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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第5章・妖王国から始まる魔導大海戦
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忍び寄る影

 俺は自動操縦を使い、アクアベアリをリスティヒ海軍の旗艦と思われる魔導船に向かわせた。

 アクアベアリのコックピットはキャビンの中にしかなく、操船は当然コックピットでしか行えない。

 自動操縦も同じで、コックピットで目的地を設定する事が必須だったんだが、ブルースフィアがレベル5なった時点で、自動操縦も更に使いやすくなった。

 俺の思った通りに動いてくれるから、通常操縦、自動操縦に続く思念操縦、とでも言えばいいんだろうか?

 戦闘にはかなり役立つが、ヘリオスフィアの船じゃあり得ない機能でもあるから、そこが問題と言えば問題か。


「あれ?浩哉、ちょっと止まって!」


 ところが突然、アリスが警戒心を露わに声を荒げた。

 見てるのは……マップか?


「っと!みんな、大丈夫か?」

「はい」

「大丈夫!」

「突然の停止はお止めいただきたいですが、そうも言っていられないようですね」


 急ブレーキが危険だって事は分かってるし、船は急に止まれない。

 最悪の場合船外に放り出される恐れもあるんだが、アクアベアリはもちろんアクエリアスにも転落防止結界セーフティーフィールドを張ってあるから、海には落ちずに済む。


「アリス、どうかしたの?」

「ええ。来てるわよ」


 アリスはエリアの疑問に、海面を指差すことで答えた。

 特に何も無いが……いや、アリスが刺し示しているのは、もしかしたら海面じゃなくて海中か。

 って事は!


「魔物か!」

「ええ。ここは戦場だから分かりにくいけど、たまに不自然な動きをする光点があるのよ」


 ブルースフィアは光点で敵や魔物を示す簡易レーダーがあり、乗物には標準装備されている。

 当然アクアベアリにもついてるんだが、簡易っていう名が示すように平面でしか表示されない。

 ブルースフィア・クロニクルでも魔物は上空や水中から襲い掛かってくることがあったから、初めての場所で思わぬ不意打ちを受けたことは、俺も何度も経験があるな。

 さらにここは戦場だから、敵や魔物を示す赤い光点の数も多く、どれが魔物かの判断も難しい。

 アリスが不自然な光点の動きに気付いたのは偶然らしいが、それでもどれがそうなのか、俺には判断が出来ないぞ。


「面倒な。とはいえ、魔物がきたとしても、私達のやる事に変わりはありませんが」

「というかさ、魔物より先に沈めないと、それはそれで面倒くさそうじゃない?」

「ですよね」


 そうなんだが、連合軍には魔物が接近しているかもしれないっていう情報を得る手段が無い。

 だから俺達がリスティヒ海軍の旗艦を沈めてしまうと、先走ったと受け取られてしまう可能性が大だな。

 ルージュの言う通り、とてもとても面倒くさい。


「ですが沈めるのが連合軍であれ魔物であれ、リスティヒの戦力が減るのは間違いありませんし、浩哉さんはそこまでの手柄は必要ないんですよね?」

「旗艦を沈める必要はないと思う。そこまでやると、逆に手柄を独り占めし過ぎって事で非難の的だって言われてるし」

「そうですね。わたくしが言うのもなんですが、浩哉様への褒賞はわたくし自身という事になっています。理由はわたくしを救い出した事の他に新型魔導船の機関提供、リスティヒ戦の戦功ですが、ハイヒューマンである浩哉様との縁を繋ぐためという意味もあります」


 俺も手柄を立てないといけないが、敵旗艦なんていう大物の撃沈なんていう大手柄は必要ない。

 開幕のハイクラスの魔法三連打で、俺の役目の半分は終わったようなものだから、エレナの言う通りこれ以上手柄を立ててしまうと、カルディナーレ妖王国側はもちろん、援軍として参戦しているフロイントシャフト帝国側のメンツが潰れるからな。

 特にフロイントシャフト帝国は、エリザが不当に奴隷に落とされてしまった事に対する贖罪としての参戦でもあるから、ある意味じゃ俺以上に戦功を立てないと、本当に面目丸潰れになってしまう。


「だから戦功は立てないといけないけど、それでもやり過ぎると問題でしかないから、緊急時でもなければ旗艦は狙わないって事でいいの?」

「ああ。魔物が旗艦を攻撃し始めるまでは、旗艦の近くの魔導船を沈めるに留めておくよ」


 この辺りに生息してる魔物に、中型船を一撃で沈められるようなのはいなかったはずだから、リスティヒ海軍旗艦が攻撃を受けてから行動を起こしても、多分間に合うだろう。

 まかり間違って沈められたとしても俺の戦功には影響がないが、カルディナーレ妖王国やフロイントシャフト帝国にとっては避けたいだろうから、そっちを援護する意味もあるな。


「そこまで考えないといけないなんて、本当に大変なんだね」

「ただ敵兵を討てばいいだけじゃなく、戦功の事まで考えないといけないなんて、思った事もありませんでしたよ。『ブラスティング・ポール』!」


 こちらに接近してきたリスティヒ魔導船を、第5階梯風属性魔法ブラスティング・ポールによる竜巻で空に舞い上げているエリアの言う通り、本当に大変だし頭が痛い。

 これが切羽詰まった状況ならここまで考えなくてもいいそうだが、今回はフロイントシャフト帝国という援軍に新型魔導船の導入、さらにハイクラス3人の参戦という、負ける方が難しい状況だ。

 だから兵士達ではなく、参戦している幾人かの貴族が手柄を取り合う余裕が生まれてしまったと聞いている。

 国家反逆罪で処刑されたプリマヴェーラ辺境伯、アウトゥンノ辺境伯に縁の深い貴族にその傾向が強く、そのせいで帆船や旧式魔導船での参戦となっているそうだが。


「『フリージング・ポール』!では私達はこのまま、接近してくる魔導船を攻撃します」


 エリアのブラスティング・ポールから解放されて落下してくる魔導船が、海面からエレナの氷属性第5階梯魔法フリージング・ポールで串刺しにされながら氷り付き、今度こそ海に沈んでいく。

 エレナとエリアは互いに控えめな性格だし料理も得意だから、結構仲が良いんだよな。

 もちろん仲が良いに越した事は無いし、武器もエレナが槍、エリアが弓だから相性も良く、魔物狩りも2人で組む事が多い。

 だから今のフリージング・ポールも、けっこう絶妙なタイミングだったな。


「旗艦の周りだから、さすがに多いしね」

「はい。ですがだからこそ、広域魔法は使えません。下手に使ってしまうと、旗艦を巻き込んでしまいますから」


 ある意味じゃ、それが一番の問題だな。

 第6階梯以上の魔法は規模が大きいから、他の場所ならともかくここじゃ使いにくい。

 いや、第4階梯や第5階梯魔法も使い手の魔力次第で広範囲に放てるから、魔力の調整もけっこう大変だ。

 まだ単体攻撃のアタックスキルの方が使いやすい。

 アタックスキルはアタックスキルで、5分のクールタイムがあるから、乱戦じゃ使いにくいんだが。


「浩哉はもちろんだけど、あたしやエリザもレベル90超えてるから、第3階梯辺りでも十分使えるわね」


 だな。

 特にアリスはハイクラス間近でもあるから、第2階梯魔法辺りでも魔導船を沈められるような気がする。


「あー、出来るかしら?ちょっと試してみるわ。『ファイア・アロー』。……出来たわね」

「……だな」


 本当に第2階梯魔法で魔導船を沈められるか試したアリスだが、俺の予想と違った光景を見せてくれたからちょっと驚いた。

 俺はファイア・アローが何発か命中してから沈むと思ってたんだが、今アリスが放ったファイア・アローはたった1発でリスティヒ魔導船を沈めてしまった。

 というかファイア・アローを使ったはずなのに、どうみても矢じゃなくて槍としか思えないデカさだったぞ。

 同じ魔法でも使い手のレベルが違えば精度も威力も段違いになるって聞いてはいたが、ここまで違うとは思わなかった。

 これだと第1階梯魔法も、相当威力が増してそうだな。

 さすがに試すのは不謹慎だから、控えておこう。


「驚きですけど、今はそれどころではありませんから、浩哉様もアリスさんも自重してくださいね」

「分かってる、さすがにもうやらないわ」

「牽制っていう意味で使う事はあるけど、さすがに検証のために使うつもりはないよ」


 エリザからも注意されてしまったから、しっかりと反省しよう。

 それよりも、アリスが警戒してた光点はどうなったかな?


「アリス、さっき気にしてた光点ってどうなったか分かる?」

「多分これとこれだと思うけど、全く動かないのよね。確か離れすぎると、マップ内でも表示されなくなるって言ってたわよね?」

「ああ、上下か。ちゃんと調べた訳じゃないけど、多分最大でも200メートルが限界じゃないかな?」


 空を飛んでたり水の中を泳いでたりしても、魔物はちゃんとレーダーに表示される。

 だけどそれには条件があって、レーダーの範囲は直系200メートルぐらいだから、多分上下の高さもそれぐらいだろう。

 つまりレーダーは、直系200メートルの球状って事になるんだと思う。


「ああ、円状じゃなくて球状って事なのか」

「そういう事でしたら、確かにそれぐらいという事になるでしょうね」

「上下についてはサポートされてないから、色の濃さが一つの目安だったかな」

「色が濃いとほとんど同じ高さにいて、薄くなるほど離れてるって事?」

「そう考えてもらっていいと思う」


 ブルースフィア・クロニクルでも、レーダーは平面でしか確認出来なかったが、上空や水底に移動されると赤い光点が徐々に薄くなっていってたから、多分ヘリオスフィアでも同じだと思う。


「魔導船よりは薄いから、数十メートルぐらいは離れてるのかしらね」

「ちょっと俺にも見せて」

「はい、どうぞ」


 俺も気になったからアリスに見せてもらったが、確かに魔導船と比べると色が薄いな。

 レーダーの範囲ギリギリだと判別できるかどうかっていうぐらい薄かったから、これぐらいなら100メートル前後ってところじゃなかろうか?

 いや、その光点が、徐々に濃くなってきてるな。


「動き出したみたいだ」

「ええ、色が濃くなってきてるのがよく分かるわ」


 2つの光点はゆっくりと、だが確実に浮上してきている。

 念のため空を見上げてみたが、それらしい物体は無い。

 となると間違いなく、この2つの光点は魔物だ。


「位置的にリスティヒの旗艦を狙ってる訳じゃないわね」

「むしろこの位置ですと、グランデ・アグアマリナが狙われているのでは?」

「っぽいな」


 グランデ・アグアマリナはミスリルの船体を持つ、フロイントシャフト帝国の旗艦であり最新鋭艦だ。

 ミスリルは魔法耐性が高い金属だから、低ランクの魔物の攻撃なら無傷でやり過ごすことも可能だと思う。

 ただどのランクの魔物までなら大丈夫かっていうのは分からないし、魔力で強化した物理攻撃を繰り出されたりなんかしたら、ミスリル製の船でもなす術なく沈むんじゃないかとも思う。

 グランデ・アグアマリナはフロイントシャフト帝国軍所属とはいえ、カルディナーレ妖王国に贈られたピエトラ・ディ・ルーナの同型艦でもあるから、魔物相手とはいえ万が一にも沈められたりなんかしたら、連合軍側の士気は下がるだろうし、逆にリスティヒ王国側は調子を取り戻すかもしれない。

 さすがにそれは許容できないから、急いで魔物が狙っていると思われるグランデ・アグアマリナの近くに移動しよう。


「ここからグランデ・アグアマリナの近くまで移動するのって、不自然に思われませんか?」

「思われるだろうけど、そこはハンターの勘で押し切る」

「強引だし不自然な事に違いはないけど、高レベル、高ランクのハンター程自分の勘を信じるから、ハイヒューマンの浩哉が勘に従っても言い訳は立つわね」


 魔物を狩るのがハンターの仕事とはいえ、自分の手に余る魔物と遭遇する事も珍しくない。

 大抵は命を落とすか、運が良ければ腕の1本ぐらいで済むんだが、そういった人達は自分が感じたイヤな予感とかを無視してる事が多い。

 もちろん全員じゃないんだが、自分の勘を信じる人の多くはそういった難を逃れているのも事実だし、そういった人が高レベル、高ランクのハンターだっていうのも間違いないから、ハンターズランクこそ低いがハイヒューマンに進化してる俺が、自分の勘に従って動くことも別段不自然にはならないだろう。

 言い訳を考えるのも大変だし面倒なんだが、ブルースフィアの存在は絶対に教えられないから、これからもこんなことが続くんだろうな。

 面倒だけど身の安全やのんびりした生活のためだから、何とか頑張って考えていこう。

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[気になる点] あれ・・・(・・? 『「驚きですけど、今はそれどころではありませんから、大和様もアリスさんも自重してくださいね」』 にて、大和君は『刻印術師の異世界生活・真伝』の主人公ですよね(・・?…
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