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エルフの街へ、いらっしゃい!

生きたまま異世界へ跳んだ少年·高木聖。彼の異世界トラベラーは、仕組まれたものだった?!

「ったく、あの犬はどこいったーっ!」


 声も息も荒げた高木聖(16歳/高校2年)は、自転車に跨ったまま周りを見渡···


「ん? ハァッ···どこだ···ここ···」


 見ると辺り一面草むらで、細長い道が遥か向こうに一本伸びているのがわかった。


 が!


 鳥の声も聞こえず、人っ子一人歩いてはいない。


「確か俺あっちから···」と来た方向であろう自身の後ろを振り返ると道がただただ続いていただけだった。


「どこだよ、ここ···」


 立ち尽くす聖だったが、視力のいい彼は遥か後ろからやってくる人物が見え、とりあえず待とうと自転車を木の根元に停め、大きく出てる根に腰掛けて待つことにした。


 暫く待っていると、聖よりも小さな女の子?が、背中に大きな籠を背負い歩いてくるのが見えた。



「すいませーん!」と声を掛けながら自転車を押して駆け寄ると不思議そうな顔をした女の子が、こちらを見て立ち止まった。


「はい···」


 女の子は、頭に布切れを被り、少し古めのワンピースにほつれのあるエプロンを身に着けていた。


「すいません。犬を追っかけてる途中で迷子になったみたいで。あの、ここってどこなんですか?」


 聖は、女の子が怖がらないように出来るだけ落ち着いて喋った。


「ここ、ですか? ここは、マシキの街です」


 女の子は、聖を見上げそう言った。


「マシキ?」


 聖は考えるも、聖が住む網引市にはそんな町は存在しないし、臨市にもなかったと記憶していた。


「ここに交番は?」


「コウバン? なんですか、それ···。あの私もう行かないと···」


 女の子は、チラチラと前方に見える街と聖を見ていた。


「ない? そんな···」と少し絶望の縁に立たされた聖だったが、街に行けばなんとかなると思い、


「街になにしにいくの? その荷物持って上げるよ。だから、街まで案内してほしい」と女の子に言い、その女の子が止めるのも聞かず、荷台に背負ってた荷物をくくりつけ、自転車を押して歩く。


「あ、待って下さい!」


 トテトテと聖の歩く後ろからついてきたが、背中が軽い事もあり、いつの間にか聖と並んで歩いたり、先を歩いたりしていた。



「ここが、マシキの街です。お兄さんが言ったコウバンはないですが、さっきのワルイヒトを捕まえる警備の人なら居るにはいるんですけど···」


 女の子は、言葉を濁した。


「これ、どうするの? どこかで売るの?」


 その籠には、畑で取れたばかりなのか泥付きの野菜っぽいのが入っていた。お米で言うと10kgは有りそうな重さ。


「はい。私の場所はあの隅です。こっちです」


 女の子が先に歩き、今度は聖が後に続いて歩くが、街に入った瞬間どことなく自分らを見ては、ヒソヒソと話す人がいることに妙な違和感を感じた。


 街には、様々なテントや店があり、どこも賑わっていたし、男性はズボンにシャツ、女性は少し腰回りに膨らみのあるワンピースを着ていて···


「なぁ、なんでみんな耳があんなに尖ってんだ?」


 耳だけではなかった。肌の色も同じ緑にしては、濃かったり薄かったりしていた。


「それは···。あ、ここです。ここ!」


 女の子に言われ、聖は荷台から籠を下ろし、女の子と一緒に籠に入った野菜や果物を木箱の上に並び始めた。


 通る人通る人、チラッと女の子のブースを見るも、誰も立ち止まらない。声も出しているのに···


「あ···」


 ガチャッと音がし、見上げると警察官とは違った服装をした男性が立って女の子を見下ろしていた。


「まだいたのか。お前」


「「······。」」


「不味そうなもんばっか並べて。早くこの街から出てけ」


 警備員らしき男性は、言うだけ言うと他のブースへ行き、楽しそうに談笑しているのが見えた。


「なんだ、あいつ···」


 聖は、少し睨むと必死に声を掛けてる女の子を見た。


「駄目···か」


 俯いて小さく呟く女の子だったが、落ち込んではいないらしい。


 聖には、どれがどの名前なのか分からないが、形こそいびつだが味に変わらないとは思った。


「あの!」


 ブースの目の前に、女の子よりも小さな男の子が立っていた。


「なんですかー?」


 なかなか売れない野菜を前に不貞腐れた声を掛ける聖に、男の子は、


「それ、なーに?」と後ろに停めてある自転車を指さした。


「何って、自転車だけど···。あ!」


 聖は、考えた。この自転車で釣れば···


「ね、きみ今一人? お母さんは? お金持ってる?」と妙に危ない会話で男の子にナンパをしたのである。


「ほんとっ!? ねぇ、ほんとになんか買ったら少し乗らせてくれるの?!」


「あぁ。特別に今日だけ少し乗せてやる。だから、なんか買ってくれるようにお母さんにお願いしてみて」


 目を輝かせてその男の子は、頷いて人混みに消えていった。


「これ自転車って言うんですね」


 女の子もそう言った。


「そういや、名前聞いてなかったわ。俺、聖。きみは?」


「私? 私は···」と女の子が、名前を名乗ろうとした時に、先程の男の子が困った顔をした母親らしき人を連れてきた。


「あの···ほんとにあれにうちの子が乗せて貰えるんですか?」と何故かオドオドとした声で聖に話す。


「乗せてやる。ただし、何か1つでもいいから、ここにある野菜だかを買ってくれたら!」


 母親は、しつこく強請る子供に根負けしたのか、


「じゃ、テペルノひと山下さいな」と女の子に言い、渡された麻袋に入れていき、


「お兄さん! 早く!」と今度は男の子に聖が急かされ···


 ブースの裏で楽しむ男の子の声(聖が押してるだけ)に、ぽつりぽつりと人が集まり···


「ありがとうございます! 初めてです。こんなに野菜が売れたのって」


 今度は、女の子を泣かしてしまった。


 こういう時は謝る?悪いことして泣かした訳じゃないのに?と悩む聖だったが、幸いにもすぐに女の子が泣き止んだのでブース周りを片付けて帰る事にしたのはいいが···。



「ホテル? ってなんですか?」


「ない? 宿とかは? ほら人が泊ま···」


「あー、ヤドならありますけど、高いですよ? 確か、サンマンエンだったと···」


(ん? いまサンマンエンって言った? 聞き間違い?)


「いくら?」


「サンマンエンです」


 自転車の荷台に女の子の乗せながら、最初出会った道まで走りながらの会話。


「気持ちいい〜。木が泳いでる···」


「ここだったかな? 最初会ったの」


 大きな木が存在を現している。


「そうですけど。そこ泊まらない方がいいですよ」


「野宿は?」


「出来ますけど、死にますよ? 野生のオルムがいるので。あの、良かったらうち来ますか? 雨風はしのげますから」


 野菜を売り切ったのが聖のお陰だと思い、女の子はそう言った。


「じゃ、そうするよ」


(つか、ここの通貨は円なの?!)


 硬化や紙幣は、日本とは違っていたが、表記には確かにYENと書かれていた。


 再び、女の子を背負い言われた方向へ真っ直ぐ真っ直ぐ真っ直ぐーーーーっ!!


「どこだよ、ここ!」


 ついたのは、森の中···。


(ここの方がその野生のオルムだかっての、いるんじゃね?)


 内心ビクビクしながら、女の子が住む家に入っていった。


「でも、なんでこれも入れるの?」


 女の子が、自転車も入れてくださいというから、中に入れたが···。


(やけに静かだな···)



「ご飯、簡単なものしかないですけど···」


 言われるがまま、誘われるがままに、聖は少しガタツキのある椅子に腰掛けた。


「っ?!」


(今、なにした? 指からなんか出たぞ?)


 聖は、なんとかして女の子を目で追うがなかなか指先迄は見れなかった。


「腹減ったーっ! って俺コンビニ行ったんだ!」


 学校帰りにコンビニへ立ち寄り、お菓子と飲み物を買った事を思い出した聖は、持っていたディバッグを開けた。


「まんまあった!」


 ニマニマ笑いつつも、これを食べさせてみようと聖は、スープの味見をしてる女の子を眺めた。


(よく動く子だな。にしても、ここに一人で住んでるなんて! 親はいないのか?)


「は〜い、出来ました」


 市場で買ったパンやスープにこれはなんだろう?白いお皿には、チキンステーキみたいなのが奇麗に盛られていた。


「これは?」


「さっき言ったオルムです」


(オルムって、食べられるのか。鳥なのかな?)


 パンは、日本で食べるのより少し硬かったが、味はよく、スープも空きっ腹に吸い込まれる温かさ。オルムと言われた肉もナイフ等指すだけで簡単に切れ、口に入れた瞬間溶ける!位の柔らかさだった。


「どうですか? お味」


「美味い! このオルムって美味い!」


 女の子は、ニッコリ笑って、


「私、マイティーです。ヒジリさん」


 頭に被っていた布切れを取ったマイティーの頭には小さな角のようなものがあった。


「私、エルフ族の堕落者なんです···」


「ふーん。でも、それ隠す必要あんの? 可愛いのに」


「まぁ、色々とあって···。王妃様が言ったから···」


 聖には、そこらの事情はわからんが。このマイティーが、料理も掃除も洗濯も上手く、可愛いエルフってのはわかった。


(俺の部屋も掃除してほしい!)


「ヒジリさん。お風呂どうしますか?」


 洗い終えた食器を拭きながらしまうマイティーが、椅子に腰掛けてる聖に聞く。


「あるの? でも、俺着換えなんかないけど···」と返すと、マイティーは笑って、大丈夫ですと言った。


 マイティーは、嬉しそうに笑い、聖をジッと見ると部屋を出ていった。


 暫くして、


「これ同じですか?」とまさに聖が着ている制服を持ってきたのには、聖も驚き目を見開く!


(何故、制服? つか、どこから?)


 頭の中がクエスチョンマークで埋められるも、どことなく話してると楽しくなる聖は、


「お風呂···出来ましたよ?」と目の前にマイティーの顔があり、驚き椅子から落ちた。


「だ、大丈夫ですか?!」


 慌てるマイティーの顔と聖の顔が近すぎて、今度は聖が慌てる始末。



「お風呂案内しますね」


 マイティーに立たされ、着換え(制服だけど!)を持って、家の裏へ···。


「マジ? これ五右衛門風呂じゃん!」と何故か感動する聖に、今度はマイティーが、


「ゴエモンブロ? これお風呂ですよ?」と言った。


「でも、外ってあんた···」


 家の裏は、完全に外!いくら人気が無い場所でも、外は外!


「あ、大丈夫ですよ。外から見れないように結界張ってありますから。オルムも誰もここはわからないから···」


(結界?! 何故?!)


 ビクビクしながらも服を脱ぎ、渡された布切れで(大きくはない)前を隠し、蓋を底に沈めながら···


「あ"ぁ"ーーーっ」と声を出して、五右衛門風呂を楽しんだ。髪も身体も洗えるように、隣には床板が敷かれていた。


「最高ーっ!」


 聖の亡くなった祖父も昔住んでた家にこの五右衛門風呂があった。他の風呂もあったが、聖と祖父だけがこの五右衛門風呂を使っていた。亡くなってからは、家も風呂も取り壊されたけど。全く同じでは無いが、かなり良かった。


「ふぅっ。温まった···」


「どうでした? お湯加減···」


(部屋着? さっきのとは違う服だ)


 お風呂から戻った聖は、マイティーの姿にドキッとした。胸も足もピチピチなシャツとショートパンツを着て、聖が持っていた自転車の前で屈んでいた。


「乗りたい?」


「そうじゃなくて···。その難しいかなって···。あ、私お風呂入ってきますね」


「うん」


(難しいとは?)


 聖は、マイティーの後を目で追ったが、少しボロけたマットに腰掛け、ディバッグを撫でた。



「······。」


「これなんですか?」


 湯上がり漂うマイティーは、シャンプーの匂いをさせ、聖の隣に座って、小さな箱をしげしげと眺めていた。


「ポッチー。俺が住んでた国のお菓子。あと、色が変わる雨とファンタという炭酸飲料」


「初めてこんなお菓子見ました。タンサンってなんですか? 食べ物ですか?」


 試しにポッチーを1本マイティーに差し出し、食べ方を教えた。


 ポキッと小さな音を立て、ポリポリと嚙んで飲み込んで···


「あっま〜いっ! こんな甘いの初めて食べました!」


 ファンタに関しては···


「······。」


「だ、大丈夫? 生きてる?」と聖は、笑いを堪えマットに蹲るマイティーの背中を擦った。


「毒ですか、これは! ケホッ」


 どうやら炭酸飲料は、マイティーの口には合わなかったが、ポッチーは口に合ったらしく、2本食べて聖に返してきた。


「マ、マシキにもお菓子はありますけど、高いから余り買わないです···」


「そんなに高いの?」


「はい。小さなオルムが生きたまま買えるので」


「······。」


(わからないわっ!)



「明日は、売りに行くのがないので苗を買いに行きますから。」


「うん。それはわかったけど、ほんとにここで寝るの?」


「そうですけど? 床だと夜寒いですから。ベッドとか1つしかないし。嫌ですか?」


 先程いた部屋の奥には、手狭ながらも寝室がありベッドや本棚、小さな机があった。


「大丈夫ですよ。何もしませんから···」


(って、それ俺が言う台詞じゃね?)と思いながらも、何故か聖の腕の中にマイティーが埋もれて、先に静かな寝息を立て始めた。


 結果!


 一睡も出来ず、朝を迎えた聖···。


「眠い···」

登場人物紹介

高木聖

身長/168cm 体重/50kg

少し明るめの茶髪(地毛)

体格/わりと細めだが力はある

性格/優しい明るい。

長所/驚いても冷静

短所/誰とでも気さくに話す

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