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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第3章・契約履行から始まる奴隷契約
23/77

湖上の宝瓶宮

 アリスから、ナハトシュタットは湖に面しているため、魔導船を使えるとの情報がもたらされた。

 急いでマップを確認すると、確かにナハトシュタットは湖に面していて、その湖はかなり大きい事が分かる。

 ナハトシュタットの数倍はありそうな湖なんだから、とっとと気付いとけって話だな。


 アクエリアスにしろアクアベアリにしろ、拠点としては十分な性能を持っているし、アクエリアスにはサダルメリクとスカトも搭載しているから、機動力も十分確保出来る。

 さらにハイディングフィールドまであるから、誰にも見られず、違和感すら感じさせずに街中にまで潜入する事も可能だ。

 さすがに無警戒に侵入を許す結界なんて、ヤバいどころの話じゃないから、絶対に墓まで持っていくと改めて心に誓ったよ。


 なので俺は、アクエリアスを拠点に、ナハトシュトローマン男爵の屋敷に強襲を仕掛けることにした。

 水に浮かべるのはフォルトハーフェンに着いてからになると思ってたから、ここで船として使えるのは素直に嬉しい。

 問題は、見つかっても正体がバレないようにと思って提案した装備で、一番あり得ない鎧を着る羽目になったことだ。

 黄金ライオンなんて、見つけてくれと言わんばかりの派手さじゃないだろうか?

 アリスとの契約を履行するためだから、我慢するしかないんだが。


「浩哉、見えてきたわ。あの湖よ」


 ルストブルクを発ってから2日目、目標の湖が俺の目にも映った。

 ルストブルクやナハトシュタットからシュロスブルクまで時間が掛かるのは、この湖を大きく迂回しなきゃならないのが最大の理由だ。

 対岸は帝都シュロスブルクまで1週間ほどの距離になるそうだが、湖に生息している魔物が強力なため、定期便はおろか地元の漁師でさえ岸から離れる事はない。


 だが俺の魔導船、アクエリアスとアクアベアリは、ブルースフィア・クロニクルというゲームの船で、アビリティに不懐、不沈、侵入不可というとんでもないチートが存在しているし、ハイディングフィールドという隠蔽、認識阻害結界まで備えているから、魔物が相手でも沈められる事は無い。

 なのでこの湖でも、問題なく使う事が出来る。


「このまま進むと、ナハトシュタットの門か。ならもう少し先に進んで、人気のない所からアクエリアスに乗り込もう」

「こっそり潜入するんだから、どこで乗っても同じじゃない?」

「そうだけど、潜入するんだから、心構えも大切だと思う。街の近くでも大丈夫だとは思うけど、油断に繋がるんじゃないかと思えるから、念のためだよ」


 バレても犯罪者になる事は無いと思うが、こういった行動をする場合、慎重に慎重を重ねても足りない場合もあるからな。


「先程豪奢な獣車とすれ違いましたから、潜入は1日か2日置いてもいいかもしれませんね」


 エレナの言うように、ナハトシュタットと隣町のほぼ真ん中辺りで、豪奢な獣車とすれ違った。

 家紋を見たアリスが、ナハトシュトローマン男爵の獣車だと断言していたから、今日になってようやくルストブルクに向かったようだ。

 時間的にもおかしくはないが、あまりナハトシュタットに近いと戻ってくる事も考えられるから、今日は潜入しないでおくべきだと俺も思う。


「それもそうか。了解よ」


 アリスが逸る気持ちも分かるが、ここで焦ってもロクな結果にならないから、落ち着いてもらわないといけない。


「アクエリアスで少しナハトシュタットから離れて、そこで停泊する。その後は特にやることもないけど、万が一を考えてハイディングフィールドは展開したままにしておくよ」


 ナハトシュタットから見えないぐらいの距離なら大丈夫だと思うが、漁師が来る可能性はあるし、魔物との戦闘を見られる可能性もあるから、今日は大人しく待機しておこう。


「それなら、今日もお風呂で時間を潰しましょうか」

「良いわね。景気付けにもなるから、あたしも賛成」


 まあ、そうなるよな。

 初めて契約した日から、アリスもエレナも、1日に1回は必ずルーフデッキの大浴場に入っている。

 デカい風呂は気持ちが良いし、ジャグジーに打たせ湯まであるから、俺としても気持ちは心から理解出来る。

 だけど俺も必ず一緒だし、行為に及ぶのも常だから、いい加減干からびてきそうな気がしないでもない。

 奴隷契約の際に、契約内容を履行すれば身も心も捧げるっていう契約が結ばれてはいるが、その前に手を出してしまっても、互いの合意があれば契約違反にはならないって事で今まで関係を続けているし、俺も慣れてしまって喜んでお相手させてもらっているから、何も言う権利は持っていないんだが。


 そのルーフデッキの大浴場は、アクエリアスの名前の由来となったみずがめ座の宮殿、宝瓶宮になるようにデザインしている。

 ルーフデッキは板張りから滑りにくいタイル材に張り替え、新たに取り付けた屋根は神殿風の物を選び、その屋根を4本の石柱が支え、中央の台座には水瓶を抱えた3体の女神像があるぐらいだから、本当に宝瓶宮をイメージ出来ているかは疑問が残る。

 アリスとエレナは気に入ってくれているし、俺もそうだから、とりあえずはこれでいいかと思っているけど。


 ナハトシュタットを横目に通り過ぎ、1時間程進んでから、人気が無い事を確認してアクエリアスを召喚する。

 ハイディングフィールドが展開されてるから見つかる事は無いんだが、確認は癖になってきているし、万が一がないとも言い切れないから、悪い事じゃないと思う。

 初めて水に浮かんだアクエリアスを見たが、なんか感動してきた。

 こんなに早く、夢が叶うとは思ってなかったから、ちょっと泣きそうだ。


「水に浮かんでるのを見ると、船だって実感沸くわね」

「今までは草原でしか召喚してなかったから、尚更そう思えるわね」


 アリスとエレナの言いたい事も分かる。

 最初にアクエリアスを召喚したのは、単純に見たいからという理由だったし、船が傾くかもなんてことは一切頭に無かった。

 普通に考えれば、陸上で船を召喚なんかしたら傾いて倒れるに決まってるのに、結界のおかげで倒れずに直立したままだったから、落ち着いてから初めて違和感に気が付いたぐらいだ。


「それじゃあ乗り込むよ」


 スロープを伸ばす必要はないが、長さは5メートル近くあるから、少しなら岸から離れてても乗り込めそうだ。

 不懐のおかげで壊れることがないっていうのもありがたい。


「湖の上なのに、思ってたより揺れないのね」

「大きな船だから安定しているんでしょうけど、結界もあるからじゃないかしら?」


 俺も水に浮かぶアクエリアスに乗ったのは初めてだから確証は持ててないが、エレナの言う通りだと思う。

 それでも少しは揺れてるから、船に乗っているという実感も沸いてくる。


「自動操縦で、岸から1時間ぐらい進んでおこう。その間に水面の様子も確認するから、2人は自由にしててくれ」

「確認を手伝わなくてもいいの?」

「確認と言っても、水面を見るだけだからね。俺もすぐに大浴場に行くから、先に入って待ってて」


 船体だけなのか、水面も含めてなのか、これはしっかりと確認しておかないといけない。

 それに、水面も含めて隠蔽されていたとしても、船が動けば水面は動くわけだから、完全な隠蔽は無理じゃないかという思いもある。

 自然な感じで水面が揺れる感じに隠蔽されるんじゃないかと思うが、それでも陸上より気付かれやすいだろうから、今のうちにしっかりと確認しておかないと。


「そういう事なら、遠慮なく先に入らせてもらうわ」

「ありがとうございます、浩哉さん」

「ああ、それと、これを渡しておくから、準備をお願いできるかな?」


 ブルースフィアで購入したつまみとなる軽食をアリスに、酒数本をエレナに手渡して、準備をお願いしておく。

 準備といっても、グラスを用意して、皿に並べるぐらいだから、風呂に浸かりながらでも問題無い。


「これって高級なワインよね?」

「ああ。こんな時に何だけど、初めてアクエリアスを水に浮かべる事が出来たから、その記念にと思ってね」


 酒は地球でもメジャーな赤ワインで、ブルースフィア・クロニクルでも売られていた。

 ブルースフィア・クロニクルでの酒は酩酊という毒物系のデバフが付き、効果は徐々に睡眠という非常に厄介なものだ。

 だが酒を飲み続けていれば酩酊耐性が得られるため、普段から飲んで耐性を得たりレベルを上げる事は、低レベルの頃の基本でもあった。

 スキルレベルが10になれば必要はないんだが、スキルレベルに比例してキャラのモチベーションゲージにも影響が出てくるから、何気に使用頻度の高いアイテムだったな。

 ゲームでそこまでする必要があるのかとも思ったが、有名な酒造メーカーがスポンサーの1つでもあるから、スタッフが頑張ってシステムを考えた結果なんだろう。

 酒の種類も豊富だし、ブルースフィア・クロニクルで採用された酒の人気が上昇したっていう話もあるから、酒造メーカーとしても大成功だったんじゃないかと思う。


 今回俺が購入したのは、10年間熟成させたという赤ワインだ。

 地球でも何年も寝かせたワインは高価だって聞いた事があるが、ブルースフィア・クロニクルでもそれは同じで、この赤ワインも1万ゴールドもする高級品だった。

 せっかくの記念だからってことで、俺はそのワインを3本購入している。

 最近酒を飲み始めたが、酩酊耐性レベル3が取れてしまったし、アリスも同じくレベル3、エレナなんてレベル4が取れてるから、少々の酒じゃ酔っぱらう事もない。

 レベル3やら4やらでこんな感じだと、レベル10になったら全く酔わなくなるんじゃないかと思えてちょっと怖いな。


 2人を大浴場に送り出してから、俺はコックピットで自動操縦をセットして、アンダーデッキに下りた。

 そこで水面をチェックしてみたんだが、驚いた事に水面は一切揺らいでいなかった。

 まさかと思ってフロントデッキに行ってみると、水を切っているのは分かるんだが、こちらもすぐに波が収まり、すぐに水面がなだらかになってしまった。

 もしかしてハイディングフィールドって、俺が思ってた以上に高性能なのか?

 結界を解いて違いを見てみたいが、まだナハトシュタットに近いから、さすがにそれは出来ない。

 シュロスブルクにはこの湖を突っ切って向かう予定だから、その時に確認しよう。


 予想以上の結果に驚きながらルーフデッキに向かうと、既にアリスとエレナが大浴場を楽しんでいた。

 2人で談笑しながらワインを傾けている様は、周囲の様子も相まって神話の中の話が飛び出してきたようにも見える。

 大袈裟に感じるかもしれないが、宝瓶宮をイメージした大浴場が、本当にそうなんじゃないかって思えてきたから、ちょっと嬉しかった。

 そんな俺に気が付いた2人が、手招きで俺を呼んでくる。

 俺はそれに応えるように服を脱ぎ、2人と一緒に大浴場を楽しむことにした。


「あたし達に見蕩れてたみたいだけど、どうかしたの?」

「この大浴場のイメージと2人が重なったから、嬉しかったんだよ」

「そうなんですか?」


 2人にも、神殿をイメージしたって事は伝えているが、それが宝瓶宮に繋がるかどうかは難しい。

 というより、俺も宝瓶宮の明確なイメージは持ってないから、屋根を4本の柱で支え、中央に水瓶を抱えた女神像を3体配置する事しか出来なかった。

 だけどさっきの2人は、配置された女神像と合わせて、俺の中で宝瓶宮のイメージをより鮮明に描かせてくれた。

 今は無理だから改装はいずれになるが、忘れないようにしっかりと記録しておこうと思う。


「それはそれで、嬉しいわね」

「女神像と同列に語られると、照れてしまいますね」


 言われて、自分が恥ずかしいセリフを口にした事に気が付いた。

 なんか顔が真っ赤になった自覚があるから、酒でも飲んで紛らわそう。


「一気に飲むと、体に悪いですよ?」

「あ、ごめん。つい……」


 エレナに注意されてしまったが、確かに耐性があるとはいえ、さすがに一気飲みは心配掛けるよな。


「ちょっとカッコいい事言っちゃったから、恥ずかしいんでしょ」

「……その通りだよ」


 アリスにツッコまれて、顔が熱を持ってきた気がする。

 酒のせいだと思いたい。


「それより、初めて動いてるアクエリアスに乗ったけど、どう?」

「露骨に話題をそらしたわね。まあいいけど。風が火照った体に気持ち良いわね。景色も良いし、何も文句はないわ」

「思っていたより揺れませんし、景色が流れていなければ船の上か疑ったところです。今までがそうでしたから」


 2人の感想も、俺とだいたい同じだな。

 ただ、今は暖かい季節だからいいけど、寒くなってきたら大変だから、今のうちから何か対策を考えておいた方がいいかもしれない。

 冬だからこそ、温かい風呂に浸かりたいし、それがこんな大浴場なら、入れなくなるのは悲しいからな。


「ほらほら、浩哉も飲んで」


 そんな事を考えてたら、アリスにグラスを手渡され、ワインを注がれた。


「ありがとう、アリス。頂くよ」


 さすがにグラスに半分ぐらいとはいえ、一気飲みはマズいから、軽く口に含み、舌先で転がすようにしながら味を堪能する。

 芳醇な香りはもちろん、ほんのりとした甘さが口の中に広がり、飲み込むと余韻がしばらく残る。

 何度か飲んだが、ここまで美味しく感じたワインは初めてだな。


「ふう、美味い」

「あたしも、こんな美味しいお酒は初めてよ。浩哉の出してくれたお酒は、どれも美味しいけど」

「製法はもちろん、熟成、でしたか?そんな方法があるなんて、知りませんでしたからね」


 酒1つとっても、あんまり技術は発展してないのか。

 刺激を与えるのが俺の役目とはいえ、これはかなりの難題な気がするな。

 創造神様に感謝の意味も込めて、それぐらいはしっかりとやっていくつもりだけど、まずはアリスとエレナの契約を履行して、その後でフォルトハーフェン辺りから広めていこう。


「浩哉、難しいことは後でいいでしょう?」


 アリスが俺の腕に抱き着いてきて、また考えに集中してたことに気が付いた。

 悪い癖っていうより、既に習慣だから、簡単には直らないんだよな。


「ごめん。で、どうかした?」

「したわよ。今日は英気を養うためにも、たっぷりとシようって話」


 マジで?


「アリスとの契約が履行されそうですし、私にとっても浩哉さんが契約を守ってくれるという証明になりますからね」


 契約で繋がってる関係だから、俺がしっかりと履行するかどうかは重要だ。

 好意があるのは間違いないが、それが愛情かと言われると違うと断言できるし、それに関しては俺もだったりする。

 2人のことは好きだが、それは友人としての好きという感情だ。

 毎日励んでいるとはいえ、その感情が変化したわけじゃない。

 というより、俺には人を好きになるという感覚がよく分からない。


「思ってたより早かったけど、明日はいよいよだから、あたしも気が昂ってるの。だから浩哉、お願い」


 上気した顔を近付けて、頬に唇を押し当てるアリス。

 右腕に抱き着き、胸どころか体そのものを押し付けてきているし、トロンとした瞳を見るだけでも発情してるのが分かる。

 普通風呂に浸かりながら飲むと、かなり早く酔いが回るんだが、酩酊耐性のおかげでその心配はあまりない。

 だからアリスはほろ酔いといったところだと思うが、いよいよ明日ナハトシュトローマン男爵の屋敷に乗り込むわけだから、気分が高揚してるんだろう。


「鎮められるかは分からないけど、頑張らせていただきます」


 そう答えるより早く、アリスの胸を揉みしだき、ピンクの突起を摘まみ上げる。

 アリスの口から色っぽい吐息が漏れ、完全に俺に身を委ねてきた。

 普段の言動からは想像できないが、基本的にアリスは受け身で、何をされても嫌がることがない。

 俺にSM趣味はないからそっちはやってないが、少し強めに体をまさぐると喜んでくれる。


「浩哉さん、私もいいですか?」

「勿論。おいで」


 それに対して、エレナは積極的に攻めてくる。

 女性しかいない妖族はその傾向が強いらしいが、その中でもエレナは特に強い方なんじゃないかと思う。

 他の妖族のことは知らないから、推測でしかないが。

 エレナは俺ばかりか、アリスのことも嬉々として攻め立てているから、俺も含めて3人の相性はバッチリだ。

 今日はこのまま色に塗れて過ごして、明日のための英気を養おう。

 アリスとの契約が達成されるかの瀬戸際でもあるし、ナハトシュトローマン男爵は悪徳貴族としても有名だから、しっかりと潰しておかないとな。

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