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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第5章・妖王国から始まる魔導大海戦
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女王との謁見

 レジーナジャルディーノの軍港に停泊許可をもらった俺達は、その日はそのままアクアベアリで過ごした。


 ドラゴニュート隊長から、出来れば船の外には出ないでほしいとも言われていたし、自国の王女が奴隷として帰還したっていう事実もあるから、無用なトラブルが舞い込む可能性は低くない。

 だから俺達も同意して、リビングやルーフデッキの宝瓶温泉を満喫していた。

 ルーフデッキにハイディングフィールドを展開させ、さらにキャビンからも上がれるようにステップを増設したから、外から見られる心配もないからな。

 ゲームなんかもけっこうあるし、女性陣はブルースフィアでウインドウショッピングをしたりしてたから、暇つぶしの手段には事欠かなかったぞ。


 実際、妖王城から呼び出しが来たのは、軍港に入って2日経ってからだったからな。

 奴隷は王城に入れないから、今回は俺とエリザだけで向かう事になってるが、俺達がいない事で手を出してくる貴族とかもいるかもしれないから、万が一の場合はアクアベアリを動かしても構わないと伝えてある。

 アリスもレベル90になってるから、ハイクラスでも出てこない限り、どうとでもあしらえるようになってるからな。

 装備のステータス補正もあるから、ハイクラス相手でもなんとかなる可能性もあるが。

 ブルースフィア・イージネスが開放された事でみんなもマップを見られるようになっているから、合流については問題なく行えるっていうのも大きい。

 まあ、ハイヒューマンになった俺への敵対行為になるから、女王はそんな事してこないだろう。


 妖王城への移動は、サダルメリクを使う事になった。

 本当はカルディナーレ妖王国の魔導車で登城する事になってたんだが、エリザがサダルメリクを使う事を希望した。

 その理由は、貴族とかが魔導車に細工して、事故に見せかける可能性があるって事だったんだが、確かに俺もその可能性は否定できないと思ったな。

 俺達に女王の書状を持ってきたドラゴニュート隊長も心当たりがある感じだったが、エリザが奴隷になった経緯が経緯だから折れるしかなく、その代わり護衛として、魔導車を数台付ける事で妥協してくれた。

 エリザがサダルメリクを希望した理由は、そんな理由もあるのは間違いないが、やっぱり乗り心地の問題が大きい。

 速度こそ獣車より出るし、それなりに揺れは抑えられる仕組みなんだが、サダルメリクに慣れた今じゃ酔うと断言してたし、乗り心地も圧倒的に上だからっていうのが理由だ。


 そういやダンパーとかサスペンションとかは、俺もあんまり詳しくないんだよな。

 だけど揺れが抑えられれば乗り物酔いとかは少なくなるだろうし、乗り心地にも影響出てくるはずだから、手土産っていうのとはちょっと違うが、何かあったか考えてみよう。

 あ、板バネとかいいかもしれない。


 ちなみに服装は、俺はマルス・ブレイブアーマー、エリザはブルースフィアで調達したイブニングドレスだ。

 ピンクを基調に、スカートはふんわりしていて足元まで隠している。

 胸元や腰には赤いバラをあしらい、全体にバラの花びらが散っているような意匠だ。

 今回のために用意したんだが、もちろんアリス、エレナ、エリア、ルージュの分も購入しているぞ。


 指定された時間に妖王城に到着すると、すぐに謁見の間に案内された。

 普通なら王の準備が整うまで控えの間とかで待たされるらしいんだが、今回は女王にとっても緊急って事で、すぐに謁見って事になったらしい。

 作法とかは道中でエリザに教えてもらったが、それでも緊張で、心臓がバクバクしてるな。


「落ち着いて下さい。母上は無体な事を仰る方ではありません」

「女王様と謁見なんだから、それは無理だって」


 エリザにとっても数ヶ月ぶりの再会だが、移動手段が乏しい、というより移動速度が遅いヘリオスフィアだと、再会にこれぐらいの時間が掛かるのは珍しくない。

 ともかく、少しでも緊張を抑えるために、掌に人っていう字を書き殴って、それを飲み込んでみよう。


「それは何なのですか?」

「緊張を解すおまじないかな。気休めでしかないけど、何もしないよりはいいと思ってね」


 説明しつつも、俺は手を休めない。

 謁見の間に移動中、何人の人を飲み込んだのか分からなくなったぐらいだ。

 エリザには気休めって説明したけど、気休めにもなってないよ、これ。


 そんな俺の気持ちを他所に、俺達は謁見の間に到着してしまった。

 ここまで来ると私語は厳禁って事だから、後はアドリブでやるしかない。

 謁見の間に入ると、貴族も何人か呼ばれているようで、絨毯の両側に立っている。

 護衛の騎士も含めると、全部で50人ぐらいか?

 さっきまでやってたおまじない、全く意味が無いんですけど?

 今にも口から心臓が飛び出てきそうだが、最低限の礼儀作法はエリザに合格点を貰ってるから、何とかなると思いたい。

 中央付近まで進んで跪き、顔を伏せてしばらくすると、女王が謁見の間に入室してきたと告げられた。


「面を上げなさい」


 その言葉に従って顔を上げると、玉座には30代前半ぐらいに見える、肩より少し上ぐらいで髪を切り揃えた女性が、両サイドには10代後半から20代前半っぽい女性が立っていた。

 3人とも豪華なドレスを身に纏い、俺に何とも言えない視線を向けてきているのが印象的だ。


「Sランクハンター コウヤ・ミナセ殿。此度は我が国の第三王女エリザベッタを救い出し、連れ帰ってくれた事、誠に大義である。故にそなたには褒賞として、爵位を授与したい」


 玉座に腰掛けているカタリーナ・ルーナ・ディ・カルディナーレ女王が口を開く。

 褒賞っていう話にはなるんじゃないかと予想されてたが、まさか爵位が来るとは思わなかった。

 だけど俺からしたら、そんなもんは褒賞なんかじゃなく、俺の行動を縛る鎖でしかない。

 エリザも可能性があるかもしれないと考えていたから、どうやって断るかもシミュレート済みだ。


「光栄ですが、我が身には余りますため、辞退させていただきます」


 軽く頭を下げながら、拒絶の言葉を絞り出すと、両サイドの貴族達から驚きの声が上がった。

 フロイントシャフト帝国でも似たような話は出たし、そっちでも断ってるんだから、それぐらいの情報は得てると思う。

 それでもあわよくば、っていう考えで爵位をって考えたんだろうな。


「断ると申すのか?」

「はい。私は見聞を広める旅の途中であり、同時にハンターでもありますので」


 旅の目的もあるし、どこかの国に一方的に肩入れするのも問題になる。

 俺のブルースフィアは、それだけの力と可能性を秘めているからな。

 だからこそ、絶対に国に所属するつもりはないし、力で訴えてくるなら返り討ちにしてやるつもりだ。


「そうか。ではそなたへの褒賞は、個別に相談させてもらうとしよう」


 ところがカタリーナ女王は、思ってたよりあっさりとした返答を口にした。

 個別に相談ってとこは引っかかるが、やっぱり断られることも想定済みだったんだろう。


「お待ちください、陛下!」


 おっと、ここでちょっと待ったコールですか。

 じゃなくてだ、謁見で声を荒げるとは、礼儀がなってない貴族もいるもんだな。


「控えよ、アウトゥンノ辺境伯!陛下の御前である!」


 宰相が声を荒げて諫めるが、声を出したの、辺境伯なのか。


 カルディナーレ妖王国の爵位とかは、事前にエリザから聞いている。

 基本はフロイントシャフト帝国と同じなんだが、カルディナーレ妖王国には辺境伯という、軍事に関しては侯爵より上の爵位が存在している。

 一応伯爵の上、侯爵の下という扱いみたいなんだが、辺境伯家は領地を有し、国境守護を担っている関係上、侯爵家と同等以上の待遇らしい。

 カルディナーレ妖王国の国境は、必ず辺境伯領となっており、北東、北西、南東、南西に領都があるって聞いたな。

 逆に侯爵家は、内政や外交を担っているため、領地はレジーナジャルディーノ周辺に固まっていて、広さも領都となる街の他は小さな村や町が2,3あるだけなんだそうだ。


 声を荒げたアウトゥンノ辺境伯もその1人で、レジーナジャルディーノの南西に領地があったはずだ。


 そのアウトゥンノ辺境伯だが、カルディナーレ妖王国では珍しい男性の当主で、しかもヒューマンだったりする。

 妖族が多い国とはいえ、ヒューマンの当主も少なくないんだが、それでも男性は、謁見の間にいる貴族だと5人ぐらいしかいない。

 女尊男卑って訳でもなく、純粋に女児が生まれなかったとか亡くなったとか、そんな理由で男性が当主に就任する事が多いようだ。


「よい。アウトゥンノ辺境伯、妾の采配に不満でもあるのか?」

「御意。エリザベッタ殿下は不当に奴隷に貶められたのです。そのためにフロイントシャフトは援軍を派遣していますが、それだけでは足りませぬ」

「ほう。では其方は、どうしろと申すのか?」

「無論、その者を処刑し、フロイントシャフトへの見せしめとするのです。その者はハンターズランクこそ低いですが、フロイントシャフトでも有数の高レベル。処刑したとしても、神罰を恐れるフロイントシャフトが文句を言ってくる事もありますまい」


 この野郎、俺を見せしめのために処刑しようってのか。


「マスター、抑えて下さい」


 小声でエリザに諫められるが、さすがにこれは論外だろ。

 いや、そういや確か、アウトゥンノ辺境伯は……。


「アウトゥンノ辺境伯、其方の意見はよく分かった。だがその意見は、受け入れる訳にはいかぬ」

「な、何故ですかっ!?」


 カタリーナ女王は、アウトゥンノ辺境伯の意見をあっさりと却下した。

 まあ、女王は俺のことをある程度知らされてるし、アウトゥンノ辺境伯の身から出た錆でもあるから、当然っちゃ当然の判断か。


「アウトゥンノ辺境伯よ、其方は国を滅ぼしたいのか?下らぬ言いがかりをつけた上でハイヒューマンを処刑するなど、国が滅びる遠因にしかならぬわ」

「はい……?はっ!ま、まさかその小僧は!」

「むしろアウトゥンノ辺境伯よ、リスティヒは必ずアウトゥンノ辺境伯領から侵入し、民達を攫っていっておるのだが、妾は幾度も対処を命じておった。にもかかわらずリスティヒの悪行は、以前にも増しておる。これについて、何か申し開きはあるか?」

「そ、それは……!」


 ある訳がない。

 なにせアウトゥンノ辺境伯は、エリザが王女だった頃からリスティヒ王国と繋がっていた上に、本人がヒューマン至上主義者らしいからな。


 アウトゥンノ辺境伯領はカルディナーレ妖王国の南西にあり、そこはリスティヒ王国と国境を接している。

 リスティヒ王国のある半島は、地峡も狭く山も高いため、陸路での往来は至難の業なんだが、全くできない訳じゃない。

 その証拠にアウトゥンノ辺境伯は、陸路でリスティヒ王国と取引を行い、カルディナーレ妖王国の内情を売り渡したり、防衛計画を漏らしたりしていたそうだ。

 本来ならもっと早くに判明していてもおかしくないんだが、リスティヒ王国のみならずディザイア王国にクリュエル王国までもがカルディナーレ妖王国に奴隷狩りの兵を派遣していたもんだから、カルディナーレ妖王国としても人手が足りず、どうしても調査が疎かになってしまっていた。

 だがフロイントシャフト帝国が援軍を派遣した事で余裕が生まれ、以前より疑いのあったアウトゥンノ辺境伯の周辺は徹底的に調査され、さらに決定的な証拠の入手にも至ったそうだ。

 その事は、昨日俺達との連絡役を務めてくれているドラゴニュート隊長が、今日の予定を伝えると同時に教えてくれたから、一応警戒はしていた。


 ちなみに4人いる辺境伯だが、実は北東を守護しているはずのプリマヴェーラ辺境伯も、クリュエル王国と内通していたらしい。

 もっともフロイントシャフト軍がクリュエル王国を滅ぼした事で内通してた事が明るみになって、既に一家諸共処刑され、家督は分家の当主が継いでいるらしいが。


「さらにだ、この者はエリザベッタを救い出し、告発のためにシュロスブルクまで護衛を担ってくれた者でもある。半年も経っておらぬというのにそのような者を処刑してしまえば、どうなるかはそなたでも分かるであろう?」


 そりゃカルディナーレ妖王国が地図から消えますな。

 もっともアウトゥンノ辺境伯はリスティヒ王国と繋がってる訳だから、カルディナーレ妖王国が地図から消えた方が良いと思ってるかもしれないが。


「そ、それは……」


 何も言えなくなってるアウトゥンノ辺境伯だが、さすがにこんな所で地図から消えても構いません、なんて言ったら、一家諸共処刑に決まってるからな。


「アウトゥンノ辺境伯、其方には聞きたい事がある。皆の前で、国境防衛がどうなっているのか、つぶさに語ってもらうぞ」


 頬がピクッと動いたのが見えた。

 アウトゥンノ辺境伯領はリスティヒ王国との国境が、陸路海路ともに伸びている。

 辺境伯領は例外なく広いから、女王からの勅命が下れば真面目な軍人はしっかりと警備しているだろうが、アウトゥンノ辺境伯直属軍は分からない。

 いや、被害が増えてるって言ってたから、何もしてない可能性もあるか。


 まあ、どんなに言い繕っても、密偵からアウトゥンノ辺境伯領の様子はもちろん、警備網もザルだって報告が来てるっぽいから、アウトゥンノ辺境伯家の取り潰しは決まってるみたいだけどな。

 さすがに国防上重要な辺境伯家を潰すのはマズいから、プリマヴェーラ辺境伯家と同じ感じで、遠縁の誰かが継ぐんじゃないかと思うが。

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