表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第4章・港町到着から始まる王国脱出
44/77

フォルトハーフェン入港

 アクアベアリが進水してから5時間、思ったよりも時間が掛かったが、ようやくフォルトハーフェンの港が見えてきた。

 マップでフォルトハーフェンの位置は把握していたんだが、パワーレベリングのためにかなり離れてたし、速度を落とさず全速で進むつもりだったから、これだけ時間が掛けてしまったのは俺の判断ミスだな。

 特に南方諸島を過ぎてからは25ノットに落としたこともあって、3時間近くかかったし。


「さすがに港町だけあって、港も大きいですね」


 エリアの意見に俺も同意だ。

 フォルトハーフェンの港は、アクエリアスでも20隻ぐらいは停泊できそうなぐらいの大きさだった。

 多分あの大きさなら、100メートル級の魔導船でも、10隻はいけるんじゃないだろうか?


「港だけでも町に近い大きさだね」

「本当にね。港町なんだから、これぐらいは当然かもしれないけど」


 フロイントシャフト帝国最南端の町で、迷宮ダンジョンのある南方諸島への玄関でもあるから、確かに大きな港は必要か。


「さすがに入口は狭いけど、警備っていう意味でも必要だし、衛兵の乗った船もけっこうあるわね」

「そりゃ海から勝手に入ってこられたら、治安も何もあったもんじゃないからな」


 広さに反して、港の入口は大型魔導船がギリギリすれ違えるぐらいの広さしかなく、衛兵の乗った船も配置されている。

 さらに港の中にも、衛兵の乗った船が3隻ぐらい見回りを行っているな。

 衛兵の乗っている船は、アクアベアリより一回り小さいぐらいの大きさの魔導船だが、居住性は無さそうだ。


「陸上と違って、あそこで身分証の確認と入場税を支払うわけか」


 陸上だと門の前に衛兵の詰所があり、そこで身分証の確認と入場税を支払うが、港だと入口で行うみたいだ。

 考えてみれば、それは当然の話だよな。


 そのままアクアベアリを進め、港の入口に差し掛かると、衛兵の魔導船が近付いてきた。


「そこで停泊せよ」


 そう言いながら、衛兵が2人、アクアベアリに乗り込もうとしてきている。

 あー、そりゃそうなるか。

 外観はカモフラージュフィールドで偽装してるが、内装にまでは手が加えられてないから、これはマズいか?


「どう思う?」

「珍しい魔導船ってことで押し通すしかないんじゃない?」

「というか、それ以外にないでしょ」


 アリスとルージュの言う通りか。

 さすがに中まで検められるようなら、ちょっと考えないといけないが。


「な、なんだ?乗り移れないぞ?」

「あ、しまった。すいません、ちょっと待ってください」


 そうこうしていたら、乗り移ろうとしていた衛兵達が侵入不可に阻まれてしまった。

 忘れかけてたが、俺が許可を出さない限り、対象外に指定されてる俺の奴隷達以外は入れないんだった。

 急いで許可を出すと、2人の衛兵は無事に乗り移ってきた。


「今のは結界か?」

「ええ。防犯用です。海賊もいますからね」

「確かに珍しいものではないか。だが停泊中は構わないが、臨検の際は解除してもらわないと困るぞ?」


 ごもっともです。


「すいません、気を付けます」

「そうしてくれ。それで、ここにいる者で全員か?」

「ええ、そうです」


 ハンターズライセンスを出し、確認してもらう。

 奴隷に身分証は無いが、俺のハンターズライセンスの裏面に名前が記載されているから、これで全員だっていう確認は取れるのがありがたい。


「奴隷が5人か。契約を履行するのも大変だと聞くが、大丈夫なのか?」


 心配そうな顔で、ベテランっぽい衛兵が訊ねてくる。

 つい最近、神罰が下ったばかりだから、そう思う気持ちも分かるし、心配してくれてるっていう雰囲気も感じられるから、好感度は高いな。


「ええ、大丈夫です。3人は達成していますし、残ってる2人も時間を掛ければなんとか」

「それならいい。若いのに優秀なハンターだな」

「この魔導船、どこで手に入れたんだ?」


 若い方の衛兵は、アクアベアリが普通の魔導船と違うことに驚いていた。

 地球製だったらヤバかったが、アクアベアリはブルースフィア・クロニクルの船だから、似たような感じならヘリオスフィアでも作れるんじゃないだろうか?


「死んだ師匠が、趣味で作ってたんです」

「そうか。いや、すまないな」


 死者を利用してるようで気が引けるが、それ以上の詮索は無くなったから助かった。


「では入場税を徴収させてもらう」

「分かりました」


 入場税は1人1,000オールで、奴隷であっても金額は変わらない。

 ベテラン衛兵の出したLCSにライセンスを当てて、6,000オールを引き落としてもらう。

 貨幣は硬貨しかないから、いちいち用意しなくてもいいのは助かるし、衛兵も両替やお釣り用に用意しなくてすむから、便利だよな。


「確かに。停留所は37番を使ってくれ」


 停留所は、番号で割り振られてるのか。

 入口に近い程番号が若いみたいだから、迷いにくいのはありがたいが、見る限りだとその倍以上の数を停めてもまだ余裕がありそうだ。


「分かりました。あ、シュラーク商会ってどこにありますか?」

「シュラーク商会?それなら港の入口にあるぞ。まさか、この魔導船を売る……そんなはずがないか」

「ええ、別件です」


 さすがにアクアベアリを売るつもりは無いし。


「別件か。気になるところだが、詳しく聞くつもりはない。では我々は戻らせてもらう」

「お勤めご苦労様です」

「ああ。ようこそ、フォルトハーフェンへ」


 歓迎の挨拶をいただいて、俺達はようやくフォルトハーフェンの港に入港した。


「えーっと、37番はっと……ああ、あそこか」

「思ったより離れるけど、それぐらいは仕方ないか」

「それはな。それにしても、随分と広い停留所だな」


 停留所は思ったよりも広く、アクエリアス級の魔導船でもなんとか停められるんじゃないかと思える広さがあった。

 アクアベアリの全長はアクエリアスの半分以下だから、随分とスペースが余るな。


「変に狭いより、広い方が安全ですよ。ところで浩哉様、アクアベアリは停泊させたままにしておくのですか?」

「そのつもりだよ。送還することも考えたけど、アクアベアリサイズでもストレージに収納出来る人は一握り程度しかいないし、万が一ストレージを使って盗まれたとしても、送還すれば取り戻すことは出来る」


 ヘリオスフィアにはストレージングやインベントリングっていう空間収納魔法があり、触れば収納出来てしまう。

 魔導船や魔導車は、誰も乗っていない間は専用の魔導具を使っておけば収納出来なくなるんだが、その魔導具が壊されたりすれば話は別だ。

 しかもストレージの中を検める方法は少なく、さらに禁制品ぐらいしか引っかからないから、盗まれたりなんかしたら泣き寝入りするか、大体的な捜査網を敷いて炙り出すかぐらいしか方法がない。

 だから停車、停泊中は人が出入りできないよう、結界の魔導具も併せて使うのが一般的となっている。


 翻ってアクアベアリは、収納対策は皆無に近い。

 だがアリスに協力してもらって、ストレージの中からでも送還できることは確認済みだし、そもそも侵入不可のおかげで船体に触れることも出来ないから、収納魔法を使って盗むような真似はできないはずだ。

 しかもアクアベアリサイズの魔導船を収納しようと思ったら、MPが800は必要みたいだから、容疑者はかなり限られる。

 そういった人達も理解しているし、そこまでMPがあるってことはレベルも高いってことだから、金には困っておらず、犯罪行為に手を染める必要もない。


「そういえば雨が降っても、アクエリアスは濡れてなかったわね」

「そういえば。まさか雨が当たってすらいなかったとは、さすがに思いませんでしたよ」

「実際に使うには俺達ぐらいだから、俺も気にしてなかったな。だけど収納魔法がある以上、何らかの対策は必要だったし、移動中は時間があったから、ブルースフィアを開いてしっかりと確認してたんだよ」


 移動中は暇だったこともあるが、収納なんてされたら探すのは不可能に近くなるんだから、その辺りの確認は必須だ。


「あとは難癖付けてくるバカの相手だけど、こればっかりはその時にならないとな」

「確かにね」


 出てきてほしくないが、用心はしとかないとな。


「よし、停泊完了だ。久しぶりの陸だな」

「5日も海の上にいたとはいえ、まったく不自由は感じなかったわね」

「アクエリアスもですけど、アンカやシトゥラも凄かったですしね」


 そういやエリア、ルージュ、エリザも、アンカとシトゥラの操縦を覚えてたな。

 現在アクエリアスのパーキングエリアにあるのはサダルメリク、スカト、アンカ、シトゥラの4台だが、サダルメリクとスカトは俺専用にしている。

 アンカとシトゥラはアリスとエレナ用ってことで購入したんだが、さすがにあと3台追加は資金的にもスペース的にもきつかったから、5人で共用ってことにしてもらった。

 3人にも魔導水上艇を買おうと思ったら、最低でもアンダーデッキのほとんどを改装しなきゃダメだろうな。

 いや、今でも積み込むことは出来るんだが、キャリアーまで設置となると厳しいんだ。

 まあ、どうするかは、おいおい考えるとしよう。


「それじゃあ、シュラーク商会に行こうか」


 フォルトハーフェンにきた目的は、エレナの村の人達を連れてきても大丈夫かの確認と、シュラーク商会の魔導船を見せてもらうことだ。

 とはいえ、その時は魔導船を見せてもらってから、小型船を買おうと思ってたんだよな。

 既にアクアベアリを使っているからあんまり意味は無いんだが、興味はあるから、今となってはそっちの理由の方が強い。


 アクアベアリを降りて、港の入口まで進む。

 港の入口にはいくつかの店が軒を連ねていて、武器屋や防具屋なんかもあるし、食堂もある。

 ただ、さっきから気になってたんだが、漁船らしき船は見られない。


「漁船がありませんね」

「この一帯は貴族や商人の船を停泊させるための区画でしょうから、漁港は別に用意されているはずです」


 エリアも気になってたようだが、エリザが疑問に答えてくれた。

 確かに魚の臭いはキツいから、特に貴族辺りから苦情が出るか。


「漁港があるんなら、あとでお魚も買うの?」

「それもアリだな。まあ、どうするかは後で考えよう」

「うん」


 最近はエレナとエリアが料理を作ってくれることもあるから、食材を買うのはアリだな。


「お魚も良いですけど、マスターのお目当ての魔導船も、けっこうな数が停まっていますよ?」

「だな。中型船も何隻かあるし、見た感じだとアクアベアリも目立ってない気がする」


 木造船ばかりだが、アクアベアリも見た目は木造船になるよう偽装しているから、その点で目立つことはないはずだ。

 さすがに偽装を解除したら、金属素材も船体に使ってるから、危険なことになりかねない。

 まあ、それを防ぐためにも、金属船の知識は伝えるつもりだが。


 港には中型船どころか大型船も何隻か停泊してるから、アクエリアスでも大丈夫かもしれないと一瞬思ったが、見る限りだと居住性は低そうだし、資材とか人員とかの輸送に特化してる感じがするから、偽装しても悪目立ちするのは避けられそうもない。


「フォルトハーフェンじゃ、アクアベアリを使うしかなさそうね」

「元々そのために買ったんだから、問題はないよ。残念なのは事実だけど」


 外海に出ない以上、ヘリオスフィアの船は娯楽より実用が重視されてる感じだから、さすがに諦めるしかない。

 たとえ港に入れなくても、人目が無けりゃアクエリアスを使うんだし、それが満足しておこう。


「マスター、武器屋にはいかないんですか?」

「武器屋?いや、必要ないでしょ?」


 俺達が装備しているのは、ブルースフィア・クロニクルの☆5や☆6の装備だし、ブルースフィアのレベルが5になったことで開放された、プレインズフィールドというアクセサリーで見た目も偽装しているから、武器や防具を買う必要はない。

 当然エリアもなんだが、なんでここで武器屋なんて出てきたんだ?


「いえ、私もですけど、マスターも弓を使いますから、何本か矢を買っておいた方がいいのではと思いまして」


 あー、そういやそうだった。


 ヘリオスフィアの弓は、魔力で矢を生成して使うから、魔力が切れない限り矢切れも起こらない。

 だから矢はあまり需要が無いんだが、魔法の聞きにくい魔物もそれなりにいるから、実体のある矢を使う場面もあるし、威力もそちらの方が上になる。

 ヘリオスフィアに来た頃は俺も矢を何本か持った方がいいと考えてたのに、今まで必要性を感じなかったし、ブルースフィア・クロニクルには矢なんて無かったから、頭からすっぽりと抜け落ちてたみたいだ。


「そうだった。あとで寄ろう」


 弓を使うのは俺とエリアだけだが、予備も含めて100本もあればいいだろう。

 確か木製の矢で1本50オール、金属製は使う金属にもよるが、だいたい1本100オールぐらいか。

 木製は安いんだが威力が今一だから、買うなら金属製だな。

 俺達の主戦場は海だから、普段はストレージに入れておくにしても、鉄は錆びやすいから避けたい。

 そうなるとミスリルっていうのが最有力だが、ミスリルは産出量の問題もあって他の武器に優先的に使われるから、1本300オールぐらいになってしまう。


 錆びない金属だと、後はアダマンタイトやオリハルコンがあるみたいだが、北大陸だと産出量が少ないから、ミスリル以上に高価なんだよな。

 確かアダマンタイトは南大陸、オリハルコンは東大陸でそこそこ採れるみたいだが、逆にミスリルは少ないみたいだ。


 合金っていう発想はあるみたいだから、鉄に少量のミスリルを混ぜた合金の矢っていうのが理想かな。

 フォルトハーフェンに売ってるかは分からないから、見てから考えよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ