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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第3章・契約履行から始まる奴隷契約
31/77

帝都目前

 ナハトシュトローマン男爵邸から3人の奴隷を連れ出してから1週間経った。

 移動はアクエリアスやサダルメリクを使ったから、魔物に襲われることもなかったし、ハイディングフィールドを常時展開していたため、人に見られることもなかった。


 改装したサダルメリクは予想以上に快適になっていたから、トランクルームの拡張は大正解だった。

 夜にはいつも通りアクエリアスを召喚したが、ルーフデッキの宝瓶温泉に手を加えたことが非常に喜ばれたのも嬉しかった。

 一度だけ魔物に襲われて危なかった商人を助けたが、サダルメリクの窓を開けて魔法を放っただけだから、何がどうなったのか分からないって顔をしていたのが面白かった。

 魔物は持っていたマジック・バッグに収納されてしまったが、姿を見せなかった俺達が悪いんだし、俺達が倒したっていう証明も出来ないから、仕方がないと思っておこう。


 そして本日の夕方、ようやくフロイントシャフト帝国の帝都、シュロスブルクが見えてきた。

 人通りも多くなってるし、シュロスブルクを囲っている外壁は大きいだけじゃなく頑丈そうだ。

 観光目的ならこのまま進んでもいいんだが、今回はトレーダーズギルドでナハトシュトローマン男爵の奴隷契約の違反や不履行を訴える予定だから、時間も掛かる。

 それに今からシュロスブルクに入ったとしても、宿を取れるかは分からないから、今日はアクエリアスで泊まって、明日の朝シュロスブルクに入り、その足でトレーダーズギルドに向かう予定だ。

 シュロスブルクでは、カモフラージュフィールドで偽装したサダルメリクを使う予定だから、ハイディングフィールドの解除も忘れないようにしないと。


「というわけで、今日はこのままアクエリアスに乗り込むよ」

「告発に来た以上、トレーダーズギルドも受け入れざるを得ないけど、証言には時間が掛かるものね」


 アリスの言う通り、証言を聞くだけでも時間は掛かるし、俺がナハトシュタットからシュロスブルクにまで連れてきた理由も聞かれるだろう。

 さらにアリスとの契約内容も話さないといけないから、今からトレーダーズギルドに行ったとしても確実に明日まで待たされることになるし、教会から司教とかも招かないといけないそうだから、宿屋泊まりは確定だ。

 事情が事情だから、宿はトレーダーズギルドが用意してくれるかもしれないが、絶対という訳じゃないし、告発に来たことは伝えないといけないから、それなりに時間も掛かると思う。

 その結果宿が取れないっていう可能性もゼロじゃないし、3人がアクエリアスに泊まるのは今日が最後になるから、食事も少し豪勢にしようと思ってるし、宝瓶温泉も心行くまで楽しんでもらいたい。


 明日はハイディングフィールドを解除した代わりにカモフラージュフィールドを纏ったサダルメリクで行くから、アクエリアスは街道からかなり離れた場所に召喚した。

 外壁越しにシュロスブルクの町並みも見えるから、宝瓶温泉もいつもとは違う感じで入れるだろう。


 サダルメリクをアクエリアスのパーキングエリアに滑り込ませ、全員でメインデッキに上がる。

 食事は、毎回ブルースフィアを開いて買うのが面倒だから、いくつかはストレージに収納しているんだが、今回は明日の景気付けっていう意味もあるし、エリアリアさん達は最後になるから、面倒くさがらずにしっかりと開いて購入した。

 エリザベッタ王女は俺と契約を結び、一度カルディナーレ妖王国に帰還して事情を説明したいみたいだが、肝心の俺がまだ答えを伝えていない。

 俺もだが、アリスやエレナとも相性が悪いわけじゃないから、尚更悩む問題だ。

 2人にも相談しているが、出た結論はフロイントシャフト帝国の皇家の対応次第だということになっている。

 エリザベッタ王女はナハトシュトローマン男爵を放置していたフロイントシャフト帝国に不信感を持っているし、フロイントシャフト帝国としても今回の件は不祥事どころの問題じゃないんだが、最大の問題はエリザベッタ王女が身の証を立てられないということだ。

 ナハトシュトローマン男爵の手勢に襲われた際、護衛や同行者は全て殺され、その際にカルディナーレ妖王家の証も紛失してしまっているから、フロイントシャフト帝国が突っぱねればそれまでになってしまう。

 皇太子はエリザベッタ王女と面識があるから、門前払いされる事は無いだろうし、ナハトシュタット辺りを調べればエリザベッタ王女の一行が行方不明になった事実は確認できるから、さすがに突っぱねる事は無いだろうが。


 エリザベッタ王女は、俺と奴隷契約を結んでからカルディナーレ妖王国に戻り、母親でもある女王に事情を説明し、その後は俺の奴隷として一生を過ごすつもりでいる。

 奴隷契約を結ぶ理由は、普通の契約魔法より強制力が強いこと、正当な手続き無しに奴隷を解放しようとした場合、解放を目論んだ側に神罰が下る可能性があること、カルディナーレ妖王国で俺の安全を保証することなどになる。

 強制力が強いから、命じない限り俺の能力についてや契約内容を話す事は出来ないし、俺から無理矢理引き離すことも出来ない。

 自分の国の王女を奴隷にしている俺の身の安全が保証されるかは微妙な気がするが、奴隷から解放してもマスターだった人物の情報を漏らすことは出来ないから、ある意味では俺の安全は確保されているとも言えるか。


「ここでの生活も、今日でおしまいなのかぁ」

「私達はナハトシュトローマン男爵の契約違反を告発しに来たんだから、それは仕方ないわよ」


 ルージュもエリアリアさんも、この数日でアクエリアスの魅力に取りつかれているから、とても残念そうな顔をしている。


「どうせあたしは家族もいないし、また奴隷になるんだから、浩哉さんに契約してもらいたいなぁ。アクエリアスを使わせてくれるだけで良いし、その代わりあたしの全部を捧げれば、なんとか釣り合うんじゃないかと思うし」


 ルージュが不穏なセリフを口にしやがった。

 ルージュが奴隷になった理由は聞いてないが、家族はいないっていう話は聞いている。

 年齢が年齢だから、ナハトシュトローマン男爵の奴隷から解放されても、生活のためにまた奴隷にならざるを得ないかもとは言われていた。

 ルージュとも相性は良いから、これも縁ってことで契約してもいいかもしれないとは思っているが、今回みたいな場合はトレーダーズギルドも責任を免れないから、条件の良いマスターは見つけやすい。

 俺と契約するってことは、俺の無茶な旅に突き合わせるってことにもなるから、連れていっても良いのかと思ってしまう。

 アリスとエレナもだが、2人は成人してるし、契約の時に納得してくれてるから、問題ないだろう。


「どうなるかは、明日次第でしょうね。でしょ、浩哉?」


 アリスもエレナも、エリザベッタ王女やルージュが奴隷になった経緯は知らないが、2人の気持ちは分かるようで、エリアリアさんも含めて俺の奴隷になっても構わないと思っているし、俺にそう提案してきたこともある。

 エリザベッタ王女は少し抵抗があるが、ルージュは家族もいないから、全く問題ないって考えてるみたいだ。

 対照的にエリアリアさんは、解放されたら家族の元に帰れるから、話題にはならなかったな。


「そうならない方が良いんだろうから、何とも言えないけどな」


 奴隷から解放されるんなら、その方が良いと思うんだが、ルージュみたいな未成年の場合は生活の問題もあるから、逆に解放を望まないことが多いと聞く。

 実際ルージュも、奴隷から解放されず、条件の良いところに奴隷に行くと口にした。


「全ては明日ですね。わたくしの事もありますから、もしかしたら数日ほど掛かるかもしれませんが、浩哉様は結果が出るまで、シュロスブルクに滞在されるのですよね?」

「ええ。アリスも証言しますから、終わらないと動けないでしょう」


 アリスはナハトシュトローマン男爵に陥れられ、奴隷となった。

 だからアリスは、契約条件にナハトシュトローマン男爵への復讐を望み、俺が契約するまで誰もアリスを買う事は出来なかった。

 明日トレーダーズギルドで告発すれば、ナハトシュトローマン男爵は確実に破滅し、アリスとの契約も達成されるから、そっちの報告もしないといけない。

 契約が達成された奴隷は、マスターが解放しない限り一生付き従うことになるが、マスターとしても必要があって条件を受け入れてまで奴隷を購入してるから、解放されるのはマスターが死ぬ間際がほどんどだ。

 アリスは解放を望んでいないし、俺に一生を捧げると言ってくれているから、仮に俺が解放しようとしても断るだろう。

 そういやエレナも、似たようなことを言ってたな。

 ブルースフィアが魅力的でもあるから、気持ちは分からなくもない。


 そのアリスも、明日はトレーダーズギルドで奴隷になった経緯や俺との契約内容を説明し、告発に一役買う予定だし、マスターってことで俺も参加しないといけない。


「そういえば神罰が下るって聞くけど、具体的にはどうなるんだ?」


 契約違反ってことで、ナハトシュトローマン男爵には神罰が下ると何度も言われているが、よく考えてみたら神罰っていうのがどんなものなのか、全く知らないな。


「どんな罰になるかは、神々がお決めになられますから、現時点では分かりませんね。ただ、必ず神雷に打たれるそうですから、神罰が下った事はすぐに分かりますし、神託も下りますから隠し通すことも出来ません」


 内容はその時にならないと分からないが、神雷に打たれるのは決まってるのか。

 しかも神託まで下るってことなら、人目につかない場所で神雷に打たれしまっても、絶対に隠せないってことになる。


「それってナハトシュトローマン男爵だけなのか?」

「通常ですと、対象になるのはマスターのみですから、ナハトシュトローマン男爵のみですが、今回の場合ですとナハトシュタットのトレーダーズマスターも対象になると思います」

「アリスさんも含めてわたくし達が告発する内容は、フロイントシャフト帝国やトレーダーズギルドも無関係ではいられませんから、ナハトシュトローマン男爵家は家名剥奪の上で領地の接収、一族は連座で処刑は確実でしょう。使用人達も知っていて何もしなかったのですから、犯罪奴隷になると思います。ナハトシュタットのトレーダーズマスターも、同様ではないでしょうか」


 国そのものにも神罰が下る可能性があるから、ナハトシュトローマン男爵家の断絶に一族郎党の処刑は確定か。

 ナハトシュタットのトレーダーズマスターも、ナハトシュトローマン男爵に付き従って甘い汁を吸ってたって話だし、不当な奴隷の斡旋に加えて訴えを握り潰したことまであるそうだから、こっちも一家ごと処刑になるみたいだ。

 重い処罰な気もするが、国が転覆しかねない重罪でもあるから、こういった世界観じゃそうなるのも仕方ない話かもしれない。


「この話は、明日イヤでもすることになるんだから、これまでにしましょう。あんまり面白い話でもないし」

「そうですね。それよりもシュロスブルクには数日滞在するんですから、そちらのことを考えましょう」


 アリスとエレナが話を止めるが、確かに2人の言う通りだ。

 シュロスブルクに滞在する以上、しばらくは宿屋暮らしになるだろうから、アクエリアスもしばらくは使えない。

 サダルメリクは俺のストレージに入れておくことにすればいいから、最悪の場合はハイディングフィールドを張って、中で寝泊まりだな。

 むしろそっちの方が居心地は良いんだが、宿に泊まってないと連絡が受けられないから、今回は大人しく宿に泊まろう。

 もちろん事前に、必要な物やあった方がいい物は買っておくつもりだ。

 マットレスなんて、最たるものだろう。


 あ、せっかくだし、この数日で作った料理のレシピを、トレーダーズギルドから広めてもらってもいいかもしれない。

 ルストブルクで買った食材と調味料だけで作ったし、味付けは納得のいくものになってるから、受け入れられるんじゃないかと思う。

 味噌や醤油は発酵の問題があるから手を出してないが、製法を知る機会があって現物も少しなら持ってるってことで売り込めば、トレーダーズギルドなら何とかしてくれる気もする。

 後でしっかりと製法を書き写しておこう。

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