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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第4章・港町到着から始まる王国脱出
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カルディナーレ妖王国への道筋

 エレナとの契約達成手続きを終えた後、俺達はハンターズギルドに向かった。

 ネージュ支店長から聞いた話だと、あと2週間ほどで、フロイントシャフト軍がカルディナーレ妖王国の東の隣国に到達し、戦端が開かれるとのことだ。

 その国もフロイントシャフト帝国が軍を派遣している事実は掴んでいるが、思ってもいなかった事態に慌てふためき、カルディナーレ妖王国から兵を退いているらしい。

 フロイントシャフト帝国との間にある小国を介して使者が派遣されるみたいだが、元を糺せばヒューマン至上主義者を野放しにしていたことが原因だから、フロイントシャフト帝国も無条件降伏でもなければ受け入れないだろうと予想されている。

 ハンターが戦争に駆り出されることはないが、自発的に参加することはあるし、戦争となったらイヤでも影響が出るから、ハンターズギルドも情報収集には余念がない。

 さらにエーデルスト王国の動きもきな臭いって話だから、カルディナーレ妖王国に行くまでにしっかりと情報を集めておきたい。


「そう思ってたんだが、さすがにここだと、エーデルストの動きは分かり辛いかぁ」


 今はアクアベアリに戻ってから情報を整理しているところだが、フォルトハーフェンはフロイントシャフト帝国の南端だから、北にあるエーデルスト王国の動きはほとんど分からなかった。


「エーデルストの造船技術は取るに足りませんからね。兵士も5万程ですから、カルディナーレに援軍を派遣している現状でも、フロイントシャフトが後れを取るようなことはありません」


 エーデルスト王国はカルディナーレ妖王国と同じぐらいの規模なんだが、明確な違いもある。

 特に海軍の存在は大きい。

 エーデルスト王国の兵は陸軍のみで総勢5万程なのに対して、カルディナーレ妖王国は陸海軍ともに3万と、総戦力ではカルディナーレ妖王国の方が上回っている。

 カルディナーレ妖王国は妖都レジーナジャルディーノが海に面していることもあるし、他にも同じような都市があるから、海軍の存在は必須だ。

 ただ、もし両国が激突してしまった場合、戦場は内陸部になるから海軍は使えないため、数で上回るエーデルスト王国が有利だとも言われている。

 間にいくつか小国があるみたいだし、今までは良好な関係だったんだが、王太子妃のせいでヒューマン至上主義に傾いているエーデルスト王国とは既に国交断絶状態らしいから、いずれ開戦っていう可能性が出てきているのが問題か。

 まあ、フロイントシャフト帝国に対して兵を挙げるみたいな話が多いし、グレートクロス帝国も黙ってはいないだろうから、近いうちに滅亡しそうな気もしないでもないが。


「カルディナーレの隣国の話は聞けたんだから、無駄ってわけでもなかったでしょ?」

「まあね」


 対してカルディナーレ妖王国に奴隷狩りの兵を派遣している3国については、それなりに話を聞く事ができた。

 開戦間近の小国は及び腰になっているし、カルディナーレ妖王国の北西にある内陸の小国も兵を撤退させているようだが、問題なのは南西にある小国だ。

 半島国家のためか造船技術が発達していて、カルディナーレ妖王国やフロイントシャフト帝国を凌駕しているとの噂もある。

 事実カルディナーレ妖王国は、船に乗せられた国民を取り返すために海軍を差し向けたそうだが、追い付けなかったみたいだ。

 さらに海軍も精強らしく、カルディナーレ妖王国海軍も苦戦を強いられているから、3国の中じゃ一番手強いのは間違いない。


 ここら一帯を治めているシュトラント伯爵は、俺が伝えた技術を駆使して早急に艦船を作り、カルディナーレ妖王国への援軍に派遣したいと考えている。

 建造にも魔法を使ってるから、早ければ1ヶ月ちょいで1隻は完成するらしい。

 そのためシュラーク商会が製作した試作船を借り、現在シュロスブルクに向かっているんだそうだ。

 試作船は全長7メートル程だから、ある程度レベルの高い人ならストレージングで収納可能だし、皇帝にも直接見てもらえることが出来るから、早ければシュトラント伯爵の帰還後に艦船の建造が開始され、カルディナーレ妖王国への援軍として派遣されることになるらしい。

 フェイカーを見たネージュ支店長がインスピレーションを刺激されていたから、空母っぽい見た目の艦船も作られるだろうし、フロイントシャフト帝国にとっては大幅な戦力増強になるな。

 肩入れしていると言われても仕方ないが、俺としてもヒューマン至上主義国家は滅んでも構わないと思っているし、戦争に使われる可能性は考えてたから、あまり気にしないようにしている。


「確かカルディナーレの東の国がクリュエル王国、北西の国がディザイア王国、南西のリスティヒ王国だったか?」

「はい。特にリスティヒ王国の造船技術は、カルディナーレ以上です」


 エリザが眉を顰めているが、だからこそフロイントシャフト帝国が援軍を派遣しても、カルディナーレ妖王国から撤退してないんだよな。

 もちろんカルディナーレ妖王国の海軍全軍、とまではいかないが、半数でも差し向ければ勝てる相手なんだが、船の性能はリスティヒ王国の方が上なのは間違いないから、犠牲も多くなるのは避けられない。


 エリザの話からの推測だが、リスティヒ王国の魔導船も基本はカルディナーレ妖王国やフロイントシャフト帝国と同じく、船の後方に風を吹かせている。

 効率が悪い方法だが、ヘリオスフィアの魔導船ではこの推進方法が一般的だ。

 カルディナーレ妖王国の軍船より速度が出ているとなると、従来の方法より効率が良い方法が開発されたか、帆船の技術を組み合わせたかになるんじゃないだろうか?


 まあ、シュラーク商会にウォータージェット推進や鉄船の技術を提供したから、魔導船の性能はフロイントシャフト帝国の方が上になるし、遠からずカルディナーレ妖王国にも製法が伝えられるはずだ。

 だから1年もせずに、リスティヒ王国も滅びるんじゃないかな。

 ヒューマン至上主義国家だし、エリザの故郷のカルディナーレ妖王国に遠慮なく奴隷狩りの兵を派遣してるんだから、とっとと滅びてくれと思わずにはいられない。


 そうそう、カルディナーレ妖王国に向かう時期も決めないとな。


「エリザ、カルディナーレ行きだけど、俺としては早めに行っておきたい。だから来週ぐらいに向かおうと思ってる」

「そんなに早く、よろしいのですか?」

「ああ。フロイントシャフトが派兵してるとはいえ、進軍は徒歩が多いんだし、俺達は海から行くんだから、レジーナジャルディーノ辺りは静かなもんだろ?」

「リスティヒ王国の動きにもよりますが、おそらくは」


 カルディナーレ妖王国妖都レジーナジャルディーノは、海に面している。

 だからリスティヒ王国も、海軍を直接差し向ける事は可能だ。

 だがレジーナジャルディーノは、海からの敵兵や魔物に備えるために、天然の湾や巨大な壁で進入路が限定されている。

 壁は魔法障壁にもなっているから、少々の攻撃ではビクともしないし、いざという時は湾を完全封鎖する事も可能らしいから、守りは硬い。

 建造されたのは1,500年以上前らしいから、修復は出来ても同じ物は作れないのが難点か。

 俺もどうやったらいいのか、さっぱりだ。


 それに海軍のみならず陸軍も3分の1はレジーナジャルディーノの近隣に駐屯しているそうだから、仮にリスティヒ王国がレジーナジャルディーノに攻めてきたとしても、落とすのは無理だろう。

 そんなことはリスティヒ王国の方がよく分かってるだろうから、フロイントシャフト帝国がクリュエル王国を滅ぼす前に行った方が安全じゃないかと思う。


「確かにそうかもしれません。ですが浩哉様、カルディナーレに向かわれるのでしたら、可能であればハイクラスに進化してからの方がよろしいかと思います」

「ハイクラスってことは、レベル101?」

「はい。レジーナジャルディーノには、レベル108のハイラミアがいます。カルディナーレ海軍の元帥ですが、同時にカルディナーレ最強の騎士でもありますから、万が一彼女が立ち塞がるようなことがあれば、今の浩哉様では太刀打ちできません」


 確かに俺のレベルは74だから、レベル108のハイラミアと正面からやり合って勝てる訳がない。

 装備もブルースフィア製だからステータスは底上げされているが、それでもハイクラスに匹敵するとは思えない。


「ステータスでいえば、おそらくブルースフィアの装備に身を固めた浩哉様の方が上でしょう。ですが彼女は、100年以上もカルディナーレを守っているのです。しかも過去には、Mランクモンスターのフォートレス・ホエールを討伐した事もあると聞きます」


 いや、ちょい待ち。

 確かフォートレス・ホエールって、100メートル近い巨体のクジラじゃなかったか?

 しかも海の魔物って事で、Aランク相当になる。

 さすがにそのハイラミア1人でって訳じゃないだろうけど、そんなバカでかい魔物を討伐した事あんの?


「母上が私ぐらいの年の頃だそうですが、演習に出た際に偶然遭遇したと聞いています」


 カルディナーレ妖王国の女王様がいくつかはしらんが、エリザの年齢を考えると、だいたい30年近く前って事か。

 しかもエリザが言うには、演習に出ていたカルディナーレ海軍の軍船は5隻だが、1隻も撃沈させる事無く討伐に成功し、凱旋したらしい。

 軍船は今も昔も、平均で30メートルだから、フォートレス・ホエールの半分以下、下手したら3分の1以下って事になる。

 体当たりを食らった瞬間に沈没が確定するってのに、全て無事で戻ってきたって、すごい話だな。


「つまりそのハイラミアをけしかけて、エリザを強引に解放させようとするかもしれないのか」

「可能性の1つとして、ですね。ですが浩哉様がハイクラスに進化されれば、その可能性は無くなるでしょう」


 レベル的には俺の方が低いが、普通の騎士や兵士とかじゃハイクラスの足止めも難しいから、無用な被害が出るし、そのハイラミアも無傷で済むか分からないから、戦争中のカルディナーレが戦力を減らすような真似はしないって事か。

 それにハイクラスは、単独でも一軍を相手取れる程の力を有しているから、力で俺を従わせるのは不可能に近くなるし、権力は俺にとって何の意味も無いから、対等とまでは言わないが、余計な騒動を起こさずに済むかもしれない。


「分かった。じゃあ明日からしばらくは、外海でレベリングを頑張ろう。ついでにフェイカーを売って、宝瓶温泉も改装しようか」


 そう告げると、みんなから歓声が上がった。

 現在資金は約5000万ゴールドで、フェイカーを売ればさらに約2000万ゴールド追加される。

 宝瓶温泉の改装には約3000万ゴールド程だから、残金は約4000万ゴールド。

 本当はもうちょい稼いでから改装しようと思ってたんだが、どれぐらいでハイヒューマンに進化出来るか分からないから、この機会に改装してしまっておくのも悪くないと思う。

 それに金策はレベリングと平行出来るから、改装費分を稼ぐのも何とかなるだろう。

 またしばらく海の上での生活になるが、不自由はないから、こっちも問題無い。

 エリア、ルージュ、エリザ用の魔導水上艇も購入したいが、アンダーデッキの改装も必要だから、こっちはしばらく見送らせてもらおう。

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