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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第1章・転移から始まるプロローグ
7/77

ルストブルクでの調査

 グリズリーの巣穴に泊まった翌朝、町に繰り出そうと予定を建てながら朝飯を食ってるんだが、夕食同様に朝食も微妙だった。

 美味いことは美味いんだが、これは時々だからそう感じるのであって、毎日っていうのはさすがにキツいと思う。

 朝食は硬い黒パンに塩とハーブで味を調えたスープ、羊肉の腸詰だったが、量的に見ても足りないから、部屋に帰ってからブルースフィアで軽食を買ってしまったぞ。

 俺でさえそうなんだから、体が資本のハンターにも足りないんだろうな。


 グリズリーの巣穴はもう1泊部屋を取ってるから、受付でカギを預けて外に出る。

 今日の目的は海の町の情報収集と魔導車の確認、食材と調味料の調査の予定だが、一番面倒なのは魔導車の確認な気がする。


 そう思ってたんだが、グリズリーの巣穴を出た瞬間、小型魔導車が3台も走ってる姿が目に飛び込んできた。

 一番面倒で大変だと思ってたんだが、一番最初に確認出来るとは思わなかったな。

 見る限りと、ブルースフィア・クロニクルでも使われている☆2つの魔導車と大差ない気がするが、デザインは馬車に近いか。

 観察してみると、タイヤはゴムタイヤっぽいが、バイクと大差ない太さで、車輪の直径はかなり大きい。

 馬車っぽい見た目だが、キャビンはかなり小さいから、あれだと乗れても2人、詰め込んでも3人が限界だろう。

 車輪の付き方からの推測だが、あれだとスピードも出ない気がするな。

 見た目でも性能でも、サダルメリクに軍配が上がるのは間違いないから、目を付けられたら面倒な事になる気がする。

 まだ魔導三輪のスカトの方が、誤魔化しがきくんじゃないだろうか?


 その魔導車だが、市場に向かってる最中に追加で4台確認出来た。

 馬車の方が多いし安定していたが、速度は若干だが魔導車の方が上か。

 運転してるのは商人っぽいが、中にはハンターっぽい人もいたから、それなりの数が出回ってると考えてもよさそうだな。


 あ、忘れてたがサーベイ・リングのアビリティ、鑑定が使えるか試してみよう。


「お、サーベイ・リングに魔力を流すだけでいいのか。どれどれ」


 簡易魔導車:☆☆

  最高速度:時速27キロ

  全長:3,2メートル

  全幅:1,7メートル

  最大搭乗数:2名


 サーベイ・リングも、問題なく使えるが、鑑定結果がブルースフィア・クロニクルと同じなのはどういう事だ?

 いや、俺的には分かりやすいから、別に構わないんだが。


 簡易魔導車っていう名称なのは驚いたが、名前から推測するとしっかり作りこまれた魔導車もあるって事だろう。

 最高速度や搭乗数も、俺の予想と大差ない。

 他の魔導車も鑑定してみたが、全部簡易魔導車だったし、最高速度にはバラつきがあったが、これは個体差みたいなもんだから、同じと判断してもいいだろう。

 多分貴族や大商人辺りなら、簡易版じゃない魔導車を持ってると思うから、それを鑑定出来ればスカトやサダルメリクが使えるかの判断が出来るな。

 そうだな、食材や調味料を見るっていう名目で、デカい商店に行ってみるか。

 まあ、簡単に目に出来るとは思ってないが。


 そんな目的を持って、ハンターズギルドの近くにあるトレーダーズギルドに足を運んだ。

 トレーダーズギルドは商人組合だから、商店の情報も仕入れられるし、食材や調味料も同様だ。

 他にも簡易魔導車なんかも扱ってるだろうし、港町の情報も得られるだろうから、最初にトレーダーズギルドに足を運ぶのは理にかなっていると言える。


 トレーダーズギルドで得た情報は、以下の通りだ。


 まず食材と調味料だが、麦や野菜はトレーダーズギルドが管理している農園で管理している他、野草なども種類によっては食べられる。

 肉は食べられる魔物を狩るため、畜産は行われていない。

 例外として、馬車を引く馬系や地竜系の魔物は、年老いた個体や暴れて手に負えない個体を処分する。

 調味料は塩、胡椒、ハーブ数種類で、出汁は使われていない。

 同時に骨や野菜を煮込むという発想もないため、味は単調になりがちだ。

 牧場で飼われている魔物に牛系や羊系もいるため、チーズは存在しているが、ミルクは腐りやすいため、料理に使われる事はない。

 地鳥系もいるから卵もあるが、こちらも腐りやすいため、高級品となっている。

 稲はあるが、精米方法が確立されていない事もあり、主に牧場で飼育している魔物の餌になっているが、捨て値で購入できるため、貧困層の主食にもなっている。

 味噌や醤油はなく、港町では魚を使った魚醤が少量ながら出回っている。

 酒は麦や葡萄、蜂蜜から作られているが、熟成という概念がないため、味は微妙のようだ。

 地域によって差があり、特産としている地方の葡萄酒は高値で取引されている。

 甘味は蜂蜜に砂糖だが、蜂蜜は蜂系魔物の巣からしか取れないし、砂糖も砂糖大根しか使っていない。

 サトウキビもあるようだが、北大陸だと生息地が限られているため、栽培している農家もほとんどいないみたいだ。

 コーヒーの実やカカオは、北大陸には存在していない感じだな。


 こんな感じか。

 1,000年の間に細々とした変化があり、特に胡椒は最大の発見だったらしい。

 だがそれ以外での変化は特になく、食事は食べられればいいという考えが広がっているみたいで、王侯貴族や商人の会食もあまり催されず、ダンスパーティーが主になっているようだ。

 美味い食事っていうのは、希少な魔物肉の事を指しているようだから、会食は手に入れた貴族が自慢するために催されることが多いらしい。

 昨日俺がハンターズギルドに売ったマーダー・グリズリーは珍味、ジェダイト・ディアーは美味として知られているから、すぐに買い手が決まったみたいだな。


 俺は文化に刺激を与えるためにヘリオスフィアに送り込まれたが、食事に関してだけでもこれだけの問題があるから、早くも心が折れそうだ。

 調味料に関しては、異世界転移でおなじみのマヨネーズがあるが、生卵は腐りやすいから、管理を徹底しないと流通は厳しい。

 すぐにという気持ちもあるが、しばらくは様子見だな。


 対して公衆衛生に関しては、各家庭には臭いや汚物を分解するトイレが設置されているし、公衆浴場もある。

 疫病に対する備えも徹底されているから、食生活に反してしっかりと徹底されている。

 特にフロイントシャフト帝国では、トイレの設置は法で義務付けられていて、どんなあばら家でも備え付けられているぐらいだ。

 金が無くても補助金が出るから、自己負担が少ないのも大きい。

 ヒーラーズギルドという治癒士ギルドもあって、少々の怪我や病気は格安で治療してもらえる制度も整っている。

 それもあってフロイントシャフト帝国では、500年以上も疫病が発生していないそうだ。

 オルドロワ教っていう邪教を崇拝しているヒューマン至上主義国家だとそんな事はないから、町中は汚物にまみれている事もあるし、疫病も数十年単位で発生して、そのせいで滅んだ国もあるみたいだな。


 魔導車、魔導船についてだが、予想通り簡易魔導車は扱っている商会があった。

 ただ受注生産で、納期まで最低1週間かかるそうだ。

 希少な素材を使っているため、価格も100万オール単位となるため、所有しているのは裕福な商人か高ランクハンターぐらいらしい。

 本格的な造りの魔導車も存在しているが、こちらは簡易魔導車より高価で希少な素材を山のように使うため、数千万どころか億単位ですら手に入れられるか分からない。

 燃料は操縦者の魔力だから、燃料費が掛からないのが救いか。

 壊れたりしたら、莫大な修理費が掛かる事になるが。


 魔導船も同様だが、小型船であっても数百万オール、中型船なら数千万オール、大型船なら数億オールっていうのが一般的のようだ。

 ただ魔導船は大型になりやすいから、簡易魔導船なら桁が1つ下がる事も珍しくないらしい。

 アクエリアスは分類的には中型船だから、港町なら停泊しているようだが、持ち主は貴族か大商人だけだし、数も10隻もないから、もし俺が使ってると知られたら、取り上げようとしてくる貴族が出てくるのは間違いない。

 確かブルースフィア・クロニクルには、居住性を追求した小型船もあるから、普段使い用に買う事を検討する必要があるな。

 ちなみに船体の定義は、全長20メートル以下で小型船、50メートル以下で中型船、51メートル以上で大型船という区分になっているみたいだ。

 アクエリアスは全長49,5メートルだから、ギリギリ中型船の区分になる。


 さらに船を使うのは、陸地が見える沿岸部に限られているらしい。

 海に当然魔物がいるが、海の魔物は浮力の影響もあってか大型種が多く、大型船であっても簡単に沈められてしまう。

 だから外海に出る事はほとんどなく、そのため南と東に大陸が存在している事は誰も知らない。

 だからフロイントシャフト帝国に限らず、北大陸に住んでいる人達は、北大陸こそヘリオスフィアの全てだと思っている人がほとんどで、外海の先に未知の新大陸があると考えている人は少ない。

 不懐、不沈、侵入不可というアビリティを持つアクエリアスなら、東大陸や南大陸に辿り着くのも難しくないと思うが、迂闊に行くのは危険な気がする。

 そっちの大陸にも国があるから、いつかは行かないといけないんだが、難しい話だな。


 ちなみに魔導三輪と水陸両用車、飛空艇は、存在どころか概念すら存在していなかった。

 魔導三輪は技術的に不可能じゃない気がするし、簡易魔導車よりコストを抑えられるかもしれないから、魔導車を取り扱ってる商会に提案してみてもいいかもしれない。


 最後に港町についてだが、フロイントシャフト帝国は海に面しているため、港町はいくつか存在している。

 一番活気があるのは、近くに迷宮ダンジョンがあるオセアンブルクという町で、フロイントシャフト帝国では帝都シュロスブルクに次ぐ大きさなんだそうだ。

 ルストブルクからだと、徒歩でも1ヶ月はかかるらしい。

 ただ俺が興味を引かれたのは、フロイントシャフト帝国最南端にあるフォルトハーフェンという港町だ。

 この島はフロイントシャフト帝国最南端だが、その南には小さな島々が連なっており、そこには迷宮ダンジョンもある。

 魔導船があれば辿り着くのは難しくないが、その島々は小さく、町を建造できる大きさじゃない。

 なのに迷宮ダンジョンがあるため、村規模の集落が作られており、商人も定期的に訪れている。

 迷宮ダンジョンに入るハンターのために定期魔導船も就航しているんだが、島が小さいため宿泊施設も足りず、野宿するハンターはもちろん、魔導船を持っているハンターは魔導船で寝泊まりする事も珍しくないんだとか。

 島と島は最長でも200メートルぐらいしか離れておらず、数メートルしか離れていない島もあるそうだから、橋で繋げば発展しやすい気もするんだが、材料を運ぶのが大変だし、海が深いため、橋脚を建てられないと言われてしまった。

 橋については詳しくないが、つり橋ならいけるんじゃないだろうか?

 フォルトハーフェンまでは、徒歩で1ヶ月半程かかるそうだが、スカトかサダルメリクを使えばかなり短縮出来る。

 魔導車を扱ってる商会に、魔導三輪の発想を伝える代わりに魔導車を見せてもらって、性能を鑑定する事が出来れば、使えるかどうかも判断できるだろう。


 トレーダーズギルドに来ただけで、ここまでの情報が手に入ってしまったが、トレーダーズギルドは観光業も取り仕切ってるから、どこの町でも同じような感じで情報を仕入れられるそうだ。

 確かに観光も商売だから、トレーダーズギルドが扱っててもおかしくなかったな。

 応対してくれた職員さんに、魔導車を取り扱ってる商会を教えてもらってから、俺は礼を述べてトレーダーズギルドを出ることにした。

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