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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第4章・港町到着から始まる王国脱出
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フォルトハーフェン再訪

 ベイル村から亜人と蔑まれている村人達を連れ出してから10日、予定より少し早いが、無事にフォルトハーフェンに到着した。

 予定じゃ2週間見てたんだが、フェイカーを曳航しているとはいえアクアベアリは25ノットで航行していたし、日が沈んでからも2時間ぐらいは進んでたから、その分時間が短縮された形だ。

 早い分には問題ないが。


 港を見回っている衛兵に事情を説明すると、シュラーク商会から話が通ってたそうで、今回は村人分の入場税は掛からないそうだ。

 フォルトハーフェンに避難民が来るのは初めてだが、北の噂は聞こえてきてたから、話を聞いた領主もすぐに対応を指示し、村人の世話はシュラーク商会に一任されていると教えられた。

 俺はシュラーク商会に話を通しただけで安心してそこまで考えてなかったから、余計な手間を掛けてしまって申し訳ないと思う。

 シュラーク商会には、衛兵が報せに行ってくれるそうだから、俺達も含めて停留所に着いても下船しないようにとも言われたから、素直に従おう。


 30分ぐらい待っていると、シュラーク商会フォルトハーフェン支店のネージュ支店長がやってきた。

 さすがにクラーク支店長やアドルフ商会長は帰ってるか。


「中型船と聞いてはいたけど、またとんでもない船を持っているのね。人や荷物の運搬には向いてると思うけど」


 開口一番、フェイカーの率直な感想を口にするネージュ支店長。

 奇抜な見た目なのは否定しないが、運搬能力に関しては保証できますよ。


「まず報告しておきます。あなたから提供された鉄船やウォータージェットという推進機関だけど、試作は完成して、領主様立会いのもとで試乗も行ったわ。結果は良好。すぐに領主様の指示で増産も決まったわ」


 さすが魔法があるだけあって、試作船が出来るのも早いな。

 しかも領主立ち合いのもとで試乗まで済ませて、さらに増産まで決まったとは、えらく話が早い。


「思ってたより早かったけど、増産が決まったってことは、シュラーク商会の収入になるってことですよね?」

「ええ、お陰様で今年は大幅な黒字が確定したわ。領主様もお喜びだったわよ」


 領主も喜んでるっていうのはちょっと引っかかるが、シュラーク商会が儲かるんならいい。

 その分連れて来た人達への援助が手厚くなるかもしれないからな。


「領主様はお会いしたがっていたんだけど、あなた達の素性を告げたら、今回は見送られたわ」


 俺とエリザに視線を向けてから、ネージュ支店長はそう口にした。


 フォルトハーフェンを含む一帯はシュトラント伯爵が治めていて、領都シュトラスブルクはフォルトハーフェンから魔導船で4時間ぐらいの距離にある。

 シュトラスブルクも海に面しているため、造船業は盛んなんだが、南方諸島への日帰りは無理だから、中継点として建造されたのがフォルトハーフェンになるらしい。

 シュトラスブルクとフォルトハーフェンの間には帝国海軍の駐屯地もあるから、造船の新技術はシュトラント伯爵にとっても喉から手が出る程欲しいんだが、1,000年近くもブレイクスルーが無かったため、既存の技術をいかに発展させるかに注力していたみたいだ。

 そこに俺が鉄船やウォータージェット推進の技術を持ち込んだもんだから、シュトラント伯爵も軍備の増強だけじゃなく南方諸島の開発にも弾みが付くと大喜びなんだそうだ。


 ところが、シュラーク商会に俺との面会をセッティングさせようとしたところで、俺がナハトシュトローマン男爵の告発者だということ、エリザという近隣国のお姫様の奴隷がいることを知り、迂闊に接触するのはマズいと判断されてしまった。

 だから今回は、シュラーク商会に対応を任せることにしたんだそうだ。

 あ、俺が避難民を連れてくることも伝わってるけど、新しい造船技術に南方諸島の開発も促進されるだろうってことで、期限付きではあるがシュトラント伯爵も援助してくれることになったらしいぞ。


「住居だけど、しばらくは港の一角に設けた仮説住居を使ってもらうことになるわ」


 仮説でも用意してくれてるだけありがたい。

 後は仕事だが、俺が提供した鉄船やウォータージェット推進を量産するために人手が不足しているから、クラフターズギルドに登録している人はシュラーク商会で雇ってくれるそうだ。

 他の人達はフォルトハーフェンで仕事を探すことになるが、造船業が賑わうと予想されているから、漁師も不足するだろうし、南方諸島の開発もしたいから、人手はいくらあっても足りない状況らしい。

 選り好みしなければ、仕事はいくらでもあるから、すぐに村の人達も働けるだろうし、鉄船やウォータージェット推進の謝礼も援助に回してもらうから、住居に関してもそう遠くない内に何とかなるだろう。


「先の事もあるし、カルディナーレにも伝えることになるでしょうけど、他国への戦術的優位性も確立できるから、謝礼はかなりの額なのよ?それを全部回すなんて、本当に構わないの?」


 俺への謝礼は、シュトラント伯爵も加味してくれているため、1億オールになるそうだ。

 とんでもない大金だが、あんまり使う機会はないから、特に必要とはしていない。

 ラノベとかでも、主人公は金を溜め込むだけ溜め込んで、使うのにえらい苦労をしているっていうのが定番だったが、自分もそうなるとは思わなかった。

 しかも俺の場合は、オールよりゴールドの方が重要度が高いから、本気で使う機会も場所もないんだよな。

 それならベイル村の人達に回して使ってもらった方が、いろんな点から見ても有用のはずだ。


「そこそこ稼げてはいますし、連れてきただけで終わるのも申し訳ないですからね」


 この後はカルディナーレ妖王国に行く予定だし、その後はヴェルトハイリヒ聖教国に行ってから東大陸に行こうと思っている。

 ヴェルトハイリヒ聖教国に行く前に様子を見に寄るつもりだが、その後は年単位で戻ってこないだろうから、本当に連れてきただけで終わってしまうかもしれなかった。

 ある程度の資金は渡しておこうと思ってたけど、シュラーク商会やシュトラント伯爵からの謝礼があるんなら、それを使った方がいい。


「分かったわ。それじゃああなたへの謝礼は、避難されてきた人達のために使わせてもらうわね」

「お願いします」


 そこまで決まってから、フェイカーに乗っている人達とネージュ支店長を引き合わせる。

 道中で俺にも目的があることは伝えてあるから、あとはシュラーク商会に任せる算段だ。

 エレナのお父さんには、何度も遠回しにエレナの解放を口にされたが、エレナ本人に諫められている。

 それでも娘が奴隷というのは耐え難いそうで、費用は必ず払うから解放してくれとも言われたな。


 どうしようかと一瞬考えたが、エレナの購入費だけじゃなく今回の食料なんかも全部俺持ちだから、合わせると最低でも500万オールは掛かるだろう。

 それを伝えると目に見えて怯んだが、必ず払うの一点張りだった。

 さすがに信用が置けないと感じたし、契約達成と同時に奴隷から解放すると、他の奴隷も同じことを条件にする可能性があるから、奴隷契約そのものが成り立たなくなってしまうかもしれない。

 元々エレナが奴隷になった理由は、不作で税を支払えなかったことが理由だが、村長が暴利を吹っ掛けたことも一因だ。


 それでも普通なら支払えたんだが、お父さんが領都から来た商人から無駄な買い物をしてしまったことで、わずかに5,000オールが足りなくなってしまった。

 村長に訴えても聞き入れられなかったから、エレナはその商人を介して奴隷となり、領都で正式な手続きを経てルストブルクに連れてこられたというのが経緯だ。

 元々無駄遣いするのがお父さんの悪癖だそうで、普段はお母さん達がしっかりと財布の管理をしているんだが、その時に限って財布を見つけてしまい、これ幸いとばかりに無駄で無用な物を大量に買い求め、あげく税を支払えなくなり、エレナが奴隷になってしまったんだから、必ず払うと言われても信用できる訳が無い。

 そのことを口にしても納得してくれないから、最近は相手をするのも面倒になってきてるし、エレナも会わなくていいとまで言ってきている。

 なのでフェイカーから降りてもらう前に簡単に挨拶をしてから、後の事はシュラーク商会に丸投げだ。

 フォルトハーフェンにはこれからも来る予定はあるが、少なくともお父さんには会いたくないな。


「マスター、父が申し訳ありません」

「気持ちは分からなくもないよ。ただ悪いけど、エレナが奴隷になった理由もあるし、具体的な返済案も無いみたいだから、信用は出来ないかな」

「当然です。そもそも私は、みんなと同じで開放を望んでいません。父が何を言おうと、万が一私を買い戻そうとしても、マスターが拒否してくだされば問題はありません」


 奴隷からの解放は3つの方法がある。

 1つはマスターが解放すること。

 ただこのケースは、老齢のマスターが自分の死後にっていう遺言を遺すことが一般的だから、現実的とは言い難い。

 2つ目は、奴隷が自らを買い戻すこと。

 契約を達成した奴隷はギルドに登録出来るようになり、報酬の半分を自分の物にすることが出来るから、時間は掛かるが買い戻すための資金を貯めることは十分可能だ。

 もちろんギルドへの登録は、マスターの許可が必要だから、こちらも登録している奴隷は一握り程度しかいないみたいだ。

 家族が買い戻すこともあるが、稀も稀なケースで、買い戻された奴隷も幸せになったことはないと聞いたことがある。

 このケースも、契約を破棄することになるわけだから、マスターの同意が必要になっている。

 そして3つ目は、マスターが告発され、神罰を受けることだ。

 このケースはマスターが契約違反をしていることになるから、上記2つに比べると一番非現実的な方法になる。

 告発は奴隷から行われるが、第三者が訴えることも珍しくない。

 基本的に告発されたマスターは神罰を受けることになるが、告発者が虚偽を語った場合は告発者に神罰が下る。

 身内を解放したいとか、奴隷を横取りしようとか、そういったことを考えて告発してくる者も数年に一度は出てくるそうだ。

 さすがに神罰を下されれば、周囲の人は誰も助けてくれないから、エレナのお父さんも思いとどまってもらいたいもんだ。


「それじゃあトレーダーズギルドに行って、達成の手続きを取ろう」

「はい、お願いします」


 気分を変えて、トレーダーズギルドでエレナとの契約達成の手続きを取る。

 トレーダーズギルドは港から1時間近くのとこにあるから、サダルメリクを召喚しようか迷ったぐらいだが、気分転換や観光も兼ねて歩いていこうって事になった。


「これで手続きは終了よ。5人中4人も契約を達成するなんて、すごいわね」


 担当のラミアさんに褒められてしまったが、エリアとルージュは契約そのものが条件だったから、厳密に言えば俺が契約を達成したのはアリスとエレナだけなんだよな。

 あとはエリザだが、カルディナーレ妖王国の妖都レジーナジャルディーノに連れていけば達成だ。

 諸々の問題が襲い掛かってくるだろうが、あんまりひどいようなら二度と行かないだけだし、追手を放たれたとしても外海に出れば逃げ切るのは簡単だ。

 自分は大丈夫だと勘違いした貴族とかが告発してくる可能性は否定できないが、その場合は自分に跳ね返るだけだから、こっちは警戒しなくても大丈夫だろう。


 だけど今は、エレナとの契約が無事に達成されたことを喜ぼう。

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