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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第2章・奴隷契約から始まる友人関係
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初めてのドライブ

 無事にアリスフィアさん、エレオノーラさんと奴隷契約を結んだ俺は、担当者さんにお礼を言い、トレーダーズギルドを後にした。


 改めて2人を見ると、際立った美しさっていう訳じゃないけど、十分美人って言える容姿をしているな。


 アリスフィアさんは俺と同い年のリスの獣人、アルディリーで、金に近い茶色の髪を肩の少し先で揃えられている。

 体形はグラマラスで、胸はかなり大きく、それでいてウエストは括れているモデル体型だ。

 リスの獣人だから、耳は当然リスだし、リスシッポは大きくてフワフワしている。

 契約の時に見たけど、背中から二の腕や太もも辺りまでは、リスの毛で覆われているのも獣族の特徴だ。

 元Bランクハンターで、将来有望だったそうだから、魔物狩りも手慣れているって言ってたな。

 生まれはルストブルクじゃなく、もう少し南の方にある町なんだそうだ。

 俺との契約条件は、自分を嵌めて奴隷に落としたナハトシュトローマン男爵への復讐を完遂する事だ。

 復讐といっても家族の仇とかじゃないから、命までは取るつもりはないらしい。

 それでもナハトシュトローマン男爵の魔の手に落ちた女性は多いから、以後の犠牲者を出さないように、貴族として生きていけなくなるように、徹底的に潰したいと言っていた。

 貴族が相手ってことで、最悪の場合はフロイントシャフト帝国を敵に回しかねないから、調査はもちろん、下準備は入念にしないといけないだろう。


 エレオノーラさんは2つ年上のウンディーネで、青い髪を腰の辺りまで伸ばしている。

 体形はスレンダーだが、絶壁という訳じゃなく、それなりの大きさの物をお持ちだ。

 ウンディーネを含むいくつかの種族は、髪の毛以外の体毛はなく、肌は少し青味がかっている。

 それでいて、不健康そうには見えないな。

 耳は魚のヒレみたいな感じで、足には鱗もある。

 ウンディーネ本来の姿は、下半身が魚という、いわゆる人魚だが、人化魔法という魔法を使うことで、尾びれを両足に変化させ、陸上での生活をしているそうだ。

 出身はフロイントシャフト帝国の隣国、エーデルスト王国の東の辺境にある村になる。

 俺と契約した理由は、ヒューマン至上主義に傾いてきた故郷から、亜人をフロイントシャフト帝国に移住させる事が出来ると思ったからだ。

 難しいが、俺を信じて契約してくれたんだから、頑張って移住を成功させたいと思う。


「マスター、これからどうするんですか?」

「ハンターズギルドに行って、依頼でも受けるの?」

「それなんだけど、面接の時にも言った話をしようと思う。街中じゃできないから、外に出るよ」


 ブルースフィアはもちろん、この際俺の正体も教えておこう。

 本当は隠しておく方がいいんだろうけど、この2人に隠し事をしてもバレそうな気がするし、いつまでも隠せるとも思ってないから、早い方がいいんじゃないかと思う。


「それは構わないけど、武器とかはどうするの?」

「私、魔物とはあまり戦ったことが……」


 アリスフィアさんは元Bランクハンターだからともかく、エレオノーラさんは普通の村人だったから、魔物との戦闘経験は少ない。

 俺が村人の護衛をお願いするって言った時に、少し引き攣ってたぐらいだからな。


「それも踏まえて、話しておきたいんだ。ちょっと待っててね」


 ストレージから取り出すような感じで、スカトを召喚する。

 なんか前より召喚しやすくなった気がするが、これはアクエリアスの中で確認しよう。


「ま、魔導車?」


 スカトを見て、2人とも驚いている。

 なんかギャラリーも集まってきたな。

 面倒なことになる気がするから、さっさと町の外に出よう。


「さあ、乗って。こいつの事も、しっかりと説明するから」

「え、ええ」

「わ、分かりました」


 2人は躊躇いながらも、スカトの後部座席に座る。

 シートベルトをしっかりと締めるように教えて……締め方から教えて、締まった事を確認すると、俺は操縦席に腰を下ろす。


「それじゃあ発進するよ。大丈夫だよ、そんなに揺れないから」


 そう言ってから、俺はスカトを発進させた。

 町中だから、時速は30キロぐらいにしておこう。

 もうちょっとスピードを出したい衝動に駆られるけど、事故は怖いからな。


「は、早いのね」

「私、魔導車って初めて乗りました」

「正確には魔導車じゃないんだけど、今はそれでいいですよ」


 20分程走らせていると、門が見えてきた。

 町の外に出る場合でも、一応身分証の確認は必要だから、門兵さんの前で止めてから、ハンターズライセンスを掲示する。

 門兵さんもスカトに驚いていたが、特に止められることもなく、俺達は町の外に出た。

 しばらくはスピードを出せないが、門が見えなくなったらかっ飛ばそう。

 いや、アリスフィアさんもエレオノーラさんも慣れてないから、サダルメリクに乗り換えた方がいいか。


「安全運転で行くけど、慣れないと舌を噛むかもしれないから、しばらくは我慢してください。少ししたら乗り換えますから」

「わ、分かったわ」

「は、はい!」


 ゆっくりと速度を上げ、最終的に時速50キロまで出してみたが、風を切る感触が心地良い。

 もう少し風を感じてたいが、アリスフィアさんとエレオノーラさんはまだ緊張してるから、この辺りでサダルメリクに乗り換えよう。


「え?もう止まっちゃうの?」


 なんかアリスフィアさんが残念そうな声を上げたが、もしかしてスカトを気に入ってくれたんだろうか?


「スカトは慣れてないと、ちょっと大変だから。これから召喚する乗物の方が、まだ気楽に乗れると思うよ」

「そうなの?でも気持ち良かったわ。また乗せてね?」

「これからも機会はあるから、大丈夫だよ」


 やっぱりアリスフィアさんは、気に入ってくれてたな。

 逆にエレオノーラさんは、ちょっと涙目になってる。


「ちょっと怖かったです……」

「ごめんなさい。だけど次の乗物は、スカトより魔導車に近いから、そこまで怖くないと思いますよ」


 スカトはトライクだから、体は剥き出しだしな。

 しかも時速50キロまで出したから、エレオノーラさんからしたら何が何だか分からないだろう。

 慣れてないと、ジェットコースターも怖いって聞くし、そんな感じなんだと思う。


「『サダルメリク・アクティブ』。これも後ろに乗ってもらう事になるけど、スカトより広いから、ゆったりできますよ」


 何気にヘリオスフィアでサダルメリクを召喚したのって、これが初めてだな。

 魔導車ではあるが、ヘリオスフィアの魔導車とどう違うかが分からなかったし、1人で動くならスカトの方が楽だったから、召喚する必要性を感じなかったんだよ。

 だけどアリスフィアさんとエレオノーラさんと契約出来たから、今後は使用頻度は上がると思う。

 トライクより車の方がゆったりと過ごせるし、サダルメリクのトランクルームには空間を拡張した広いスペースが設けられていて、後部座席からでも行く事が出来るから、移動中も特に不自由する事はないはずだ。


「また魔導車、ですか……」

「しかもスカト、だっけ?それより大きいわね。まさか2台も魔導車を持ってるなんて、驚きだわ」

「それも含めて、森の近くまで行ったら説明するよ。さあ、乗って」


 後部座席のドアを開けて、2人を誘導する。

 アリスフィアさんは嬉々として乗り込んだけど、エレオノーラさんはおっかなびっくりだな。

 いずれは慣れると思うけど、今は仕方ないか。

 俺も運転席に乗り込んで、しっかりとハンドルを握る。

 いや、目的地は決まってるんだし、自動操縦で行くか。


「これで良し。所要時間は……飛ばせば30分ぐらいか。時速60キロぐらいにしとこう」

「なんか不吉な単語が聞こえたけど?もしかしてこのサダルメリクって、そんなに速い魔導車なの?」

「最高速度は、時速80キロだよ。ちなみにスカトは、時速100キロだ」


 俺の答えに、アリスフィアさんが絶句した。

 簡易魔導車の最高速度は時速20キロだったが、希少な素材をふんだんに使った魔導車でも、時速40キロが精々じゃないかと思う。

 なのにサダルメリクもスカトも、それよりも圧倒的に速いんだから、驚くのも無理もないか。


「それじゃあ行くよ。大丈夫だと思うけど、最初は口を開かないでね」


 ブルースフィア・クロニクルも舗装された道路は町中ぐらいで、フィールド上は悪路が多かった。

 だからスカトもサダルメリクも、悪路程度じゃ立ち往生するようなことはない。

 たまに跳ねることはあったけど、転倒なんてしない仕様だったし、むしろ滅多に跳ねないから逆にラッキーだと思ってたぐらいだ。

 さすがにヘリオスフィアだと、跳ねたりしたら下を噛むこともあるだろうから、悪路を走る場合は注意しないといけない。

 この草原は特に悪路ってわけでもない普通の草原だから、いきなり跳ねたりする事も無いんじゃないかと思う。


「思ったより揺れないし、凄いスピードで走ってるはずなのに、全然違和感が無いわね」

「え、ええ。スカトっていう魔導車より、こっちの方が安心できます」


 しばらく走っていると、アリスフィアさんとエレオノーラさんがそんな感想を口にした。


「風を直接浴びるかどうかの違いもあると思う」

「それはありそうですね」


 スカトより安心できたようで、エレオノーラさんが納得したような声を上げた。


「あと20分ぐらい進んだら泊まるから、そこで別の物を召喚するよ。話はその中でになるから」

「まだ何か召喚するの?」

「むしろそれが、俺の本命だよ。きっと驚くと思う」

「なんか面白そうね」

「期待してますね、マスター」


 2人とも、楽しそうだな。


 サダルメリクは5人乗りで、運転席と助手席に1人ずつ、後部座席に3人並んで座る。

 だけど今は、運転席に俺、後部座席にアリスフィアさんとエレオノーラさんが座ってるだけだから、かなり広々と使えている。

 風が遮られてることもあって話もしやすいから、移動する際はサダルメリクを使った方がいいな。


 そういや昨日シュラーク商会でスカトを召喚した時より、今日トレーダーズギルド前で召喚した時の方が、簡単に出来たような気がしたな。

 疑問に思ってステータスを開くと、驚いた事にブルースフィアがレベル4になっていた。

 昨夜は気分を紛らわす意味も込めて色々といじってたら寝落ちしてたが、朝起きてもレベルは上がってなかったし、トレーダーズギルドで面接した際も変化はなかった。

 なのになんで、いきなりレベルが2つも上がってるんだ?


「驚いてるけど、どうかしたの?」

「え?ああ、うん。ブルースフィアっていうスキルが、レベル4になってたんだ。面接した時は間違いなくレベル2だったから、ちょっと驚いてね」

「一気に2つもレベルが上がったって事ですか?」


 サダルメリクを初めて召喚したから、それでスキルレベルが上がった可能性はあるけど、召喚した時の感じからしたら、一気に上がったって考えた方が自然な気がする。

 何かあったかと思って考えてみるけど、アリスフィアさん、エレオノーラさんと奴隷契約を結んだことしか思い浮かばない。

 さすがにそれは違うと思うが、まさかっていう気持ちが頭の片隅から離れない。

 何か手掛かりがないかと思いながらブルースフィアを開いてみると、装備スロットが俺の分だけじゃなく、アリスフィアさんとエレオノーラさんの分が増えていた。

 さらに新しいショップも、1つあった。

 ブルースフィア・クロニクルじゃ見た事ないショップだが、なんだこれは?


「あー、こうなったのか」


 思わず声を出してしまったが、それは仕方ないんじゃないかと思う。


「どうかしたの?」

「どうかしたよ。だけど悪い変化じゃなく、むしろ俺にとって望む変化だから、戸惑ってる訳じゃないんだ」


 新しく増えたショップは、ブルースフィア・クロニクルでソロ、もしくはパーティーで行動してた際に使える魔導具の店だった。

 一定時間魔物を寄せ付けない結界や魔物から身を隠す結界、他にもいくつか便利な魔導具が目につく。

 だけど明確な違いもあって、使うためには魔導車や魔導船に取り付けなきゃいけないみたいだ。

 多分だけど、魔導車や魔導船を隠したり偽装したりするのが、主な使用目的になるんじゃないだろうか?


「そ、そんな魔導具、聞いた事無いわよ?」

「ほ、本当ですね」

「だよねぇ。だけど上手く使えば、スカトもサダルメリクも普通の魔導車に偽装できるから、今までより使いやすくなるよ」

「それでも傲慢な貴族なら、手に入れようと躍起になるわよ?」


 確かにそれは問題だな。

 それならいっそ町には戻らず、隠蔽結界、ハイディングフィールドを使ったアクエリアスを拠点にして、魔物を売りに行く時だけ、町に入るようにするか?


「それが無難な気もしますけど、魔物は大丈夫なんですか?」


 エレオノーラさんが不安そうな顔をしているが、そっちは心配ないですよ。


「スカトもアクエリアスも、魔物どころか俺が許可した人以外は乗れないんだ」

「そうなの?」


 そうなんです。

 しかも魔物の攻撃も通じないから、ハイディングフィールドも合わせて使っておけば、安全性はさらに高まる。

 お、都合よくグラス・ウルフがいるな。


「論より証拠を見せるよ」

「あれってグラス・ウルフ?論より証拠って、まさかグラス・ウルフの前で止まるつもり?」

「いや、気付かれてるっぽいから、向こうから来ると思う」


 その予想に違わず、グラス・ウルフは真っ直ぐにサダルメリクめがけて爆走してきた。


「きゃ、きゃあああっ!」

「ちょ、ちょっとマスター!大丈夫なの!?」

「大丈夫だよ。ほら」


 だけどグラス・ウルフは、サダルメリクに体当たりをかます寸前で、見えない何かに弾かれて大きく吹き飛ばされた。

 グラス・ウルフにとっても予想外の衝撃だし、サダルメリクは今も時速60キロで走り続けているから、既に瀕死状態だな。

 サダルメリクは当然のように無傷だし、それどころか衝撃すら来なかったから、俺もちょっと驚いた。


「え、えげつないわね。サダルメリクは無傷なのに、グラス・ウルフは瀕死じゃない」

「さらにえげつない事に、中からは攻撃できるんだよね」

「うわぁ……」


 アリスフィアさんがドン引きしている。

 そりゃ安全な所から攻撃できるだけじゃなく、サダルメリクの質量で、衝撃を気にせずぶちかまして攻撃できるっていう事実が判明したんだから、元ハンターからしたら今までの苦労は何だったのかっていう気持ちになるよな。

 ちなみにエレオノーラさんは、思考が纏まってない感じで目を回していたりする。


「あのままでもそのうち死ぬだろうけど、ちょっと気の毒だから、トドメを刺してくる。ついでに死体も回収してくるよ」

「え、ええ、いってらっしゃい」


 ドン引きしてるアリスフィアさんに見送られて、車外に出る。

 ハイコンポジット・ボウを構え、風の矢を生成してグラス・ウルフに狙いを定め、一気に射る。

 風の矢はグラス・ウルフの頭に突き刺さり、そのまま命を奪い取った。

 俺はグラス・ウルフに近付き、ストレージに収納してから、サダルメリクに乗り込む。


「良い腕ね。Tランクハンターって言ってたけど、ランクは上げておいた方が良いわよ?」

「近いうちに上がる予定なんだ。どれぐらいまで上がるのかは分からないけど、最低でもCランクにはなるって言われたかな」


 とは言っても、俺の実力は創造神様から貰った武器戦闘スキル(全)とブルースフィアのおかげだから、あんまり誇れる事でもない。

 特にブルースフィアの装備は、ヘリオスフィアからしたらオーパーツ並の性能だから、知られたら面倒どころの話じゃなくなってしまう。

 2人には装備を渡すけど、一切他言無用だと改めて説明しないとな。

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