ゲームの住人
オレの1番昔の記憶は、廃校になった学校を利用した研究施設だった。
高い塀で周囲を覆われ、許可なく外に出た人間を射殺出来るようにアサルトライフルを装備した警備員が常駐している…そんな光景だ。
それが当たり前だったし、当時はそれについて疑問はいだいていなかった…。
『人工天才児計画』…人工知能の急激な進化にともない、対抗手段として編み出された遺伝子操作、薬物を併用した『デザイナーチャイルド』
その試作3号『トリー』がオレの名前だった。
オレ達は学べば学ぶだけ覚えたし、オレが10歳の時に書いた匿名の研究論文は当時の有名大学でも話題にあがる程だった。
その論文の名前は、『DLの技術を応用した人の義体化の基礎理論と可能性』だ。
昔のDLの筋肉はかなり重く、それで義手と作って装着しようとしても接続部分の肩を痛める事になる…。
結局DLの技術転用で義体化をするには、骨格から交換しないと実用化レベルにならなかったのだ。
トリーの出した論文は、それが技術革新により軽くする事で実用レベルまで上がった証明と難しかった小型化の方法、
具体的には人工筋肉に血管を通し『油圧血液』による油圧システム機能を盛り込む事で電気筋肉のハイブリッドにする方法だ。
これなら面積当たりの出力が上がりその分、筋肉を大幅に減らせる事が出来、使用電力も抑える事が出来る。
この論文は、『DLの技術転用は無理だ』と思い込んでいた義体の開発所の方針転換に繋がり、
オレが15でアメリカにスカウトされ亡命する際には、オレの理論を元にした試作義体の兵士が護衛についた。
結局この亡命騒動もアメリカが『オレを買い取る』形で金を出した事で収束はした。
そして、新たな名前、経歴、などを貰い大学に入学したのだ。
その時に名前を決めていいと言われたので、オレは日本語の同じ発音の『鳥』から英語の『バード』に更に名前っぽくして『バート』に。
その後は、プロジェクトチームを政府の援助で立ち上げ、スポンサー獲得の為に特別講師する事になり彼女と出会ったのだった。
『人工天才児計画』の個体には様々な特徴があるものの共通しているのは、『頭が良い』(情報処理能力・記憶力)『老化が遅い』、
『病気に強い身体』などがあるが、一番の特徴は何らか『ターミネート因子』が組み込まれている事だ。
これは、改造された遺伝子を次世代に持ち越さない為の因子で、トリーの場合子供に遺伝子疾患が起きる。
だが、科学治せない致命的な疾患は1割以下だったはずだ。
それだから自然出産に同意をしたのだが…。
双子の二人を保育器から見つめつつバートはそう考えた。
二人はがん発症覚悟で自力で生存できるレベルまで成長させる事が決まった。
NK細胞は、致命的後遺症になりやすい脳と目、耳、それに心臓、肺などの重要器官に配置し他はそのままにすると言う状態だ。
そして、別の問題も発生した。
双子の状態を聞いたことで精神的に追い詰められたのか、彼女の体調が悪化しそのまま入院となったのだ。
「彼女の病気は、おそらくエイズの変異種になります。」
「おそらくですか?」
「ええ、どうやらベースがエイズで人工的な改造を施されたウィルスのようなのですが、
該当データが無いばかりか複雑過ぎる細工がされているので、遺伝子解析にどの位かかるか見当もつきません。」
「娘達への感染は?」
「そちらは問題ありません…。あなた側にウイルスの抗体になる何かがあったらしく、あなたとお子さんには問題ないと思われます。」
オレに抗体?んなバカな…そんな偶然ある訳…。
「ならとりあえず、私の抗体からワクチンを作り出せませんか?」
「無理と言うより時間が足りません…。彼女の症状は既に末期…むしろどうして今まで隠し続けてられたのかが不思議なくらいです。」
「そんな…。」
バートは、アメリカに亡命してから休日には必ず近くの教会に行く…。
私は、アメリカ国民として熱心な信奉者では無ければならず、科学を信仰している私も表向きはその皮を被り続けなくてはならない。
神はこの世界を作ったと言うが、神は病気も直さないし、殺人も止めない、宗教戦争は山のようにしているにも関わらず、神は降臨して止めようともしない。
恐らく神は、この世界をシュミレーションゲームのノリでプレイしているのだろう。
このサディストみたいなプレイスタイルは、オレが、このてのゲームでたまにやる遊び方だ。
そして、ゲーム内のキャラが生きているとも知らず、ノリで災害を起こしたり、戦争を誘発させたりするのだ。
ゲームの中の住人(我々)としては、迷惑極まりない。
いずれにしても、神は管理者としては、問題だらけだ。
バートは長椅子に座り、手を組み祈った。
(おい悪魔、人を殺すのは楽しいか?それともコレが神様が言う天罰とかか?管理問題なのか、サディストなのかは知らないが、
この因果を作った神をオレは許さない。オレは、科学の力でアンタを超えてやる)
ああこりゃ天罰が下るだろうな…でも政府がそれに対して金を出しているんだ…政府その物が異端者か。
『脳の機械化』…古今東西権力者が追い求めたとされる不老不死への道だ。
娘を救うにはそれしかないし、オレにはそれだけの技術と予算がある。
なぁ神よ…これは許容するか?
バートは、無言で立ち上がりいつも通り教会を後にした。




