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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第3章・契約履行から始まる奴隷契約
22/77

契約履行への第一歩

 アリス、エレナと奴隷契約を結んでから、1週間が経った。

 初日と2日目は色に塗れた生活を送ってしまったが、それからは夜の生活だけじゃなく、ちゃんと狩りにも精を出している。

 俺だけじゃなく2人も装備に慣れ、レベルも上がっているし、魔物もしっかりと狩り、一度ルストブルクに戻って買取を行ってもらったから、資金もかなり稼げている。

 ルストブルクでは偽装結界カモフラージュフィールドを搭載したスカトを使っていたんだが、巻き上げようとしてきたハンターに絡まれたこともある。

 俺はSランクハンターに昇格し、レベルも58になっている。

 だけど見た目は若造でしかないから、侮るハンターは多かった。

 そいつらも同じで、俺を侮った挙句にスカトばかりかアリスとエレナまで連れて行こうと考えてたから、全員しっかりとボコボコにしてある。

 その後でそいつらが所属しているレイドがお礼参りに来たから、そいつらもしっかりと潰したな。

 ルストブルクに来たばかりだったらしいが、他の町で問題を起こしてルストブルクにまで逃げてきた連中だから、潰しても誰も迷惑を被らず、それどころか感謝すらされたぐらいだ。


 アリスもレベル40に、エレナもレベル29に上がってるし、装備にも慣れてきたな。

 レベルが上がるのが早い気がするし、実際アリスはそうだと言っていたんだが、話を聞くといくつかのスキルはパーティーにバフ効果があるみたいだ。

 そこで気になるのは、俺が創造神様から貰った成長速度向上スキル10。

 ヘリオスフィアには、ステータスを見るステータリングという魔法があるが、フレーバーテキストなんかは存在していない。

 だがブルースフィア・クロニクルはゲームだから、フレーバーテキストは存在している。

 ステータスで気になる事があったら、ブルースフィアを開いて確認していたぐらいだ。

 だから俺はブルースフィアを開いて2人のステータスを確認したんだが、そこには成長速度向上スキル5、全言語理解スキル5の文字があることが確認出来た。

 この2つは、いわゆるパッシブスキルで、パーティーメンバーにも効果があるようだ。

 パッシブスキルの場合、スキル所持者の半分のレベルがメンバーに付与されるから、2つのスキルレベルが5なのは理解できる。

 だけど成長速度向上スキルだけじゃなく、全言語理解スキルまでパッシブスキル扱いになってるとは思わなかった。

 いや、元ハンターだったアリスもだが、エレナも読み書きは怪しかったんだが、おかげで問題なくなったし、アリスは素のMPが500を超えたからストレージングも使えるようになったしで、助かってるから構わないんだけど。

 ちなみにステータス補正でMPが500を超えても、ストレージングは使えなかった。

 装備を外したら元に戻るから、素で超えないと使えないってことみたいだ。


 今日、魔物を買い取ってもらったら、その足で俺達はフロイントシャフト帝国最南端の町、フォルトハーフェンに向かう事にしている。

 ルストブルクが海に面してたら拠点にできたんだが、残念ながらルストブルクは森と山に挟まれた内陸部だから、海どころか湖すらない。

 だから当初の予定通り、南の島に迷宮ダンジョンがあるというフォルトハーフェンに向かい、道中でアリスの復讐対象であるナハトシュトローマン男爵の情報を集める予定だ。

 ナハトシュトローマン男爵への復讐は、可能ならフォルトハーフェンに着く前に行う予定だが、状況次第では後回しになる。

 アリスも納得してくれているが、早く条件を達成した方が気分的にも楽になるから、そうならない事を祈りたい。

 フォルトハーフェンに到着したら、南の諸島を含めて少し観光をして、シュラーク商会で魔導船を見せてもらってから、エレナの故郷の村に向かうつもりでいる。

 全部で40人ほどの村人を移住させなきゃいけないからアクエリアスを使うしかないんだが、そのためにフォルトハーフェンで入念な準備をしておく必要があるし、場合によってはフロイントシャフト帝国じゃなくヴェルトハイリヒ聖教国に向かう事になるかもしれないから、こちらもどうなるかはフォルトハーフェンに到着するまでは分からない。


 ハンターズギルドで魔物を売り終わり、挨拶をしてから外に出る。

 その後でトレーダーズギルドに寄り、食材と調味料を購入する。

 ここでも奴隷契約をしてくれた担当者さんに挨拶をし、シュラーク商会にも立ち寄ってから、ルストブルクを後にする。

 ほとんどルストブルクにはいなかったから、あまり感慨も沸かなかったな。


 途中でサダルメリクに乗り換え、ハイディングフィールドを展開させてから、ブルースフィアのマップを呼び出す。

 ルストブルクはフロイントシャフト帝国の辺境で、隣国との国境もあるからか、隣町までは獣車でギリギリ1日掛かる距離がある。

 徒歩だとだいたい時速4~5キロぐらい、馬車でも時速10キロちょっとになるが、隣町までは100キロ近くあるから、徒歩だと途中で夜営をしなきゃならないし、馬車でも何かトラブルがあったらその日のうちに到着するのは難しい。

 簡易魔導車は時速30キロ前後で、魔法で移動サポートをするキャリッジみたいなのを繋いでも時速20キロぐらいはでるから、余裕をもってその日のうちに到着できるんだが、購入費用が高いから、普通のハンターや行商人には手が出ないという問題もある。

 それでもルストブルクは、辺境ということもあって希少な魔物も少なくないし、土地は広いから畑も広いため、魔物素材や食料の生産地として有名だ。


 それはともかくとして、隣町までは、サダルメリクやスカトを使えば2,3時間で到着できる。

 ナハトシュトローマン男爵の噂や泣き所を調べるためなら立ち寄るべきなんだが、ナハトシュトローマン男爵領はルストシュタイン伯爵領と隣接しているため、領都ナハトシュタットまでは1週間あれば余裕をもって到着できる。

 そして俺がアリスとエレナを買ってから丁度1週間だから、そろそろナハトシュトローマン男爵の耳に入る頃だろうし、もしかしたら既に入っているかもしれない。

 もしナハトシュトローマン男爵がすぐに行動に移したりしたら、途中の町でばったり遭遇なんて事もあり得るし、そうなったら面倒なことにしかならないから、ナハトシュタットからルストブルクまでの進行上にある町や村には泊まらない事にしている。

 ただナハトシュトローマン男爵とすれ違う可能性はあるから、街道の近くを走るつもりだ。

 ルストブルクからナハトシュタットまでの距離は、300~400キロぐらいで、どれだけ遠く見積もっても500キロもない。

 その距離なら、サダルメリクを飛ばせば2日、早ければ1日で到着できるかもしれないから、すれ違うとしてもナハトシュタットに近い所になると思う。


「浩哉、今日だけでかなりナハトシュタットに近付けるけど、夜はどうするの?」

「街道の近くで、アクエリアスを召喚するよ。ナハトシュトローマン男爵には、ほんの僅かであっても俺達の情報を与えたくないからね」


 町や村に入らない理由は、俺達の情報を与えないためでもある。

 アリスの体を狙っていたナハトシュトローマン男爵からすれば、俺は突然横から現れて掻っ攫っていった不届き者という事になる。

 しかも俺はルストブルクでスカトを使っていたし、アリス、エレナと契約した際には2人を乗せているから、スカトの情報も併せて伝わっているはずだ。

 横からアリスを掻っ攫われたのは面白くないが、その掻っ攫った男が希少な魔導車を持っていると知れば、悪評漂うナハトシュトローマン男爵はアリスとスカトの両方を手に入れようと企むだろう。

 そのために、俺を無実の罪をでっち上げて捕らえようとする可能性もある。

 そしてその手配は、ナハトシュタットに近い町から進められているから、たとえ1日2日ほどで到着できても、既に手配されている可能性は否定できない。


 普通なら町や村に入れないと食料の補給も安眠も出来ないんだが、スキル・ブルースフィアを持つ俺からすれば、その程度の事は何の問題にもならない。

 情報は手に入らなくなるが、逆に相手もこちらの情報を入手できなくなるから、こちらの方がメリットが大きいだろう。

 ナハトシュトローマン男爵がルストブルクに着けば話は別だが、往復で2週間近く掛かる距離だから、その頃にはこちらもナハトシュタットを離れているし。


「ナハトシュタットに着いたら、どう動くんですか?」

「正面から入るつもりはないから、隙を見てスカトで門を通り抜ける。街に入ったら、真っ直ぐにナハトシュトローマン男爵の屋敷を目指して、男爵がいなければ物色させてもらおう」


 普通に犯罪行為だが、相手も法を犯してるわけだから、この場合はセーフだと思いたい。

 貴族相手にそんな理屈は通用しないから、一般人は泣き寝入りどころか口封じすらされる事もある。

 典型的な悪徳貴族の所業だが、ナハトシュトローマン男爵もその例に漏れない悪徳貴族らしいから、俺もあまり罪悪感を感じずに済む。


「証拠が手に入れば、それをシュロスブルクに持っていって、信用できそうな人にこっそり渡して、処分を依頼するよ。契約奴隷を不当に扱ってるみたいだから、トレーダーズギルドっていうのが無難かな」

「そうですね。圧力をかけて無理矢理契約を結んだんでしょうが、神罰は下っていませんから、本当にギリギリのところを付いているはずです。奴隷を1人でも確保して、シュロスブルクのトレーダーズギルドに連れ込んで証言してもらえれば、遠くない内に神罰が下るでしょう」

「フロイントシャフトもそんなクズを野放しにしてたって事で、神罰が下る可能性はあるから、回避するために必死になるでしょうね」


 つまり成功すれば、ナハトシュトローマン男爵家はお取り潰しが確定するし、男爵本人は神罰を受けて死ぬか廃人になるかするって訳だな。

 だけど不当な契約とはいえ、奴隷が口を割るとは思えない。

 そこはどうするんだ?


「奴隷にも権利はあるわ。マスターが不当な扱いをしていたり、契約を反故にしてたりしたら、トレーダーズギルドに駆け込んで証言できるの。当然だけど契約不履行ってことで、神罰の対象よ」


 なるほどな。

 悪行の書類を探し出すより、そっちの方が手っ取り早そうだ。

 となると問題は、どうやって奴隷から契約不履行の件を聞きだすかか。

 契約内容を知っているのは、マスターと奴隷だけで、マスターの許可がなければ口外する事は出来ない。

 この場合、マスターはナハトシュトローマン男爵になるんだが、自分が契約を反故にしてる事は重々承知だろうから、自らの破滅に繋がる話を許可する訳が無い。

 となると、奴隷の独白を聞きつけるぐらいしか、方法が無いような気がする。


「契約内容は聞き出せませんが、履行されているかどうかは聞けますから、それで首を横に振った場合は連れ出せばいいと思います」

「あ、履行されてるかどうかの確認は出来るんだ」

「そりゃね。特に貴族に買われた奴隷は、屋敷から出る事も出来ないんだから、それぐらいの防衛手段は許されてるわよ」


 言われてみれば納得だ。

 奴隷とはいえ、しっかりした契約に基づいて奴隷になっているんだから、不当な扱いをされたり契約を反故にされた場合、マスターを訴える権利は有している。

 その相手としてトレーダーズギルドが指名されているんだが、そのトレーダーズギルドもグルになっていた場合、訴えも聞き届けられず、より酷い待遇で扱われる事もあるって噂があるみたいだ。

 ナハトシュトローマン男爵の場合も、このケースに当てはまっているんじゃないかと思う。

 貴族の屋敷とはいえ、使用人や出入りの商人は必ずいるし、奴隷の扱いも目にしているはずなんだが、ナハトシュトローマン男爵が無事でいるという事は訴えられていない、もしくは訴えられていても握り潰されているという事になる。


「なるほどな。思ってたより簡単に復讐できそうじゃないか?」

「屋敷から奴隷を攫うなんて、普通は考えないわよ」


 なんてアリスに言われたが、それもそうか。


「あと1つ、良い情報があるわ。ナハトシュタットは大きな湖に面しているから、わざわざ門から入らなくても、アクエリアスかアクアベアリを使えば、簡単に侵入出来るわよ」


 おお、それは確かに良い情報だ。

 しかもその湖はかなり大きく、対岸まで行けば帝都シュロスブルクまでは1週間足らずで到着できるらしい。

 手強い魔物がいるから船便は就航していないが、アクエリアスにしろアクアベアリにしろ、魔物の攻撃は受け付けないチートな性能を誇っているから、万が一追手が掛かったとしても、簡単に撒く事が出来るな。


「ならナハトシュタットへの潜入は、その湖からにしよう。奴隷を連れ出す事を前提にするから、すぐに乗り込めるようにアクエリアスを、街中ではサダルメリクを使う」

「了解よ」


 スカトの方が小回りが利くんだが、男爵邸はナハトシュタットの中心部にあるし、小道に入る必要も無いから、連れ出しやすいようにサダルメリクを使う方がいいだろう。


「あとは俺達の正体がバレないように、別の装備を使おう」

「装備で誤魔化せるの?」

「それは大丈夫だ。けっこういかつい鎧だし、フルフェイスの兜も使うから」


 ブルースフィア・クロニクルは水上戦闘も多いから、金属鎧はシルターやリッター用がほとんどだが、イベントで配布された鎧もいくつか存在している。

 金属鎧が少ないからという理由で選ばれたようだが、奇抜なデザインだったり魔王っぽいデザインだったりしてたから、普段着として使ってたプレイヤーも一定数いたぐらいだ。

 ちなみに水に落ちてしまった場合は、制限時間内に船に接触出来れば助かるが、触れなかった場合は死亡して、拠点として登録している街からリスタートとなる。

 金属鎧の場合は、その制限時間が半分に短縮されてしまうから、船上だとシルターやリッターでも装備するプレイヤーは少なかったな。


 サダルメリクは自動操縦にしているから、運転席から離れても問題ないし、ハイディングフィールドも展開しているから、無人で走ってても怪しまれる事も無い。

 それに移動中は暇だから、この時間を使ってナハトシュタットで使う鎧を選んでおいた方が暇つぶしにもなる。

 サダルメリクの後方にあるトランクルームにも30インチモニターを搭載したし、高さも2メートル以上あるから、試着してみる事も可能だ。

 正体を隠して行動っていうのはちょっとテンション上がるし、興味ある鎧もいくつかあるから、それを試してみる絶好の機会でもあるな。


 早速トランクルームに移った俺達は、あーでもないこーでもないと言い合いながら、ナハトシュタットで着る鎧を決めた。

 なのにアリスとエレナが選んだのは、鎧じゃなくてコートだったりする。

 アリスが選んだのは、左肩にユニコーンの頭部をあしらった真っ白なコートだが、袖は二の腕の中ほどまでしかなく、仮面舞踏会で使うようなマスクがセットになっている。

 マスクにはユニコーンの角も付いてるし、コートの中に尻尾も隠せるようだから、それが決め手だったっぽいな。

 武器はユニコーンの角を模した双剣を選んでいる。


 エレナが選んだのは黒を基調としたコートで、腰の辺りから裾にかけて、スカートみたいにふっくらと膨らんだような感じのデザインをしている。

 マスクは鳥の頭を模していて、口元だけが開いている。

 ウンディーネ特有の魚のヒレみたいな耳の形もはっきりと分かってしまうんだが、マスクには鳥の翼もイメージされた意匠が組み込まれているから、正体がウンディーネとは分からないんじゃないかと思う。

 なのに槍は、飛竜を模したデザインだったりするんだよな。


 最後に俺が選んだのは、というか選ばれたのは、黄金に輝く獅子を模した鎧だったりする。

 ライオンの顔そのままのデザインの兜、鋭い爪が生えた手甲、威圧感を出すためだけにデザインされたとしか思えない鎧と、マジでこれを着るのかと思わずにはいられない。

 セットの武器まで黄金の剣と、完全に運営側の悪ふざけとしか思えない。

 これ、完全なネタ装備だったはずだぞ。

 正体を隠すための装備のはずなのに、黄金に輝く剣と鎧で潜入って、どんだけハードル高いんだよ。

 目立って仕方ないだろ。


 ちなみに装備は、俺のも含めて全て☆5つなんだが、今後使う機会はないだろう。

 幸いなのは、フルフェイスの兜でも視界はきっちりと確保されている事か。

 ゲームだからと言ってしまえばそれまでだが、ヘリオスフィアで実体化させてもその恩恵に預かれているから助かる。


 隠密行動系のスキルなんて持ってないが、アリスの復讐、という名目の世直しのためだから、今回は我慢して着るしかない。

 さすがに二度と着たくないから、絶対にナハトシュトローマン男爵の奴隷を掻っ攫ってくれるわ。

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