仮面舞踏会
令和!!
遅れました
クラスメイトとの顔合わせも終わり、ゼリウス達は夜の仮面舞踏会の準備ため寮の部屋に戻っていた。各部屋の扉の前には名前付きの木箱が置いてある。
ゼリウスとメリルは木箱を部屋に運び終え、一休みしていた。
「仮面舞踏会か…。いろんな奴と喋れるといいなー」
「ゼリウスなら大丈夫だよ。教室での自己紹介も自然にできていたじゃないか」
「あれは、なんというか….」
「それに仮面舞踏会は顔を隠しているのだから、誰もゼリウスが“血の番人”だと気が付かないよ」
「えっ!もしかして、メリルって俺の一族の事知ってたのか!?」
ゼリウスは目を白黒させながらメリルを見た。
ゼリウスはメリルが自身の一族の噂を知らないから、恐れずに友人になってくれたと思っていた。しかし、メリルはいつもと変わらぬさわやかな笑顔で、得意気にゼリウスの疑問に答えた。
「僕は商家の出だからね。良い噂も悪い噂も両方入ってくるんだよ。リステニア領の話は時々商人たちの話題になるんだよね。魔物の素材のほとんどはリステニア領で討伐されたものだから、素材と一緒に討伐の話も入ってくるんだよ」
「で、でも、その討伐最中の姿が恐れられて“血の門番”なんて言うあだ名がついて、貴族達から避けられてるのに….どうしてメリルは怖くないんだ?」
ゼリウスは未だに驚きを隠せずに自身の不安と疑問を問いかけた。実際、これまでゼリウスが参加してきた舞踏会などでは多くの貴族達から避けられてきたのだ。メリルの様に恐れずに話してくれる人は、きっと自身の一族の噂を知らないものとゼリウスは思い込んでいたのである。
「さっきも言ったけど、商人には良い噂と悪い噂の両方が入ってくるんだよ。良い噂って言うのは、主にリステニア辺境伯、ゼリウスのお父様の領地経営の手腕かな。領民の安定した生活や治安の良さとか。僕たち商人が恐れるものの一つは、商品輸送中に盗賊に襲われる事だから、なるべく安全な行路を選ぶんだよね。だから、リステニア領みたいに安全に商売できるところは商人達からは評判が良いんだよ。それに、魔物討伐を終えた傭兵とか軍人からはとても頼もしい存在だって良く話を聞くよ」
これまで、ゼリウスは父親の領地経営にしか携わった事しか無かった事と貴族の友人が居ない事により、父親の領地経営の評価ができなかった。そのため、父親の領地経営の良し悪しがいまいちわからないのだ。しかし、リステニア領は他の領地に比べとても豊かで領民達の生活水準も高いである。ゼリウスの父―グラムは辺境伯の爵位でありながら、その権力を振りかざすような真似はしないため商人達も商談がしやすいのだ。中には賄賂の要求や、過重な税を取る領主もいる。それらに比べるとリステニア領は健全すぎるのだ。
「でも、他の貴族達からはそんなこと言われた事ないぞ…」
ゼリウスはメリルの予想外の父親の高評価に少し疑問を持った。過去の貴族達との交流にこの様な評価を聞いたことがなかったからだ。しかし、情報に敏感で多くの情報を知る商家の出のメリルはゼリウスの疑問の答えを知っている様で眉をしかめていた。メリルは先程より、声のトーンを下げて静かに語った。
「あまり気持ちのいい話ではないけど、言葉を選ばないで率直に言えば、嫉妬による嫌がらせかな。爵位も高く、領地も安定している、なにより貴族間での密会や賄賂を拒み続ける姿勢が一部の貴族達からしたら面白くないんだよ…。決して悪事を働いているわけではないから、貴族達の精一杯の嫌がらせとして、“血の門番”の二つ名を使って悪評を流しているのさ。それが広まっていって、貴族の間では恐れられているみたいだよ」
ほんの少しの間、10秒も経たないほどの時間だが、とても長く感じる静寂が彼らの部屋を支配した。
先に沈黙に耐えられなくなったのはゼリウスだった。しかし、彼の顔には怒りや憎しみといった負の感情の色は無く、長い間喉に引っかかっていた物が取れたような、どこかスッキリした顔だった。
「教えてくれてありがとう。今までずっと友達ができなくて、これから一人も友達ができなかったらどうしようと結構悩んでたけど、メリルのおかげで少し希望が持てたよ。それに、すでに一人友達を作れたからな!!」
「僕の方もゼリウスの家の事を黙っていてごめんね。これからも仲良くしてね!!」
二人はお互いの右手を差し出し、昨日よりも固い握手を交わした。
日が沈み始めた頃、ゼリウス達新入生は仮面舞踏会の衣装に着替え、舞踏会会場に向かっていた。
会場までの道にはユーモアの溢れた衣装を纏った人々で埋め尽くされていた。
ある女性はハートの形をした桜色の仮面を付け、フリルをふんだんに付けたドレスを着ている。
ある長身の男は虹色の毛玉のようなカツラを被り、身長に合わない小さな服を着ている。
そしてゼリウスはというと、馬の被り物を被っている。馬の口の部分から辺りを見渡すことができる仕組みになっている。そして服は騎士が着用するような鎧である。
この様な奇抜な集団の中で、一際目立っている者がいた。その風貌は、南部でよく食べられる黄色い棒状の果実である。その衣装は全身を覆いつくしており、口元しか露出をしていない。そして、色も蛍光色なこともあり、とても目立っていた。
会場内は豪華に装飾されており、食欲をそそる良い匂いが充満している。各自グラスを手に持ち、学院長の乾杯の音頭により舞踏会は幕を開けた。
「その服おもしろいね!!」
「この料理美味しいわ!!食べてみてよ!」
「この衣装でどうやってご飯食べるんだよ….」
生徒たちは各々雑談やご馳走を楽しんでいる。
ゼリウスもご馳走を手に取り、その場で知り合った者たちと雑談を交わし、楽しんでいた。
「ふざけんっな!!!」
突然の怒号が会場の雰囲気をガラリと変えた。会場の中央で牛の着ぐるみを着たものと魔法使いを連想させるマントにマスクをかけた者が対峙していた。
皆、自然と中央でいがみ合っている二人に注意が向く。しかし、当の本人たちは興奮している様子で周りからの視線に気が付かない。
ゼリウスは中央に集まる人だかりに交じり、周りの人々の会話から事の成り行きを聞いていた。どうやら、あの二人は最初、同じグループで会話を楽しんでいたのだが、会話の内容が領地経営の話題になってから話の雲行きが怪しくなったらしい。話をしていく内に、自身の領の話から他人の領の話になり、だんだん悪い噂話をするようになっていった。普段なら、貴族同士での舞踏会などでは相手を見て話題を決めるが、今回は仮面舞踏会で相手の素性がわからない事と、話が盛り上がっていたようで、口が軽くなったようだ。そして、魔法使いの衣装の者が中傷した領主の息子が牛の着ぐるみだったらしい。そこから、魔法使いは弁明を図ったが、牛の着ぐるみが怒りを露わにして怒鳴ったらしい。
「お前どこでそんなデマカセを聞いた!!!父様が賄賂を受け取ったなどありえん!!」
「い、いや、俺も偶々耳にしただけで…..どこで聞いたなんて……それにこの話は以前から噂になっていて….」
「お前は我が伯爵家を侮辱したのだ!!!!正式に訴えてやるから名を明かせ!!!!」
牛の着ぐるみは魔法使いの胸倉をつかみ上げていたが、魔法使いも徐々に抵抗を始め押し問答になり始めた。
「なぜ私が名を明かさなければならない!第一、こんな噂が立つのは本当に賄賂を受け取って、後ろめたいことをしているからではないのか!!!」
「ふ、ふざけるな!!どこにそんな証拠がある!!お前の家こそ、なにか悪事を働いてるんじゃないのか!!?」
「なぜ私の家がそのような!!!」
二人の押し問答は激しさを増し、だんだん乱暴なものへと変わっていった。そして、遂に牛の着ぐるみが魔法使いを突き飛ばした。そして、こんな状況に目もくれず、お皿にご馳走を並べる黄色い果実の着ぐるみと衝突した。黄色い果実はご馳走の乗ったお皿をこぼさぬよう、キレイに顔面から地面に転んだ。
今回、違う作業と同時進行で行ったので、誤字脱字多いかもしれません。