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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第1章・転移から始まるプロローグ
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時間を潰すために

 シュラーク商会で魔導三輪の提案をし、対価としてフォルトハーフェン支店への紹介状と500万オールを頂戴した俺は、そのままシュラーク商会を後にした。

 ライセンスへの入金は、大きな商会でも対応していて、シュラーク商会も魔導具を所有していた。

 従業員への給与もライセンス支払いにしているそうだが、少し大きな商会ならどこもこんな感じらしい。

 なので俺も、手続きを行い、ライセンスに500万オールを振り込んでもらった。

 おかげで現在残高は、650万オールを超えている。


 思ったより早く用事が済んでしまったが、別に悪い事じゃないな。

 次は武器屋だが、矢ぐらいならハンターズギルドでも売ってるから、無理に行かなくてもいいか。

 そろそろ昼だし、屋台で何か買ってみよう。


 ヘリオスフィアには昼食という習慣が無い。

 だから朝食を食ったら夕食まで何も食べないっていう人もいるし、小腹が空いたら屋台で買い食いや食堂に入って満たすっていう人もいる。

 だから昼でも食わないって訳じゃないんだが、金が掛かるのは間違いないから、毎日出来るっていう訳でもない。

 貴族や大商人でさえ、食わない日があるぐらいだ。


 さすがに朝昼晩と三食しっかり食ってた日本人には辛い話だから、今日は屋台で買い食いをしてみるつもりだ。

 明日以降はどうしようかと思うが、ハンターは体が資本でもあるから、昼食を取る人は多いらしい。

 腹が減っては力も出ないし、そのせいで窮地に陥る事も無い訳じゃないし、さらに金ならあるんだから、それぐらいの出費はしても問題ないだろう。


 この辺りで有名な魔物はマーダー・グリズリーとジェダイト・ディアーだが、一般的な食肉という意味ではアンダー・ボアという、地面に潜って生活している猪になる。

 地面の中で生活ってモグラかよと思ったが、1メートル近い大きさらしいから、食肉としては手頃だし、ゴブリンより強い程度でしかないから、レベル30もあれば単独討伐も可能だそうだ。

 もちろん油断していれば、いくらレベルが高くても怪我をするし、運が悪ければ命を落とすかもしれないから、注意は必要だ。


 そのアンダー・ボアの串焼きを買ってみたんだが、肉に塩とハーブを少々振りかけてるだけだから、正直美味いとは思えない。

 なのに人気らしく、毎日夕方前には完売してると店主が自慢していたな。

 せめて胡椒を使ってれば違ったと思うんだが、胡椒は高価だから、屋台で使ってる所はないとも言われたが。


 とりあえず腹は膨れたが、さすがに毎日これは厳しいな。

 どこかの食堂に入って調理方法を伝えてみるのもいいが、店を選ばないと意味がないから、こっちも難しい話だ。


 とりあえず今日はこの微妙な味の串焼きを食ってから、ハンターズギルドに行くか。

 周りの人達が美味そうに食ってるのが、また辛いな。


 歩きながら時間を掛けて串焼きを食い切ったところで、丁度ハンターズギルドに到着した。

 依頼は依頼板に張り出されている常設依頼、依頼者やギルドから直接指名される指名依頼、そして国や領主、ギルドから緊急時に発令される緊急依頼の3種類ある。

 緊急依頼はその名の通り緊急時限定だし、指名依頼は信頼あるハンターが指名される依頼だから、俺が受けられるのは常設依頼のみだ。

 幸いにも昨日ギルドに売ったマーダー・グリズリーとジェダイト・ディアーが150万オール以上で買い取ってもらえたし、魔導三輪の製法、というか実物を見せた事で謝礼として500万オールを貰ったから、金には困っていない。


 ただ問題なのは、金があっても欲しい物が無い事だ。

 なにせヘリオスフィアの物よりブルースフィア・クロニクルの物の方が性能が良いし、飯も美味い。

 魔導三輪みたいに調理法や調味料の作り方なんかを広めれば違うかもしれないが、一朝一夕で広まる訳じゃないし、受け入れられるかも分からない。

 手に入れた金を全てブルースフィアで両替する手もあるが、それもなんか違う気がするし、そもそも俺は現金を持っていない。

 これは後で確認してみるが、仮に出来たとしても、俺のライセンス残高が不自然に減る事になるから、一気に両替はしない方がいいだろう。

 マジでどうしたもんかな。


 とりあえず、確認してから考えよう。


「お、ジェダイト・ディアーの依頼があるな」


 どんな依頼があるのかと思って適当に依頼板を見ていると、いきなりジェダイト・ディアーの素材収集依頼が目についた。

 名前からして、依頼者は貴族か。

 昨日のジェダイト・ディアーがどうなったかは分からないが、この依頼が張り出されたままって事は、数が足りずに後回しにされたか、報酬が低すぎるからあえて無視されたのかもしれない。

 昨日買い取ってもらったジェダイト・ディアーは18万オールだったのに、この依頼の報酬は10万オールだから、依頼を受けるより買取に出した方が高値がつくしな。

 依頼票を受付に持っていくと受注っていうシステムだから、質問があっても持っていくと依頼受注と判断されてしまう。

 依頼者の名前と依頼内容、報酬をしっかりと暗記してから、俺は昨日受付をしてくれたエルフのお姉さんに聞いてみる事にした。


「すいません、ちょっといいですか?」

「はい?ああ、浩哉君。どうかしたの?」


 昨日と違ってフレンドリーになってるが、俺の方が年下なんだから、特に気にはならないな。


「はい。依頼板を見ていて気になったんですが……」


 それはとりあえず脇に避けて、さっき見つけた依頼の事を聞いてみた。


「ああ、あの依頼ね。浩哉君も分かってると思うけど、依頼者はこの国の貴族、男爵なんだけど、すごく高圧的な方でね。しかも報酬も低すぎるから、誰も受注しないのよ」


 溜息を吐きながら答えてくれたが、どうやら面倒な依頼みたいだな。


「ルストブルクを含む地域はルストシュタイン伯爵の領地になるから、その男爵も強くは言ってこないんだけど、たまにハンターズマスターには嫌味を言いに来ているわ」


 ハンターズギルドだけじゃなく、ルストシュタイン伯爵からも嫌われてるらしいが、ジェダイト・ディアーは翡翠色をした毛皮が美しいため、貴族の間では敷物や剥製、衣服の素材として人気が高い。

 だからルストシュタイン伯爵にとっては重要な取引に使えるため、昨日俺が売ったジェダイト・ディアーは、全部ルストシュタイン伯爵がお買い上げになるそうだ。

 その男爵も、ジェダイト・ディアーを敷物にしたいらしく、ルストシュタイン伯爵に購入を希望しているんだが、貴族の間でも評判が悪い事が災いしており、全て突っぱねられている。

 だからルストブルクのハンターズギルドに依頼を出しているんだが、ハンター風情に高額の報酬を支払うつもりはないとも明言してるから、ルストブルクのハンターからも嫌われていて、その男爵の依頼はどれだけ高額の報酬であっても誰も受けないようになってしまったらしい。


「それはまた、面倒な話ですね」

「本当にね。男爵だし、本来なら便宜を図る事も必要なんだけど、何度も同じような事をしているから、ハンターズギルドでもブラックリストに載せているぐらいなのよ」


 ハンターズギルドのブラックリストに載るって、ヤバいどころの話じゃないだろ。


「それ、大丈夫なんですか?」

「ルストシュタイン伯爵も、それで構わないって仰って下さっているから、大丈夫よ。ああ、それからもしジェダイト・ディアーを狩ってきても、あの依頼は受けなくても良いわよ」

「え?良いんですか?」

「勿論よ。私達も、早くあの依頼が撤廃されないかと思ってるんだから」


 ハンターズギルドにとっても邪魔な依頼ってことか。

 ハンターズマスターや領主が受けなくてもいいって判断してるんなら、俺も放置しておくことにしよう。

 依頼を達成したところで、次もまた無茶な報酬で依頼を出してくるだけだから、ハンターにとっても不愉快な結果になるだけだしな。


「分かりました、ありがとうございます」

「いえいえ。今日はこれから狩りに行くの?」

「時間が時間ですから、ちょっと迷ってます」

「確かにこの時間だと、狩りに行くとしても近場しか無理よね」


 それが悩みどころなんだよな。

 だけど用事は全部済ませてしまったから、手持ち無沙汰でもあるんだよな。

 ブルースフィアをいじっててもいいんだが、それをやるならグリズリーの巣穴に戻るか町の外に出るかになる。

 グリズリーの巣穴に戻るのが一番良いと思うんだが、昼間っから宿に籠るのも違う気がするし、町の外に出たら出たで、ハンターの目を気にしなきゃいけなくなる。

 素直に狩りをするのが一番か。


「依頼は受けずに、適当に狩りをしてきますよ」

「それが無難かもね。気を付けてね」

「ありがとうございます」


 シュラーク商会に魔導三輪を提案する際にスカトを見せたから、乗っても問題ないんじゃないかと思いだしたんだが、面倒な貴族がいるから、逆に使いにくくなったな。

 買おうと思えば簡易魔導車ぐらいは買えるんだが、受注生産だし納期も未定だから、今日は使えない。

 召喚獣契約も、今後の世話があるし、旅に出ると預ける事も出来ないから、遠慮したいところだ。

 ☆1つか☆2つなら、ブルースフィア・クロニクルでも似たような外観の魔導車はあったんだが、リスとから消えてるから、そっちで買う事も出来ない。

 仕方ないから、今日は歩くか。

 西の森に向かえば、貴族と出くわす事は無いだろうから、使うとしたらそこからだな。


 ルストブルクの門から西に向かい、完全に門が見えなくなってから、俺はスカトを召喚した。

 ルストブルクから西の森までは、距離にして20キロほどだから、飛ばせば10分ぐらいで到着できる。

 だけど夜はルストブルクに戻る予定だし、短時間で森に行って帰ってきてっていうのは時間が合わないとツッコみを受けるに決まってるから、森の手前ぐらいで狩りをしようと思う。


 時速40キロぐらいで草原を走っているが、魔物どころかハンターの姿も見つけられない。

 ハンターと遭遇しにくいだろうと考えて、ルストブルクと街道の間ぐらいを走らせてるから、ハンターと出会わないのは構わないんだが、魔物も見つけられないとは予想外だ。

 そう思って焦っていたら、目の前に狼がいるのが見えた。

 確かグラス・ウルフっていう魔物のはずだが、一応鑑定しておこう。


 グラス・ウルフ

  ♂

  モンスターズランク:B

  有用素材:牙、爪、毛皮

  魔石属性:土

  ブルースフィア:2,000ゴールド


 魔物の場合、こうなるのか。

 種族名に雌雄、モンスターズランクは分かるが、有用な素材や倒した後に手に入る魔石の属性、ブルースフィアでの変換額まで表示されるとは思わなかった。

 ただグラス・ウルフは中型犬サイズだから、素材は使いにくいって話なんだよな。

 ブルースフィア・クロニクルだと、合成ショップに持ち込めば、魔物の大小に関係なく仕上がるから、こっちの方が利用価値はありそうだ。

 もちろん、1匹も魔物を持ち帰らなかったら不自然かもしれないから、こいつはストレージに収納しておこう。

 スカトに乗ったまま接近し、ハイスチール・ソードを叩き付けると、それだけでグラス・ウルフは息絶えた。

 ここでやっと気が付いたが、装備をセイクリッド・ブリンガーとマルス・ブレイブアーマーに変更するのを忘れてたな。

 まあ、ハイスチール・ソードとハードレザー・アーマーコートでも戦えるか試せたわけだし、結果オーライって事で。

 それにステータス補正が異常な数値だったから、こっちで慣らしておくのも悪い事じゃないと思う。

 あと、ついでって訳じゃないが、次に見つけた魔物には、ハイコンポジット・ボウを使ってみよう。


 その後2時間ほど彷徨っていたが、狩れた魔物はグラス・ウルフばかりで、稀にゴブリンやスピッド・ラビットが混じってきたぐらいだ。

 アンダー・ボアも5匹程狩れたから、これとスピッド・ラビットをハンターズギルドに持ち込めばいいか。

 グラス・ウルフとゴブリンは、ハンターズギルドでも喜ばれないから、ブルースフィアで変換してしまおう。

 ストレージの中にあっても変換できるから、いちいち取り出さなくても良いのは助かる。

 それでも1匹も遭遇しなかったっていうのは怪しいから、グラス・ウルフは2匹、ゴブリンも3匹だけ残しておこう。

 数日したらルストブルクを出るし、戻ってくるとしてもだいぶ先になると思うから、そこまで気を遣わなくてもいいかもしれないが。

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