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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第5章・妖王国から始まる魔導大海戦
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リスティヒ王国海軍

 カルディナーレ妖王国妖都レジーナジャルディーノに向かってフォルトハーフェンを出航してから、今日で3日経った。

 フォルトハーフェンからレジーナジャルディーノまでは、普通の魔導船で1週間から10日ぐらいだって話だから、そろそろリスティヒ王国のある半島が見えてくる頃だ。


 リスティヒ王国のある半島は、カルディナーレ妖王国に向かう際でも遠目で確認する事が出来る。

 フロイントシャフト帝国がカルディナーレ妖王国に援軍を送った事は、先の神罰の件と合わせて知られているし、既にクリュエル王国が落とされてる訳だから、リスティヒ王国も兵を集めていない訳がない。

 もちろん先手を打って攻めてくる可能性はあるんだが、いくらリスティヒ王国の軍船がフロイントシャフト帝国やカルディナーレ妖王国と同等かそれ以上の性能だったとしても、無傷じゃ済まない。

 だからリスティヒ王国は、全軍を集めきってから、カルディナーレ妖王国を攻めるんじゃないかと思う。

 リスティヒ王国は自国の軍船の性能に自信を持ってるから、例えフロイントシャフト帝国が相手でも対等以上に戦えると思っているっぽいし、全軍を動員すれば攻めるにしろ守るにしろ、カルディナーレ妖王国に大きな被害を与えられるとも思ってるっぽい。

 だけどフロイントシャフト帝国は、ウォータージェット推進搭載の鉄船の量産を開始してるから、リスティヒ王国の軍船が通常の魔導船より優れていたとしても、簡単に負けるんだろうな。

 しかも噂じゃ、レジーナジャルディーノに派遣した軍船は、鉄じゃなくミスリルを使ってるみたいだから、錆びる心配も無いし、耐魔法防御も優れているから、簡単には沈まないと思う。


 ヘリオスフィアには、銃や大砲は存在していない。

 魔法が存在しているため、その発想が存在してないみたいだ。

 陸戦なら土魔法で作り出した塊を飛ばす事もあるが、海戦じゃそんな事は出来ないから、だいたいは魔法の届く距離になったら魔法の打ち合いが始まり、大抵はそれだけで勝敗が決まってしまう。

 稀に相手の船に乗り込んでの白兵戦もあるが、船の拿捕や相手の捕縛といった目的がないと行われないとも聞いている。


 だからミスリルを使っているフロイントシャフト帝国の軍船は、魔法に対しては滅法強いはずだ。


「浩哉、半島が見えてきたわよ」

「お、見えたか」


 アリスが教えてくれたが、どうやら半島が見えてきたようだ。

 という事は、ここからレジーナジャルディーノまでは1日ぐらいだろう。

 ハイディング・フィールドを展開してるから見つかる心配はないが、リスティヒ海軍の動きは気になるから、少し寄り道していくか。


「マップなんか見て、どうかしたんですか?」

「ああ。レジーナジャルディーノに行く前に、少しリスティヒ海軍の様子を見ておこうと思ってね」


 フロイントシャフト帝国がカルディナーレ妖王国に協力して、クリュエル王国、ディザイア王国、リスティヒ王国を滅ぼすっていう話は有名だし、実際既にクリュエル王国は滅んでるから、リスティヒ王国だって徴兵ぐらいはしてるだろう。

 しかもクリュエル王国は、ヒューマン至上主義者だった王家に貴族を処刑済みだって話だから、同じくヒューマン至上主義のディザイア、リスティヒ両王家に貴族も、必死で軍備を整えているんじゃないだろうか。


「あ、そっか。カルディナーレはヴァンパイアが王位に就くから、ヒューマン至上主義とは無縁だよね」

「フロイントシャフトも、先の告発からの神罰がありますから、手を抜く事はあり得ませんね」


 ルージュとエリアの言う通りで、基本的に王家がヒューマン以外の国は、ヒューマン至上主義とは相容れない事が多い。

 とはいえ、ヒューマンの貴族はどこの国にもいるし、そいつらがいつの間にかヒューマン至上主義者になってた、なんてこともよくある話だ。

 フロイントシャフト帝国は俺達の告発から、国内のヒューマン至上主義者の一掃に乗り出しているが、カルディナーレ妖王国はそこまで手が回っていないらしい。

 そもそもクリュエル王国、ディザイア王国、リスティヒ王国が簡単にカルディナーレ妖王国で奴隷狩りを行えている理由は、その国に内通してるヒューマン至上主義の裏切り者がいるからだって言われてるしな。

 国民を他国に奴隷として売り払っているんだから、明確な国家反逆罪な気もするんだが、証拠が無いって事で、カルディナーレ妖王国も厳罰に処すことができないんじゃなかったか?


「だからリスティヒ海軍の様子を調べて、それをカルディナーレにという事ですか」

「少しでも心証を良くしたいっていう下心もあるけどね」


 リスティヒ海軍の様子は、カルディナーレ妖王国でも調べているだろうが、直接港に入って調べるなんて事は不可能だ。

 いかにカルディナーレ海軍が精強でも、たった数隻でリスティヒ海軍全軍を相手にする事は出来ないし、港に入った瞬間撃沈されるに決まってる。

 その点俺の場合、乗物には全てハイディング・フィールドが搭載されてるから、見つかる心配は一切ない。

 しかもハイディング・フィールドの中から攻撃する事も可能だから、やろうと思えば一方的にリスティヒ王国側の船を全て沈める事も出来てしまう。

 さすがにそこまでしてしまえば、ブルースフィアの存在を隠せないだろうからやらないが、どれぐらいの数の軍船を集めてるのかぐらいは調べてこようと思う。


「わたくしとしてはありがたく思いますが、それでカルディナーレの心証が良くなるかは分かりませんよ?」

「分かってる。なったらいいなっていう程度だよ」


 エリザの言う通り、カルディナーレの俺に対する心証が良くなるかどうかは、はっきり言えば微妙だと思っている。

 それでも可能性が皆無って訳じゃないから、出来る事はやっておこうっていう感じだな。

 まあ、本当にカルディナーレ妖王国と決別する事になったら、二度と関わるつもりはないが。


 アクエリアスに乗ったまま、俺達はリスティヒ王国最大の軍港を持つロイバーに入った。


「さすがリスティヒ王国最大の軍港だけあって、数が多いわね」


 アリスの言う通り、ロイバーの港にある軍船の数は100隻を超えていて、その全てが魔導船だ。

 魔導船はアクエリアスと同じぐらいの大きさだから、多分乗員は、多くても40人ぐらいか。

 さらに1隻、70メートルクラスの大型船があって、やけに豪華な装飾が施されていやがるから、旗艦で間違いないだろう。


「浩哉さん、あちらに小型船も見えます」

「アクアベアリより大きい感じだから、中型船になるのかな?」


 エレナとルージュの示した方向に視線を送ると、確かにアクアベアリと同じぐらいか、もしかしたら大きいぐらいのサイズの船も見えた。

 数としてはこちらの方が多くて、確実に200隻は超えてるな。

 10人ぐらいは乗れるだろうから、リスティヒ王国海軍の半数以上はロイバーにいるって事か。


「リスティヒ王国がこれほどの数の魔導船を保有していたとは、さすがに思いませんでした」


 エリザが驚くのも無理はない。

 カルディナーレ妖王国海軍が保有している軍船は、帆船の数こそ300隻を超えるが、魔導船となると50隻あるかないかだ。

 船上からの魔法の打ち合いが海戦の基本となっている以上、帆船でもそれなりに魔導船と渡り合う事は可能だが、速度は魔導船の方が圧倒的に速いし、アクアベアリサイズの小型船まで所有してるなら、一撃離脱の戦法を取られたら苦戦どころか壊滅に近い被害が出るかもしれない。

 しかもリスティヒ王国海軍の魔導船は、船体のほとんどをミスリルで覆っているようにも見えるから、魔法耐性もかなり高いそうだ。

 確かミスリルは北大陸でならけっこう採れるらしいが、それでも希少金属じゃなかったか?


「確かカルディナーレとリスティヒを隔ててる山の1つが、ミスリル鉱山なんだっけ?」

「正確には3つの峰にミスリルの鉱脈があるようです。リスティヒ王国の陸軍は海軍程精強ではありませんし、海運に力を入れていますから、鉱山として開発している峰は1つと言うべきですね」


 そういう事か。


 ミスリルは希少金属だが、北大陸には結構な数のミスリル鉱山がある。

 だから騎士や軍の制式装備に採用している国も多いし、裕福なハンターも使用している。

 逆にアダマンタイトやオリハルコンは、本当に希少で、確かアダマンタイトが採れる鉱山はグレートクロス帝国に1ヶ所、オリハルコンが採れる鉱山はグレートクロス帝国とフロイントシャフト帝国に1ヶ所ずつしかなかったはずだ。


 ちなみにアダマンタイトは、単純な硬度ではヘリオスフィア最硬で、オリハルコンは魔力強度が高いため、魔力による強化でアダマンタイトより強くする事も出来る。

 ミスリルは魔力強度も硬度もアダマンタイトやオリハルコンに劣るが、魔力伝達率は上回ってるから、使い手によっては同等以上の強度や硬度を得る事も可能らしい。


 そのミスリルだが、高い魔力伝達率のおかげで武器は魔力がよく流れるから、丈夫なのはもちろん長持ちもするし、攻撃力も鉄や下手な魔物素材より上になる。

 防具にすれば、高い魔法耐性を得る事が出来るから、少々の魔法を食らっても無傷で凌げるって事で、騎士や軍はもちろん、ハンターからの人気も高い。

 リスティヒ王国は、そのミスリルを使って船をコーティングしてるのか。


「見に来て良かったな」

「本当ですね。さすがにこの数は、カルディナーレやフロイントシャフトでも、苦戦は免れません」


 エリアの言う通りだな。

 中型船もだが、特に小型船が厄介だ。

 本当に一撃離脱戦法を取られたら、手に負えなくなるんじゃないか?


「フロイントシャフトの新造船が、どれだけ造られるかによるんじゃない?」

「この数を相手にするとなると、数隻程度じゃ厳しそうだな」

「はい。同数が望ましいですが、さすがに数ヶ月でこれだけの数は建造出来ません。頑張っても半数、といったところでしょう」


 リスティヒ王国とぶつかるのはディザイア王国を落としてからだと目されているから、早くても数ヶ月は先になる。

 それまでにロイバーに停泊しているリスティヒ海軍の軍船と同数を建造するのは、魔法があったとしても不可能だ。

 エリザは半数ならいけるかもみたいに言ってるが、それも厳しいんじゃないかと思う。

 確かフォルトハーフェンのシュラーク商会で聞いた話じゃ、中型船を優先しているから、小型船は後回しとまでは言わないが、それ程数を用意出来ないみたいな感じだったはずだ。

 中型船でもリスティヒ海軍の小型船より速度は出せるはずだが、小回りが利かないから、魔法を避けるなんて真似は出来ないだろう。

 カルディナーレ妖王国にも鉄船やウォータージェット推進の技術は提供されてるはずだから、これは小型船を優先してもらった方がいいな。

 それでも数の上では不利を免れないだろう。

 エリザのためになるかもしれないし、俺も参加する事を検討しといた方がいいかもしれない。

 戦争に参加なんて簡単に決められないけど、女王様との会談がどんな結果になろうと、カルディナーレ妖王国がエリザの故郷って事実に変わりはないんだから、参加してもいいんじゃないかと思う。

 軍に組み込まれても困るが、そこは状況次第だし、決裂した場合は勝手にリスティヒ海軍を蹴散らしとけば済む話でもある。


 なんかリスティヒ海軍を蹴散らす事が決定っぽくなってきたが、即断はせず、もう少し考えてから決める事にしよう。

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