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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第4章・港町到着から始まる王国脱出
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もう1つの帝国と聖教国

 シュロスブルクを発ってから2週間が経った。

 俺達はようやく目的地の1つ、港町フォルトハーフェンに到着した。


 シュロスブルクからフォルトハーフェンまでは、獣車でも2週間ほどだから、サダルメリクなら数日もかからずに到着できる。

 だけどあまり早く到着しても問題しか起こらないから、あえてゆっくりと進むことで時間の矛盾を無くし、あまり人の来ないような場所で狩りをして、レベル上げも行っていた。

 その甲斐あって、俺はレベル63になったし、アリスもレベル44に、エレナはレベル32になった。

 騎士としての訓練を積んでいたエリザもレベル32になったし、弓の扱いに慣れ始めたエリアもレベル26に、ほぼ魔法で戦闘を行うルージュもレベル21になってるから、新米ハンターとしてなら十分な経験が詰めていると思う。


 当然のように何もしなかった日もあるが、その日は1日中アクエリアスの中で裸で過ごしたな。

 エリア、ルージュ、エリザも少しは慣れてきたようで、恥ずかしそうにはしているが、俺の前でもあまり抵抗なく肌を晒すようになってきている。

 もちろんその日は、全力で頑張らせていただきましたとも。


 そういやアリスの再登録はしてないから、フォルトハーフェンに着いたらハンターズギルドに行かないといけないな。

 エリアとルージュも契約条件が契約条件だから、契約と同時に達成扱いになっていて、アリスと一緒に達成手続きも終えてるから、登録しておくべきか?


「ここがフォルトハーフェンなのね。潮風が気持ち良いわ」

「今のうちだけだと思う。慣れてきたら、ベタつく潮風が鬱陶しく感じるかもしれないな」

「それはありますね」


 カルディナーレ妖王国の妖都レジーナジャルディーノは海に面しているため、気候的にはフォルトハーフェンに近い。

 そのレジーナジャルディーノで生まれ育ったエリザにとっては、懐かしい光景なんじゃないかな。


「そんなもんなんだぁ」

「慣れるとそんなものですね」


 だよな。


「フォルトハーフェンに着いたら、確かシュラーク商会に行くんだったわよね?」

「アクアベアリと比べてみたいからね」

「せっかく購入したのに、あまり使ってないですよね」

「フォルトハーフェンに着いてからが本番だと思って買ったから、特に問題じゃないかな」


 むしろアクアベアリで問題になったのは、マスターズルームの狭さだったからな。

 最大搭乗数7人の小型魔導船アクアベアリだが、全長は17メートル近くある。

 だからマスターズルームも広さ的には十分なんだが、6人で使うとなると少しキツい。

 それでも拡張して、部屋の8割をベッドに変更してるから、何とか使えるって感じか。

 あとルーフデッキにあるコックピットは撤去して、その分浴槽を広げ、宝瓶温泉と同じく常にお湯が張られている状態になるよう手を加えてある。

 お湯張りは簡単に出来るんだが、すぐに入れるわけじゃないから、これはこれで十分有用だと思う。

 2度ほどアクアベアリに泊まっているが、そんな風に感じた。

 手狭にも感じたが、それは小型魔導船だから仕方ない。


 俺達がフォルトハーフェンに向かう事はシュロスブルクでも伝えてあるから、道中でどこの町にも立ち寄らないというのは不自然になる。

 だから途中で狩った魔物を買い取ってもらうために、3つの町に立ち寄り、ついでに告発に関しての噂も集めてみた。

 シュロスブルクに転移してきたナハトシュトローマン男爵だが、神罰によってMPが尽きない限り回復してしまうため、死刑にも出来ない。

 そのため見せしめとして多くの町を巡り、愚者の末路を見せ付けた上で石打刑を科し、シュロスブルクに戻り次第MPを吸収する魔導具を使ってMPを枯渇させ、最終的に晒し首となるらしい。

 ナハトシュトローマン男爵は因果応報の自業自得だが、それに付き合う騎士やら軍人やらが気の毒だな。

 各領地の領都は必ずだし、道中にある町にも立ち寄るから、どれぐらい時間が掛かるか分からないのも辛いだろう。


 ナハトシュタットに向かわされた騎士団は、そろそろナハトシュタットに到着する頃か。

 ひと悶着あるんだろうが、ナハトシュトローマン男爵が神雷に打たれて姿を消したのは知ってるだろうから、もしかしたら逃げ出してるかもしれない。

 奴隷達は、神託が下ってるから、ナハトシュタットの教会が保護してくれてると思う。


 カルディナーレ妖王国への援軍は、あと1週間もせずに進軍準備が整うみたいだ。

 既に皇太子が、皇帝とエリザの書状を携えて妖都レジーナジャルディーノに向かってるそうだから、進軍はそれからになるだろう。

 ヒューマン至上主義に傾倒してない隣国を通過する事になるが、そっちには既に話を通しているみたいで、フロイントシャフト帝国は本気でカルディナーレ妖王国に隣接している3つのヒューマン至上主義国を滅ぼすつもりでいると、どこの町でもすごい噂になってたな。

 相手は小国だし、軍も1万から2万が精々ってとこだから、フロイントシャフト帝国が派遣する4万の兵に加えてカルディナーレ妖王国の兵6万もいるから、遠からず3国とも滅びることになるんだろう。


 カルディナーレ妖王国にエリザを連れていく必要があるが、時期的に戦時中になるのは避けられない。

 戦争が終わってからの方がいいんだが、終戦までどれぐらい掛かるか分からないから、半年を目途に向かう予定にしている。


 ただフロイントシャフト帝国のこの決定に、ヒューマン至上主義に傾いている隣国のエーデルスト王国が危機感を募らせているとの噂もあるから、急いでエレナの村に行く必要が出来たし、場合によっては先に連れ出して、その後でフロイントシャフト帝国なりヴェルトハイリヒ聖教国なりに連れていくしかないかもしれない。

 亜人と蔑まれている以上真っ先に徴兵されるだろうし、カルディナーレ妖王国に援軍を出すことでフロイントシャフト帝国は手薄になるから、先手必勝とばかりに兵を挙げる可能性はあるみたいな雰囲気だった。


 ナハトシュトローマン男爵のせいで、国内どころか周辺国まで巻き込んで、大いに荒れてきたな。


 俺は戦争に参加なんてしたくないんだが、エレナの村の事があるから、無関係というわけにはいかない。

 むしろ、エーデルスト王国との戦争の引き金を引きかねない、とすら感じている。

 だからなるべく早く、エレナの村に行くつもりだ。

 シュロスブルクに続いて、フォルトハーフェンの観光も出来なさそうなのが少し残念だ。


「そういえば、フォルトハーフェンにはアクアベアリで入港しなくてもいいんですか?」

「あ……」


 エリアにそんな疑問を投げつけられたが、いずれ入港予定だし、宿泊もアクアベアリにするつもりだったんだから、確かにアクアベアリで入港するべきか。


「シュラーク商会で魔導船を見せてもらうから、そっちの方にばかり気がいってたな」

「姉さんの言う通り、すぐにアクアベアリで乗り付けるんだから、先に入港するべきだね。それか時間的な問題があるから、シュラーク商会に行くのは日を改めるか、かしら」


 ルストブルクを出てから1ヶ月も経ってないし、告発にも大きく関わってるのは知られてるはずだから、アリスの言う通りにした方がいいかもしれない。

 もう少し計画的に動くようにしないといけないなぁ。


「よし、少し離れて、アクエリアスを召喚しよう。ここまで来てなんだけど、数日は沖に滞在するよ」

「なんでアクエリアスなのかと思ったけど、そういうことなんだ」

「ではフォルトハーフェンに入港前に、アクアベアリに乗り換えるのですね?」

「ああ。ついでって訳じゃないけど外海に出るから、魔物も狩る予定でいる」


 さすがに普段はハイディングフィールドを張っておくつもりだ。

 そうじゃないと、四六時中魔物に襲われるだろうし、外海に出てくる船が無いと言っても全くって訳じゃないから、そっちも警戒しないといけないし。


「ついに、アクエリアスが海に浮かぶのね」

「俺の目標でもあったからね。予定とは違うけど、早い分には問題ないよ」


 先にフォルトハーフェンのシュラーク商会で魔導船を見せてもらう予定だったし、ストレージに入ってる風な感じで先にアクアベアリを召喚するつもりだったから、アクエリアスを召喚するのは何日か先だと思っていた。

 だけど移動時間の問題を忘れてたし、ストレージから取り出すにしてもアクアベアリはギリギリに近い大きさになるから、最初からアクアベアリで入港した方が話が早くなる。

 俺のストレージにはまだまだ余裕があるし、インベントリも同様なんだが、アリスのストレージじゃ本当にギリギリで、アクアベアリを収納すると追加で何も入れられなかったのは確認済みだ。

 ストレージの大きさは、俺よりアリスの方が一般的な大きさに近いから、普段はストレージに入れてますっていう言い訳もけっこう厳しい。


「最近隠すのも面倒になってきたんだよなぁ」


 思わず本音が漏れてしまったが、そんなことしたらあちこちから狙われるのは目に見えてるし、特に戦争を控えてるフロイントシャフト帝国やカルディナーレ妖王国は真っ先に使者を送ってきそうだ。


「気持ちは分かるけど、本格的に動けなくなるわよ?あ、でもカルディナーレに行く場合はどっちからも歓迎されるし、エーデルストも不穏な動きがあるって話だから、エレナの家族とかも受け入れて貰いやすくなるかしら?」

「でしょうけど、逆にその後は身動きが取れなくなります。特に魔導車や魔導三輪を大量に用意してもらえれば、それだけ兵が犠牲になる事は無くなるのですから」

「だからこそ、絶対に知られたくないんだよな」


 スカトみたいな魔導三輪なら、騎馬みたいに戦場を駆け回ることが出来るし、それなのに攻撃は一切通らないから、味方にとってはこれ以上ないほど頼もしいだろうが、敵からしたら悪夢でしかない。

 確かに味方の犠牲は無くなるが、その後で俺の身柄が確保されるのは間違いないし、最悪の場合は強制的に奴隷に落とされる可能性だって否定できない。

 しかもその情報は他国にも漏れるから、フロイントシャフト帝国やカルディナーレ妖王国以外の国も俺を探して身柄を抑えようとするだろうし、北大陸のもう1つの帝国は領土拡大を謳って周辺国に戦争をしかけまくってるそうだから、北大陸全域が戦争になりかねない気もする。


「そのお考えで間違いはないですね。特にグレートクロス帝国は、エレナさんのご家族を人質に取る可能性も高いですし、相手がヴェルトハイリヒ聖教国であっても躊躇なく兵を出しますから、たとえフロイントシャフトであっても油断していたら食われるるでしょう」


 グレートクロス帝国って、そんなに好戦的なのかよ。

 ヒューマン至上主義じゃないのが救いだが、いずれは北大陸の統一を画策してるようで、フロイントシャフト帝国やカルディナーレ妖王国にとっては最大の仮想敵となっており、近隣国に至ってはいつ兵を向けられるか分からない。

 だから自国がグレートクロス帝国の隣国になってしまった場合、自分達の立場と民の安全を条件に降伏した国もいくつかあるみたいだ。


「ああ、なんでヴェルトハイリヒが聖都ゼーレテンペルと周辺の村しかないのかと思ってたけど、グレートクロスが攻め込んだからなのか」

「はい。屈強な兵によりゼーレテンペルも陥落は時間の問題と思われていたのですが、グレートクロスで布教されていたスフェール教は、どうも既に違う宗教と言ってもよいほどかけ離れていたそうで、ゼーレテンペルにある世界樹を不要と断じていたようなのです」


 さすがに王女様だけあってなのか、エリザは他国の歴史も知っているみたいだ。

 同じスフェール教なのに違う宗教って、俺も気になるな。


「世界樹って、ヘリオスフィアを支えてるって言われてる大樹だよね?」

「はい。ですからヴェルトハイリヒは、何としてでも世界樹を守ろうと全力で抵抗しましたし、戦況を知ったフロイントシャフトも、すぐに派兵を行いました。ですがヴェルトハイリヒ側の力及ばず、グレートクロスは世界樹に辿り着き、剣を突き立てたのです」


 世界樹に剣を突き立てたってことは、もしかしたらもう世界樹は無くなってるってことなのか?


「その話は私も聞いた事があるわ。世界樹に剣を突き立てられた瞬間、グレートクロスの兵はその場で消えたのよね?」

「そればかりか、グレートクロスの帝都ニューイーラに神々が降臨し、神罰を下したそうですよ。世界樹はヘリオスフィアを支える大切な存在。それに手を出す以上、神々が敵に回る。それを理解した皇帝は、即座に兵を撤退させようとしたのですが、ゼーレテンペルに侵入していた兵とだけは連絡が取れず、いつの間にか姿を消していたそうです」

「グレートクロスに神罰が下ったんだから、世界樹に剣を突き立てた当人達が無事な訳はないわよね」


 それは当然そうだろうな。


「そのようです。ヴェルトハイリヒ側も、突然グレートクロス兵が消えたために混乱していたそうですが、神託によってそのグレートクロス兵は、神罰の光によって魂ごと消滅したと告げられたそうです。世界樹を傷つけることは、ヘリオスフィアそのものを傷つける大罪。よって以後の輪廻には不要な存在と断じられた、とありました」


 過激な気もするが、世界存亡の危機だったわけだし、実際に世界樹に剣を突き立てられたんだから、神々からしたら度し難い愚行ってことになる。

 グレートクロスが滅ぼされてもおかしくなかった行為だが、そこはグレートクロスも考えたようで、その別宗教ともいえるスフェール教の神殿を焼き払い、神官も皆殺しにして、他国から正統なスフェール教神官を招き入れ、神々に許しを請うたそうだ。


「じゃあ今のグレートクロスって、フロイントシャフトやカルディナーレと同じスフェール教になってるの?」

「そう言われています」


 かつてグレートクロスで信仰されていたスフェール教は、神々が直々に邪教と断じたオルドロワ教の影響も受けていたらしい。

 オルドロワ教の主神は架空の神だと創造神様から聞いているが、モデルは存在している。

 創造神様が最初に創造した箱庭世界は、ヘリオスフィアでも神話やお伽噺として語り継がれているんだが、その中に箱庭世界を手に入れようとした邪神の話があって、どうもその邪神が祭り上げられたみたいだ。


「というお話が、書斎にあった北大陸の歴史書に記されていました」


 よく知ってるなと思ってたら、情報源は俺だった。

 マジでそんな本があったの?


「はい。歴史書だけでも50冊ほどありましたから。南や東大陸の本はまだ読んでいませんが、時間があれば読破させていただくつもりです」


 確かに書斎には300冊ぐらい本があるが、俺もあまり見ていない。

 本を持ち出すことは出来なかったから、サダルメリクで移動中も暇つぶし手段は別の方法をとっていた。

 エリザも同様だが、アクエリアスで過ごしてる間はそれで時間を潰してたのか。


「それだと、グレートクロスがヴェルトハイリヒを攻める事はないんじゃない?」

「攻めないからといって、密偵がいないわけではありませんよ」

「だな。むしろ攻めないからこそ、後顧の憂い断つために大量の密偵を放ってるんじゃないか?」

「仰る通りです。戦時において、背後からの不意打ちこそ最も警戒しなければなりません。グレートクロスは周辺国を滅ぼしながら大きくなった国ですから、当然のように警戒心も強いです。ですから密偵の質は、北大陸ではもっとも優れていると思います」


 支配した国の一般人が、従ったふりをして、なんてのこともあるだろうし、それが戦時中だったりしたら、いくらグレートクロスがフロイントシャフトに並ぶ強国だからって、足元をすくわれかねない。

 だから統治はしっかり行ってるし、特に悪政を布いたりもしてないんだが、不満に思ってる人は絶対にいるから、そっちからの反乱を警戒する意味でも、密偵の存在は必要だろう。


「つまり浩哉さんは、絶対にブルースフィアのことをバラせないってことだよね」

「まあな」


 ついつい漏れた俺の本音から、グレートクロス帝国とヴェルトハイリヒ聖教国の話にまで飛んでしまったが、だからこそブルースフィアの存在は徹底的に秘匿しなきゃいけない。

 それでも怪しまれるだろうが、追及が酷くなるようなら逃げるだけだ。

 とはいえグレートクロス帝国は、ヴェルトハイリヒ聖教国と隣接しているから、完全に避けるのも難しいんだよな。

 フロイントシャフト帝国がエレナの家族達を受け入れてくれる方が、手間が掛からなくていい。

 フォルトハーフェンに着いたら、そこんとこもしっかり考えないといけないな。

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