎧や盾、そして剣を持っていた、そんないでたちとは違うけれど、それでも、今はこの方が良い。そう思った。

「ラース?私達は、同士。だから、ラグナロクの為に、戦いましょう。私も今はまだ微力かもしれないけれど、戦います」

 決心をつけると、私は結い上げている今の髪を、解れない様にギュッと今破いたドレスの一部できつくもう一度結び直した。

「……はい。ティナ。貴女の仰せのままに」

 ラースは、そんな私を、膝を着いて見上げた。それは、複雑そうな表情だったけど、決心が揺るがないだろうともう悟っているのか、口元を引き締めるように吊り上げて笑った。

「ちょっとちょっと!そんなところで誓いの親睦なんて固めてる場合じゃないでしょ。次どうするのよ! ラース皇子!」

 ここで、安らぎ妖精エアリーの登場。一応、私達の簡略された誓いの儀式を邪魔する野暮な事はしなかったわね? 私は、そんなエアリーの頭をナデナデしてしまった。

「まっ! 失礼しちゃう!」

 エアリーは、これでもラース皇子のために働いているのよ! って言いたげに頬を膨らませた。でもそこが素直すぎて可愛くて仕方なくなるんだよね。

「では、進みましょう。時間も少ない事ですし。此処から先は、天空の間。行き着く先には武器庫があります。そして、そこを守っている神々も……」

 そう、ゆっくりなどしてはいられなかった。私は、ラースのその言葉で目が醒める。

「簡単に通してもらえるかしら……」

「それは、私達次第でしょう。今度は親友のロキの時とは訳が違いますから。神々の意向が、私達の意向と一致しなければおそらく……」

 ラースは、そこで言葉を切った。でも、今の私には判る。その先の言葉。戦うしかないのだと……


 ヴァルハラの雲の上を私達は歩く。真っ黒な雲の上。まるで下は、雷雨でもあるかのようなそんな雲。でも、その雲の上は、下から伸びる木々で埋め尽くされている。上空は、やはり夜。空気が冷たく、ピーンと張り詰めた空気が漂っている。

 そして、その木々の道をドンドン進むと、ペガサス達の群れが雲の隙間の泉の畔に居た。

 私達は、そのペガサスの一頭に声をかけた。

「これから、少しだけ貴方に武器庫までの道を案内してもらいたい。私と、こちらのティナを乗せてもらえまいか?」

 ラースは、少し敬った言い方をした。

『貴方は、ラース皇子。結構ですよ。で、ティナさんというのはこちらの女性ですか?』

 ペガサスは、嘶きながら私の方に顔を向けた。

「そうです。私がティナです」

 私は、静かに答えた。

『どちらかでお見受けしたような気もしますね?ああ、もしかして、黄昏の女神様ではありませんか?覚えておいででしょうか?私ですよ!』

 そうペガサスは、思い出したかのようにアピールしてきた。えっと、どう答えようか?

「そうですね。ティナは、ペガサスと戯れるのお好きでしたし。乗ってるその姿もあでやかでしたね?」

 と、ラースは良いタイミングで相打ちを入れてくれた。という事は、私は、ペガサスに乗ったことが有ると言うことなのだと判った。そう懐かしく感じたのは、ペガサスに私自身が乗っていたからなんだと。

「ええ、色々お世話になりました。この度もお世話になって宜しくて?」

 その言葉を上手く出せたと自分でも思う。

 だって、記憶の断片でしかまだないから。

『勿論ですとも! 喜んで!』

 ペガサスは、そう言って、私とラースを背中に乗せてくれた。前に私。後ろにラース。ラースは、気を遣ってくれたのか、私が落ちないようにと上手く支えてくれる。そして、こっそりと耳元で囁いてくれた。

「その内想い出しますよ。体が自然と」

 私は、その言葉に、そうだよね。と相槌を打つ。そして、木々の上を駆けていくペガサスの首にしがみつき、一気に武器庫へと、その神々のいらっしゃるところへと向かったのである。 


 武器庫は、木々を退けた白い宮殿内に在った。まるで、戦いがあるときの為に設えているかのように、荘厳と。

 私は、自らが身に着ける事が出来そうな武具を手に取り、そして、身に纏った。少し重たいけれど、でも、体にはフィットする。肩当て、胸当て、鎧に、白鳥の羽が付いた兜。そして戦闘能力の上がるブレスレット。それは、私があの時夢に見た物と同じ物。これは、私の武器を収納しておく為の必須アイテム。そう、剣を収めておくためのアイテム。

 それらを身に着け、私はラースの元に駆け寄った。

「見事にお似合いで……ティナ」

 褒めるというより、懐かしさを感じているように感じられた。私は、

「ありがとう」

 と返した。でもラースは、そこにある武具を身につけてはいなくてそのままだった。

「ラースは、大丈夫なの? その格好で」

 返す。しかしラースは、

「私はこれで充分です。このスタイルが、私自身ですから」

 軽装。鎧などは身につけてはいない。武具と言っても楔帷子くらい。俊敏さも必要ということなんだろう。 

 ラースは、次のことにもう頭を働かせているみたい。そう、此処を通り抜けるには、新たな神々との交渉がある。それに、もしそれを認められなかったら、戦いだ。ラグナロクのための。

 私も、気を引き締めないといけないんだった。でも、どんな神々が居らっしゃるというのだろう? オーディンではないことだけは確か。きっとオーディンは、もっと高みにいらっしゃるであろうから。それが私の印象。

 孤高として輝き、それでも神々にそして、人々に慕われている。それがオーディン。

 だからこその主神格。

 私達は、その武具庫の部屋を後にする。


 目の前には、大きな扉。これも頑丈そうで、厚みのある扉。このヴァルハラに来た時の様に、私は手を紋章に触れ、そして、ラースが扉に力を込め開ける。そして中に入った。

 中に入ると、重圧を感じるような、重々しい空気が流れていた。

「空気が今までと違うね。これが今まで居たヴァルハラなの?」

 夜と言うその条件は同じだけど、それよりももっと深い闇。だからといって、苦しく感じるというわけではない、ピリピリとした張り詰めた空気って感じ。

 そんな時、遠くの方で、地鳴りが聴こえてきた。まるで、この空気を戦闘へ導く為の、悪意ある物に摩り替えるための……

「行きますよ。ティナ!」

「はい!」

 そして、私達はその方角へと走り出す。待っていても何も変わりはしない。この地鳴りを受け止められるだけの力を得るために。


 地鳴りの現象は、私達という異物を排除しようとするベルセルク達の一行であった。

 別名、狂戦士。戦うためにだけ存在する、凶暴な戦士。

 私と、ラースは、突進してくるそのベルセルクの前に立ち塞がると、自らの武器をそれぞれ持ち、それを振るう。

 私は剣を。ラースはミョルニルを。

 ラースが投げるミョルニルは、呻りながらベルセルク達を退け、そして、倒す。私はその隙間を見計らって、剣を振る。ベルセルクは、一人一人がそれに対応するために向かってくるけど、私達のコンビネーションの方が上手。

 初めて、ティナとしての意識を持った私が戦うという事をしたけれど、何故だかラースとの息はピッタリと合う。こんなにも直ぐに合うものだろうか? まるで、裏と表。光と影。鏡に映した自分の影のような存在。

 そう感じた。

 もしかして私とラースはというより、スクルドとしての私は彼と、こんな風に戦った事があるんじゃないかなって思わされる。

 そう、私の過去はまだラースに絡んではいない。彼のことは未知数である。ラースは私にとっての何? そう思うけれど今は、このベルセルク達をどうにかしないといけないので、頭をそちらに切り替える。

 そして、この全域のベルセルク達を倒しながら前へと駆け進む。彼らの群れは、そのまま置き去り。私達は、後ろも振り返らずに、一気に駆け抜けていった。

 そして、気づいた時には、雲の階段が眼前に有った。それは、また天空へと繋がる階段。

 私とラースは、目配せだけして、その階段を上った。何も言わなくても、道はこれ一つ。そう判断したから。

 階段を上っていくと、眼下にヴァルハラの私達が通ってきた暗闇の道が広がる。しかし、光の泡がプカプカと、上空に浮かんでくる。それが何なのか? 今の私には判らないけれど、この世界の秩序のような気がした。だから、ラースの後を、付いて歩く。そして、階段は途切れた。

 また、暗闇の世界。ピーンと張り詰めた空気もそのまま。私は、それがヴァルハラなんだと再度理解した。

「ティナ? お怪我はございませんね? この階は、先程とは違いかなり厄介な場所です。私に一任下さい」

 ラースは、一声掛ける。この階の事を理解した上で私に言っているのだろう。

 私は、軽く頷いた。

 その私達の前に立ち塞がったのは、ジグルズと云う鍛え抜かれた強靭な体を持つ英雄神だった。

「ラース皇子。此処に用があると言う事は、外で何かあったと推察して良いのだろうか?」

 彼を知っている分、少し安心していた私だったけど、ここを何故彼が守っているのであろうか? その疑問が渦を巻く。

「ラグナロクの危機だからです。ジグルズ様。スルト神が反乱を起こしました。その為、此処に居るティナに過去の記憶を全て取り戻していただき、今の状況を打開するために参りました」

 ラースは、単刀直入に告げた。

「なるほど。で、ティナと云うのは、そちらの女性ですか。ああ、なるほど。黄昏の女神様。スクルド様……ではありませんか」 

 私に目を向けた瞬間、ジグルズは直ぐに私が誰であったのかを判断した。私も彼を知っている。確か、ワルキューレのうちの一人と恋人であったはず。だから印象深い。

「ええ。そうです。その後ジグルズ様もお変わりなく……」

 取り敢えず、想いだせる範囲で、社交辞令。

「私達はここを通りたい。そして、ティナの記憶を全て取り戻すために、オーディンの元へ行きたいと思っている。通してくれませんか?」

 社交辞令の先には交渉。そう、ラースは先を見ていた。

「それはなりません。此処を通る権利があるのは、その任を得た者ののみ。今それを許す訳には参りません。それが、此処ヴァルハラの掟。ラグナロクがもし滅亡しても、それはそう決まった運命。だからオーディンの采配無しに貴方たちを此処から動かすわけにはいきません」

 ジグルズはハッキリと言い切った。

 確かに、オーディンがあのラグナロクのことを気にかけていない限り、自らが動こうとはしないであろう。それは考えてみれば不自然だ。そう、オーディンなら神々を率いてでも行動を起こす。神々の長がそれを知らないはずはないのだから……疑問が一つ生まれた。

「では、仕方がありませんね。貴方を倒して通らせていただきます!」

 ラースは、そう言うと、手首のブレスレットを触り、浮かび上がった槌、ミョルニルを右手に構える。

 ジグルズは、腰に下げている鞘から剣を引き抜く。その剣は、有名なグラムと言う代物だとエアリーが言った。

「私は何をすれば良いでしょう?」

 一任して欲しいと言われたけれどこのまま二人を見ている訳にはいかない。そう、私ができる事はないか? それを探さないと……でも、考えている間に、ジグルズの後方から、巨体のトロルド達がゾロゾロとこちらに向かってくる。

「ティナ! 貴方にはあのトロルド達をお願いします! 彼らならベルセルクの群れを通ってきた今の貴方でも止められます。せめて、私がこのジグルズを倒すまで足止めを!」

 私は、ラースのその言葉を信じ、トロルド達と向き合った。そして、自らの剣を携え、立ち向かったのである。


 金銀財宝の山に住む妖精トロルド。何故こんなところに? だけど、今はそれが問題ではない。今はこのバイキング姿で襲い掛かろうとするトロルド達を私が倒すしかないのよね。

 巨大で粗暴。大雑把なトロルドであるから、私は俊敏に体を動かす。そうすると、トロルド達は足を絡ませいっせいに倒れた。そこを、剣で叩きのめす。と言っても眠らせるだけにとどめる事にした。ティナとしての意識が殺すという事を躊躇ったからである。もしこのティナとしての意識がなければ、私はこのトロール達を全て切り裂いていただろう。それを考えると、怖いと思った。人格と、人格を形成するための環境。その違いと言う物が判った気がする。

 さて、私の方は片が付いたので、ラースと、ジグルズの戦いの方に目を向けた。

 ラースは苦しんでいる模様。流石に、神々の中でも英雄とも謳われるジグルズを本気で相手しているとなると厳しい。

 鋼鉄のような体のジグルズ。その体に、ラースのミョルニルは役に立たない。体を貫くにも、硬すぎる体のジグルズだからラースの武器も無効。まるで最強の盾。それは、見ている方がハラハラさせられる。追い込まれるラースは、ミョルニルから雷を発し、後方へと移動。そして、またミョルニルを投げる。

 この戦いの果てというものは有るのであろうか? そう思わせる。しかし、一つだけ。そうたった一つだけジグルズに弱点があることに気が付いた。

 硬い頑丈な褐色の肌の色。それが一部分だけ……そう、背中の一部に微かだけど、薄くなっている部分がある。以前に確か、ジグルズの恋人であったワルキューレが、この頑丈な体は、戦いの最中魔法の掛かったファフニールの返り血を全体に浴び手に入れたと言っていた。だけど、そのワルキューレは、ジグルズの背中を守る事が自分のすべき事なのだと誓っていた。それは愛ゆえに言った言葉なのだろうか? いや違うと思う。ならば、その血を浴びなかった部分が有ったのでは?

 だから私は、

「ラース! 背中の少し色あせた部分を狙って!」

 と促した。そうする事が、今の一番の可能性だと思える。ラースも疲労しきっているし。それにこれ以上の戦いは、無意味だと私は悟った。

「ティナ……了解!」

 ラースは、雷を伴いながら、ミョルニルをジグルズに投げつける。それを、軽く避けるジグルズは次に跳ね返ってくるそのミョルニルに対処するため反転した。しかし、ラースはそのミョルニルが返ってくる前に、ジグルズの腕を取り押さえ、時間を稼ぐ。そして、ミョルニルが自らの手に戻ると、ジグルズを前方に突き飛ばし一歩引くと同時に、背中の色が褪せている所目掛けてミョルニルを投げつける。

 その瞬間、ジグルズは振り返ろうとしたが既に遅かった。ミョルニルは、見事にジグルズの弱点を通り抜けラースの手元に戻ってきていたのである。なんと言う素早さなんだろう。私は瞬き一つせずそれを見届けた。

 そしてこの勝負が決着したんだと私はラースの傍に行き、そして、腕を取った。それから私達はジグルズを見た。

 ジグルズは、そのままその場に倒れ、そして、光の泡と化したのである。それはまるで、

清い魂が浄化されるかの如く。

「転生したの……?」

 私は、その神聖な一部分を目の当たりにし少し震えた。あの階段下からの光の泡も、あの時倒したベルセルク達の魂?

「そうです。ティナ。ジグルズは、転生を果たしました。次の生命の源となるために」

 ラースは、私が掴んでいるその腕へと手を伸ばし、静かにそっと私の手に触れてそう言った。まるで、これが必要なことであったんだと説得するために。

「では、参りましょう。此処に長居は無用です。次からの試練は、此処の比ではありません。何しろ、オーディンを守る神々で、固められているのですから」

 そのラースの言葉に、私は確かにそうなんだと悟った。だから、自分なりに、より、気合を入れてみる。

 私が知っている、ヴァルハラをもっとクリアに想いだすためにも。

 そして、先を進む。この真っ暗なヴァルハラの天空にひたすら二人の思いを寄せて……


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