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ヘリオスフィア・クロニクル  作者: 氷山 玲士
第2章・奴隷契約から始まる友人関係
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ヘリオスフィアの奴隷

 女神様の神託に従ってトレーダーズギルドに向かっている俺だが、本当にトレーダーズギルドで正しいのかは分からない。

 それでも手掛かりぐらいは掴めるかもと思ってトレーダーズギルドに向かってるんだが、その直前に俺は、予想外の単語を耳にする事になった。


「マジか?」

「ああ。あの奴隷、まだ主が決まってないらしいぜ」

「そういえば、あの子もよね?」

「そうなの?とっくに貴族に買われたと思ってたわ」

「それがまだらしいぜ。条件が面倒だとか、相手が気に食わなかったとか、理由はあるみたいだけどな」

「あの男爵なんて、顔を見た瞬間に断られたらしいわね。当然だけど」


 奴隷?

 いや、確かに神託の言葉ピッタリだけど、マジでいるの?

 しかも神託は途切れ途切れだったし、声も小さかったから、頑張って知恵を振り絞ってトレーダーズギルドじゃないかと予想したんだが、本当に奴隷だったとしたら想定外もいいとこな上に、微妙に字面が被ってませんか?


 なぜ奴隷という単語が最初から考慮になかったかというと、この2日で目にする事がなく、またルストブルクは平和な町だから、奴隷なんて存在しないんだと思い込んでいたからだ。

 いや、犯罪奴隷がいるって話は聞いてたし、死刑に次ぐ刑罰として存在しているのは知ってたから、刑罰の一種だと思ってたっていう理由もあるか。

 そういえば創造神様が、ヒューマン至上主義国家がエルフや獣族を奴隷にしてるって言ってた気がするな。

 なのに神託が理解できなかったとなると、マジで頭から抜けてたって事か?


 俺の馬鹿さ加減はともかくとして、もし奴隷を買う事が出来るなら、俺の悩みが少しでも解決できるかもしれない。

 安直なのは理解しているが、それだけ気の許せる人と話す事に飢えてるんだよ、俺は。

 両親が死んでから、そんな人はいなかったかもしれないからな。


「すいません、ちょっといいですか?」


 思わずといった感じで、受付に座ってるオーガのお姉さんに声を掛け、奴隷についての話を聞きだす。


 話を纏めると、国によって違いはあるが、大きく分けると犯罪奴隷、違法奴隷、身請奴隷の3つになるようだ。


 犯罪奴隷は死刑に次ぐ刑罰になる。

 軽犯罪ならば解放される事もあるが、常習犯や重犯罪者は解放される事は無く、鉱山や戦場で使い潰されることがほとんどだ。

 稀に生き残って天寿を全うする者もいるらしいが、1,000人に1人いるかどうからしい。


 違法奴隷はその名の通り、違法な手段で手に入れた奴隷の事だ。

 そのため発覚した場合、主人は重犯罪者として処罰され、奴隷からも解放されるんだが、ヒューマン至上主義国家の場合だと面倒な話になる。

 ヒューマン至上主義国家では、ヒューマン以外の種族は亜人と蔑まれており、見つかった瞬間に捕まえられ、奴隷に落とされる事も珍しくない。

 だからヒューマンの奴隷は重犯罪奴隷のみで、それ以外の奴隷は亜人とされているヒューマン以外の種族だ。

 フロイントシャフト帝国やヴェルトハイリヒ聖教国から見れば違法奴隷に該当するんだが、そういった国々からしたら合法ってことで国際問題にもなっているため、小競り合いばかりか軍事衝突が起こった事もあるらしい。

 なので違法奴隷に対する線引きは、国の法律によって大きく変わってしまうため、判断が難しいようだ。


 最後の身請奴隷だが、これは借金や生活苦などで身売りをした人達の事なので、奴隷契約を結ぶことで解放までの条件を決めたりする。

 ある意味では一番穏当な奴隷になるが、多くは解放を望んでいることもあって、契約の条件は人によって様々だ。

 さすがにずっとその条件を出し続ける事はできないから、いずれは緩くなっていくんだが、最初は強気で行く奴隷も多いらしい。

 中には肉体関係を結ぶ代わりに、数日、場合によっては一度で解放なんて言う条件を結んだ奴隷もいたそうだ。

 なかなかえぐいし、奴隷が優遇されているような気もするが、主人が禁止したことは出来ないし、契約中に知り得た内容を漏らすことは、奴隷から解放された後でも禁止されている。

 万が一秘密を漏らしたりした場合は、即座に神罰が下り、その場で命を落とすか永遠に奴隷として生きるかのどちらかになるそうだ。

 もちろん契約条件を決めるための商談内容も同様で、秘密を抱えながらも周囲に漏らせないというリスクを背負う事になる。

 うっかり漏らしたりしたら神罰が下るから、解放後も人付き合いに制限が掛かるため、奴隷からの解放を望まない人も一定数いるみたいだな。

 さすがに解放を望まない人達は、良い条件で契約した人達に限られているが。

 トレーダーズギルドや商会で購入できるのは、この身請奴隷のみになっている。


 ということは、トレーダーズギルド前で話題になっていた奴隷っていうのは、身請奴隷って事か。

 主人に絶対服従って訳じゃないが、秘密を漏らすと神罰が下る訳だから、俺のスキルがバレる心配はしなくてもいいだろう。

 奴隷には食事、寝る場所、病気や怪我をした場合の治療という、人として最低限の生活は保証しなければならないが、出来るなら友人みたいに接してほしいから、それぐらいは何の問題もない。

 むしろ常に人と話せるようになるわけだから、俺にとってはメリットの方が大きい気がする。


 さらに詳しい話を聞くと、身請奴隷の購入費用は、100万オールから500万オールで、平均すると200万オールになるようだ。

 借金は友人知人同士の場合もあるが、多くはトレーダーズギルドからになるから、数十万から数百万オールぐらいまでが限界額となっているそうだ。

 家族のために身売りする場合も、数ヶ月の生活費としての額が基本になっているため、こちらも借金の場合と大差ない額になる。

 これは購入するための金額だから、中には条件として金を要求する人もいるらしい。


 契約に関しては契約魔法を使うし、希望者と奴隷しか内容が分からないようになっている部屋で行うから、反故にされることもあり得ない。

 奴隷契約の部屋は、どんな方法を使っても盗聴出来ないし、万が一盗聴を試みたりすれば、これも神罰が下るそうだ。


 奴隷っていう制度には思うところが無い訳じゃないが、身請奴隷に関しては必要な制度だと思えるし、俺の心の安寧も保てそうな気がするから、思い切って契約してみよう。

 そう思ってすぐにお姉さんに奴隷を扱ってる商会を聞いてみたんだが、驚いた事に奴隷を扱えるのはトレーダーズギルドだけで、商会が奴隷を扱ってた場合は違法奴隷の可能性が高いと言われてしまった。

 これはトレーダーズギルドのある国では共通している決まり事で、ヒューマン至上主義国家であっても例外ではないんだそうだ。

 ヒューマン以外の種族を亜人と蔑み、手当たり次第に奴隷にしているヒューマン至上主義国家からすれば煩わしい規則だが、圧力をかけてしまえばトレーダーズギルドが撤退してしまい、物流に大きな影響が出てしまうため、何も言えないらしい。

 もっともそういった国の商会は、裏取引が後を絶えないから、健全な契約を重んじるトレーダーズギルドも撤退に踏み切る事が出来ず、互いが動けない状態になってるようだが。

 もっともそれを目障りに感じて、ギルドを排除している国もいくつかあるみたいだな。

 国内は魔物が蔓延り、経済も回らなくなったために自滅した国もあるようだが、しっかりと立て直した国もある。

 そういった国は何をしてくるか分からないから、ギルドのみならず各国もスパイを放って、内情を調査しているらしい。


 ともかく、トレーダーズギルドで奴隷を購入できるんなら、早速頼んでみよう。


 奴隷購入を希望すると、驚かれてしまった。

 見た目から金銭の問題もあると判断されたんだろうが、ライセンスを見せたら納得してくれたな。

 何人買うかは決めてないが、スカトが3人乗りだから、多くても2人までになる。

 そこまで伝えると、担当者にバトンタッチされた。

 担当者は年配の男性ヒューマンで、この道20年のベテランだ。

 本人的には本業に集中したいそうだが、奴隷の売買は成り手が皆無に近いため、一度任命されたら任期いっぱいまで勤め上げるのが普通らしい。

 任期は20年だから、これが最後の奴隷売買になると言ってたな。


 担当者さんに案内され、地下に進む。

 なんで地下なのかだが、飢饉や戦争などで奴隷の数が急に増える事もあって、地上の建物では収納しきれない事も過去にあったそうだ。

 だからスペースを確保しやすい地下に部屋を用意し、教育に関しては建物に用意されている教室で教え、運動不足解消のために中庭で適度な運動も行っている。

 一応個室が与えられているが、個室にあるのはベッドと小さな机だけなので、本当に寝るだけの部屋となっているみたいだ。

 奴隷用のスペースなら、自由に出入りできるそうだから、それでもあまり不自由は感じないみたいでもある。


「ここが奴隷契約のための部屋だ。まずは面通しをして、希望に沿う奴隷がいるかを見る。その後で個別に面接を行い、互いの合意が得られれば契約を結ぶことになる」


 どの奴隷が希望に沿うかは分からないから、現在トレーダーズギルドにいる奴隷全てと面通しを行い、その後で個別に面接っていう流れなのか。

 奴隷には数字で番号が振られており、これはと思った奴隷の数字を覚えておき、面通しが終わってから番号を伝えることで個別面接に移行する。

 個別面接で条件のすり合わせを行い、互いの合意が得られれば晴れて契約という流れか。

 面通しから、既に担当者さんは部屋に入らず、外から様子を伺う事しか出来ないそうだ。

 契約魔法の結界が張られているため、読唇術を使っても内容を解読することは出来ないんだが、中には無理矢理契約を結ぼうとする輩もいるし、逆に希望者を誘惑する奴隷もいるみたいだから、不正を防ぐためにも見張りは必要か。

 契約が成立した場合、契約魔法を使うのも担当者の仕事になるらしい。


「現在トレーダーズギルドにいる奴隷は、男が6人、女が17人だ。面通しは10人ずつと言ったが、男は1回で、女は2回に分けるから、合計で3回行う。構わないな?」

「分かりました。お願いします」


 思ってたより男性奴隷の数が少ないが、ヘリオスフィアの男女比は全種族合わせると3:7になるそうだから、そう考えると特におかしくはないか。


 担当者さんは、すぐに奴隷を連れて来てくれた。

 最初に面通しを行ったのは、担当者さんが言ったように男性奴隷からだが、見た瞬間に契約は無理だと悟った。

 全員ヤクザも真っ青な強面で、顔を含めて古傷が大量にあったんだよ。

 心の安寧を求めて奴隷契約をしにきたのに、こんな人達だとさすがに心が荒む未来しか見えないぞ。

 それでも頑張って話を聞くと、全員が元ハンターで、奴隷になった理由は借金とのこと。

 1人だけ元Gランクハンターがいたが、その人が一番古傷が多かったな。

 年齢も50歳近いから、友達関係を築くのは無理と判断する。

 逆に一番若いのは元Cランクハンターで、年齢も25歳なんだが、こいつは生理的に受け付けない感じだったな。


 続いて女性を連れてきてもらう。

 女性奴隷は17人なので、最初は9人、次が8人となっている。

 その女性奴隷の中に、俺とそんなに年が違わないだろうと思えるアルディリーの女性がいた。

 金に近い茶髪で、胸がえらい大きいな。

 アルディリーはリスの獣人だから、尻尾もふわふわしてそうだ。

 一目惚れって訳じゃないが、何故か目が離せなかったから、このアルディリーさんは第1希望だな。

 元Bランクハンターで、パーティーメンバーの治療費を建て替えるために借金をしたんだが、そのパーティーメンバーは傷が治ると同時にこの人を見捨てために借金だけが残り、奴隷になってしまったらしい。

 あと20代前半と思われるヒューマンとタイガリーの美人さん達もいたんだが、面接するかどうかは次の面通しを終えてから考えよう。


 続いて最後の女性奴隷8人と面通しを行うが、今度は20歳前後のウンディーネさんが気になった。

 青い髪にスラリとした体形だが、確かウンディーネとラミアは下半身を魚や蛇の尻尾に変化させる魔法が使えたな。

 ウンディーネは泳ぎが得意だから、アクエリアスとの相性も良いかも知れない。

 この人はギルド登録はしていないが、住んでいた村で飢饉が起こり、家族を養うために身売りをしたんだそうだ。

 ただその後、その村の村長が身売りした金を全て巻き上げてしまったため、家族は村で肩身の狭い思いをしていると噂で聞いたらしい。

 アルディリーさんもだが、なんか不幸っていう言葉じゃ済ませられない話だな。

 条件が気になるから、この人も面接してみよう。

 逆にエルフさんは、ちょっと話をしただけで反りが合わないと感じたからパスだ。


 これで面通しは終わって、とりあえず面接はアルディリーさんとウンディーネさんの2人をお願いすることにした。

 2人とも契約というのが理想だが、1人しか契約できないって事もあり得る。

 それでもこの2人以外は考えられなかったから、契約出来なかったら今回は素直に諦めようと思う。

 まずはアルディリーさんからだから、しっかりと面接しよう。

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