初めての友人
後少しで新年後発表ですね。
平成最後の日に記念すべき投稿!!
新年号と一緒にこの物語もスタート!!
入学式を前日に控えた日。もう日は沈み始めて、辺りは暗くなりポツポツと家々の窓から光が灯されている。
ゼリウスはこれから三年間お世話になる寮の部屋で荷ほどきを終えて一休みしていた。寮生活は二人で一部屋を使う事になっている。これは学院の生徒同士の交流を深める理念に沿って建学以来ずっとこの形式を学院は保っている。そして、ゼリウスにとって最初に会う学院生なので、どんな人は来るかと想像を膨らませていた。基本ルームメイトは同じ学年の生徒で組み合わせられる。すでにゼリウスのルームメイトの荷物は綺麗に配置されており、几帳面な性格を見て取れる。しかし、部屋にあるのは荷物のみで、当の本人はまだ部屋に帰って来ていない。
「このまま何もしないで待っていてもしょうがないし、晩御飯を食べに行くか」
入寮時に受付の人から本日は各自夜食を取るように言われているのである。その時いくつかの飲食店を紹介してもらった。ゼリウスは受付に教えてもらって店を思い出しながら部屋を出っていった。
王都は王族達が住む城を中心に円形の都市である。城に近いほど貴族の屋敷が多くなり外郭に行くにつれ治安が悪くなる。学院は丁度、城と外郭の中間地点にあり平民のほとんどが暮らしている。そのため、多くの店が営まれており値段もお手頃な価格である。
「うちの饅頭は王都一!!3個で銅貨12枚!!」
「串焼き一本銅貨5枚!タレと塩、両方あるよー!!」
「いらっしゃい!王都名物、王都焼き!うまいよーうまいよー!!」
ゼリウスは夜にも限らず賑やかな露天通りで串焼きを食べながら観光をしていた。リステニア領は辺境地のため都市でもここまでの賑わいはない。
一通り、観光を終えたゼリウスは寮に戻ると、茶髪の優しそうな雰囲気を持つ青年が部屋にいた。部屋の中には先ほどまでゼリウスが食べていた串焼きのいい匂いが漂っていた。
「どうも初めまして、メリル・キトサンです。三年間よろしくお願いします」
「えっ、あっ。ゼリウス・リステニアです。よろしく」
メリルの丁寧な挨拶に対して、予期せぬタイミングの挨拶で折角練習した挨拶も虚しく、とても不愛想な返事に内心ゼリウスは焦っていた。
「リステニア様はすでにお夜食を召し上がられましたか?露店で売っているものではありますが、宜しければどうでしょう?」
メリルの従者のような立ち振る舞いに唖然として言葉が出てこない。これまで、同年代の友人が一人もいないゼリウスにとって、友人とはもっと砕けた存在だと思っていたのだ。無言のまま立ち尽くすゼリウスを心配そうにメリルは見ることしかできないでいた。
「いや、実は同じものを今しがた食べてきたばかりで….」
「そうでしたか、要らぬ気を使いました」
「いや、ありがとう」
「いえいえ」
二人の表情は正反対で、会話の内容もとてもゼリウスが想像していた物とはかけ離れていた。
しばしの無言が続き、串焼きの匂いと気まずい雰囲気が漂う中、ゼリウスの頭の中では黒歴史である鏡の前での友人を作る練習姿が走馬灯の様にぐるぐる回っていた。そして、ゼリウスは覚悟を決めて口を開いた。
―俺は友達が欲しい―
「友達になろう!」
両手を前に出して頭を下げる。その姿はまるで求婚をしているように見て取れる。砕けた口調に反して真剣な姿。先程までにこやかにしていたメリルはあっけを取られていた。
言葉を放った後でゼリウスの頭の中では祖母、セラの言葉を思い出していた。「鏡の前のことはおすすめしないよ」と言われた事を。
途端にゼリウスは恥ずかしくなり、顔を上げると笑いを堪えたメリルの顔が目に映った。
「い、いや。これは、その。えっと…」
「いえ、貴族の方と伺っていたのでもっと厳格な方だと思っていました」
ゼリウスは頬を指でかきながら続く言葉を探すが、メリルは微笑みながら自身の貴族像を伝えた。メリルの笑いに誘われてゼリウスも不思議と頬が緩んだ。二人で一通り笑った後、ゼリウスは深く息を吸って、右手を差し出しながらもう一度自己紹介を始めた。
「改めて、ゼリウス・リステニアだ。三年間よろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします。メリル・キトサンです」
「その固い口調はやめてくれないか?友達ってもっと砕けた口調で話すんだろ?」
メリルは差し出された右手を握り返して、にこやかに返答したが今は困った顔をしていた。
「ですが、私は商家の出故、リステニア様とは身分の差が…」
「学院の校則の中に“学院在籍中はいかなる生徒の身分も一生徒となる”とあるだろ?ここではみんな同じ学生だろ」
この学院は学生達の交流や勉学を目的としているため、初代校長は交流の障害になりうるものは基本校則で禁止されている。そのため、学院での友人は卒業後も交流が必然的に多くなるのだ。しかし、身分の低い平民や商家の出の生徒は貴族=偉い、目上の存在という認識のため、どうしても仕立てに出てしまう。
「じゃ、リステニアさん?よろしく」
「ゼリウスでいいよ。よろしくメリル」
メリルは若干緊張を漂わせながら、もう一度挨拶をした。そして、この時のゼリウスの顔にはいつもの強面なイメージはすっかり消え、優しい笑みを浮かべていて、その笑顔からは心から初めての友人ができたことを喜んでいた。
どんどん投稿していきます!