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ヒトの狂解  作者: Nao
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クソ親のワガママ

私が彼女に惚れたのは、大学のキャンパスだった。

当時私は特別講師として、講義する事が多く、彼女は講義に出ては質問をしてくる…そんな関係だった。

それは、研究のスポンサー集めが主な退屈だった講義に彩りになり、やがてプライベートで合う事が多くなり、彼女を多く知る事になる。

彼女の分野は生物研究で、虫から哺乳類までありとあらゆる物に興味をしめしていた。

対する私は、義体工学と呼ばれるまだ歴史の浅い、だがこれからの人類には必須の分野だ。

彼女は生物としての人間を愛するもの、その人間を科学的に模倣しようとする私。

一見違うように見えて、彼女の研究は、私にとって、とても役に立った。

特に義体化した場合の精神の変化だ。

義体化のパーセンテージが多い程、とっさの事故に合った時の危機回避能力が下がる。

丈夫な身体に影響され、逃げると言う選択肢を取らなくなる…そう言った状態だ。

まだ、全身義体の人間の数は少なく、問題にはなっていないが、避けては通れない問題だろう。


そんな私と彼女との付き合いは、やがて恋愛の域まで達しようとしていた。

恋愛とは、突き詰めれば繁殖行動であり、その過程の求愛行為から、すべては後世に自分の遺伝子を残す事に繋がる。

私が恋愛感情を持つとは、思っておらずその必要性もないと感じていたが…彼女から放たれる生気と表現するべき何か

に私は引かれていき彼女の求めに応じ、遂に一線を越え、そして結婚となった。


「えっ?子供を作りたい?」

「ええ、もう結婚してから1年は立つわ、そろそろ子供を作ってもいいと思うの」

「それは、遺伝子操作や、人工授精を使わずの自然出産だよね?」

今の時代、遺伝子操作はともかく、先天性の病気の遺伝子を排除して試験管内で受精させるのが普通だ。

しかも妊娠中の母体内でのケガを防止する為、人工子宮を使うケースも多い。

「そう、いつも私に気を使って避妊をしてくれるは嬉しいけど私は、自然のままで遺伝子を後世に残したいの」

「でもキミの身体では厳しい、帝王切開は前提子供もおそらく未熟児で保育器には入れられるだろうし、

確率は低いが先天性の病気になる可能性もある。そのリスクを引き受けるのは、キミでは無く生まれてくる子供だよ。」

「バート聞いて、遺伝子を解析して望む形に組み換えられる事になったけど、たどり着く先は、

皆が親戚レベルの遺伝子の違いしかない多様性のない人類…。『頭の容量が増える遺伝子』

『老化が遅くなる遺伝子』『病気にかかりにくくなる抗体遺伝子』『大けがにならない為の丈夫な身体にする遺伝子』

これが標準搭載された、遺伝子プールが限りなく少ない子供達…。それでも技術で解決するのでしょうけど…。

私はそれに抗っていきたいの…これは、子供の迷惑なんか考えていない母親のワガママよ。」

「キミはそれに命をかけると…。それに見合うだけの価値はあると…。」

「ええ」

自分の遺伝子を残すなら、いい遺伝子ではなく、よりユニークな遺伝子と言う事か…。

確かに私がいたと言う遺伝子を残すなら、その方がいい…だけどそれは子供達の事を考えないワガママだ。

それにどう言う形にしてもおそらく、遺伝子疾患は残る。それを個性と受け取るかは、本人次第なのだろうが。

私は少し考える…そして。

彼女に同意してしまった。自分のユニークな遺伝子を後世に残せると言う誘惑に負け…。


更に一年後…。

想定していた通り帝王切開で、更に大量の輸血を行うものの、母子共にどうにか生き延びた…。

生まれた双子の女の子は、驚くほど低重量だった為、すぐさま保育器に入れられて厳重に管理された環境で生きる事になる。

彼女達が外に出られるのは、自力で生存出来るほど体重が増えてからだ。


そして、数日経ち、今でも思い出す術後の健康診断の結果だった。

「お子さん二人は『細胞分裂障害』です。」

私と彼女は、病室で医師からそう聞かされた。

「まさかッ…。」

彼女は、それが何をさすのか分かったのか黙り込み、静かに涙を流した。

私は、彼女の肩に手を当て医師にむかって

「あいにく私は、専門外なので、詳しく教えて頂けますか?」

と言った。私は冷静に言ったつもりではあったが、声が僅かに震えている事に気づく。

「細胞分裂障害と言うのは、簡単に言うなら細胞分裂時のエラーレートが高くなる遺伝子疾患です。

ご存じの通り、細胞分裂と言うのは、細胞が自分のコピーを作る現象です…ですが、生物故にコピーミスが生じます。

そしてそのコピーミスがコピーされていき、またコピーミスが起き、コピーミスのコピーミスが起きる…これを繰り返す事で、

元の細胞からどんどん劣化してしまいます。これが老化と言われる現象になるのですが…。」

「あの二人は老化が早いと…?」

「いえ、それなら対処は出来たのですが…。問題はがん細胞です。新生児は、1年で3キロから9キロ…つまり自身の三倍まで重量が増加します。

その時期に行われる細胞分裂の数は、とてつもなく膨大です。その環境の中でエラーレートの高いと突然変異のがんの数も増大します。

しかも新生児は、がんを駆除するNK細胞の数が少ない…なら人工NK細胞を投与すればいいかと言われるとまた違います。

そうなると今度は成長その物が止まってしまいます。エラーレートから計算して、10年細胞分裂を繰り返して1歳児程度でしょうか…。

ここまでのエラーレートは、記録している限りでは初です。そもそも10年生きられるかも保証も出来ません。」

今でもあの時医師が言った言葉の一つ一つを覚えている。

そして、オレはこう思ったんだ。『ああ原因はオレだ。』と。

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