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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第3章・契約履行から始まる奴隷契約
24/77

潜入作戦会議

 マスターズデッキのベッドルームで目を覚まし、微睡んでいると、アリスとエレナの唇で唇を塞がれた。

 俺が頼んだわけじゃないが、朝の挨拶として定着してしまっているし、俺も嬉しいから、訂正するつもりはない。

 いつものように大浴場でイチャイチャしてからメインデッキに下りて朝食を取り、今日の作戦を話し合う。


「アクエリアスを港に着けて、サダルメリクで男爵邸を目指す。昨日話した通りね」

「本当はスカトの方が良いんだけど、奴隷を連れてくるとなると、スカトじゃ無理だからね」


 魔導三輪のスカトは3人乗りだから、さすがに奴隷まで乗せるのは難しい。

 1人ぐらいなら出来なくもないが、出来れば数人は連れていきたいから、それなら最初からサダルメリクを使った方が見つかるリスクも減らせるはずだ。


「気になっていたんですが、奴隷をシュロスブルクまで連れていくとなると、アクエリアスにも乗せることになりますよね?」

「泊まる場所の問題もあるし、湖を突っ切るわけだから、それはね」


 現在アクエリアスが停泊している湖は、手強い魔物も多い。

 そのせいで船便は就航しておらず、帝都シュロスブルクまでは湖を大きく迂回しなければならない。

 つまり奴隷を連れ出すことに成功すれば、男爵側より早くシュロスブルクに辿り着けるし、追手が出たとしても簡単に撒ける。

 奴隷に確実に証言してもらうためにも、アクエリアスを使うのは当然の選択だ。


「ナハトシュトローマン男爵の奴隷とは契約を結んでる訳じゃありませんから、浩哉さんの秘密がバレる可能性があります。それは構わないんですか?」


 うわ、そうだった。

 奴隷は契約に基づいて仕えているから、マスターの秘密をバラすことはない。

 だけどその奴隷は、ナハトシュトローマン男爵の奴隷だから、俺の秘密を漏らしたとしても、何の問題もない。


「町に入る場合は身分証を見せないといけないから、あの鎧で正体を隠したとしても、浩哉だってことはすぐにバレるわね」


 ライブラリングっていうステータスチェック魔法もあるから、顔を隠すだけじゃ意味も薄いか。

 名前と年齢、レベル、犯罪歴の有無ぐらいしか分からないが、今回の場合だと犯罪歴の有無が鬼門になるな。

 まあライブラリングは、相手に接触しないと使えないらしいが。


「男爵邸に押しかけて奴隷を連れ出すわけだけど、これってやっぱり犯罪だよな?」

「普通に犯罪行為ね。ただ人の家に入り込むだけで犯罪者になるなら、スパイとか斥候とかは何も出来なくなるから、その程度じゃ犯罪にはならないし、奴隷が自分の意思であたし達についてくれば、誘拐にもならないはずよ」


 契約不履行を訴えるためについてきてもらう訳だから、奴隷側のメリットも大きい。

 だけどこちらもリスクがあるから、シュロスブルクに入る際は、しっかりと事情を説明した方が良さそうだ。


「奴隷を助けるためにナハトシュトローマン男爵邸に侵入して連れてきたって言えば、問題無いかな?」

「本当に契約不履行の訴えが聞き届けられれば、大丈夫だったはずです」


 契約不履行は神罰の対象になる犯罪行為だから、それを証明した側は罪に問われることはない。

 しかも訴えを聞き届けるのは、トレーダーズギルドを介した神々だから、たとえ皇帝であっても決定に異議を唱えることは出来ないし、そもそも神罰の対象になる契約違反は国家反逆罪に次ぐ重罪だし、対応が悪ければ国そのものにも神罰が下る可能性があるから、フロイントシャフト帝国が男爵の悪行を知れば、あっという間に処罰してくれるだろう。


「フロイントシャフトも、災難よね」

「それは否定しない。というか、これで俺がフロイントシャフトに目を付けられる可能性は高いよね?」

「確実にね。そもそも浩哉はルストブルクでハンター登録をしたって事は記録に残ってるし、それから1ヶ月もせずにシュロスブルクに現れたら、怪しまれるどころの話じゃないわよ」


 道中でナハトシュタットに立ち寄り、ナハトシュトローマン男爵の奴隷を連れてきたとなれば、確かに時間は合わないよな。

 魔導車があれば多少の時間は短縮できるが、俺の場合はそんなレベルの話じゃないし、道中でどこの町にも立ち寄ってないんだから、怪しむなっていう方が無理だ。


「ですが浩哉さんは功労者でもありますから、フロイントシャフトも無理に取り込む事はできません」

「そうなの?」

「ええ。ナハトシュトローマンの契約不履行が聞き届けられた場合、当然だけどナハトシュトローマンには神罰が下るし、場合によってはフロイントシャフトも対象になる。フロイントシャフトに神罰が下ってしまった場合、国内は荒れるし、下手したら他国から兵を向けられることもあり得るから、浩哉の存在は国にとっては逆族に近くなる」

「ですが神々にとっては、不正を暴いた功労者ですから、軽々しく処罰してしまえば、神々の怒りを買うことになるんです」


 つまりナハトシュトローマン男爵の契約不履行を暴いたとしても、俺の命が狙われることは無いと?


「絶対じゃないけどね。ナハトシュトローマンが消えることで不利益を被る貴族もいるだろうし、そういった連中は同じ穴の狢だったりするから、逆恨みで浩哉に暗殺者を放ってくるんじゃない?」

「だけどバレたら、今度はそいつらが神罰の対象か」

「神罰どころか、領地ごと消滅させられるんじゃない?」


 それは過激すぎるだろ。

 だけど実際に神々の怒りを買って滅んだ国も少なくないみたいだから、可能性としてはゼロじゃないってことか。


「つまり俺は、少なくともナハトシュトローマン男爵が正式に処罰されるまでは、身の安全は保証されてるってことか」

「そうなるわね。フロイントシャフトが神罰の回避に成功したら、面倒なことになるとは思うけど」


 そうなるよな。

 だけど国に従うつもりはないし、仕えるつもりもないから、あんまりしつこいようならフロイントシャフトを出ることも考えないといけない。

 そうなると、エレナの家族もフロイントシャフトに移住させられないから、しばらくは成り行きを見ないとダメか。


「全てが上手くいったと仮定して、ナハトシュトローマン男爵が処罰されるのは、だいたい1ヶ月ぐらい先か」

「時間を掛け過ぎると、フロイントシャフトにも被害が出ますから、それぐらいでしょう」


 それだけ時間があれば、フォルトハーフェンには到着しているだろう。

 となると、ナハトシュトローマン男爵が神罰を受けたとか処罰されたっていう話は、フォルトハーフェンで聞く事になりそうだ。

 フォルトハーフェンは港町だから、その後で俺を拘束しようっていう動きがあっても、逃げるのは難しくないな。

 レベルも上がるだろうから、兵を差し向けられたとしても迎撃もできると思う。

 フロイントシャフト帝国がそんなことをするかは分からないが、貴族とかだとあり得る話だから、今からしっかりと警戒しておこう。


「分かった。神罰だとかフロイントシャフトの動きだとか、気になる事はあるけど、今はナハトシュトローマン男爵の屋敷から奴隷を連れ出すことに集中しよう」


 先の事も問題だが、まずは目先の問題を何とかしないとな。

 あとはいつナハトシュタットに潜入するかだが、日中は人通りも多いから、ハイディングフィールドを使うとはいえサダルメリクは使いにくい。

 人波が不自然に途切れたり出来たりするだろうから、違和感に気付く人も出てくるんじゃないかと思う。

 となるとやっぱり、人通りが減る夜が無難か。

 それに夜なら、ナハトシュトローマン男爵もさらに隣の町に到着してるだろうから、急ぎの伝令が走ったとしても伝わるのに時間が掛かるから、より安全を確保出来る。

 ナハトシュトローマン男爵邸まではサダルメリクで行くが、その後は自分の足で動かないといけないから、そこだけが不安だな。

 ハイディングフィールドや偽装結界カモフラージュ・フィールドは、乗物にしか搭載できないから、別の手を考えないといけない。

 何か手が……あった!


「浩哉、いきなりブルースフィアを開いたりなんかして、何かあったの?」

「ああ。ヘリオスフィアで使ったらどうなるかは分からないけど、使えそうなアイテムがある。これだ」


 俺がブルースフィアから取り出したのは、インビジブル・マントというマントだ。

 名前から分かってもらえると思うが、姿を消す装備だな。

 装備品じゃないから、羽織って魔力を流すだけで使える。

 テキストは、光を屈折させて装着者の姿を周囲から見えなくする、となっているな。


「姿を消せるの?」

「そのはずだ。ただ、ハイディングフィールドと違って認識阻害は掛かってないから、感覚の鋭い人には見破られるかもしれない」


 ブルースフィア・クロニクルでは、フィールドは乗物で移動することがほとんどなんだが、エリアによっては徒歩でしか進めない場所も少なくない。

 乗物に乗っていると魔物に襲われることはないが、徒歩の場合は遠慮なく襲われる。

 なので姿や音、臭いを消す魔導具は必須で、それを使いながら狩場に行くこともよくあった。

 ただし、欠点もある。

 どの装備も共通だが、効果時間が10分から30分と幅がある上に短く、使いなおすためには一度姿を見せなければならないし、10回使うと壊れてしまう。

 壊れてしまえば効果は出ないため、予備も含めていくつも持ち歩く必要もあったな。

 現在俺は、そのインビジブル・マントを7つ持っているが、1つは残数4回だから、俺のデータがそのままである以上、本当に使い差しも混ざっていたということになる。

 ショップで買えるんだが、レベル4じゃまだ開放されてないから、現時点では購入して増やすことも出来ないのも地味に辛い。


「姿を消せるのは凄いけど、時間制限があるのは厳しいわね」

「効果が切れそうなら分かるとのことですけど、使いなおすためには姿を見せないといけませんから、運が悪いと見つかってしまいますか」

「そこは運に任せるしかないけど、何も無しに潜入するよりはマシだと思おう」


 インビジブル・マントの存在を思い出さなかったら、本当に周囲を気にしながらの潜入になるところだったから、何もないよりははるかにマシだと思う。


「確かにそうね。ナハトシュトローマンの部屋を物色するなら効果時間が厳しかったかもしれないけど、奴隷を連れ出すだけだから、何とかなりそうだわ」

「ええ。見つかってしまえば犯罪者になってしまいますが、そのインビジブル・マントを使わなくても同じことですから、リスクが下がる魔導具は大歓迎です」


 俺もそう思う。

 予備が少ないのが心許ないから、迅速な行動を心掛けて、なるべく早く奴隷を見つけ出そう。


「それじゃあ夕方になったら、行動を開始しよう」

「ええ」

「分かりました」


 とはいえ、夕方まではかなりあるから、それまでは手持ち無沙汰だな。

 かといって何もしないと落ち着かないから、もう少し沖合までアクエリアスを進めて、どんな魔物がいるか確かめてみてもいいかもしれない。

 船上戦闘の訓練にもなるし、気合を入れる意味でもやってみるか。


「浩哉、時間はあるから、もう少し沖に出てみない?」

「俺もそうしようと思ってたところだ」


 どうやらアリスも、俺と同じ考えだったようだ。

 エレナも賛成してくれたから、1時間ぐらい沖に出てから適当に航行して、そこでハイディングフィールドを解除しよう。


 予定通り1時間航行してから、ハイディングフィールドを解除する。

 特に何か変わったようには見えないが、アクエリアスが起こす小さな波が周囲にも広がっていくのは確認出来た。

 これでこそ船って感じがするな。

 10分ほどすると、アクエリアスの気配を感じたのか、湖から魔物が姿を見せた。

 水面から飛び上がって来たから魔物の全体を見ることが出来たが、やけにヒレのデカい魚だな。


「ジャイアント・フィンだわ!」


 元ハンターのアリスは、そのヒレのデカい魚のことを知っていた。

 ジャイアント・フィンっていうのは淡水に生息している魚型の魔物で、デカいヒレは並の剣では歯が立たないほど鋭く、切れ味も抜群らしい。

 そのヒレを使い、すれ違いざまに船を斬り付けてくるんだが、ジャイアント・フィンは5メートル近い巨体だし、ヒレも1メートル以上あるから、剣を構えた魚にしか見えないぞ。

 あんなので斬り付けられたら、普通の船どころか魔導船でも簡単に沈むに決まってる。

 その特性上、ヒレは武器に加工できるんだが、ジャイアント・フィンが生息しているのは大きな湖のみで、しかも岸の近くには出没しないから、討伐されることはほとんどない。

 そのためジャイアント・フィンのヒレを使った武器は、とんでもない高値で取引されるんだそうだ。

 魔物素材が武器の素材になるのは知ってたが、俺達には必要のない情報だったから、あまり身を入れて聞いてなかったな。


 そのジャイアント・フィンは、ヒレを前に突き出しながら、真っ直ぐにアクエリアスに向かって突っ込んできて、侵入不可の効果によって巨体を大きく宙に浮かせながら吹っ飛んでいった。


「スカトやサダルメリクでは何度か見たけど、アクエリアスで見たのは初めてね。それにしても、相変わらず理不尽な能力よね」

「あんな感じで飛んでいくなんて、ちょっと気の毒ね」


 アリスとエレナが若干引いているが、俺も気持ちは分からなくもない。

 ジャイアント・フィンにとっては必殺の攻撃だったはずだし、いくら上手く操縦しても、アクエリアスの大きな船体じゃ避けることは不可能なくらいの勢いもあった。

 なのに侵入不可という理不尽なアビリティのおかげで、アクエリアスはもちろん無傷だし、それどころか衝撃すら届いていない。

 プカーっと力無く浮かんでいるが、アクエリアスの進行方向から向かってきてたから、多分アクエリアスが体当たり攻撃でもかましたみたいな感じになってるんだろう。

 ルストブルクの近くで狩りをしてた際も、何匹かの魔物がスカトやサダルメリクにはねられて、あんな風になってたな。

 攻撃を受け付けないばかりか、動いていれば質量がそのまま武器になるなんて、理不尽極まりない。

 しかもこっちは壊れない倒れない沈まないだから、一方的に攻撃できる。

 まさにチートとしか言いようがない。


「なんか動かないけど、まだ生きてるわよね?」

「どうでしょう?」

「スカトを出して、収納できるか確かめてくるよ」


 生物はストレージに収納出来ないから、生きてるかどうかの確認は簡単だ。

 収納する物体に触れる必要があるから、アクエリアスからだとアンダーデッキに出ない限りはかなり厳しい。

 だからここは、水陸両用魔導三輪のスカトの出番だ。

 こっちも不懐、不沈、不倒、侵入不可、自動操縦のアビリティがあるから、振り落とされない限りは安全は確保されている。

 調子に乗ってると危ないから、シートベルトは必ず締めておくし、そのシートベルトもスカトの一部だから、壊れたり切れたりする心配も無い。


 俺はそのスカトに乗り、アンダーデッキから湖上へ出た。

 スカトも水の上で使ったのは初めてだが、使い勝手は陸上と大差ないな。

 だけど武器を構えることも出来るし、機動力もあるから、慣れるとけっこう使いやすい。

 そのままジャイアント・フィンに近付いて手を触れてからストレージングを使ってみたが、収納は出来なかった。

 まだ生きてるってことは、気絶してるだけか。

 全身から血を流してるし、力無く浮かんでるだけだから、傍から見たら死んでるようにしか見えなかったんだが、まだ生きてたとは。

 仕方なく剣を振り下ろしてトドメを刺してから、もう一度ストレージングを使って収納する。

 今度は収納されたから、間違いなく倒せたな。


「スカトって、水の上だとそんな感じになるのね」

「操縦してみたい?」

「是非」

「私もお願いしたいです」


 アクエリアスに戻ると、アリスとエレナも操縦したそうな顔をしながら出迎えてくれた。

 俺としては水陸両用魔導車を買うのもアリかと思ってたんだが、操縦したいってことなら水陸両用魔導三輪一択だな。

 そういえば、まだ2人にはスカトの操縦をさせたことは無かったから、この機会に2人用に買っておくか。

 水陸両用にするか水上用にするかは悩むところだが、陸上は移動がメインだからスカトで十分だと思うから、水上バイク辺りにしておこう。

 振り落とされる心配はあるから、シートベルトがついてるといいなぁ。

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[気になる点] 奴隷買ってからヤってばかりでノクターンで書いておけよと思わざるを得ない。
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