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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第1章・転移から始まるプロローグ
3/77

初めての実戦

 アクエリアスの確認を終えた俺は、興奮を冷ますために、ブルースフィアから缶コーヒーを購入した。


 ブルースフィア・クロニクルは剣と魔法の世界だが、技術力なんかは20世紀の地球に近い。

 だから缶ジュースや缶コーヒーは勿論、風呂上りご用達の瓶入りコーヒー牛乳なんかもあったりする。

 値段も100ゴールドと安いんだが、実際に使ってたかどうかは微妙な所だ。

 まあ、飯を食わせないと、徐々にHPが減っていく仕様だったし、飯にはバフ効果もあったから、ちゃんと食わせてたが。


 今更の話だが、ブルースフィア・クロニクルはVRゲームやARゲームではなく、コンシューマーゲームだ。

 アップデートパッチは何度か当てられてたし、追加シナリオディスクなんかもあった。

 オンラインゲームでもあるから、パーティーを組んで冒険に出るのはもちろん、互いの船を自慢し合ったりもしたな。

 俺は初期からやりこんでたし、中型船を買う事を目標にしてたから、アクエリアスを買うまでは大変だった。

 自前の船が無いと、移動は公共の船か飛空艇だったし、けっこうな金が取られるから、金策に必死だった覚えがある。

 スカトを買ってからは少し楽になったし、都合があった時にフレンドの船に同乗させてもらったが、あれは本当に助かった。

 もちろんアクエリアスを買ってからは、ちゃんとお礼に乗せてるし、中型船とはいえ50メートルクラスの船だから、パーティーでの移動にも大活躍だったぞ。


 そういえばブルースフィアの画面で見たアクエリアス、スカト、サダルメリクだが、不懐、不沈、不倒、侵入不可、自動操縦なんてアビリティがついてたな。

 読んで字のごとくの効果なんだろうが、よく考えてみたらブルースフィア・クロニクルでも、イベント以外では船が襲われる事は無かったし、自前の魔導船に至ってはそんなイベントすら起こらなかった。

 移動は目的地を設定すればオートで移動してくれたし、座礁しそうな浅瀬には侵入出来なかったし、当然のように沈没イベントなんてのも無かった。

 陸上でも同じで、魔導車や魔導三輪で魔物の真横を通過どころか停車しても、魔物は一切反応しなかった。

 こっちから攻撃も出来なかったが、襲われる事が無いというだけでも十分だろう。

 普通なら倒れるに決まってる操縦をしてても、絶対に倒れたり事故ったりする事も無かったな。

 つまりブルースフィア・クロニクルの乗物は、まんまブルースフィア・クロニクルの能力を引き継いでいると考えられる。

 こちらからの攻撃も含めて、要検証だな。

 サダルメリクから攻撃する事はないだろうが、アクエリアスやスカトは使用頻度も高いだろうから、しっかりと確認しなければ。


 あと今気が付いたが、アクエリアスの喫水は2メートル半ほどある。

 喫水とは、船が水に浮かんでいる時の、船の最下面から水面までの距離の事を指す。

 つまり出入り口も兼ねているアクエリアスの後方デッキは、草原という、通常であれば使用する事のない場所で召喚した事もあり、地上から2メートル以上の高さにあったという事だ。

 だが興奮していた俺は、そんな事はお構いなしに飛び乗った訳だが、地球で暮らしてた頃の俺では絶対に不可能だ。

 いや、一流スポーツマンでも無理だろう。

 ひとえに創造神様が、俺のレベルを50にまで引き上げてくれていたから、そんな事が出来たに違いない。

 アクエリアスも、普通なら横倒しになるだろうに、見えない何か、多分不倒の効果なんだろうが、それに支えられているようで、しっかりと立っていたからな。

 本当に創造神様には感謝する事しきりだ。

 確かスフェール教っていう宗教の主神だって言ってたから、必ず教会に行って、お礼を言わないとな。


 そこまで決めてから、俺はもう一度ステータスを確認した。


コウヤ・ミナセ

  18歳

  ヒューマン

  Lv:50

  HP:2,656(+250)

  MP:2,347(+100)

  STR:183(+109)

  DEX:155(+85)

  VIT:154(+87)

  AGI:151(+83)

  MND:139(+72)

  INT:131(+68)

  LUK:50

  スキル:全言語理解:10

      成長速度向上:10

      ブルースフィア:2

      武器戦闘(全):3

      魔法(全):3


 LUKは補正出来る装備が少ないから伸びてないが、他は大幅上昇だな。

 特にSTRがヤバい。

 アタックスキルのセイクリッド・ブラストはSTR10倍補正までついてるから、強い魔物でも一撃で仕留められるんじゃなかろうか?

 マジで普段使いする装備はランクを落としとかないと、シャレにならん事態を巻き起こしそうだ。


 とりあえず、後で考えよう。

 現状問題を先送りにして、俺は草原に歩を進めた。


 ヘリオスフィアには魔物がいる。

 魔物は人間を見つけると襲い掛かってくるらしいが、温厚な性格の魔物もいるらしく、上手く行けば召喚契約を結べるそうだ。

 魔物の世話もあるが、町には契約を結んだ魔物、召喚獣を預かってくれる施設もあるから、移動手段として契約してる人は多いらしい。

 俺の場合、長距離の移動にはスカトやサダルメリクを使えば良いから、特に必要はないかな。

 いや、人目があると使いにくいから、選択肢としては残しておこう。


 そのまま草原を進む事1時間、全く疲れてない事に驚いていると、眼前に小さな影が映った。

 どうやらこっちに向かってきてるようだが、シルエットは人間っぽいな。

 だけどゴブリンとかっていう可能性もあるから、俺はいつでもセイクリッド・ブリンガーを抜けるように右手を添えて待機しておく。

 その予想は的中し、小さな影はゴブリンだった。

 俺を見るなり手にした棍棒を振りかざしながら、躍りかかってきている。

 セイクリッド・ブリンガーを抜き、同時に走り出しながら、俺は真横に薙いだ。

 するとゴブリンの体は、胸の下辺りから血を吹き流し、ゆっくりとズレていき、やがて胸から上の部分は前に、残った体は後ろに倒れ込んだ。


 いきなり真っ二つはやり過ぎたし、初めて魔物を殺した事もあって、俺の気分はよくない。

 幸いにも吐き気を催す事はなかったが、手には魔物を殺した感触が生々しく残っている。


 だけどスキルの影響か、初めて殺したっていう事実に驚きこそしたが、嫌悪感はあまり感じない。


 魔物は人間を襲う害悪であり、生活に必要な資源でもある。

 だから戦闘系スキルには、魔物を殺害しても嫌悪感を抱かないような効果があるそうだ。

 さすがに人が相手だと話は別だが、魔物で慣れておけばいきなり吐くような事もなくなるだろうと創造神様に言われたな。

 実際問題として、盗賊の存在がある。

 こちらは人間だが、盗賊は犯罪者だから、その場で殺してしまっても盗賊の物を奪っても、罪にはならないっていうのは、異世界転移のテンプレの1つだな。


「『ストレージング』。へえ」


 ゴブリンの死体に手を振れ、ストレージングという空間収納魔法を使う。

 するとゴブリンの死体は魔法陣に包まれ、触れていなかった下半身も一緒に虚空に消えていった。


「これは便利だな。どれだけ小さくても、民家1軒分は収納出来るらしいし、確か収納量は魔力に比例するって言ってたな」


 ストレージングは、MP500から使用可能になるため、使える人はそれなりに多い。

 その後はMP量に応じて増大していくが、一流ハンターでもMPは1,000から1,500ぐらいらしく、量も大きな屋敷1軒分が精々みたいだ。

 翻って俺の魔力は、2,000を超えている。

 これだけあれば、屋敷2軒分ぐらい、もしくは小さな城ぐらいはいけるんじゃないだろうか?

 まあ、今検証しなくてもいいか。


 ゴブリンをストレージに収納し終えた後、俺は再びブルースフィアを起動させ、気分を落ち着かせるために缶コーヒーを購入した。

 スキルの影響のおかげで思ってたより精神的なダメージは少ないが、初めて魔物を殺したのは間違いない。

 カフェインに興奮作用がある事は知ってるが、それでも好んで飲むコーヒーを飲まないと、落ち着けないと思ったんだよ。


 コーヒーを飲んで人心地ついた俺は、空を見上げた。

 太陽はだいぶ西に傾いてきていて、日没までもそんなにかからないだろう。

 フロイントシャフト帝国の辺境の町ルストブルクまで、どれぐらい掛かるかは聞き忘れてしまったし、街道なんかもまだ見えない。

 変に街道に出てしまってから日が沈むと、アクエリアスで寝泊まり出来なくなってしまうから、今のうちに森の近くに移動しておいた方がいいかもしれない。


「あ、そういえば確か、ブルースフィア・クロニクルには……。『ブルースフィア・オープン』。お、やっぱりあった」


 俺が思い出したのは、ブルースフィア・クロニクルでよく使った、野営用テントだ。

 海では船に乗ってれば魔物にも襲われないし、沈められることもなかったから問題なかったが、陸上だとそういう訳にはいかない。

 夜はしっかり睡眠をとらないと、HPやMPは回復しないし、運が悪いとデバフまでかかってしまうから、夜はしっかりとキャラに睡眠をとらせなければならなかった。

 幸いにもブルースフィア・クロニクル内の時間は、リアル2時間で1日が経過していたから、睡眠といっても何時間も必要だった訳じゃない。

 そうだな、最低でもリアル時間で30分ってとこか。


 街中とかじゃ泊まってる宿屋や拠点に強制的に連れ戻されるんだが、フィールド上だとそういう訳にはいかない。

 そのために野営道具なんかは普通に売られているし、テントだって結構な種類がある。

 それを思い出した俺は、アイテム欄にテントの文字があるかどうかを確認していた訳だ。


「確かブルースフィア・クロニクルだと、テントの性能によっては魔物に襲われたな。俺のテントはどうだったっけかな?」


 ブルースフィアのテントには、いくつかのランクが付けられている。

 一番下のランクのテントは、魔物の襲撃確率が30%減少する程度だが、最高級のテントだと魔物の襲撃確率100%減少に加えてパーティーメンバー以外立ち入り不可という、かなり素敵な性能だ。

 俺がテントを買ったのは何年も前で、サダルメリクを手に入れてからは使用頻度が下がったから、どんな性能か覚えていない。

 多分、最高性能のテントを買ってたと思うんだけどな。


「よし、星5つ、最高性能だ。これで街道に出ても、安全に過ごせるな」


 アイテムのランクは、星の数で表されている。

 星1が最低ランクで、星5が最高ランクだ。

 テントに星5つついてる事を確認した俺は、安堵の溜息を吐いた。

 魔物に襲われる事もなく、パーティーメンバー以外入る事が出来ないという性能のテントがあれば、1人でも野営が出来る。

 しかも俺が買っていたテントは、内部の空間が拡張されており、10畳ぐらいの広さがあったりもするし、キッチンまで備え付けられていたりする。

 今晩は森の近くでアクエリアスに泊まるつもりだが、万が一ハンターが近くにいたりしたら召喚出来ないから、確認だけでもしておいて正解だろう。


 そう思ってブルースフィアを操作していたら、違和感を感じた。


「ん?これって地図だよな。ブルースフィア・クロニクルのと違うが……。あっ!まさかヘリオスフィアの地図に変えてくれてるのか?」


 違和感の正体は地図だったが、これはありがたいな。

 ブルースフィア・クロニクルはマップの8割以上が海だった事もあって、地図がないと移動もままならなかった。

 だけどブルースフィア・クロニクルの地図なんて、ヘリオスフィアじゃ何の役にも立たない。

 だから創造神様が、ヘリオスフィアの地図に変更してくれていたんだろう。

 驚いた事にヘリオスフィアは、北と南、東に大陸があるんだが、地図の7割近くが海で占められていて、大陸には大きな湖もあった。

 ブルースフィア・クロニクルより陸地が多いが、それでも海の方が広いから、アクエリアスも十分過ぎる程活用出来るぞ。

 東大陸は小さい感じだから、大きな島と思ってもいいかもしれないな。

 北大陸と南大陸は同じぐらいの大きさだが、南大陸の方が東西に長い感じか。

 その北大陸の中央付近に、青い光が灯っていた。

 もしかして、これが俺の現在位置なのか?


 ブルースフィア・クロニクルと同じ要領で地図を拡大すると、予想通り俺の現在地だったし、驚いた事に国境線なんかも書き込まれていた。

 創造神様に感謝しつつ、さらに地図を拡大する。


「フロイントシャフト帝国って、北大陸の南部のほぼ全域が領域になってるのか。ルストブルクっていう町は、北の山脈と西の森を挟んで他国との国境になってるな。って事は、もうちょい東に行けばいいってことだな」


 慣れた手付きで地図を操作すると、予想通りエリア拡大も出来たし、現在地からルストブルクまでの距離も表示された。

 どうやら俺のいる場所は、隣国との国境がある森や山脈の近くで、ここからほぼ真東へ向かって30キロほどの距離にルストブルクがある事になる。

 ただ街道は、10キロほど南にいかないと敷設されていないようだ。

 思ってたより距離があるが、目的地が明確になったのはありがたい。


 次の問題は、街道に出るかどうかだな。

 ルストブルクは西に森、北に山脈があるため、南か東にしか街道が無い。

 だけど東の街道に向かうぐらいなら、そのままルストブルクに入った方が早いから、向かう意味も理由も無い。

 となると南の街道に出るかどうかなんだが、俺としては出てみるべきじゃないかと思ってる。

 今はともかく、いずれは街道をスカトやサダルメリクで爆走する事もあるだろうから、先に見ておきたい気持ちが強い。

 それにヘリオスフィアの金がないから、今のままじゃルストブルクには入れないだろうし、たとえ入れたとしても、生活が出来ない。

 だから少し遠回りしてでも、魔物を探して狩っておく必要がある。


 町に入る際は身分証の掲示を求められるが、持ってなくてもステータスを見せれば良い。

 その場合、衛兵とかがライブラリングっていう魔法で犯罪者かどうかのチェックも同時に行うらしいから、身分証の問題は避けられる。

 ライブラリングでは名前と年齢、レベルは見られてしまうが、スキルやステータスは大丈夫だから、怪しまれる事もないだろう。

 不自然にレベルが高い事は、丁度北に山脈があるから、山奥で修行してましたとでも言っておくか。

 それだと南の街道に出る理由が薄い気もするが、修行の一環とでも言って誤魔化そう。

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