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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第6章・奴隷悶着からの神殿訪問
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予期せぬ再会

 ゼーレテンペルに到着した次の日、俺達はサダルメリクに乗り、エスペリオ大神殿に向かった。

 ゼーレテンペルの中央に建立されているエスペリオ大神殿は、世界樹の麓ということもあって、とても荘厳に見える。

 噂では世界樹の根元にある虚の一部もエスペリオ大神殿の一部になっていて、そこは神聖な御所ってことで教皇すら気軽に立ち入ることが出来ないとも聞いた。


 あ、イーリスは俺の左肩に乗っかってるが、今は見られないように姿を消してるぞ。


「遠目でも凄いって思ったけど、近くまで来ると絶景としか言いようがないわね」

「だなぁ」


 世界樹は桜のような花を通年咲かせているし、神殿と教会を足したような外観をしているエスペリオ大神殿とはすごくマッチしてるから、これだけでも来た甲斐があると思う。

 あ、世界樹は100メートルぐらいある巨樹で、裾野もかなり広いんだが、全域が神殿の管轄になっていて、許可なく立ち入ることは禁止されてるらしい。


「エリザ、創造神様の神像って、どこにあるんだ?」


 大雑把になるがエスペリオ大神殿は、参拝客が自由に立ち入ることができる本殿、ヴェルトハイリヒ聖教国を治める教皇や枢機卿とかが座す宮殿、神官達が寝起きする寝殿、そして大小様々ないくつかの小殿からなっている。

 自由に入れるのは本殿だけだから、神像はそこに祀られてると思うんだが、どのあたりにあるかまでは知らない。


「本殿の中心に、13体の神像全てが祀られています。創造神様を中心に、女神様の神像が円を描くように祀られていますから、多くの方は中央付近で祈りを捧げることが多いですね。ああ、結婚式がある場合は、そちらの方々が優先されるため、王族であってもその間は立入禁止になります」


 冠婚葬祭も神殿でするってのは知ってたが、まさか式の最中は王族でも立ち入れないとは思わなかった。

 結婚の誓いは結婚の女神様に捧げるから、王族であっても口を挟むことは出来ないってことなんだろうが、こんな決まりがあると神様っていうのが身近なんだって感じるな。

 まあ、そもそも俺がヘリオスフィアに来たのは、その神様のおかげでもあるんだから、今更でもあるんだが。


「今日は……大丈夫ですね。参りましょう、マスター」

「ああ」


 今日は結婚式は行われてないようだから、俺達は中に入ることにした。

 中は礼拝堂のようになってるかと思ってたんだが、中央まで通路が伸びていて、両側にあるいくつかの扉は神官が修行したり作業したりするための部屋になっているようだ。

 通路も、荘厳な細工が施された柱が何本も立ち並んでいるからなのか、神聖な雰囲気すら感じられる。


「凄いわね。さすがスフェール教の総本山だわ」

「ここに来られるなんて、思ってもいませんでした」


 俺がヘリオスフィアにきて、そろそろ1年経とうかって頃だから、俺としても感慨深く感じる。


「マスター、あの扉の先が祈りの間です」

「確か祈りの間は誰でも入れるし、先客がいることがほとんどだけど、それも考慮されてるから、中央辺りで祈りを捧げればいいんだっけ?」

「はい。稀に王侯貴族が来ていることもありますが、祈りの間では身分は通用しませんし、それを理由に外で処罰を下すこともできません」


 徹底されてるというべきなのか?

 神々から見れば皇帝だろうと一般人だろうと、等しく見守る対象なんだろうし、ここは自分達に祈りを捧げるための場所なんだから、そんなとこで諍いなんか起こされたら怒りたくもなるってことなんだろうが、それでも王侯貴族と一緒に祈りを捧げることになるかもしれないとは、さすがに思わなかったな。


 そんなことを考えてる間に、俺達は祈りの間に到着した。

 正面祀られている創造神様を筆頭に12人の女神像まである祈りの間は、それだけで気圧されそうになるほどの神聖さだ。


「す、すごいね……」

「本当に……」

「恐れ多いですね……」


 実際ルージュ、エレナ、エリアの3人は雰囲気に飲まれたしな。

 だけどエリザは2度目って話だから分かるけど、なんでアリスは平気なんだ?


「ん?どうかしました?ああ、あたしが平気そうにしてるのが不思議なんですね」


 祈りの間には他の人達もいるから、アリスは俺に対して敬語を使っている。

 今までも町とかじゃそうしてくれてたんだが、それでも普段はため口だし、そっちの方がアリスらしいから、違和感がマジで半端じゃない。


「仕方ありませんよ。これもマスターのためですから。それはそれとして、あたしが平気な理由は、多分マスターと同じだからだと思いますよ」

「俺と同じって……ああ、なるほど」


 俺とアリスの共通点って言ったら、ハイクラスに進化してることだろう。

 だけど進化してるってだけで、影響から逃れることができるもんなんだろうか?


「その点については、わたくしも分かりかねます。ですがマスター、今はそのようなことより、お祈りを捧げるべきではありませんか?」

「おっと、そうだった」


 ハイクラスがどうかっていうのも気になるが、別に今考えなくてもいい話だし、何よりエリザの言うように、ここに来たのは創造神様に感謝を捧げるためなんだから、こっちを優先しないとだ。


「じゃあ早速」

「はい」


 祈りの間には先客がいたが、幸いにも場所は空いている。

 アリス達もブルースフィアの恩恵を受けてるから、感謝を捧げたいって言ってたし、俺達は中央から少し離れたところで膝をつき、手を組み、祈りを捧げることにした。


 そこまでは良かったんだが、祈りを捧げた瞬間、俺の周囲は白で塗りつぶされてしまった。

 え?

 俺はゼーレテンペルのエスペリオ大神殿にいたはずだろ?

 それにみんなの姿も見えないし、イーリスの気配も感じられないぞ。

 マジでどうなってんだ?


「大丈夫だから落ち着いて」


 そう言われても……って!


「創造神様!お久しぶりです!」


 一瞬誰かと思ったが、さすがに創造神様の声を忘れたことはないからすぐに分かった。


「うん、久しぶり。元気そうで何よりだよ。楽しんでくれてるようだしね」

「全て創造神様のおかげです」


 正直、またお会いできるとは思ってなかった。

 だからせめて、感謝の祈りでもと思ってゼーレテンペルに来たんだよ。


「お礼を言うのはこちらの方だよ。まだ芽吹いてはいないけど、浩哉君が伝えてくれた知識と調味料を使った食文化が開花しそうな気配があるし、魔導三輪と魔導船による輸送量の増加も見込めている。わずか1年足らずで、非常にありがたい話だよ」

「いえ、ブルースフィアが無かったらどうなっていたか」

「それはあるだろうけど、それでもだよ。それに何より、種族差別の激しい国がいくつか滅んだことも、僕達としては歓迎できるよ」


 種族差別って、神々も問題視してると聞いてはいたけど、歓迎されてるとは思わなかった。

 確か前に聞いた話だと、大なり小なり差別が起こるのは仕方ないとかって話だった気がするんだが?


「前は簡単にしか伝えてなかったからね。だけど浩哉君もヘリオスフィアに馴染んできているようだから、その理由を教えておくよ。僕達が嫌っているのは差別を行っている国じゃなく、祀られている神なんだよ」

「神っていうと、オルドロワ教の主神ですか?」

「そう、それ」


 その神についても、簡単に聞いてるな。

 創造神様が最初に創造した世界を乗っ取ろうとした邪神で、今は完全に消滅してるって話だったはずだぞ。


「うん、その通りだ。ただその話には補足があって、邪神を倒したのは僕達じゃなく、当時は普通の……いや、普通とは縁遠かったな。ああ、ごめん。ともかく当時の人間が倒している。残滓を利用しようとした者は出たけど、それも全て彼らが倒しているよ」

「それも、簡単にですけど聞いた覚えがあります。守護神、ですよね?」

「うん、そう。そこまでは話してたか」


 聞いてるのはここまでだな。

 残滓を利用とかっていうのも初耳だが、邪神を倒した後に邪神信仰の連中が暗躍したってことだろうから、わからん話でもない。


「ヘリオスフィアでも、それは同じなんだ。だけどこの世界では、守護神も含めて気軽に降臨することが出来ない。だというのに、オルドロワ教を信望する国の台頭が目立つようになってきてね。特に南大陸は酷く、このままじゃ下手をすると信仰を媒介にして復活、というより精霊に近い生命体として新生してしまいかねないんだ。浩哉君に精霊の卵を渡したのも、これに対する備えでもある」


 マジですか?

 俺が精霊の卵をもらったのは、レジーナジャルディーノでエリザの契約報告を行った時だ。

 その時点でアリス、エレナ、エリア、ルージュとの契約達成っていう扱いになってたんだが、それでもエリザとの契約を達成できたことで、全員との契約が達成されたことになるから、そのタイミングで貰えたんだとばかり思ってたんだけどな。


「うん、それもある。というか、そっちの方が比率は大きいよ。なにせ浩哉君が動いてくれたおかげで、北大陸では種族至上主義者が大幅に減ったからね。東大陸には元々いないから、あとは南大陸をどうにかできれば、あのクズが新生することはないんだ」


 大事になりそうな気がしてたが、どうやらそんな事態は避けられそうな感じか。


「それは何よりですけど、だけど俺が奴隷を、特にアリスとエレナと契約しようと思ったのって、ルストブルクの神殿で神託?を受けたからですよ?」

「あの男は、僕達も目を付けてたからね。仮に君が契約しなかったとしても、近いうちに神罰を下してたと思う。だけどその間にどんな目に合うか分からないから、あの街に祀られてる女神達が、君に声を掛けたんだよ。さすがに一国の王女まで、奴隷に落としてたとは思わなかったけどね」


 それって完全な偶然で、俺が契約してもしなくてもどっちでも良かったってことか?

 いや、確かにあの神託?がなかったら、奴隷契約をしようなんて考えなかったけどさ。


「だけど彼女達には悪いと思うけど、おかげで北大陸の種族至上主義者は減った。エーデルスト王国とリューグナイト王国も、先日王族が処刑されているから、駆逐する日も遠くないんじゃないかと思う」


 エーデルスト王国とリューグナイト王国がどうなったかは気になってたけど、どっちも王族の処刑まで終わってたのか。

 ということはどっちの国も亡びたってことになるし、ほとんど同時にってことは、グレートクロス帝国が動いたっていう噂も事実だったってことになるかもしれない。


「それで浩哉君に、頼みたいことがあるんだ」

「頼みたいこと、ですか?」


 なんか話の流れが唐突な気がするけど、創造神様がそんなことを言ってくるなんて、何かデカく、それでいてヤバ気な問題があるってことにならないだろうか?


「正直に言えば、問題は大きいよ。僕、いや、神々から君に頼みたいことは、南大陸にある2つの帝国を滅ぼす、もしくは勢力を大幅に減らしてもらうことだからね」


 いやいや、ちょっと待ってくれますか?

 南大陸の2つの帝国って、ノウム・インフィニタス帝国とリヴァイアス竜帝国だよね?

 どっちもフロイントシャフト帝国に匹敵か、下手したら凌駕してるかもしれない国だぞ。

 表向きは通商協定とか休戦条約を結んでるから、直接的な争いは行われていないが、それはあくまでもノウム・インフィニタス帝国とリヴァイアス竜帝国の間でだけだし、いつか完膚なきまでに滅ぼして南大陸を統一しようっていう野心も互いに持ってたはずだ。

 しかも南大陸にも多くの国があるが、ほとんどがその帝国のどちらかの傘下か属国で、今もどこかで戦いが起きてもいたな。

 何年かに一度は国が滅んで、何年かに一度は新しい国が建国されてるって話もあったと思う。

 むしろそれすらも、2大帝国が裏で関与してたんじゃないか?


「それであってるよ。だけどね、さっきも言ったけど、南大陸の種族至上主義は、僕達にとっても見過ごせないレベルになってきてるんだ。だけど多くの国はどちらかの属国だし、中立を保っている国もさほど力を持っている訳じゃないから、神託を下しても無意味になってしまう。だから申し訳ないと思うんだけど、君に頼るしかないんだ」


 言ってることは分かる。

 だけどノウム・インフィニタス帝国は人族至上主義、リヴァイアス竜帝国は竜族至上主義に傾倒してる国だし、王族どころか貴族や民間人でさえそうなってるだろう。

 俺とアリスがハイクラスに進化してるとはいえ、さすがに厳しい話なんですけど?

 というか、そこは南大陸に住んでる人達でなんとかしてもらいたいとも思う。

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