最期のドックファイト
真っ暗な空に星と月が光輝く美しい空を高速で飛翔する鳥が6羽いた。
名前は『スターバード』人類が開発した最後の戦闘機である。
スターバード隊が進むのは南極…雲の下では、オートマタと人類の散発的な戦闘が行われている。
数分前に、航行中無人機『ブラックバードⅡ』のコントロールを失い、敵にハックされた。
そして、付近で待ち伏せしていた空母にスクランブルがかかりオレ達が出る事になった。
命令は敵機の迎撃だった。
「元々そっちが作った物だったな」
スターバード以降の機体は、AIが開発したブラックボックスが使われている。
内部は人間では理解不能だがそのまま設計書通り忠実に作れば、なぜか機能する機構だ。
隊長機のダニーは、オートパイロットにしてスティックから手を放す。
追いつくまでは後数分はかかる…これからドックファイトを行うのに無駄な体力は使いたくない。
スターバード隊の隊員は、この戦闘の為に設立された設立から僅か1年のPMC(民間軍事会社)だ。
パイロットの6名は戦闘機VRゲームジャンキーで、『スターバード』が完全に再現された戦闘機ゲーム『スカイライン』の世界大会1位~6位になる。
VR上で『ブラックバードⅡ』との戦闘を経験し撃墜確率6割を記録するしている人間はオレ達だけなのだ。
それこそ無人機が当たり前で名目やお飾りの戦闘機乗りなんて目じゃない位に。
そして戦闘機乗りがオレに勝っている所と言ったら…。
「どれだけ加速Gに耐えられるかだな」
ひ弱なVRジャンキーが1年間対G訓練ばかりをやっていたのは確実にドックファイトになるからだ。
人間対人間の時代は、遠距離からのミサイルでの攻撃で、当たるかどうかは殆どミサイルの性能だ。
無人機対無人機の戦いはミサイルだけではカタが付かず、ドックファイト移る事が多い。
「目標タリホー!!」
レーダーギリギリに敵を補足し、ダニーはスティックを握りオートパイロットを解除…解除した瞬間に少し揺れるもののすぐに機械アシストが利いて大人しくなる。
目標の『ブラックバードⅡ』は1機…人間なら僚機がいるはずだが無人機は基本1機だ。
『自分以外の目標はすべて敵』の方が、処理が楽だし尚且つ遠隔でトリガーを引いている兵士が迷わず引ける。
「各機F2を二発残す。ミサイルだけ合わせろその後は好きにやれ」
一撃離脱なんてまず不可能、マニュアル通りにやるなんて論外、散々VRをやってきた勘を信じるしかない。
「「「「コピー」」」」
「F1準備」
各機が、HMDに移る敵との距離に目を向ける。
もうF1の射程に入っている…がより近距離の方が命中率が高い無人機ならなおさらだ。
(こいこいこいこいこい)
ダニーは最大望遠にし敵機が曲がるそぶりを待つ、他の奴にも伝わっているはずだ。
そして尾翼が動いた。
「ファイヤー!!」
各機kら2×6の12機のミサイルが放たれる。一番射程距離の長いホーミングミサイルだ。
F1ミサイルは、敵のカーブを妨害するようにコースを取り『ブラックバードⅡ』を全方向から囲むだが自分から当たろうとはしない
F1の目的は移動の制限と位置情報のトレースだ。
360°どの方向に曲がっても爆発するこれで高機動戦闘を封じる…そして
「F2ファイヤー!!」
F2中距離高速ミサイルだ『ブラックバードⅡ』の後方から2×6の計12発のミサイルだ。
これで減速も加速も出来ないフォックス1ミサイルが各ミサイルに位置情報を送り、『ブラックバードⅡ』を囲むように展開あとはF1の燃料切れ直前になり信管が作動し爆発するか、
後続のミサイルにやられるかだ。
チャフ、フレアはハックを警戒して積んでなかった。
(だかやるだろうな…)
そう確信…いや期待する。
「各自ドックファイト準備」
3…2…1。
『ブラックバードⅡ』が直前に急加速、異変に気付いたフォックス1が一斉起爆…が爆発から『ブラックバードⅡ』が出てくる。
機体は小破、ダメージを最小限に抑えられ、行動に支障なし。
『ブラックバードⅡ』は、急降下し雲海に突入『スターバード』も後を追う。
雲海の雨が機体打ち付ける。
月明りが出ているとは言えほとんど真っ暗なで雨だらけの環境だが、ガラスでは無く装甲でコクピットを覆い機械で補正された映像モニタに投影している
オレ達には障害にならない。
各機体は『ブラックバードⅡ』の後ろに付き、機関砲を撃つ……。
『ブラックバードⅡ』は上下左右とあらゆる方向に旋回し必死に食らいつくものの無人機ならではの高G旋回が機体とパイロットを疲弊させる。
そしてついに、ロックした。
(F2!!)
高G旋回時に通信は出来ない、呼吸を維持するだけで精いっぱいだ。
だがそこはプロゲーマーオレの動作を読み取り一拍の間をおいて他の機体が残りのF2ミサイル二発を撃つ
ミサイルは敵機を追尾し『ブラックバードⅡ』は水平飛行に移りマッハ3の最高速度で切り抜ける。
他の機体も速度を上げ後を追うだが…。
(コブラ機動?)
『ブラックバードⅡ』の機首90°上がり機体が真上を向いたまま固定される…機体の空気抵抗を増大させ、急減速で後ろを取るマニューバーだ。
なぜだ?後ろにはミサイルがいる減速したら当たるはずだ。
行動の意味は分からないが、とっさにこちらもコブラ機動を取る…減速され後ろに付かれたら振り切れない。
他の機体はそれぞれ1トリガー20発を発射その後コブラ機動を取る。
コブラ機動で狙えるようになったコクピットに計100発の弾が降り注ぐが確認は出来ない。
(まずい)
機体が軋み、ものすごいGがかかる。
ヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッ
短く呼吸をする対G呼吸を行うも視界が暗くなる。
(こいつブラックアウト狙いか!!)
血中が足に集中し、対Gスーツが足を締め付け血流を上に流そうとするが、視界が暗くなり意識が遠のく…。
視界不良に思考能力の低下…だが敵機もオーバーGだろう…乗り切ればまだ…。
機体を立て直す為水平に戻そうと機首を下げるが…。
(!?)
眼に入った物を見た瞬間…反射的に失速の可能性を無視してまた機首を上げ更に減速を始める。
眼に入った物は水の壁…滝?いや海!!
海面に向かってマッハ3で急降下した戦闘機『ブラックバードⅡ』1機に後方の12のミサイルと100発の弾丸。
そして『スターバード』6機は機体を傾け水平飛行に戻ろうとするが、『スターバード』の内5機が減速が待ちあわず海面に叩きつけられ分解…。
『ブラックバードⅡ』と『ダニーのスターバード』が生き残る。
くそッ、高G旋回多様したのも、頭を回して平衡感覚を無くす為…だが計器は平行だったはず……。
HMDの計器をとっさに確認をする……海面をすれすれで再加速し失速を回避、後方で100発の弾丸が降り注いでいるにもかかわらず。
(計器が雲の中を高速で落下中と言っている…計器を狂わされた上に水平飛行を演出しやがった?どの計器が生きている?)
なら目視飛行で……。『スターバード』はカメラが視界を投影している…信じられるか?…信じられない。
機体のコクピット装甲を即座にパージ、ロックが外れコクピットの装甲が風に飛ばされる形で後方に飛んでいく、残っているのは視界が悪いガラス張りのキャノピーだ。
そして次の瞬間『ブラックバードⅡ』の後方のミサイル12機が接近…だが『ブラックバードⅡ』が更に降下…高度10m以下の超低空飛行…。
速度を限界まで上げ左にロールし旋回、海面に翼ギリギリ当たらないように波も計算しつつ衝撃で大量の海水柱が発生させ、フレアの替わりに使用…。
次々にミサイル落としていく。そして旋回しながら『スターバード』後ろにつこうとする。
追いかけようにもこちらは奴を追う事は出来ない。高度10m以下でのアクロバット戦闘なんて芸当は人間には不可能だ。
上に逃げるか?目視飛行でかレーダーも信用できない、火器管制は機構としてはおそらく行けるが…。
ダニーは機体を上に向ける再加速、『ブラックバードⅡ』におそらく後ろを取られる。
もはや後ろは見えない、相手の速度から計算した予測…いや願望だ。
そして…『ブラックバードⅡ』戦闘から初めての発砲…ダニーはフレアをまく、フレアで機体にダメージを与える事は難しいが一瞬だがカメラは封じた。
機体に被弾だがまだ動く、敵を中心に孤の字を描き宙返り…。
宙返り中に敵が視界に入った瞬間フルオートで射撃、機体後部にダメージ。大口径質量があった事で機体が一瞬ふらつく。
「取った」
更に機体後部のエンジンに命中、噴射が止まった。
「よし」
どうにか相打ちには持ち込めた。燃料も帰りの分も含めすべて使い果たした。
帰還は絶望的、脱出しても着水して10分で凍死、でも…いい試合だった。
が…。
『ブラックバードⅡ』の推力が落ち機体残った空力をたくみに使い傾く、そしてダニーが見たものは、
(ウィングブレード!?)
『ブラックバードⅡ』の翼の先は分子数個分の太さの最高品質の切れ味を誇る。これを小刻みに振動する事で、あの変態機動を取るのだ。
そのウィングブレードでこちらの翼を切り裂いた。
「ははは勝てたと思ったのにな~」
翼を無くしきりもみ状態で落下…おそらく後10秒の命、『ブラックバードⅡ』はオレより先には死なないとグライダー状態の機体で必死に空力を制御し最期の悪あがきを始める。
落下速度を落とすものの…速度が速すぎて海面に叩きつけられるだろう。
「いいバトルだったぜじゃあな」
ダニーは笑みを浮かべ『ブラックバードⅡ』にgjと指を掲げた。
そして最後の『スターバード』が海面に落ちる。その後しばらくして後を追うように『ブラックバードⅡ』も墜落した。
こうしてダニー…ダニエルの、最高で最期のドックファイトは幕を閉じた。
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「でどうだった?」
薄暗い部屋で、リアルタイム通信で送られてきた『スターバード』の戦闘ログをプロジェクタで表示する。
戦闘ログと言っても時間と文字と数字が永遠と流れ横では折れ線グラフが表示される。
私の仕事は指揮であってこれは門外だ。内容が全く分からない。
そして私の隣に立つ彼は、解説を始める。
「敵1に対して6機がかりで相打ちです。」
彼が淡々と報告を始める。
「初戦としては上々じゃないかね」
「とは言いますが、『ブラックバードⅡ』残り5機は奪取されましたが…。」
「その『ブラックバードⅡ』は、『マッハ3で敵陣に突っ込む5トンの質量弾』として使うはずだったものだ。
それに守りたかった設計データを持っていた個体は、あれだったのだろう…。なら問題ないじゃないか?」
『ブラックバードⅡ』の設計図はあちらも持ってるはずだ。…オートマタからしても生産の手間が省けた位にしかならないはず。
それにしてもミサイルは無しシャフフレアも無し、ミサイル迎撃用の後方機関砲も空、あるのは前方機関砲300発だけ。そんな状況でも6機撃墜出来る兵器、対抗するにはやはり無人機が必要か…。
「『スターバードⅡ』は?」
「予定通り、来月にはロールアウトします。再来月までVRシミュレーターをアップデートして同時に盛大に告知をします。」
「搭乗者は?」
「やはりダニーでしょう…ただ彼にも欠点はあります。」
「ほう…どんな?」
彼はPCを弄り、戦闘データを映像に起こす。
「今回の戦闘データです。1号機のオリジナルが計器を疑ったおかげで最期まで生き残りましたが。2~6号機のダニーコピーはこの通り、計器を疑わなかった。」
VRゲームに計器の誤作動は無い今回はそれをつかれた訳だが、そもそも『感覚を信じるな計器を信じろ』は航空機パイロットの基本だ。
彼が外れているともいえる…現状ではどっちが正しいとは言えないか。
「再教育は可能かね?」
「おそらく可能でしょう…。現在300人のコアゲーマーの脳データがありますので、彼らも並行して育てればもっといい人材が見つかるかもしれません」
「ならいい…じゃあ『スレイブロイド』の方は?」
「来週VRゲームにて大会を開きます。予選を勝ち抜いた者は脳のコピーを取ります。後はこちらと同じですかね」
「ならいい、私はそちら方面は疎いからね…私は軍事に専念するから兵の育成は頼むよ」
「はい、お互い戦死者が出ない戦争の為に頑張りましょう」
「そうだな」
そう言い私は退出した。