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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第6章・奴隷悶着からの神殿訪問
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精霊誕生

 ヴェルトハイリヒ聖教国に向かって2週間、昼間は狩り、夜はイチャイチャしながら過ごしていた俺達だが、今日はいつもと少し違う日となった。

 そのことに気が付いたルージュが、慌てて俺を呼びに来たぐらいだからな。


「お兄ちゃん!」

「どうした、ルージュ?」

「卵!卵が動いてる!」

「マジかっ!?」


 ルージュも慌ててるが、俺も同じだ。


 ルージュが口にした卵っていうのは、レジーナジャルディーノでエリザの契約達成報告をした際、神々からの褒賞ってことで貰った精霊の卵の事だ。

 奴隷契約達成の証としては最上位の代物で、ヘリオスフィア全体で見ても、数える程しか与えられたことがないらしい。

 精霊の卵は、マスターが魔力を与えることで、マスターの資質に適した精霊が生まれるそうで、孵った精霊は全て上級精霊へと進化しているとも聞いた。

 だから俺も毎日、精霊の卵に魔力を与えていたんだが、さらにルージュ達も加わってるから、生まれてくる精霊は過去に類を見ない程の希少性になるだろうとエリザが予想していたぐらいだ。


 その精霊の卵は、魔力を与えた直後は光ったり少し揺れたりしてたんだが、それ以外の反応は一切なかった。

 だけどルージュが言うには、今回は激しく揺れてるだけじゃなく、今にもその場から動き出しそうな程らしい。

 だから俺は、急いでマスターズルームのリビングに安置している精霊の卵の所へ急いだ。


「あ、浩哉さん!」


 既にみんなも来ていて、俺が最後だったようだ。

 というより、俺以外のみんながいる前で、突然動き出したってことらしいから、慌ててルージュが俺を呼びに来てくれたってことか。


「精霊の卵は!?」

「見ての通りよ。さっきまであたし達が魔力をあげてたんだけど、その時は嬉しそうな反応を返してくれてたの。だけどそれが終わったら、突然動き出して……」


 心配そうな顔をするアリスだが、確かに今までそんな反応をしたことは無かったな。

 

「私達、何かいけないことでもしてしまったんでしょうか?」


 エリアも不安そうな顔をしているが、俺のいないところで魔力をあげるのも初めてじゃないんだし、嬉しそうな反応を返してたってことなら、それはないと思うぞ。

 あと考えられるとしたら、時間的に見てもそろそろかもって思ってたから、多分孵るんじゃないかってことぐらいか。


「あっ!」


 その俺の考えを肯定するかのように、精霊の卵にヒビが入った。

 ヒビは徐々に大きくなっていくが、殻が零れ落ちるようなことは無く、包まれていた皮が剥がれていくような感じ、になるのか?

 その殻だが、剥がれると同時に空中に消えていってるため、床が汚れたりとか、そういったことは一切ない。

 全ての殻が剥がれると、中からは青白い妖精の羽を持った、いかにも精霊といった感じの女の子が、膝を抱えた姿で現れた。

 大きさは掌サイズだが、生まれたばかりなんだし、何より精霊なんだから、こんなもんだろう。


「精霊が生まれる瞬間に立ち会えるなんて……」

「感激ですね……」


 エリアとエリザが感極まってるが、他のみんなも似たような感じになっている。

 精霊が生まれる瞬間なんて、普通に暮らしてたら見ることなんてできないし、そもそもどうやって生まれてるのかも分かっていない。

 精霊の卵は特殊例だからな。


「う、う~ん!」


 生まれたばかりの精霊は、腕を上にあげて体全体を伸ばしている。

 耳はエルフのように長く尖っていて、肌は透き通る程白く、髪の毛は綺麗な銀色だ。

 って、今気が付いたけど、全裸じゃないか!


「あっ!あなたがボクのマスターだね!初めまして!」


 全裸の精霊が俺の目の前に飛んでくる。

 ちょっ、少しは隠しなさいよ!


「マスター!さっそくだけどボクに名前付けてよ!」


 人の話聞きやしねえな、この精霊!

 精霊は自由だって聞いてるが、フリーダムにも程がないか?

 というか名前か。

 確かに必要だし、しっかりと考えないといけないな。


「名前か。どうするの、浩哉?」

「もちろん付けるさ。あ、ところで属性は何なんだ?」

「ボク?水と光だよ」

「え?ということは、聖属性の精霊なのですか?」

「進化すればそうなるだろうけど、今のボクは生まれたばかりの中級精霊だよ。みんなの魔力ももらってるから、進化は早いと思うけど」


 水と光の中級精霊って、それはまたすごいな。

 通常精霊は1つの属性しか持っておらず、聖属性か冥属性の上級精霊以上が2つ以上の属性を持つ。

 進化すれば使える属性は増えるが、あくまでも使えるってだけだ。

 だからこの精霊が、生まれたばかりなのに2つも属性を持ってるってのは、上級精霊への進化が確約されたに等しいし、しかも中級精霊として生まれてくるなんて、さすがに思ってもいなかったな。


 っと、それは後で考えるとして、今は名前だな。

 水と光ってことだし……そうだな、これにしよう。


「イーリス、ってのはどうだ?俺の世界の虹の女神の名前なんだけど」

「イーリス……。虹の女神様……。うん、いい!」


 気に入ってくれたようで一安心だ。


「それじゃあマスター、アリス、エレナ、エリア、ルージュ、エリザ!これからよろしくね!」

「え?あたし達の名前も知ってるの?」

「魔力くれてたじゃん!それに卵の状態でも、外の事は分かるんだよ。だからみんなが、ボクの前でマスターと色々ヤッてたのも、バッチリ見てるよ!」


 イーリスに暴露されて、みんなの顔が真っ赤に染まる。

 俺もそうだと思うが、まさか卵の状態でも外の状況が分かるとは思わなかった。

 だがそこに、イーリスの更なる爆弾が投下される。


「今はまだ無理だけど、上級精霊に進化できたら、ボクも仲間に入れてね!」

「……はい?」

「え?精霊って、そういう事も出来るの?」


 アリスも驚いてるが、俺は何を言われたのか、一瞬理解できなかったぞ。

 というか、上級精霊に進化したら仲間に入れてって、話の流れからしたらそういう事だよな?


「出来るよ。中級精霊まではこの大きさだけど、上級精霊になったら人間と同じ大きさにもなれるんだ。みんなの事はずっと見てたし、魔力にもマスターへの想いが籠ってたから、ボクも早く進化して、仲間に入りたいんだよ!」


 そう言われて、またアリス達が真っ赤になった。

 というか、マジでか?

 精霊は進化しても掌サイズっていうのは変わらないが、上級以上の精霊は人間と同じ大きさになれるし、人間と同じように生活することも出来るようになるらしい。

 上級精霊と契約してる人は少ないが、そこまで精霊を進化させられる人は心が穢れてないことになるし、精霊にとってもそんなマスターの魔力は大いに糧になるから、そういったことも可能になるとか、正直意味が分からないんだが。

 さすがに人間との間に子供は出来ないようだが。


「いや、マジでか?」

「マジだよ!」


 曇りのない瞳でそんなこと言われても、サイズがサイズだから何とも言えない気分になるな。

 というか、卵から孵ったばかりだってのに、イーリスは周囲の様子を見てただけとは思えない程の知識を持ってる気がする。


「イーリス、1つ聞きたいんだが、思ってたより博識みたいだけど、それって精霊ならみんなそうなのか?」

「個体差はあるけど、下級精霊はもっと幼いよ。ボクの場合は、マスターやみんなが魔力をくれたでしょう?精霊はその魔力を通じて、いろんな知識を得られるんだ。マスターの世界の知識もブルースフィアっていうスキルも、しっかりと知ってるよ」


 魔力は成長だけじゃなく、知識供与も行ってたってことなのか。

 そりゃみんなの名前ぐらいは、聞かなくても分かるって話だよな。

 俺の知識が元とはいえ、地球っていう異世界の知識も持ち合わせることになったし、俺にとってもありがたい話だ。


「浩哉様の世界の知識はともかく、ブルースフィアも知っているのですね。もしかして、使えるのですか?」

「マスターと正式に契約したら、使えるようになると思う。今のボクじゃあんまり意味はないけど、上級精霊に進化したら大丈夫だし」


 精霊は契約者のスキルを、ある程度共有できるらしいから、俺と契約すればイーリスも俺のスキルをある程度使えるようになる。

 しかもそれはパッシブスキルも含まれるから、全言語理解に成長速度向上、武器戦闘(全)に魔法(全)も対象か。


「分かった。それで、契約ってどうすればいいんだ?」

「簡単だよ。んしょっと。さあ、ボクに魔力を流して」


 俺の右の掌の上に女の子座りをしたイーリスに言われた通り、イーリスに魔力を流していく。

 その魔力を使って、イーリスは自身と俺の右手に魔法陣を描いた。

 俺とイーリスの間で何かが繋がったような感じがしたが、これが精霊との契約ってことなのか。


「はい、終わったよ。パスができたから、ボクはマスターからも魔力を供給してもらえるようになった。無くても簡単に消滅したりはしないけど、魔力効率はすごく悪いからね」


 なるほど、魔力パスが繋がったっていう感覚だったのか。

 俺からの魔力供給って言っても、俺の魔力総量から見たら微々たるものだし、むしろ大気中の魔力を効率よく使うための触媒っていう意味の方が強いらしい。


「あ、服は自分で作れるのね」

「そりゃそうだよ。精霊にとってはどっちでもいいんだけど、人間の男はボク達をイヤらしい目で見てくるし、関係を持った精霊は肌を見せたくないって思うみたいだからね。ボクはまだ相手してもらないけど、その気持ちは分かるなぁ」


 天色あまいろと呼ばれる、澄んだ青空のような色のワンピースドレスを身に纏ったイーリスだが、こうして見てると人形みたいだな。

 あ、そういや中級精霊ってことだが、進化ってどうすりゃいいんだ?


「イーリス、精霊の進化って、どうすればいいんだ?」

「レベル100になると、進化するんだよ。今のボクは中級レベル84だから、魔物を狩ればそんなに時間かからないと思う」

「レベル84って、またすごく高いわね」

「みんなが魔力をくれたからだよ!マスターだけじゃなくアリスも進化してるから、そのおかげで一気にレベルが上がったんだ」


 つまりイーリスは、ハイクラス2人と、ノーマルクラスだがレベル80前後の魔力をもらっていたことで、上級寄りの中級精霊として生まれることができたってことか。

 アリスが進化したのは数日前だが、それでも効果あったってのもすごい話だな。


「なるほどねぇ。それにしても浩哉、さすがよねぇ」

「何が?」

「だってイーリスが上級精霊に進化できたら、ハーレムの仲間入りじゃない。だからこそ進化条件を聞いたんでしょ?相変わらずエッチなんだから」

「違うからな!」


 イーリスの説明に納得したアリスが、突然俺に矛先を向けてきた。

 本当に違うからな!

 俺は単純に、どうすれば上級精霊に進化できるのかって思っただけなんだからな!


「え?マスター、ボクはダメなの?」

「あ、いや、それも違うぞ!」

「うん、わかってるよ」


 アリスの乗っかるかのように悲しそうな顔をするイーリスだが、俺が狼狽えると同時に一転して楽しそうな表情に変わった。

 俺達の知識を得てるとはいえ、生まれたばかりの精霊に弄ばれるとは思わなかったぞ……。


「ヴェルトハイリヒに着くまでに、イーリスを進化させることができるかは微妙かしら?」

「レベルアップのスピード次第じゃない?だけどその前に、イーリスの魔法がどんなものか、それを確認してからでないと、予定は立てられないわ」

「そうですね。あ、浩哉さん、イーリスとの契約も結べたんですから、ブルースフィアが解放されたりはしていませんか?」

「そうだった」


 エレナとアリスの言うように、イーリスを進化させるとしても、まずは今の実力を見てみないと判断出来ない。

 中級精霊なら、Sランク以下の魔物はほとんど一撃で倒せるらしいし、イーリスは水と光の精霊だから、海の魔物が相手でも問題無い気がする。


 そっちより重要なのは、ブルースフィアがイーリスにも解放されてるのかだ。

 エリザに言われるまで忘れてたが、使えるかもしれないと言っていたのはイーリス本人なんだから、契約が終わってからすぐに確認しとけよって話でもあるが。


「どれどれ……ああ、装備スロットは解放されてるな。あれ?でもアクセサリーは装備できそうだけど、武器とか防具はグレーアウトしてる」


 ブルースフィア・クロニクルでも、フード付きのローブとかを装備すると、頭装備はグレーアウトして装備不可になってたから、イーリスが装備できるのはアクセサリーだけってことになるのか。

 まあ精霊だし、アクセサリーが装備できるだけでも十分かもしれないんだが。


「イーリス、精霊のライブラリーって、人間のと同じなのか?」

「そうだよ。見てみるね。『ライブラリング』。はい、どうぞ」


 あっさりとライブラリーを見せてくるが、確認は必須だから、遠慮なく見せてもらおう。


「精霊って、こんなにステータス高いんですね」

「MNDとINTなんて、浩哉以上だわ」


 中級精霊だって言ってたけど、ブルースフィア・クロニクルの☆6装備で固めたアリスより高いじゃないか。

 更にスキルも、ブルースフィア・イージネスや全言語理解5、成長速度向上5、武器戦闘(全)5があったし、他にも魔法(全)7や魔法無効6、飛行6なんてのもあるのか。

 魔法(全)に関しては、俺との契約の影響もあるんだろうけど、レベル7になってることを考えると、水と光の精霊っていう肩書も怪しくなってきてないか?


「ボクのステータスだけど、マスターと契約してるから、1,5倍になってるんだ」

「え?ということは、人間と契約すると、精霊はステータスがアップするってことなんですか?」

「そうだよ。マスターとの相性が良くなれば良くなるほど、精霊の力になるんだ」


 マジか。

 ってことはもしかしたら、イーリスは更に強くなるかもしれないってことになるぞ。

 いや、それはそれで悪いことじゃないんだが、さすがに思ってもいなかったな。

 中級精霊でこれだと、上級精霊になったらどうなるのか怖い気もするが、上級精霊に進化すると聖属性か冥属性の精霊になる。

 イーリス的にも進化はしたいようだから、まずは進化を目指してみよう。

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