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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第4章・港町到着から始まる王国脱出
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魔導船と再登録

 話が纏まると、アドルフ会長自らの案内で、俺達は港に戻ってきた。

 理由は、シュラーク商会が所有している魔導船を見せてもらうためだ。


「こいつが我が商会でも2隻しか所有していない中型魔導船だ」


 シュラーク商会が所有している魔導船は全長40メートル弱の木造で、部分的に金属で補強という、ヘリオスフィアでは一般的な魔導船だ。

 最新式ではあるみたいだが、見てすぐに木造だって分かる造りだし、デッキもメインデッキしかなく、アンダーデッキに相当する部分は船室や貨物室なんだそうだ。


 魔導船っていうだけあって自走式だが、原理は風を後方に吹かせて、その勢いで前に進むみたいだ。

 そのせいで魔石の消耗も激しいってアドルフ会長やネージュ支店長が言ってるが、そりゃそうだろうよ。

 帆に風を当てるとかならともかく、船体そのものを押し出すほどの風を使ってるんじゃら、魔石の魔力だってすぐに尽きるに決まってる。

 実際、風属性のBランクモンスターの魔石なら、1日置きに交換しないといけないし、再使用できるようになるまで丸3日かかるらしい。

 しかも使い方によっては、魔力を大気から吸収出来なくなることもよくあるらしいから、予備も含めて大量の魔石を用意しないといけないみたいだ。


 ただ、俺が物足りなさそうな顔をしてたのが気に入らなかったらしく、激しく詰め寄られてしまった。

 さすがにマズいと思ったし、風を後方に吹かせて進む方法は効率が悪いのも間違いないから、ウォータージェット推進についても提案してある。

 スクリュー推進も頭をよぎったが加工が大変だったはずだし、海藻とかが絡むと面倒だし、何よりブルースフィア・クロニクルの船はウォータージェット推進っぽいから、作り方が分からない。

 ウォータージェット推進は水を取り込んで後方に噴出するシステムだから、後方に風を噴出させる既存の魔導船にある意味じゃ近いと思うから、こっちの方が加工もしやすいんじゃないかと思ったのも理由だ。

 さすがにそんな方法があるとは思わなかったらしく、俺が物足りなさそうな顔をしている理由も理解してくれたから助かった。


 鉄船にウォータージェット推進と、ヘリオスフィアじゃ画期的なアイディアをもたらしたって事で、エレナの村の人達については快く受け入れてもらえることもなった。

 領主の許可も必要だが、そっちもシュラーク商会が対応してくれるそうだから、俺は避難民を連れてくれば、あとはネージュ支店長がやってくれるそうだ。

 領主はフォルトハーフェンじゃなく別の街に住んでるそうだが、南方諸島の開発には力を入れているから、よく来るとも言っていた。

 だから鉄船やウォータージェット推進は間違いなく喜ばれるから、領主も断ることはないとも続いたな。

 そういうことなら、遠慮なく開発してください。


 これでヴェルトハイリヒ聖教国に行く必要はなくなったんだが、ゼーレテンペルの教会には創造神様の神像があるから、俺としては行っておきたい。

 まあ、行くとしてもエレナとエリザの依頼を達成してからだから、しばらく先になるか。


 なるべく早く、できれば1ヶ月以内に避難民を連れてくることを告げて、俺達はシュラーク商会を後にした。


「マスター、思ってたより簡単に纏まりましたね」

「だな。領主が南方諸島の開発に力を入れてたってのもあるだろうけど」

「新しい技術も大きかったわね。鉄の船とか水を噴き出して進む方法とか」


 確かに船の技術に関しては、エレナの依頼の助けになるかと思ってたんだが、思ってたよりあっさりとだったから、俺もちょっと驚いた。

 だけど楽で悪い訳じゃないし、おかげでシュラーク商会の全面協力も取り付けることが出来たから、結果オーライだ。


 とは言っても、エリザに提案されなかったら、普通に技術を売って終わってた気がする。

 それでも恩は売れただろうが、全面的に協力してもらえたかは分からないから、これで良かった。


「ありがとうございます、マスター」

「お礼ならエリザにかな。エリザが提案してくれなかったら、思いつかなかっただろうし」

「もちろんエリザさんにも感謝していますが、マスターが受け入れて下さったからこそ、シュラーク商会の協力を取り付けることが出来たんです。ですからマスター、ありがとうございます」


 丁寧に頭を下げてくるエレナに、少しこそばゆく感じる。

 俺のアイディアじゃないのが引っかかるが、エレナが喜んでくれるんならそれでいいか。


「あとはフォルトハーフェンに連れてくるだけだけど、アリスのハンター登録もあるし、用意もしなきゃいけないから、明日出港しよう」

「はい」


 エーデルスト王国は、フロイントシャフト帝国がカルディナーレ妖王国に援軍を送ることに危機感を募らせているみたいだし、王太子妃のせいでヒューマン至上主義に傾倒してきてるから、なるべく早く村の人達を移動させたい。

 その村もヒューマン至上主義が蔓延しだしてるみたいだから、ゆっくりしてたらどうなるか分からないし、最悪の場合違法奴隷に落とされた上で戦争に駆り出される可能性まである。

 エレナが奴隷になってから半年近く経つから、状況が変わってる可能性もあるし、急がないとな。


 フォルトハーフェンの町に移動して、ハンターズギルドを探す。

 けっこう大きな町だから、ハンターズギルドまでは港から1時間ちょっとかかってしまった。

 サダルメリクを使えば10分少々の距離だと思うが、初めての町だから観光も兼ねて歩くことにしてみた。

 帰りは遠慮なく使うけどな。


「ようこそ、ハンターズギルドへ」

「すいません、彼女の再登録をお願いします」


 受付のダークエルフのお姉さんに、来訪目的を告げる。


「再登録?ライセンスの紛失ですか?」

「いや、彼女は契約奴隷なんですけど、既に依頼を達成したんで」

「なるほど。少々お待ちください」


 ダークエルフの受付嬢さんはよく分からなかったのか、別の人を呼びにいってしまった。

 まあ、契約を達成した奴隷が登録するってことは、買い戻しが前提になってるしな。

 マスターからしても、必要だから奴隷として買ったのに、依頼を達成した後で自分を買い戻されたりしたら、あんまり意味もないから、滅多にないケースなんだよ。

 アリスが自分を買い戻したいっていうならそれでも構わないんだが、そのアリスは奴隷から解放されたいとは思ってないし、俺にもそう明言してるから、再登録は単純にハンターとして活動したいっていう理由になる。


「すいません、お待たせしました」


 しばらくすると、ダークエルフの受付嬢さんがオーガの受付嬢さんを連れて戻ってきた。

 ここからはオーガの受付嬢さんにバトンタッチってことか。


「再登録と聞きましたが、彼女の奴隷契約が達成されてるのは間違いありませんか?」

「はい。こちらを」


 ライセンスの裏側には、俺が契約している奴隷達の名前も記載されている。

 ぱっと見じゃ分からないが、特定の魔法や魔導具を使う事で、契約が達成されたかどうかを調べることが出来るらしい。


「確認しました。3人も契約を達成してるなんて、すごいですね」


 褒められてしまったが、アリスはともかくエリアとルージュは契約が条件みたいなもんだったから、なんか後ろめたい気持ちになってしまう。


「確認しました。ではあなた……アリスフィアさん、こちらに手を乗せて」

「分かりました」


 外だから、アリスは敬語で接することを心掛けている。

 俺的には問題ないんだが、それを見てしまった奴隷が契約条件に加えるかもしれないし、その結果奴隷契約が結べなくなる可能性もあるらしい。

 それに奴隷ごときが、なんて気にする人もいるそうだから、余計な騒動を避けるためにも仕方がない。


「はい、出来たわよ。ランクも以前のままだから」

「ありがとうございます」


 1分ほどで、アリスのハンターズライセンスが再発行された。

 以前のランクとかは記録されているらしいから、ランクも変わらないってことみたいだ。


 あと、せっかくハンターズギルドに来たからってことで、俺とエリア用の鉄の矢を50本買っておいた。

 普段は魔力で作った矢を使うから、使用頻度は高くないどころか皆無に近いんだが、稀に魔法の矢が効かないなんていう魔物もいるから、あくまでも念のためだ。


 同じくついでに、魔物も3匹程売ることにした。

 さすがにシーサーペントやサウルスは問題にしかならないから、今回売ったのはサンダー・スクイドとシー・ヴァイパー、オーシャン・リザードだ。


「マジかよ……」

「どれも数年ぶりの入荷ですね……」


 そう思ってたら、こいつらでも問題になりやがった。


 サンダー・スクイドとオーシャン・リザードはBランク、シー・ヴァイパーはSランクモンスターで、海の魔物としては標準サイズの全長2メートル弱。

 だが海の魔物は、海中にいる場合は1つ上のランク相当になるとされているらしいから、サンダー・スクイドとオーシャン・リザードはSランク、シー・ヴァイパーに至ってはGランク相当の魔物ってことになる。

 Sランクモンスターでさえ年に数度しか討伐されないのに、Gランクモンスターは数年単位で討伐履歴がないから、騒ぎになるのも無理もない話だ。


 はい、やらかしました。

 海の魔物が手強いのは知ってたけど、2,3匹なら大きな問題にならないだろうと思ってたのに、まさか1つ上相当のランク扱いされてるなんて、全く知らなかったよ。

 しかもブルースフィアでの換金額は、サンダー・スクイドが50,000ゴールド、オーシャン・リザードが43,000ゴールド、シー・ヴァイパーが120,000ゴールドだったのに対して、ハンターズギルドの買取額は120,000オール、100,000オール、300,000オールの値が付いてしまった。

 ブルースフィアの換金額はヘリオスフィアの買取額の半額なんだが、今回は3種とも数年ぶりの買取ってことで、ハンターズギルドが色を付けてくれた結果だが、それでも一瞬で捌けるとまで言ってたな。

 本当はシー・サーペントも出そうかと思ってたんだが、シー・サーペントはPランクモンスターで、最後に討伐されたのは20年近く前の話らしいから、もっとヤバい話になってただろう。

 何匹かはインベントリに入ってるけど、これはブルースフィアで換金した方が良さそうだ。

 また狩ったら持って来いよと言われたけど、頻繁に来るのも止めておいた方が無難かな。


 そそくさとハンターズギルドを後にし、市場で大量の食材に調味料、少量の魚介類を購入してから、アクアベアリに戻ることにした。


 何事もなくアクアベアリに戻り、リビングのソファーに腰を掛けて、一息つく。


「ふう。まさかあの3匹でも問題になるとは……」

「フォルトハーフェンならそこそこ狩られてると思ってたけど、まさか数年ぶりだったとは、あたしも思わなかったわ」


 今回売ったサンダー・スクイド、オーシャン・リザード、シー・ヴァイパーは、総額で54万オールになったが、最もランクの高かったシー・ヴァイパーは8年ぶり、サンダー・スクイドは5年ぶり、最も倒しやすいと言われているオーシャン・リザードでさえ3年ぶりの入荷ってことで、ハンターズギルドは歓喜してたからな。

 俺はSランク、アリスはBランクだから、普通なら倒すのは無理なんだが、レベル的にも安全的にも何の問題もない相手だったから、インベントリにはまだ10匹ずつぐらいあったりする。

 なのにそんなことになってるとは思わなかったから、インベントリにあるのは全部ブルースフィアで換金するしかないな。


 入荷が滞っている理由は、2年前に最大規模を誇っていたオーシャン・ハンターのレイドが、南方諸島の先に狩りに出て、戻ってこなかったことが一因となっている。

 そのレイドは、過去にエラスモサウルスの下位種になるプリオサウルスも討伐したことがあるそうなんだが、プリオサウルスはSランクでしかないから、最期の狩りでそれ以上の魔物に襲われてしまい、船事沈められてしまったんじゃないかって考えられているそうだ。

 それもあって、フォルトハーフェンを拠点にしていたオーシャン・ハンターの多くが、南方諸島の方に活動の場を移していると聞いている。

 南方諸島には迷宮ダンジョンがあるから、そっちからの素材は増えてきてるんだが、それでも海の魔物の方がランク的にも性能的にも上だから、ハンターズギルドには多くの素材収集依頼が持ち込まれているとも言ってたな。

 何度か強制依頼も出したそうだが、犠牲が増えるだけという結果に終わったから、以後は強制依頼も出せなくなったみたいだ。


「小物ばかり狩っても、あんまり意味は無いしなぁ」

「そうよね」

「そもそも私達は外海に出ますから、ハンターズギルドが知らない魔物も多くなりませんか?」


 それも問題なんだよな。

 近隣に生息している魔物は、Sランク辺りまでならハンターズギルドもそこそこは網羅しているんだが、それ以上の魔物となると微妙だ。

 有名どころのシー・サーペントやサウルスなんかは知られてるが、そんな魔物は最低でもPランクで、平均したらMランクになるから、とてもじゃないが買取になんて出せない。

 出してもいいんだが、そんな魔物を狩るハンターが目を付けられない訳がないから、無理難題を吹っ掛けられる可能性も否定できないな。


「とりあえず、ハンターズギルドで魔物辞典を買ってきてあるから、売るかどうかはそれで決めるしかないな」

「それしかないわね」


 海の魔物は、数年に一度は新種が見つかってるみたいだから、ランクが低いのなら構わないかもしれないが、高ランクモンスターは避けないとな。

 それだけでランクを上げられることはないが、強制依頼を出される可能性があるし。

 あんまりひどいようならフォルトハーフェンに立ち寄らないようにするし、最悪の場合はハンターズギルドを辞めるってのも手だ。

 その場合は、トレーダーズギルドかクラフターズギルドに登録すれば、身分証は何とかなる。

 魔物を売るってことを考えると、トレーダーズギルドの方がいいかもしれない。


「どうするかは、今後次第ってことですね」

「ああ。それじゃあ飯にして、その後で風呂に入ろうか」

「はい」


 明日はエーデルスト王国に向けて出港だ。

 航行中に中型資材運搬船を買う予定だし、大波にぶつかった場合どうなるかの実験もするから、また外海に出て、アクエリアスに乗り換えだな。

 フォルトハーフェンからエレナの村、ベイル村までの距離は2,000キロちょいってとこだから、準備や実験をしながらだと1週間弱ってとこか。

 帰りはアクアベアリで中型資材運搬船を曳航するから、2週間ちょいはみておこう。

 うん、なんとか1ヶ月弱で行けそうだ。

 エレナとの契約達成も近いし、気合入れていかないとな。

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