異世界への誘い
新連載始めました。
第2章までは毎日昼12時に投稿できますが、第3章以降は数日おきになるかと思います。
俺こと水瀬 浩哉は、何がどうなったのかを受け止める事で精一杯だった。
「という訳で、君は死んだ。残念ではあるけど、受け止めてほしい」
目の前の若い、20代半ばぐらいの男にそんな事を言われるが、いきなりそんなこと言われて納得出来る人間がいる訳がない。
だけど他に理由も思い付かないな。
どうやらこの男は神、しかも創造神様らしい。
創造神様の話によれば、俺は第一志望の大学に合格した事を喜んで帰路についていた所、通り魔に刺されたそうだ。
心臓一突きの即死だったらしく、苦しむことがなかったのは救いかもしれない。
凶器の包丁が、俺に深く突き刺さっていた事もあって、簡単には抜けず、すぐに取り押さえられたため、俺以外に犠牲者はいなかったようだ。
ただ、運が悪いといえばそれまでだが、なんでかあんまり未練を感じないんだよな。
「未練を感じない、か。まあ君の人生を振り返れば、そう感じても不思議じゃないか」
「心を読まないでください」
「ああ、ごめんよ。だけどその方が、僕達には望ましいんだ」
なんて仰る創造神様だが、それはどういう事でっしゃろ?
いや、予想はついてるんだが。
「通常であれば、君の魂はこの世界の輪廻に戻り、また新しい命として生まれる。当然だけど、輪廻に戻る魂に、僕達がいちいち面会をする事はない。それは地球の神であっても、同じ事だよ」
そりゃ地球には、60億を超える人間が住んでるし、毎日何人も命を落としてるんだから、面会なんてしてたらキリがないよな。
って、ちょっと待て。
地球の神?
いや、あなたが創造神様なんじゃないの?
「その疑問に答えよう。確かに僕は創造神だけど、それはこの世界のじゃない。異世界と言えば、分かってくれるんじゃないかな?」
異世界の創造神様?
あっ!つまりこれは、ラノベとかゲームとかでおなじみのアレなのか!
「正解だよ。君には、僕達が創造した世界へ転生してもらいたいんだ」
やっぱりか!
状況はまだ把握しきれてないが、それでもテンション上がってきたな。
だけど何で、俺なんだろ?
「君が僕の目に留まったのは、若くして命を落とした事、僕と波長が近くて権能を受け入れやすい事が理由だね。あと転生と言ったけど、君が望むなら、そのままの姿で送る事も可能だよ」
転生って言われたから、赤ん坊からリスタートって事になるかと思ってたら、この姿のままでもいいと仰られる。
俺としては子供時代にいい思い出はないから、避けられるなら赤ん坊からっていうのは避けたいな。
「分かった。では基礎身体能力、基礎魔力は底上げしておこう。それからスキルだけど、全部で3つ与えられる。なるべく君の希望に沿うようにするけど、可能かどうかは聞いてからの判断になるよ」
基礎能力向上はありがたいが、魔力?
もしやその世界って、いわゆる剣と魔法の世界ってやつか?
「ああ、ごめん。説明が抜けてたね。浩哉君の考えてる通り、剣と魔法の世界だよ。魔法も、最初に作った箱庭世界で実用性が認められているから、生活もしやすいと思う」
生活しやすいっていうのは魅力的だな。
どんな魔法があるのかは後で聞くとして、まずは能力向上にスキルを決めてしまおう。
「創造神様、質問があります」
「何かな?」
「基礎能力向上はとてもありがたいんですが、どれぐらい向上されるんでしょうか?」
せっかく向上してもらっても、それが一般人と同じ程度だったりしたら、悲しいを通り越して死ねる話だからな。
せっかく転生できるんだから、その点はしっかりと確認しておきたい。
死んだとはいえ、このままの体で行くわけだから、転移の方が正確か?
「そうだね、君ぐらいの年齢だと、だいたいレベルは20前後、熟練の一流ハンターで60ほどだから、慣れてもらう意味も踏まえて、レベル50ぐらいにしておくよ。あとおまけで、成長速度向上スキルも付けておこう。ああ、成長速度向上スキルは、君に選んでもらうスキルとは別枠だから、安心してね」
レベルのある世界なのか。
それでいきなりレベル50って事は、一流ハンターとやらのレベルが60だから、けっこう高いな。
というか、ハンターってなんだ?
「ハンターですか?冒険者じゃなくて?」
「うん。これも魔法と同じで、僕達が最初に試験的に作った箱庭世界で生まれたんだ。君の思ってる冒険者と、同じだと思ってくれて問題ないよ」
他にもクラフターとかヒーラー、バトラーなんてのがいるらしい。
箱庭世界っていうのは気になるから聞いてみたが、創造神様が初めて作った世界でもあり、実験的な世界でもあるんだそうだ。
既にその世界での観測は終えて、今は別の神が管理しているとも言ってたな。
創造神様も、観測や実験のために作った箱庭世界を、用が無くなったからといって滅ぼすような事はせず、後任を見出してから今から俺を送る世界を創造したんだとか。
その後任の神は、その世界だと普通に地上で生活してるし、新しい世界に来る事もあるらしいから、もしかしたら会う事もあるかもしれない。
「分かりました、ありがとうございます。あと言葉とか文字ですけど、それはどうなっているんですか?」
「それも全言語理解スキルをつけるから、読み書きも含めて問題ないよ」
定番だが、これもありがたい。
言葉が通じず、文字も読めないとなったら、本気で何もできないからな。
「それじゃあスキルだけど、浩哉君はどんなスキルが希望かな?」
あとはスキルか。
戦闘系や生産系っていうのもアリなんだが、偏らせると潰しがきかないだろう。
何かいい感じのスキルは……そうだ!
「えっとですね、俺が好きなゲームがあるんですけど、そのゲームの装備や乗物なんかを自由に使えるような、そんなスキルって可能ですか?」
「ゲームの?出来なくはないよ。ただそれをスキルにしてしまうと、君は自由に異世界の物を使える事になる。権力者が黙っていないと思うよ?」
げ、そうなるのか。
いや、でも成長速度向上スキルがあるから、普通の人よりはレベルが上がりやすいだろう。
一流ハンターがレベル60って事だから、70か80辺りまで、可能なら100ぐらいまで上げておけば、何とかなるような気もする。
「うん、レベル100を超えたら、1人でも国を滅ぼせる。余程頭の悪い国でもなければ、君にちょっかいを掛けてくる事は無いね。分かったよ。ただしゲームのアイテムとはいえ、異世界の物に違いはないんだ。制限はかけさせてもらうよ」
それは仕方ないし、俺もそうするべきだと思う。
だけどあのゲームは大好きだし、何より決め手は武器や防具じゃない。
武器や防具も大事だが、それより重要な物があるからこそ、俺はあのゲームのアイテムを、現実でも使えるようなスキルに出来ないかと聞いてみたんだからな。
「これでいい。ただ僕にとっても初めてのスキルだから、不具合もあるかもしれない。しばらくは様子見だね。あと名前は、君が決めてね。実際に使えるようになるのは、スキル名が決まってからになるから」
制限も含めて、確認はそれからか。
それでもあのゲームの武器や防具、乗物なんかが使えるようになるのは嬉しいな。
「分かりました、ありがとうございます」
俺がもらえるスキルはあと2つだが、1つは無難に戦闘系にしておくべきだな。
そうだな、ラノベとかだと統合系っていうのがあったりするから、それがいけるか聞いてみよう。
「あと2つなんですけど、武器での戦闘系スキルを統合する事は可能ですか?」
「出来るよ。というより、あの世界だと特に珍しくはないね」
それは嬉しい誤算だな。
「では武器戦闘の統合スキル、それと魔法の統合スキルをお願いできますか?」
「魔法もかい?分かったよ、どちらもレベル3でつけておこう」
よし、どっちも通った。
俺は武器も魔法も使った事がないから、スキルで補えるんなら助かる。
というか、スキルにもレベルがあるんだな。
「ああ、ごめん。スキルレベルの説明を忘れていたよ。スキルレベルが高い程、効果は高くなる。これはいいよね?」
基本だし当然の話だよな、と思いながら頷く。
話を聞くと、スキルレベルに関してはこんな感じになるようだ。
スキルレベル1、素人
スキルレベル2、初心者
スキルレベル3、初級者
スキルレベル4、中級者
スキルレベル5、上級者
スキルレベル6、超級者
スキルレベル7、熟練
スキルレベル8、練達
スキルレベル9、聖人
スキルレベル10、大聖
分かりやすいような分かりにくいような気がするが、スキルレベル1を取得するのは簡単だから、統合スキルなんてのがあるって言われたな。
剣を持つだけで剣術スキルレベル1が取れるらしいから、そら統合しないと大変だろ。
統合するかどうかは本人が決められるし、最低でも3つ以上の武器スキルが必要だとも言ってたが。
俺は武器戦闘、魔法ともにレベル3をもらったから、初級者って事になる。
本音を言えばレベル4か5がありがたかったが、全部神様任せっていうのも増長する原因にしかならないから、後は自分で頑張ってスキルレベルを上げていこう。
まあスキルレベル1でも、レベル差があれば力尽くでねじ伏せられるらしいけどな。
「ありがとうございます、創造神様」
「どういたしまして。ああ、あと今更で申し訳ないんだけど、君を僕達の世界に転移させる理由を説明しておくね」
おお、そういえば聞いてなかったな。
パターンで言えば魔王討伐とか文化拡散とかだが、特に理由が無かったりしたパターンもあったから、これは最初に聞いておくべき話だった。
「あー、うん。君の予想通りなんだ。文化の拡散だね。僕達の世界は、ここ1000年程停滞しているんだ。原因は魔法だよ。あまりにも生活に便利な魔法のせいで、技術の発展が無くなっているんだ」
なるほど、魔法による弊害か。
創造神様としてはもっと世界を発展させたいんだけど、普段の生活どころか仕事も魔法を使えば解決する事が多いらしいから、そのせいで技術的には1000年前と変化がないそうだ。
風呂やトイレはちゃんとしてし早着替え魔法なんてのもあるが、食事は微妙らしい。
「これは僕達のミスでもあるけど、僕達は気軽に降臨なんて出来ない。だから文化の拡散はもちろん、世界に刺激を与えてもらいたいんだ。停滞は緩やかな滅亡へと繋がる。苦労して想像した世界が、そんな理由で滅びるなんて、さすがに許容できないからね」
なるほど。
ただ俺も、やっと大学に合格したばかりの若造でしかないから、出来る事はかなり限られる。
例のスキルによっては、出来る事は大幅に増えそうではあるが、それでもあまり目立ちすぎるのも問題だろう。
だけど俺としても、せっかく転生した世界が滅ぶのは、勘弁してもらいたい。
「分かりました、俺に出来る範囲ですが、精一杯やってみます」
「うん、ありがとう。それじゃあ君を、あの世界に送るよ。準備はいいかい?」
「あ、ちょっと待ってください。まだいくつか聞きたい事があります」
危ない、まだその世界の事を聞いてないのに、いきなり送られても困る。
世界の名前はもちろん、俺が転移させられる国や近くの町、人種や通貨単位とかの情報も重要だ。
「確かに必要な情報だね。世界の名はヘリオスフィア。地球と同じ球状世界になるね。君が転移するのはヘリオスフィアの中でも、人種差別のない大国、フロイントシャフト帝国の辺境の町、ルストブルクの近くになる」
人種差別のない国か。
って事は、差別のある国もあるって事だよな?
「あるよ。ヘリオスフィアに住んでるのは、浩哉君のような人間だけじゃない。エルフやドワーフ、獣人なんかもいるよ」
おお、マジですか。
「僕達はどの種族も分け隔てなく祝福してるんだけど、人間、向こうではヒューマンと呼ばれてるんだけど、ヒューマンにとってはそうじゃないんだ。国によってはヒューマン以外を亜人として蔑み、見かけたら奴隷にする事だってある」
よくある人間至上主義ってやつか。
しかも話を聞くと、どうやら宗教が絡んでるらしいから面倒だな。
当たり前だが創造神様は、その宗教には一切関与していない。
それどころか、自分達を崇拝してくれている宗教、スフェール教に神託を下して、その宗教を邪教と認定しているぐらいだ。
実際創造神様は、神罰を下した事もあるらしい。
それでもその邪教とされたオルドロワ教は、不死鳥のごとく蘇ってきて、いくつかの国の国教に制定されているそうだ。
そのオルドロワ教の主神は架空の神らしいんだが、創造神様はえらく警戒されているのが印象的だった。
「なるほど、分かりました。その人族至上主義国に行くかは分かりませんが、行く事になったら注意します」
「うん。他にあるかな?」
「いえ、大丈夫です」
他にもあるような気はするが、すぐには思いつかない。
最低限の情報しか得られなかった気もするが、全く情報が無いに比べたらマシだろう。
「それじゃあ最後に一言。君にはヘリオスフィアで、文化の発展を促すための刺激を与えてもらう。だけどそこまで気張る必要はないよ。浩哉君は自由に生きてくれ。それが結果的に、ヘリオスフィアに刺激を与える事になるから」
創造神様が最初に創造した箱庭世界でも、異世界人は何人も現れていた。
それは創造神様にとってもイレギュラーな出来事だったらしいけど、結果としてその世界は発展し、ヘリオスフィア以上の文明を誇っているそうだ。
だからヘリオスフィアにも、異世界人を送り込んでみようって考えたと口にした。
召喚とかだと問題だから、波長の合う死者をっていう条件で探して、それでヒットしたのが俺。
つまり俺は、ヘリオスフィアに贈られる最初の異世界人って事なのか。
「さっきも言ったけど、ヘリオスフィアには女性のみの種族も少なくないし、男性は生まれにくい世界だ。だから一夫多妻は当たり前。浩哉君が国に仕えるにしろハンターとして名声を得て活動するにしろ、複数の奥さんを娶る事は当然だ。もちろん女性に溺れてしまっても、一向に構わないよ。ヘリオスフィアでの新たな人生を、存分に楽しんでくれ」
ハーレムには憧れがないと言ったらウソになるし、頭の片隅で考えてたのは事実だが、面と向かって言われるとなんて返したらいいのか分からん。
しかも結婚しなかったり1人しか奥さんを娶らない男は、軽蔑の対象にすらなるって、逆に引くぞ。
「あ、あはは……。まあ、そこはなるようになるかと」
そう答えるのが精一杯だったな。
「それもそうかもね。それじゃあ今度こそ、君を送るよ」
「分かりました。創造神様、ありがとうございます」
「こちらの事情で送り込むんだから、お礼を言うのは僕達の方だよ。適度に刺激を与え、君の知っている文化を拡散させてくれれば、僕達から言う事はない。願わくば、君が幸せに暮らせますように」
それでも一度死んだ身としては、神様からスキルまで与えてもらって生き返れるんだから、とてもありがたい話だ。
「ありがとうございます」
そして俺は、光に包まれた。