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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第6章・奴隷悶着からの神殿訪問
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エレナの両親

 リスティヒ海軍を下した後、俺達は一度レジーナジャルディーノに帰還した。

 戦勝ってこともあって、ものすごい歓声で迎えられたな。


 俺はエリザと共に城に呼び出され、今回の活躍がカタリーナ女王からも正式に認められることとなった。

 なのでエリザは、表向きには俺の婚約者として旅に同行する。

 実際はまだ奴隷のままなんだが、それはカタリーナ女王も承知の上だし、対外的には解放済みってことにもなってるから、大きな問題にはならなかったな。

 何人か不満そうな貴族の男はいたが、俺がハイクラスってこともあってか、面と向かって文句を言ってくるようなこともなかったし。

 リスティヒ王国本土上陸戦に参加しない以上、その功績は大きすぎるといった声はあったが、そもそも俺の参戦がイレギュラーでもあったんだから、カタリーナ女王のみならず参戦したキアラ王女にヴァイスリヒト皇太子からも口を挟まれてしまっては、さすがにどうにもできなかったようだ。


 そんなこともあり、その翌日にはレジーナジャルディーノを無事に出立することができた。


 それから1週間、俺達は海の上で、久しぶりにゆっくりした時間を過ごした。

 宝瓶温泉で寛ぐのはもちろん、魔物もそれなりに狩っている。

 だからなのかアリスもレベル100になり、ハイクラスへの進化が見えてきた。


「まさか奴隷になってから進化が見えてくるなんて、さすがに思ってなかったわね」

「そりゃあね」

「というか、あたし達だって一流ハンターと同じぐらいまでレベル上がるなんて、考えたこともなかったよ」

「うちもルージュのところも、普通の商人だったものね」

「それを言ったら私なんて、ただの村人でしたよ」


 今日の狩りを終えて宝瓶温泉で寛いでいると、みんながそんなことを口にしだした。

 普通はこんなすぐにレベルは上がらないんだが、俺の持つ成長速度向上スキルはパッシブスキルでもあるため、奴隷のみんなにも効果がでているから、普通じゃ考えられない程のスピードでレベル上げができてしまっている。

 ハンターのアリスは護衛付きでレベル上げに行ったことがあるエリザなんて、最初は本当に驚いてたからな。


「それもいいじゃありませんか。強くなって悪いことはありませんし、何より進化できれば、それだけ長く浩哉様と一緒に過ごすことができるんですから」

「しかも若い姿のままでね」


 エリザとアリスの言う通り、進化すると寿命が延びるし、老化もほとんどしなくなる。

 厳密にはハイクラスだと少しは老化していくそうだが、その上のエンシェントクラスに進化すると老化は止まるし、更に上のエレメントクラスになると最盛期にまで若返るって話まであるぐらいだ。

 だから俺としても、みんなには是非とも進化してもらいたいと思ってる。

 まあ、さすがにエレメントクラスに進化したっていう人はいないし、エンシェントクラスでも歴史上3人ぐらいしかいないらしいが。


「そういえば浩哉さん、ヴェルトハイリヒにはいつ頃行くんですか?」


 ここでエリアが、ヴェルトハイリヒ聖教国に行く日取りを確認してきた。


「明日か明後日ぐらいから向かおうと思ってる。今までは戦後の休暇ってとこかな」


 本当はすぐにでもヴェルトハイリヒ聖教国聖都ゼーレテンペルに向かうつもりだったんだが、リスティヒ王国との海戦では俺達も多くの人命を奪うことになった。

 事前に覚悟は決めてたし、それ以前にも何度か経験はあるんだが、戦争に参加したっていう高揚感みたいなのもあったから、一度クールダウンした方がいいんじゃないかとも思って、この1週間は狩りもそこそこにして、アクエリアスで自堕落な生活を送ろうと考えたんだが、みんなには言ってなかったんだっけか?


「聞いてないよ」

「聞いてませんね」

「そうね。まあ、その気持ちはわかるし、あたし達も落ち着きたいって思ってたから、ありがたかったけどさ」


 言ってなかったか。

 それは悪かったな。


「大丈夫ですよ。そろそろヴェルトハイリヒに行くのではないかと思っていましたから」

「ええ。むしろ私達のことを考えて下さって、ありがとうございます」


 お礼を言われるようなことじゃないけどな。

 みんなもだけど、俺だって落ち着きたかったんだから。

 だけどいつまでもこうしてる訳にはいかないし、そろそろ頃合いでもある。

 とはいえ急ぐ必要もないから、ゆっくり向かうつもりでもいるが。


「そうなんですか?」

「ああ。ヴェルトハイリヒまでは、この辺りからなら2週間もかからない。いや、外海から行くから、1ヶ月ぐらいは予定している。それまでは上陸もしないつもりだから、明日はフォルトハーフェンに停泊して、ベイル村の人達の様子も見ようかと思ってる」


 訪れる頻度がそれほどじゃないとはいえ、フォルトハーフェンは俺達の拠点とも言える街になってきている。

 本当に数ヶ月に1回程度しか行かないんだが、フォルトハーフェンにはエレナの故郷ベイル村の人達も連れてきているから、これからも足が遠のくことは無いんじゃないだろうか?

 まあ、問題が無いわけじゃないんだが。


「それはありがたいんですけど、既に浩哉さんには多くの支援をして頂いていますから、そこまで気を遣って頂かなくても大丈夫ですよ?」

「ほとんどはシュラーク商会に投げてるけど、俺も気になってるんだよ」


 俺が気にしているのは、実はエレナのお父さんだったりする。

 なにせ新しい物好きの無駄遣いの悪癖のせいでエレナが奴隷になる羽目になったってのに、全く懲りてないらしいからな。

 しかも戦争前にシュラーク商会で聞いた話じゃ、エレナが奴隷になってるからやる気が出ないとかぬかして、仕事すらしてないらしい。

 そのくせ俺と顔を合わせるたびに、エレナを解放しろって言ってくるもんだから、いい加減俺も辟易としてきているんだよ。

 無償解放なんてトレーダーズギルドが絶対に許さないし、そもそもエレナ自身が解放を望んでないんだが、何度言っても聞く耳持ちゃしねえ。

 しまいにはエレナの妹アンジェリーナの旦那を保証人にして、船を買おうとまでしてやがった。

 それに怒ったお母さん達が、次にやらかしたら離婚とまで言い出したもんだから、エレナの家族はかなりガタガタだ。

 正直俺としては、その方が色々と後腐れがなくなるんじゃないかと思ってたりする。


 ちなみに一夫多妻のヘリオスフィアでも、離婚という制度は存在している。

 ほとんどは奥さんの1人が、妻同士の相性が悪いからってことでシングル・マザーになることを望むっていう理由なんだが、ごく稀に旦那の不義が原因で、妻全員が離婚を希望してしまうことがある。

 エレナのお父さんは後者のパターンになり、もし神殿で受理されてしまった場合、旦那は多額の賠償金を支払うことになるらしい。

 奥さんの人数に、子供が未成年の場合は養育費も加算されるから、その場合は大抵身請奴隷になって、賠償金を工面するそうだが、奴隷になった理由が理由だから、解放されることも皆無に近いんだとか。


「浩哉さんが気にしてるのは、お父さんのことですよね……。本当に申し訳ありません」


 そして当然エレナも、そのことは知っている。

 だから家族のことになると、本当に申し訳なさそうな顔をしてくるんだよな。

 別にエレナのせいって訳じゃないし、むしろエレナは被害者だろって思う。


「エレナのお父さんかぁ。こう言っちゃなんだけど、よく今まで無事でいられたわよね」

「なんで、って、そういえばそうだよね。確かエレナお姉ちゃんの村って、ヒューマン至上主義になっちゃってたんだから」


 アリスとルージュの言う通り、ベイル村はヒューマン至上主義が蔓延っていたから、ウルフィーのお父さんが無事でいられたのは奇跡に近いと俺も思う。


「世渡り上手というか、強い者には無理に逆らおうとはしない人ですから。多分ですけど私の身請け金は、実際には奪われたのではなく、父が自発的に差し出したという可能性もありますし」


 マジか、それは。

 エレナのお父さんだから連れ出さなきゃって思ってたけど、その話を聞くとお父さんだけは放置でも良かったんじゃないかと思えてくるぞ。


「その話、お母さん達からは聞かなかったの?」

「怖くて聞けなかったし、聞きたくも無かったわ」


 そりゃそうだろうな。

 なにせエレナが身請けしなかったら、妹のアンジェリーナが身請けしてた可能性も低くなかったんだから。

 なのにエレナが身請けした理由は、アンジェリーナが既に今の旦那さんと付き合っていたからだ。

 だからこそ無事に税金の不足分も補えたってのに、それを丸々村長に、しかも自発的に差し出してたとなったら、何のために身請けしたのかがわからなくなってしまう。

 その上で妹の旦那を勝手に保証人にして船を買おうだなんて、身勝手にも程がある話だ。


「早めにケリをつけておいた方がいい気もしますけど、こればっかりはわたくし達がでしゃばるワケにはいきませんからね」

「そうなんだよなぁ」


 エレナの家族の問題は、俺にとっても無関係とは言えない。

 お父さんの方は正直どうでもいいが、お母さん達は何とかしてあげたいと思ってる。

 1人はアンジェリーナのお母さんだから、もし離婚しても問題無いんだが、エレナの実のお母さんの方は今後の生活に支障がでてしまうかもしれないからな。

 だけどだからといって、無理に俺が介入なんかしたら、余計厄介なことにしかならないから、経緯を見守るしかできないのがもどかしい。


「だからってさ、お兄ちゃんが援助するのもおかしいんだよね?」

「おかしいどころか、あり得ない話よ。契約条件に盛り込まれてたらともかく、マスターだって必要だから奴隷を買うんだから、そんな条件じゃ買い手なんてほとんどつかないわよ」


 ルージュの言う通り、マスターが奴隷の家族の生活を支援することは、奴隷が契約条件に盛り込まない限りあり得ない。

 さらにエリアの言う通り、マスターが奴隷の家族を養う義務は、契約条件に無い限りは一切ない。

 エレナは家族をベイル村から連れ出すことを条件にしていたが、それでも条件を満たす買い手は現れず、俺と契約できなかったら条件を見直さざるを得なかったところだった。

 移住後の支援については最低限だったし、恒常的な援助については一切触れていなかったが、連れ出すだけでも多額が費用が掛かるからな。


「エレナの家族がどうなってるかは、トレーダーズギルドかシュラーク商会で聞いて、どうするか考えるよ。とはいえ、援助はしないけど」

「当然です。一度でも援助してしまえば、あの父のことですから、際限なく要求してくるでしょうし、下手をしたら浩哉さんの名前であちこちにツケを溜め込むに決まってますから」


 既にエレナのお父さんは、娘の信頼を失ってるな。

 返す当ても無いのにエレナの解放を迫ってくるだけならともかく、もう1人の娘の夫を無断で保証人にして船を買おうとしてたぐらいなんだから、それも当然の話なんだが。

 俺としても、顔を合わせるたびにエレナの解放を口にされるし、しかもそれがただの感情論どころか自分本位な都合ばかりだから、正直ウンザリしている。

 いっそのこと俺を告発でもして、神罰でもくらってくれないかと思ったこともあるぐらいだし、アリスも似たようなことを思ってるのは知っている。

 というか、戦争前にたまたま宝瓶温泉でアリスと2人きりになった時に、そんなことを漏らしてた。


 さすがにエレナには言えないが、他のみんなも似たようなことを思ってるんじゃないだろうか?

 現状だと、本当に離婚っていう可能性が現実味を帯びてきてるし、下手したら既にそんな事態になってる可能性も否めない。

 何が起きてるかは予想付かないけど、覚悟だけは決めておこう。

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