パワーレベリング開始
外海に到着してすぐにアクアベアリを召喚し、みんなで乗り移る。
それからアクエリアスを送還してから再召喚。
これでセーフティーフィールドが、搭載されているサダルメリクとかにもまとめて搭載された。
アクエリアスに乗り移ってからアクアベアリを送還し、みんなの準備が整っていることを確認してから、ハイディングフィールドを解除する。
これでしばらくしたら、魔物が襲ってくるだろう。
「とは言っても、いつ来るか分からないのよね」
「さすがにね。海は広いから、簡単に遭遇しない気もするし」
ヘリオスフィアの大きさは地球より一回り程小さいらしいが、海はマップの7割近くを占めている。
大型化しやすい海棲種といえどせいぜいが数十メートルといったところだろうから、簡単に遭遇出来る訳が無い。
「いつ来るかも問題ですが、来たとしても気が付けるでしょうか?」
エリザの疑問は、実は俺も感じていた。
アクエリアスは全長50メートル近くあり、侵入不可というアビリティのおかげで攻撃が通用しないどころか衝撃すら通さない。
魔物もデカければ分かると思うが、小型種が出てきた場合は、居場所によっては気が付かないなんていう可能性も否定できない。
「アクアベアリの方が良かったかもしれませんね」
「今更だわ。というか浩哉、確かアクエリアスって、魔物がいるか探知できるんじゃなかったっけ?」
エリアの言う事ももっともだが、俺がアクエリアスを使ったのはもちろん訳がある。
アリスの言う通り、アクエリアスにはレーダーがあり、マップと併用することで魔物がどこにいるのかを知ることが出来る。
実際にはアクエリアスだけじゃなく、ブルースフィア・クロニクルの乗物の標準装備だから、何に乗ってても分かるんだよ。
だからアクエリアスの大きな船体でも、接近してくる魔物がどこにいるのかは知る事が出来る。
しかもマップはリビングやマスターズルームにある大型モニターに映し出せるから、いちいちブルースフィアを開かなくてもいいし、みんなも確認できるから、リビングやマスターズルームで適当に時間を潰してても問題無い。
「そういえば、そんなお話でしたね。私達から魔物に向かっていくことなんてありませんでしたから、すっかり忘れていました」
少し恥ずかしそうな顔をするエレナだが、これは俺にも責任があるんだから気にしないでほしい。
「急ぐ必要もあったし、街道沿いだと魔物は滅多に出てこないみたいだからね」
運が良ければ、魔物に遭遇せずに目的地の町まで到着、なんてことも珍しくないみたいだしな。
実際エレナも、奴隷としてルストブルクに連れていかれる際、魔物に遭遇しなかったって言ってたし。
むしろ街道を移動する場合は、魔物より盗賊の方が厄介だったりするって話だったはずだ。
「サダルメリクで移動中はハイディングフィールドを張っていますから、盗賊を気にしなくて済むのはいいですね」
「殺しても罪にならないとはいえ、けっこうクるものがあるしね」
この中で実際に盗賊を手に掛けたことがあるのは、アリスだけになる。
Bランクハンターに昇格してすぐの頃、魔物を狩ってる最中に偶然遭遇してしまい、止む無く命を奪ったそうだ。
しばらくは気持ちの整理に大変だったそうだし、今でも時々夢に見るって言っていて、実際に夜にうなされている姿も見たことがある。
その場合は俺が慰めてから、しっかりと体力を使ってもらってから眠ってもらうんだが、俺の睡眠時間も削られるから、さりげなく辛い。
「盗賊は遭遇したら考えるけど、積極的に相手をするつもりはないかな」
人を殺す覚悟は、さすがにまだ出来ていない。
それでもいつかは経験するんじゃないかっていう予感があるから、その相手として盗賊を探すのもアリだと思う。
もちろんみんなに経験させるつもりはないから、俺が頑張るつもりだ。
人を殺した場合は、酒や女で気を紛らわせることが多いそうだから、みんなに頼ることにはなると思うけど。
重い話になってきたから、盗賊の話から離れて別の話題を探す。
みんなが食い付いたのは、アクエリアスの改装についてだった。
ブルースフィア・レベル5で開放された拠点設備の温泉を宝瓶温泉に設置したいって話をしたら、これから狩る魔物は全部ブルースフィアで換金しようとまで言い出したぐらいだ。
いや、俺もそのつもりだから、全員の承諾を得られたのはありがたいんだけどさ。
他にもいくつか使えそうな設備があったが、やっぱり風呂関係は強く、改装したばかりだっていうのにまた大改装になりそうな勢いだった。
というか、大改装を約束させられてしまった。
俺としても拠点設備は設置したいから、別に構わないんだが、さすがにルーフデッキ全域を温泉にっていうのは予想外だったな。
面白そうだし、別に構わないとも思ってるんだが、試算してみたら1億ゴールド近く掛かったから、本格的に魔物狩りをしなきゃいけない。
あれやこれやと議論していたら、ついにアクエリアスに接近している魔物を補足した。
マップじゃ赤い点が近付いてきてるようにしか見えないから、どんな魔物なのかとか、どれぐらい大きいのかとかまでは分からないが、数は確認出来るから、それでよしとしておこう。
「数は1匹なのね」
「海での初戦闘だし、手頃な魔物だとありがたいですね」
エリザに同意だが、こればっかりは俺達の都合は関係ないから、俺達の手には負えない魔物っていう可能性も否定できない。
「この位置からだと、フロントデッキで迎え撃つ形だな」
「広いからいいけど、回収するのが面倒ね」
「そればっかりはな」
アクエリアスからだと魔法が効果的だが、通用するかどうかは試してみないと分からない。
直接攻撃も、俺とエリアは弓、アリスは鞭、エリザは多節剣があるから何とかなるし、エレナも槍だから上手く使えば大丈夫だと思うんだが、大斧を使ってるルージュにはちょっと厳しいか。
パワーレベリングだし、効果がなくても魔法が当たれば大丈夫だと思うから、実際に戦ってからどうするか決めてもらおう。
全員でフロントデッキに上がり、魔物の姿が見えるのを待つ。
5分ぐらいすると、その魔物が見えてきた。
なんかデカいな。
「すっごく大きいけど、あれって何なの?」
「見た目はサーペント系だけど……胴体はリザードっぽいわね」
体を縦にくねらせながら、真っ直ぐアクエリアスに突っ込んでくる魔物を見ても、何の魔物なのかがさっぱり分からない。
アリスの言うように蛇系な気もするけど、胴体が不自然に太いから、首の長いリザードって言われても納得出来る。
というか、どこかで見た事あるような気が……。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
「案の定跳ね返されたけど、けっこうタフね」
「意識があるどころか、戦意を失わない魔物って初めてじゃないかしら?」
俺もそう思う。
今まで侵入不可に弾かれた魔物は、半分以上がその場で気絶してたし、衝撃で死んでしまった魔物もいたぐらいだ。
だがこの魔物は、傷こそ負っているが意識はしっかりと保っているし、それどころか怒りの声を上げながら再度アクエリアスに向かってきているぐらいだ。
「浩哉、サーベイ・リングは使ったの?」
「ああ、そうだった」
アリスに言われて、サーベイ・リングの鑑定を使ってなかったことを思い出した。
最近つかってなかったから、すっかり忘れてたと言った方が正しいか。
俺は魔物に対して、そのサーベイ・リングのアビリティ:鑑定を使った。
エラスモサウルス
♂
モンスターズランク:P
有用素材:牙、皮、肉
魔石属性:水
ブルースフィア:3,000,000ゴールド
まんま恐竜かよ!
道理で見た事あると思ったよ!
日本にいた頃、図鑑で見てたんじゃないか!
しかも、確かサウルスって、ドラゴンの一種じゃなかったか!?
突っ込みどころ満載の正体に、俺は何から突っ込んでいいのか分からず、逆に混乱してしまった。
「浩哉様?」
「あ、ああ、ごめん。この魔物、エラスモサウルスっていうらしい」
「えっ!?」
「そ、それって……!」
地球じゃ恐竜って呼ばれているが、ヘリオスフィアじゃドラゴンの一種になる。
頂点にいるのがドラゴニアンで、その下がドラグーン、サウルスはその下になるが、モンスターズランク的にはSランクからOランクまで幅広い。
エラスモサウルスはPランクだから、サウルスの中じゃ下の方になるんだが、一般的に見たら十分過ぎるほど強力な魔物だし、場所が海だから、実際のランク以上に手強いと言われていたはずだ。
浅瀬に来ることはほぼないが、皆無という訳じゃないから、稀に討伐されることがあり、しかもドラゴンの一種ってこともあって買取額もかなり高い。
換金額が半額になるはずのブルースフィアでも300万ゴールドになるぐらいだから、俺からしたらランク以上に美味しい魔物だと言える。
だがエリザ達は、ここでエラスモサウルスなんていう竜の一種と出くわすとは思っていなかったようで、真っ青な顔をしている。
「これがエラスモサウルスなのね。Pランクだけど、海ってことを考えたらMランクに相当するかも」
ただ1人、アリスだけが戦意に満ちた表情をしているのが対照的だ。
「みんな、落ち着いて。相手がドラゴンの一種でも、アクエリアスに攻撃が通らないのは証明済みだから」
「あ……」
「そ、そういえば……確かに……」
ドラゴンと遭遇したという衝撃も、俺の一言で少しは和らいだようだ。
全力でアクエリアスに突っ込んできたエラスモサウルスだが、アクエリアスに傷1つ付けるどころか衝撃すら来なかったし、今も魔法を使ってきているが、それも侵入不可によって霧散していく。
ついにはブレスまで吐いてきたが、それすらも通用しないから、エラスモサウルスにとっては絶望的な状況と言ってもいいだろう。
「見てて気の毒だから、早く狩りましょう」
「だな。先にみんなが攻撃を当ててくれ。トドメは俺かアリスが刺すから」
「わ、分かりました」
距離があるため、弓でもなければエラスモサウルスには攻撃が届かない。
だからエリアは弓を使うが、エレナ、ルージュ、エルザは、それぞれが最も適性のある魔法をエラスモサウルスに放った。
外れたのもあるが、何発かは命中しているから、これなら大丈夫だろう。
「それじゃあ行くわよ!『サンダー・ジャベリン』!」
アリスが放ったのは、雷属性の第3階梯魔法サンダー・ジャベリンか。
魔法はスキルレベルによって威力が増し、使用出来る種類も増えていく。
第5階梯辺りまでは各属性似通ってるんだが、それ以降になると大きく変化してくるらしい。
現在のアリスの雷魔法スキルは3だから、威力もあるし発動も早いサンダー・ジャベリンは、杭に近い大きさの雷槍を撃ち出す魔法で、けっこう使いやすいと評判の魔法だったと思う。
その後で俺が放ったのは、雷属性第5階梯魔法ライトニング・ポールだ。
落雷のダメージはもちろん、柱となった雷に閉じ込められて継続的なダメージを与え続けるため、雷に弱い魔物にとっては天敵に近い魔法と言われている。
しかも便利なことに、魔物の体全てを雷柱に捉えてくれるし、どれだけ大きな魔物であっても消費MPに変化はなかったりもする。
「それじゃあトドメ、貰うわよ!」
俺のライトニング・ポールの中で苦しんでいたエラスモサウルスは、アリスが再度放ったサンダー・ジャベリンに頭を貫かれて、力無く崩れていった。
俺はブルースフィアを開き、そのエラスモサウルスを対象に指定してから買取ボタンをタッチする。
するとエラスモサウルスが魔法陣に包まれ、海に沈むかのように消えていった。
ブルースフィアを確認すると300万ゴールド増えていたから、サーベイ・リングの鑑定結果が正しい事も確認できたな。
「換金完了」
「換金するだけなら、いちいち回収に行かなくてもいいのは便利よね」
「同感だ」
これもブルースフィアのレベルが5になった時点で開放された機能になる。
出張買取なんて言われても、何のことか最初は分からなかったぐらいだ。
要は俺の手が触れられない距離であっても俺達が倒した魔物であれば、少々の距離なら無視して換金してくれる機能ってことになる。
フォルトハーフェンまでの間で何度か試してみたが、だいたい200メートルぐらいまでは出張してくれる感じだ。
陸上じゃ使う機会はそうそうないと思うが、海上だとかなりお世話になる機能だと思う。
「それにしても、1匹で300万ゴールドか。思ってたより高かったけど、だからこそ逆に遭遇する機会は少ないんだろうなぁ」
「あんまりホイホイ遭遇しても困るわよ。ここは外海だからいいけど、下手したら漁師や諸島の住人が襲われるんだから」
ああ、そうだったっけか。
エラスモサウルスに限らず、サウルスが生息しているのは、基本的には外海になる。
稀に人の生活圏に入り込むこともあるが、頻度としては数年に一度ぐらいで、今の所壊滅的な被害をもたらしたことはなく、確認と同時に討伐もされているらしい。
上手く陸上におびき出すことが出来れば、1つ下のランク相当にまで脅威度が下がるから、戦い方によっては倒しやすくなるみたいだ。
それでも怪我人は毎回出るし、運が悪いと死者も出るから、ハイリスクハイリターンの魔物であることに違いはない。
慣れているハンターでそんな感じなんだから、漁師とか船乗りからしたら悪夢に近い存在になる。
外海に出る人が少ないのも、サウルスが生息しているからっていう理由も大きいんだろうな。
「それもそうか。だけど初っ端から思ってたより高額になったから、幸先は良いな」
「10匹も狩れば、温泉は設置できそうですね」
「さすがにエラスモサウルスが10匹なんて、早々出てこないと思うけど、目標に近くなったのはいいわね」
「あとはレベルだけど、さすがに1匹狩ったぐらいじゃ変化はないか。みんなはどう?」
改装費用も稼がないといけないから、エラスモサウルスは非常に美味しい相手だった。
だけどメインはパワーレベリングだから、みんなのレベルも確認しておかないと。
ちなみに俺のレベルは1つ上がって、64になっていた。
「47になってるわ」
「私は34です」
「私は29ですね」
「26になりました!」
「わたくしは35です」
けっこう上がってるな。
だいたい3~4アップしてるが、アリスまで3つも上がってるのか。
アリスはトドメを刺したから、その分のボーナスが加算されたんだろうな。
エレナは2つしか上がってないけど、エラスモサウルス相手に水魔法を使っちゃってたから、それが響いたのかもしれない。
エリアとエリザは3つずつだけど、この2人は魔法だけじゃなく弓や多節剣も積極的に使ってたからかな。
4つもレベルが上がったルージュだが、一番レベルが低いことを気にしてたから、早くレベルを上げようとすごく頑張っている。
エラスモサウルスにも果敢に雷や風属性の魔法を使って攻撃してたし、アタックスキルまで使ってたぐらいだ。
成長速度向上スキルもあるから、このままのペースを維持できるようなら、みんなのレベルアップも早そうだ。
それでもどこに人の目があるか分からないから、普段はハイディングフィールドを張っておくつもりだが。




