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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第5章・妖王国から始まる魔導大海戦
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海戦勃発

 前回妖王城に召還されてから10日、ついにリスティヒ王国海軍がロイバーを出航したと報告があった。

 俺達はハイディングフィールドを張ったアクエリアスで偵察してたから、リスティヒ海軍が出航したことも魔導船の総数が167隻だってことも知っているが、カルディナーレ妖王国はそこまでの情報を掴めていない。

 本当はその情報も伝えたいんだが、ロイバーは海兵であっても出入りは管理されてるし、外部から入れるのは許可を得た特定の商人のみで、代理すら認められないという厳重さだった。

 だから伝えられなかったんだが、カルディナーレ妖王国海軍もフロイントシャフト帝国海軍も優秀で、100隻以上の魔導船が出航した事は把握している。

 実際はその1,5倍以上あるんだが、カルディナーレ妖王国のハイラミアに加えてフロイントシャフト帝国のハイディノサウロも参戦する予定だから、数の不利はなんとかなる感じだ。


 ディノサウロはドラゴニュートと同じ竜族で、一言で言えば人間の顔をしたリザードマンになる。

 ドラゴニュートと違って角や翼は無いが、鱗はドラゴニュートより多く、背中の一部や首筋を含む鎖骨上辺り、上腕に太腿辺りにもあるらしい。

 さらにドラゴニュートとディノサウロは、属性竜みたいに特定の属性を得て生まれてくる。

 だから種族名の後に火竜とか土竜とかが付くんだが、そのハイディノサウロは水竜で、フロイントシャフト帝国海軍のトップでもあるんだそうだ。

 フロイントシャフト帝国のもう1人のハイクラスはハイオーガで、こちらは陸軍のトップを務めている。

 クリュエル王国とディザイア王国は陸戦だったからハイオーガが、リスティヒ王国は海戦になるからハイディノサウロが派遣され、同時に派遣されなかった方はシュロスブルクで皇帝の護衛を務める事にもなってるらしい。

 なので対リスティヒ王国戦には、ハイラミア、ハイディノサウロ、そして俺というハイヒューマンの3人のハイクラスが参戦する。


 これは公表されてる事でもあるから、多分リスティヒ王国側にも届いているだろう。

 俺がハイヒューマンだってことを信じてるかは分からないが、それでもハイクラスを複数相手するのは間違いないから、リスティヒ王国もほとんど全軍出撃っていう状況だ。

 だからなのかフロイントシャフト・カルディナーレ連合軍総勢242隻は、大歓声を受けながらレジーナジャルディーノを出航した。

 連合軍側は新型魔導船58隻、旧式魔導船33隻、帆船150隻で、俺のアクアベアリも組み込まれている。

 移動は帆船に合わせるから遅いが、こればっかりは仕方がない。


 一夜明け、偵察に出た新型魔導船が戻ると、船団は陣形を組むために移動を始める。

 陣形は四列の横陣で、最前列に新型魔導船29隻と旧式魔導船20隻、アクアベアリを配置し、中列は帆船を二列に、最後列は残りの魔導船を配置する。

 横一列の横陣だと、突破されるとそのままレジーナジャルディーノに抜けられてしまうため、機動力のある魔導船を最前列と最後列に配置し、数の多い帆船を中列に置くことで突破力を削ぐ事を目的としているそうだ。

 特に新型魔導船はリスティヒ海軍の魔導船より早いから、万が一陣形を突破されたとしても、少数なら追い付いて撃沈する事も可能だと判断されている。

 さらにそれぞれの国の旗艦となる中型魔導船には、ハイラミアとハイディノサウロも乗り込んでいるし、開幕で俺と同時に広域魔法を使って数を削る予定でもあるから、リスティヒ海軍がレジーナジャルディーノに抜けるのは難しいんじゃないかと思う。


「いよいよね」

「はい。既に船影が見えてきたと報告もありましたが、こちらも陣形は整っていますから、後はぶつかるだけです」


 昼前、丁度飯にしようかっていう時間になって、偵察に出てた魔導船が戻り、あと1時間もしないうちに接敵すると報告してきた。

 アクアベアリはカルディナーレ妖王国旗艦ピエトラ・ディ・ルーナ、フロイントシャフト帝国旗艦グランデ・アグアマリナと名付けられた姉妹船に挟まれて停泊中だし、俺も開幕攻撃担当な上にエリザも同乗してるから、報告は真っ先に届けられる。


 あ、ピエトラ・ディ・ルーナとグランデ・アグアマリナだが、どちらもフロイントシャフト帝国が建造した全長70メートルクラスの大型船で、性能は魔物素材による小さな差異がある以外は全く同一となっている。

 どうやらエリザの件に対する謝罪の1つらしく、先月完成したって事でヴァイスリヒト皇太子が乗船した上でレジーナジャルディーノに搬入されてきたんだよ。

 グランデ・アグアマリナが宝石の名前って事で、カルディナーレ妖王国に贈られた大型船もそれに倣ってピエトラ・ディ・ルーナという船名を、カタリナ女王自らが付けてたな。

 そのヴァイスリヒト皇太子だが、援軍として派遣されたフロイントシャフト帝国軍総大将でもあるから、今回はグランデ・アグアマリナに搭乗されている。

 久しぶりに会ったが、俺がハイクラスに進化してる事は既に耳にしていたようで、えらい驚かれたぞ。

 シュロスブルクで会ったのが半年ぐらい前で、その頃の俺のレベルは60ちょいだったから、無理もない話なんだが。

 ちなみにピエトラ・ディ・ルーナにも、キアラ王女がカルディナーレ妖王国軍総大将として乗り込んでるから、ピエトラ・ディ・ルーナの乗員は女性兵士の方が多かったりする。

 まあ、ヘリオスフィアは女性比の方が高い世界だから、フロイントシャフト帝国軍も女性兵士の方が多かったりするんだが。


「なんか緊張してきた……」

「私もよ……」


 ルージュとエレナの顔色が少し悪いが、これから戦争が始まるんだから、普通ならそうなってもおかしくない。

 俺も本格的な戦争は初めてだが、俺が望んだ事でもあるし、エリザのためでもあるから、少し震えてはいるが、気分は高揚してる感じだ。


「無理はしないでいいんだからな?」

「ありがとうございます。ですが私達も、先月リスティヒの魔導船を沈めていますから、少し怖いですけど最後までここにいるつもりです」

「いつかは経験する事だったんだし、相手が相手だったから、あたし達も決心がついたしね」


 実は先月リスティヒ王国と接敵した際、エレナ、エリア、ルージュも決意して、それぞれ魔法で魔導船を沈めている。

 無理をしなくても良かったしさせるつもりもなかったんだが、俺と旅を続ける以上はいつか荒事に巻き込まれるだろうし、その結果人を殺める事にもなると思う。

 だからヒューマン至上主義っていう、俺達とは相容れない国の兵士を相手にする事は、主義主張の無い盗賊や差別意識のない人を殺めるよりマシだって考えたみたいだ。

 それでもその後は、特にエレナが大変だったが、今ではだいぶ落ち着いてくれてるし、それからも何度か沈めてるから、夜が激しくなるぐらいで済んでいる。


「無理そうなら、あたしやエリザが止めるわ。浩哉は主戦力の1人なんだから、戦場に注力しないといけないでしょう?」

「悪いけど頼む。だけどアリスやエリザも、無理そうなら遠慮しないでいいんだからな?」

「過保護な気もしますが、そのお気持ちは頂戴します」


 エリザの言う通り、決意した人を気遣ってるっていうより、過保護って言った方がいい気もする。

 俺の都合で戦争に参加したとはいえ、人を殺めるって決めたのはみんな自身だから、経緯がどうあれ俺に文句を言うような事じゃないって思ってくれている。

 アリスみたいに、最初が盗賊との遭遇戦なんていう事も珍しくないから、覚悟を決められる分、だいぶマシって事でもあるんだろう。

 実際、俺もそうだったし。

 これからもこんなことはあるだろうから、それなら今のうちに俺も慣れておくべきかもしれない。


「分かった。それじゃあ出来る範囲で、リスティヒの魔導船を沈めまくろう。とはいえ、やり過ぎると連合軍の手柄を奪う事になるから、加減もしないといけないけどな」

「確かにね。浩哉ならやろうと思えば全部沈められるだろうけど、それじゃあ連合軍のメンツが丸潰れだし、その後で絶対に問題になるに決まってるわ」

「それどころか、浩哉様を危険分子と見なし、攻撃してくる者も出てくるでしょう。フロイントシャフト皇帝やお母様はそのような事はなさらないと思いますが、下の者の勝手までは止められませんし、そういった声が大きくなればいかなお二方であっても首を縦に振らざるを得なくなります」

「つまり面倒くさいけど、やるなら程々にってことだね!」

「まだ上手く加減は出来ないので、味方の船を巻き込まないように注意しないといけませんね」

「魔法より弓を使った方が、楽な気がしてきました」


 俺の少ない経験の中じゃこんな事は無かったし、語彙力も無いから上手く伝えられたか分からないが、それでも空気は軽くなった気がする。

 まだエレナ、エリア、ルージュは顔色が優れないが、無理をしてくれなければそれでいいと思う。

 夜が大変になるが、それぐらいなら全然受け入れるし。


「ホントね。それじゃあもう少し時間はあるみたいだし、今のうちにご飯食べちゃいましょ」

「そうだね。お兄ちゃんと一緒に旅に出てから、お昼ご飯食べないとすぐにお腹空くようになっちゃったし」

「そうよね。それじゃあ準備してくるわ」

「エリアさん、私も手伝いますね」

「ありがとう、エレナさん」


 軽く忘れてたが、いつもなら昼飯を食ってる時間だったっけか。

 早ければ数十分、遅くても1時間ちょいで開戦になるだろうから、あんまり腹に溜まる物は食えないが、腹も減ってるから軽い物ぐらいは食いたいな。

 エレナとエリアもそれを分かってるから、リビングで用意してくれてる昼飯はインベントリに入れてあるサンドイッチとかホットドッグとかだ。

 少し物足りないが、今日は仕方ない。

 その代わりって訳じゃないが、なるべく早く倒すとしよう。


 軽食を食って20分ぐらいすると、隊列を整えたリスティヒ海軍が見えた。

 ついに来たな。


「見えたわね」

「あちらからも偵察が来ていましたし、わたくし達がここで待ち受けていた事は承知の上でしょう。この陣形では回り込まれる恐れも無いと判断したようで、どうやら魚鱗の陣を組んでいるようですね」


 魚鱗の陣か。

 戦争に参加すると決めてから、アクエリアスの書斎にある本で陣形とかも勉強していたが、確か魚鱗の陣は三角形になるような形で、総大将は底辺中央に座す陣形だったか。

 一塊になってるから消耗戦に強く中央突破力も高いが、総大将の位置から回り込まれたり包囲されたりすると脆かったはずだ。

 今回リスティヒ海軍がこの魚鱗の陣を選んだのは、魔導船の性能に自信があるから、強行突破しても追い付かれる心配が無いと判断したからだろう。

 中央突破が成功した場合、旗艦が後方にいたら撃沈される可能性があるから、魔導船の数もあるし多分旗艦は中央部にいるんじゃないだろうか。


「おそらくはそうでしょう。ですが魚鱗の陣を組んでいる事は、こちらにとっても都合が良いです」

「纏まってるから包囲は楽だし、纏めて沈めやすくなってるわよね」

「はい」


 それは俺も思う。

 だけど数は多いから、纏めて沈めるのも手間でしかない。

 だから最初の先制攻撃で魚鱗の陣を崩し、あとは各個撃破って事になりそうだな。


「無理を承知で纏めて沈めるか、浩哉さんの言った通りになるかでしょうか」

「どっちもあり得るけど、前者だと軍を集めた意味が無いし、後で問題になるのは分かり切ってるから、後者になるのかしらね?」

「犠牲を減らすという意味では前者の方が望ましいですが、手柄を欲している兵士の方もいるでしょうから、難しい問題ですね」


 だな。

 犠牲を取るか手柄を取るか、どっちを選ぶにしても問題になる。

 だけどどちらかを選ばなきゃならないし、このまま時間を無駄にしてたら何の意味もないばかりかただ沈められるだけだ。

 指揮官も大変だと思う。


「じきにどっちになるかは決まるだろうし、というか既に決まってるだろうから、浩哉はその通りに行動すればいいんでしょ?」

「その方が楽だな」


 小難しいことはお偉いさんに任せて、俺は当初の予定通り、同じハイクラスと一緒に魔法で先制攻撃を仕掛けるだけだ。

 そろそろ指示も来るだろうし、武者震いもしてきている。

 だけど不思議と逃げたいとか、そういった事は思わない。

 エリザだけじゃなく手を汚す事を決意してくれたみんなのためにも、この一戦、絶対に勝つぞ。

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