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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第3章・契約履行から始まる奴隷契約
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男爵邸潜入

 アリスとエレナの希望により、狩りを早々に切り上げた後、2人が自由に使える水上バイクを購入することになった。

 水上バイクは手頃な値段で買えるし、イベントでも手に入れることが出来たぐらいだったから、種類はかなり豊富だ。

 イベントで手に入れられる水上バイクは、性能的には今一つだったが、資金繰りが厳しい序盤ではお世話になったもんだ。

 スカトを買ってから売り払ったが、同型の水上バイクならショップでも売ってるし、当然のようにカスタマイズも出来るから、愛用している人は多かったな。


 2人が選んだ水上バイクだが、いずれカスタマイズは行うが、まだ操縦経験もないってことも踏まえて、性能はどノーマルのままだ。


 アンカ

  魔導水上艇:☆☆☆

  最高速度:60ノット

  全長:1,3メートル

  全幅:0,9メートル

  最大搭乗数:2名

  アビリティ:不懐、不沈、不倒、侵入不可、自動操縦


 シトゥラ

  魔導水上艇:☆☆☆

  最高速度:55ノット

  全長:1,8メートル

  全幅:1,1メートル

  最大搭乗数:3名

  アビリティ:不懐、不沈、不倒、侵入不可、自動操縦


 ブルースフィア・クロニクルでは、魔導水上艇という特殊船に分類されている。

 小型船でも侵入出来ないような浅瀬に上陸するために使ったり、早く移動したいときにお世話になることが多かった。

 ただ上陸したら徒歩か魔導車に乗り換えないといけないから、面倒な人は俺みたいに水陸両用車を購入してもいたな。


 今回購入した魔導水上艇は、アンカの色は赤でアリスが、シトゥラの色は青でエレナが選んだ。

 名前は俺のこだわりで、みずがめ座の恒星から取らせてもらったが、ちゃんと2人が希望する魔導水上艇を購入しているぞ。

 ☆2つまでの乗物はショップから消えているんだが、魔導水上艇は速度の出る特殊船だから、☆3に設定されている。

 だから無事に買うことが出来たんだが、1人乗り魔導水上艇は☆2つだから、そっちは消えていた。

 1人乗りを買うつもりはなかったから構わないんだが、それでもちょっと寂しく感じる。


 アンカとシトゥラもアクエリアスに搭載しているが、どちらも水上専用だから、アンダーデッキまでの移動をどうするかという問題があるんだが、そっちは別売りのキャリアーがあるから、それを買ってアクエリアスに取り付ければ解決する。

 アンダーデッキまで自動で運び、魔導水上艇が着水したら切り離してくれるし、アンダーデッキに乗り上げればキャリアーが伸びて自動で回収してくれるから、自分で運ぶ手間も省ける。

 サダルメリクで降りたらアクエリアスは送還する予定だから、無事に戻る事が出来たら使えるようになっている。


 費用だが、アンカ、シトゥラ、キャリアー2つ、改装費合わせて750万ゴールドほど掛かった。

 まだゴールドは余裕があるが、エレナの村の人達を移住させる時に大型魔導船を買う可能性が無い訳じゃないし、普段の生活でも細々と使ってるから、そろそろ大きな買い物は控えよう。

 アンカとシトゥラは、2人も水上で戦う機会が増えるだろうから、そのための先行投資みたいなもんだ。


 などと心の中で言い訳をしながら、ハイディングフィールドを展開したままナハトシュタットの港に密入港する。

 ナハトシュタットの港は思ってたより小さく、20メートルあるかないかの中型船が1隻と、あとは5メートル前後の小型船が10隻ぐらいしかなかった。

 港があるとはいえ、湖には危険な魔物が多いから漁は岸の近くでしか行われないし、船便は就航してないんだから、これはある意味じゃ当然か。

 幸い喫水は十分だったし、港もガラガラだったから、アクエリアスでも接岸出来た。


「それじゃあ行こう」

「ええ。……いよいよね」

「アリス、落ち着いて」

「ごめん、大丈夫よ」


 サダルメリクに乗り込む俺達だが、やっぱりアリスは気が逸ってるな。

 パーティーメンバーの怪我を利用して奴隷に落とされた経緯があるアリスは、奴隷契約の条件としてナハトシュトローマン男爵への復讐を望んだ。

 だけどナハトシュトローマン男爵は、フロイトシャフト帝国の貴族でもあるから、下手なことをしなくてもフロイントシャフト帝国を敵に回す可能性が高いため、アリスとの契約を望んだ人達も全て断念していた。

 俺はフロイントシャフト帝国にこだわる必要もなかったし、逃げる手段もいくつも持ち合わせているから、敵に回してもあまり問題は感じなかったし、ナハトシュトローマン男爵はヒューマン至上主義の悪徳貴族ってことで有名だから、アリスとの契約に問題はなく、無事に契約出来ている。

 義賊とかドラマみたいで格好いいと思ったのも事実だが、ナハトシュトローマン男爵を潰すことが出来れば、不当な扱いを受けている奴隷や亜人とされている人達も救われるだろうっていう思いもあるから、絶対に奴隷を連れ出す所存だ。

 アリスとの契約が達成できるかどうかの瀬戸際でもあるから、出し惜しみもしない。


 不安要素としては、ナハトシュトローマン男爵の奴隷の契約が履行されている可能性がゼロじゃないことか。

 アリスは絶対に反故にされてると言っていたが、1人2人なら履行されてる奴隷がいるかもしれないし、そんな奴隷を連れ出してしまったら訴えられなくなり、それどころか俺達の方がお尋ね者になってしまう。

 だから連れ出す前に、しっかりと奴隷から話を聞かないといけない。


 ゆっくりとサダルメリクを発進させ、アクエリアスから伸ばしたスロープを伝ってナハトシュタットに上陸する。

 夕方だから人も少ないし、ハイディングフィールドも展開済みだから、怪しまれてる様子はない。

 人がいない訳じゃないから、時速は30キロ程度に抑えながら、ナハトシュタットの町を進み、ナハトシュトローマン男爵邸を目指す。

 港から大通りまでの道は、サダルメリクでも十分にすれ違えるだけの広さがあるんだが、少なくなったとはいえ大通りに近付くにつれて人が増えてきたから、思ってたよりも運転が大変だった。

 幸いなのは、大通りに出るまでに日が完全に沈んだことだな。

 酒場とかがあるから、日が沈んでも人通りはそれなりにあるが、昼間とは比べるまでもない。

 それでも事故とかは怖いから、速度を上げずに慎重に進み、1時間かけてようやく目的地の男爵邸に到着した。


 ナハトシュトローマン男爵邸は、見るからに貴族の屋敷といったお約束通りで、門ばかりか屋敷を囲っている壁にまで贅を凝らした装飾が施されていた。

 どうみても悪趣味でしかないが、この分だと屋敷の中もこんな感じなんだろうな。


「さすがに門は閉じてるか」

「夜だし、肝心のナハトシュトローマンはルストブルクに向かってるからね」

「壁の高さは3メートルぐらいですから、飛び越えることは可能ですね」


 レベルやステータスのおかげで、3メートル程度の壁ぐらいは俺なら簡単に飛び越えられるし、アリスも頑張れば可能だ。

 エレナは厳しかったんだが、装備でステータスが大幅に上昇してるから、こちらも問題なく飛び越えられる。

 それなら人影のないところでサダルメリクを降りて送還し、インビジブル・マントを使って忍び込むか。


 インビジブル・マントは姿を消すアイテムだが、パーティーメンバー同士なら互いの姿を確認出来る。

 当初はパーティーメンバーでも見えず、カーソルを合わせることもできなかったんだが、それだと不便だという嘆願も多かったから、すぐに仕様が変更され、パーティーメンバーの姿は半透明で表示されるようになった。

 おかげで迷子になることも無くなったし、効果が切れかけたら点滅して知らせてくれるようにもなったから、事故も減った。

 武器や防具、乗物の性能はブルースフィア・クロニクルとほとんど同じだったから、インビジブル・マントも同じ感覚で使えるだろう。


「サダルメリクから降りたら、すぐにインビジブル・マントを使う。説明した通り、羽織って魔力を流せば使えるけど、効果が切れかけたらすぐに物陰に隠れてくれ」

「点滅したら、だったわよね?」

「ああ。こっちでも確認は出来るはずだけど、周囲には分からないから、使いなおす場合は落ち着いて、確実に頼む」

「分かりました」


 インビジブル・マントを使いなおすには、一度効果を完全に切り、姿を現さないといけない。

 その瞬間が一番見つかる可能性が高いんだが、使いなおさないと先に進めないんだから、これぐらいは仕方がない。

 効果が切れ始めると自分の体が点滅するから、それで見つかったと焦ってしまう可能性もあるから、落ち着いて行動してもらうように心がけてもらおう。


「周囲には……誰もいないな。よし、行動開始だ」


 俺の合図でサダルメリクを降り、すぐにインビジブル・マントを使う。

 その後で俺はサダルメリクを送還し、2人を確認してから壁を飛び越える。

 何かあるかもと思ってたが、特に何もなく、問題無く潜入出来たな。

 着地の際にちょっと音が響いたから、音を消すサイレント・リングも使っておきたかったんだが、それを使うと話せなくなる恐れがあったから、今回は見送っている。

 ただ獣族は臭いに敏感だから、臭いを消すデオドリング・リングは使っているぞ。


 潜入前にブルースフィアのマップでナハトシュタットの地理を確認していたら、ナハトシュトローマン男爵邸の様子もしっかりと確認できた。

 離れがあるのも確認できたから、奴隷はそこに纏められていると予想している。

 奴隷は亜人ばかりだって噂だし、ヒューマン至上主義者のナハトシュトローマン男爵が自分の屋敷に奴隷を入れるとは思えないからな。

 夜伽とかをさせてるんなら、その奴隷だけは入れるかもしれないが。

 ここからだと少し距離があるが、離れは屋敷からも距離があるから、俺達にとっては都合が良いな。


「まずは離れだな。中に入れるかは分からないが、見張りがいなければ中の様子を確認して、奴隷がいれば話を聞いてみよう」

「ええ」

「分かりました」


 なるべく足音を立てないように、慎重に移動し、離れの前に辿り着く。

 離れは屋敷とはかけ離れたみすぼらしい平屋だったから、奴隷用に急いで建造したのがまるわかりだ。

 多分この離れは、奴隷が寝るためだけの小屋なんだろうな。


「さすがにこれは、ここに奴隷達がいるのが確定だな」

「本当ね。どんな奴隷でも、普通の部屋に普通の食事は条件に出すから、これだけでも契約不履行だって断言できるわよ」

「中には、豪華な部屋に豪勢な食事、綺麗な衣服を条件に出す奴隷もいるものね」


 トレーダーズギルドで購入する奴隷は、自らの条件を口にし、それを履行してくれる者と契約を結ぶ。

 部屋は相部屋でも構わないし、食事も朝と晩に食べられれば構わないんだが、そんな普通のことは基本条件に盛り込まれているし、中には体を許す代わりに豪華な部屋と豪勢な食事を対価に要求する奴隷も一定数存在している。

 だがこの離れは、みすぼらしい平屋ってだけならまだしも、屋根がところどころ傷んでいるから、雨が降ったりなんかしたら雨漏りぐらいはするだろう。

 とてもじゃないが、普通の部屋という条件は満たせていない。

 この分だと、食事も量が少ないだろうし、一食だけしか食べさせていない可能性もあるんじゃないか?


「全部が全部ここに押し込まれてることはないと思うが、それでも中の様子は確認しないとだな」

「ええ。窓は少ないけど平屋だし、壁には穴が空いてるところもあるから、確認はしやすいわね」

「そうですね。あ、マスター、体が!」


 中の様子を確認しようってところで、エレナが小さく驚きの声を上げた。

 俺の体が点滅してるから、効果が切れかけてるな。

 幸い人影は見えないし、屋敷の方から誰かが近付いてくるような気配も無いが、念のため屋敷から死角になる位置に移動してから急いで効果を切り、再度インビジブル・マントを使って姿を消した。


「そんな感じになるのね」

「いきなりマスターの体が光りだしましたから、何が起こったのかと思いました」

「事前に聞いてなかったら、大声を出してたかもしれないわね」


 突然体が点滅しだしたら、普通は驚くよな。

 事前に伝えておいて良かったが、思ってたより自分じゃ分かりにくかったから、1人で使うのはちょっと怖いな。

 そう思っていたら、アリスとエレナの効果も切れかけてきた。

 2人に慌てないように注意してから効果を切らせ、再度インビジブル・マントを使ってもらう。


「慣れれば大丈夫なんでしょうけど、急がないといけないからけっこう怖いわね」

「こればっかりはな。これで最低でも10分は大丈夫だから、中の様子を見てみよう」

「分かりました」


 壁の穴は1つじゃないが、3人で覗くと効果が切れかけた時に気付かない恐れがあるから、エレナに見張りを頼み、俺とアリスが覗き込む。

 離れには灯りが無いから、中の様子は分かり辛いが、それでも何人かが動いてるのが見えた。

 何かを啜ってる音が聞こえるから、食事中か?


「アリス、見えた?」

「晩御飯の最中みたいね。だけどあるのって、パンとスープだけだわ」


 夜行性のリスもいるからなのか、アルディリーのアリスは夜目が利く。

 だから灯りのない離れでも、中の様子は確認できたみたいだ。


「分かりにくいけど、女の子ばかりね。年は……あたし達より下っぽい子もいるし、エレナぐらいの人もいる、かしら?」


 俺も女の子っていうのは確認できてたが、影が動いてるようにしか見えなかったから、それで判断してたな。

 中には男じゃないかって思えた影もあったが、それも女の子だったってことか。


「中に入って話を聞くのもアリだが、それだと屋敷側に気付かれるか?」

「どうかしら?突然この離れに押しかけることもある気がするから、いきなりドアを開けても大丈夫だと思うけど」

「こちらも姿を見せないといけませんから、マスターだと叫び声を上げられるかもしれませんね」


 そりゃ俺の見た目は黄金ライオンだからな。

 仮面を付けてるとはいえ、まだアリスやエレナの方がマシだろう。

 いや、エレナの仮面も顔の半分以上を覆ってるから、アリス一択か。


 どうしようかと考えていたら、突然アリスの様子が変わった。


「嘘……。なんで……」


 離れの中で、信じられないものを見たっていう雰囲気だ。

 なんとなくマズいと感じた俺は、サイレント・リングを取り出し、強引にアリスの指に嵌め込んだ。

 アリスからは声も聞こえなくなったが、大声を上げようとしてた寸前だったから、ギリギリ間に合ったか。


「アリス、落ち着いて」


 俺の声は聞こえているようだ。

 アリスは激しく動揺しているから、本当にあり得ないものを見たんだろう。

 落ち着くまで、サイレント・リングは嵌めたままにしておこう。

 エレナも優しく抱き締めているから、しばらくしたら落ち着くと思う。


 幸い、インビジブル・マントの効果は切れずに済んだが、10分ほどしてようやくアリスは落ち着いた。


「アリス、落ち着いた?」


 俺がそう訊ねると、首を縦に振って意思を伝えてくる。

 それを確認してから、俺はアリスの指からサイレント・リングを外した。


「あ、声が……」

「悪いとは思ったけど、あのままだったら見つかったからね」

「ううん、おかげで助かったわ。ありがとう」


 サイレント・リングを嵌められたことにも気付いてなかったのか。

 それだけ激しく動揺してたってことなんだろうが、いったい何を見たんだ?


「アリス、離れの中で、何を見たの?」

「離れの中に……あたしの姉さんがいたの」


 アリスの姉さんって……え?マジで?

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