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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第5章・妖王国から始まる魔導大海戦
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魔導大海戦

 旗艦ピエトラ・ディ・ルーナからの指示は、ハイクラス3人の魔法でリスティヒ王国の陣形を崩してからの各個撃破というものだった。

 手柄を優先したというより、逃げられてしまう可能性を潰した結果だって伝令のドラゴニュート隊長が説明してくれたから、俺も納得はしている。

 確かにハイクラスの魔法で一気に沈めようとしても、中央付近はともかく外側の船は逃げられてしまうかもしれない。

 もし逃がしてしまえば、軍としては機能しなくても海賊と化す恐れがあるし、大きく迂回してレジーナジャルディーノに侵入されてしまうかもしれないから、各個撃破の方が確かに確実性は高い。

 だから俺達ハイクラスが魔法を放つと同時に、連合軍は船を進ませ、完全に包囲する形にもっていくそうだ。

 魚鱗の陣は全軍が一塊になって動く分、包囲には弱い。

 帆船を連れてきたのはそのためでもあったみたいだ。

 思わず、なるほどと頷いてしまったな。


 普通なら互いに名乗りを上げるんだが、海戦の場合は難しいから、互いに魔法による合図を送る事で戦闘を始めるのが慣例らしい。

 ただリスティヒ海軍側は、その慣例を守るつもりはなさそうで、魔法の射程に入ると同時にジャベリン系の魔法を撃ち込んできてたりする。

 この場合は不意打ち扱いになり、卑怯者の誹りは免れないみたいだ。


「浩哉殿、打ち合わせ通り、まずは私の水魔法で場を乱す。続いてシャロン殿が風魔法を放たれるので、貴殿は最後に雷魔法をお願いする」

「分かりました」

「では参る!」


 ハイクラス3人の魔法で陣形を崩すとはいえ、一度に魔法を放つ訳じゃない。

 まずはハイディノサウロのラガルトさんが第7階梯水魔法メイルシュトロームスで足を止めつつ場を乱し、続いてハイラミアのシャロンさんの第7階梯風魔法サイクロンを放ち、最後に俺が第8階梯雷魔法ボルティック・ランサーを雨のように撃ち込む。

 ラガルトさんとシャロンさんの魔法だけでも大嵐かそれ以上に海や空が荒れてるし、それだけで沈んでる船も多いんだが、ダメ押しの俺のボルティック・ランサーを受ける事で、リスティヒ海軍も密集している魚鱗の陣を維持できなくなった。

 特に外側は、俺がボルティック・ランサーを撃つ前から離脱してる魔導船もいたぐらいだ。

 同時に連合軍も船を進め、足の速い新型魔導船を先頭に包囲網を完成させていく。


「思ってたより上手くいってるけど、これって珍しいですよね?」

「珍しいな」

「ここまで綺麗に嵌るなんて、さすがに想定外だわ。それなりに長く生きているけど、私も数える程しか経験が無いわよ」


 100年以上生きてるラガルトさんとシャロンさんにとっても珍しい事態って、マジかよそれは。

 それってリスティヒ海軍の司令官が無能なのか、想定外すぎる事態に対処できてないのか、もしかしたらその両方って事だよな?


「そうだろうな。殿下も覚えておいていただきたい。戦場では絶対などありません。軍議ではこの形が理想だとお伝えしていましたが、理想通りに事が運ぶなど、どれだけ上手く行こうと、本来はあり得ないのです」

「そのあり得ない事が、今回は起こってしまったと?」

「仰る通りです。浩哉殿の仰る通りリスティヒ側の指揮官が無能であり、また兵士達も一方的に我等を蹂躙できると思い込んでいたために、このような結果となっているのでしょう」

「戦場では常に最悪の事態も想定して動けと、そういう事なの?」

「はい。今は姿を見せていませんが、この海域には魔物も生息しております。魔物には我々の都合など関係ありませんから、その内姿を見せるでしょう。そしてその場合、包囲網の一部が破れてしまう可能性も高い」


 だから旧式魔導船は帆船から離さず、万が一包囲網の一部が破れた場合はフォローと救助を行うって事か。

 俺だけじゃなくヴァイスリヒト皇太子やキアラ王女にとっても、ラガルトさんとシャロンさんの話は勉強になる。

 特に俺はブルースフィア製の船に乗ってるから、沈没とか不意打ちとかは度外視出来たから、今の話は考えた事も無かった。

 陣形は勉強してたといっても本を読んでただけだし、停泊してから一度も魔物を見てなかったから、これだけの数の船があれば魔物は出てこないとも思い込んでたぞ。

 確かに魔物に俺達の都合は関係ないから、様子見してる魔物もいるかもしれないが、遭遇しない事だってあるんだから、魔物についても考えて然るべきだった。


 ちょっと凹むが、今はそんな場合でもないから、何とか気持ちを切り替えて、アクアベアリも前線に向かわせよう。


「そこまで気に病む必要はないよ。ハイクラスに進化したとはいえ、君はまだ若い。これぐらいの事は、生きていればこれから先いくらでもある」

「シャロン殿の仰る通りだ。殿下方もです。戦にしろ政にしろ、上手くいかない事の方が圧倒的に多い。ですが今回のように、上手くいきすぎてしまう事もある。それはそれで戸惑うでしょうが、幸運にも此度の戦で経験する事が出来ました。今後このような事態が起きても、お二方ならば間違う事なく対処できるでしょう」

「そうでありたいと思っている」

「殿下に同じくね」


 さすが100年以上生きてるだけあって、含蓄があるなぁ。

 俺にとっても得難い経験だったから、この戦争の事はしっかりと覚えておかないといけない。


「俺も今日の事は忘れないようにします。それじゃあ俺達は、前線に出ますね」

「ああ、頼む。若いうちにありがちだが、相手がなんであれ、油断だけはしないようにな」

「余裕があったら、兵達のフォローもお願いね」

「分かりました」


 ラガルトさんとシャロンさんから忠告も貰ったし、気を引き締めていかないとな。


「時間があればゆっくりと話したかったが、此度もそれは叶わないようだ。なればこそ、君の戦いを見届けさせてもらうよ」

「エリザベッタのこと、よろしくね」

「はい」


 ヴァイスリヒト皇太子には残念そうな顔をされたが、俺としては遠慮したいです。

 エリザの事があるから無理にフロイントシャフト帝国に引き込もうとはしてきてないけど、一度シュロスブルクの帝王城に招待したいと言われたしな。

 ヴァイスリヒト皇太子にそのつもりはなくても、貴族達がどう考えてるかまではさっぱりだから、帝王城に行くのも遠慮したいね。

 それとキアラ王女、エリザことはちゃんと守りますよ。

 守る必要があるのかと一瞬思ったけど、そこは俺の心構えの問題でもあるから口にはしないけど。


 ヴァイスリヒト皇太子達に軽く頭を下げて、俺はアクアベアリを発進させた。

 兵達の援護も頼まれてるが、最初の魔法でリスティヒ海軍はかなり慌ててるし、隊列や陣形もズタズタになってるから、既に沈められている船も少なくない。

 こちら側の犠牲を減らすためには、今のうちにやれるだけやるべきだな。


「よし、それじゃあやるか!」

「偉大な先達からアドバイスも貰ったし、気を引き締めないとね!」

「うん!」

「はい!」

「ええ!」

「カルディナーレを守るためにも、この一戦、負けられません!」


 みんなも気合十分だな。

 まだ無理をしてる可能性もあるが、空回ってる感じもしない。

 魔導水上艇も使わないから、少々無理をしたとしても、すぐにリビングに下がってもらえるし、自己申告だけは徹底してもらおう。


「行くぞ!『サンダー・ストーム』!」


 アクアベアリを全速で進め、近付いてきたリスティヒ海軍の魔導船3隻を巻き込むように、俺は第4階梯雷魔法サンダー・ストームを放つ。

 渦を巻いたいくつもの雷がリスティヒ魔導船に襲い掛かり、次々と船体に穴を空けていく。

 それだけじゃなく火災も誘発させてるから、沈没は免れてもあの魔導船はもう使い物にならないだろう。


「『シャドー・バインド』!『ウイングライト・ブラスター』!」

「『ワイドリング・スラッシュ』!」


 帆船を狙っていたリスティヒ魔導船を、エリザの第6階梯闇魔法シャドー・バインドで動きを止め、エリザが装備しているウイングエッジ・シールドとルージュが装備しているスターリング・ロッドのアタックスキルが直撃する。

 アタックスキルは単体攻撃だがステータス補正によって威力が上昇するため、今の2人ならSランクモンスターを一撃で倒せる。

 だから木造の魔導船ぐらいなら、簡単に沈められる。

 現にアニメとかゲームとかでよく見る熱線に似たウイングライト・ブラスターが直撃した魔導船は、船体にウイングエッジ・シールドの何倍もある大きな穴を空けて沈んでいったし、土星の環を模したワイドリング・スラッシュは魔導船を真っ二つにしたし。


「『アイス・ジャベリン』!」

「『ウインド・ジャベリン』!」

「『バーニング・ポール』!」


 エレナとエリアの第3階梯魔法も同時に魔導船に命中してるし、アリスの第5階梯火属性魔法バーニング・ポールに包まれた魔導船はあっという間に燃え尽きる。


 海戦は船の上から魔法を放つぐらいしかやることがないから、俺達も派手に動く事は出来ない。

 だけど同じ階梯の魔法であっても、ステータスが違えば規模や威力にも差が現れるから、攻撃だけじゃなく防御にも使える。

 さらに連合軍の新型魔導船はミスリル製だから、魔法にはすこぶる強い。

 実際リスティヒ海軍の魔法は第3階梯魔法どころか第2階梯魔法も多いんだが、ミスリルの船体は少々傷が付く程度で、航行には全く支障が見られない。

 稀に第4とか第5階梯魔法が飛んでくるし、直撃を食らって中破した魔導船もあるんだが、それでも航行は出来てるし、乗員も怪我で済んでいる。

 帆船や旧式魔導船からも援護の魔法が飛んできてるし、そのせいでリスティヒ海軍も包囲網から抜け出せない感じだ。

 更にグランデ・アグアマリナと連合軍旗艦となっているピエトラ・ディ・ルーナも戦線に加わってるから、連合軍側の戦線は崩れそうになってもすぐに立て直している。

 こりゃ勝負は決まったかな。


「さすがにハイクラスが3人もいると、あっちが崩壊するのも早いわね」

「フロイントシャフトやグレートクロスが全力出撃するならともかく、そうでもなければ複数のハイクラスを動員するのは難しいですからね」


 そりゃそうだ。

 俺を含めて9人になる北大陸のハイクラスは、ほとんどが国に所属している。

 グレートクロス帝国とカルディナーレ妖王国、ヴェルトハイリヒ聖教国のハイクラスは全員が国に所属していて、軍でも最高位にいるそうだが、フロイントシャフト帝国は1人が俺と同じハンターで、しかもレベル150を超えていると噂されている。

 軍属のハイクラスはレベル110前後と言われているから、いかにそのハンターが突出しているのかがよく分かる。

 さすがにそのハンターは参戦してないが、万が一グレートクロス帝国と戦争になってしまった場合は、そのハンターも参戦するという契約が結ばれているそうだ。

 ハイクラスはレベル101から200までの間だから、同じハイクラスでもレベルが違えばステータス差は大きい。

 だからそのハイハンターは、北大陸最強って事になるし、ヘリオスフィア全体で見ても超える人は南大陸にはおらず、東大陸に2人いるぐらいだ。

 それもそれですごい話だが。


「お、旗艦っぽいのを見つけたぞ」


 そんな事を考えながら周囲を見渡してると、他の魔導船とは明らかに違う意匠の魔導船が目に付いた。

 アクエリアスより一回り大きい感じだが1隻しかないっぽいし、あれがリスティヒ海軍の旗艦で間違いなさそうだ。


「ホントだわ。沈めてもいいけど、手柄っていう意味じゃ問題になるのよね?」

「なりますね。乱戦ではありますが、リスティヒの魔導船は既に半数以上沈んでいますから、可能であるならばシャロンかラガルト卿が沈めた方が良いでしょう」

「あたし達も、30隻ぐらい沈めてるもんね」


 ルージュの言う通り、俺達は戦場を駆け回った結果、30隻を超える船を沈めているし、俺だけでもその半分は沈めている。

 リスティヒ海軍の魔導船はまだ半分ぐらい残ってるから、最終的には50隻以上はいけるかもしれないが、旗艦を沈めるのは余程の乱戦でもなければ後々問題になるだろう。

 実際エリザはそう言ってるから、それは絶対に避けたい。


「それなら先に、旗艦の周囲にいる魔導船を沈めますか?」

「シャロン様やラガルト様がどうお考えか、すぐに動けるかも分かりせんから、露払いという意味でもそうした方がいいかもしれませんね」


 エリアとエレナの言う通り、そうした方が良さそうだな。

 取り巻きの魔導船がいなくなれば、誰が沈めるにしてもやりやすくなるだろう。


「それでいこう」


 そろそろこの戦いも終盤に差し掛かるだろうし、リスティヒ海軍は全滅させるつもりだったから、どうするかは数を減らしてから考えよう。

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