爆弾着火。やっぱり八方美人はダメよ
しばらくして、ゲームでアリアと初対面、初衝突するイベントの時期に来たが、きっかけとなるこちらからの因縁つけをしないので、出会いは一切なし。アリアもこちらを知らないので、一切のかかわりないままアリアも独自に青春を謳歌中。王子は変わらずハーレムを侍らせ、アリアは他の攻略対象である多くのイケメン達と仲良くしていた。
お蔭で私は普通に友達を作り、クラブ(お菓子作り愛好会)に入り、シグルド王子に付きまとい、いつの間にか「お姉さま」「姉御」だのと呼ばれ、女子生徒だけに人気があることを除けば、主人公を見下すだけに費やすという無駄な時間を作らずに青春を謳歌していたのだった。
それはゲームには一切存在していない部分であり、かつて通っていた学校生活に負けない程充実して、楽しい生活だった。・・・そう、だったのだ。
ある日、私は順調に逆ハーレムを築きつつあるアリアを見て一抹の不安を覚えた。
「どきどきハイスクールGirls」にはハーレムエンドなるものは一切存在しない。いかなるハッピーエンドも攻略対象1人とだけ結ばれるのだ。故に「どきどきハイスクールGirls」を熟知した人は全員と出会って、全員の好感度を平等に上げるなどということは決してしない。何故ならそれはとある理由から自殺行為だからである。
でもまぁ、ここは舞台背景が似ているだけでゲームじゃないもんね。大丈夫でしょなどと思っていると。事件が起きた。
攻略者である音楽家の先輩と無口先輩が殴り合いの喧嘩をして、音楽家の先輩が怪我をしたのだ。原因はアリアちゃんを巡ってらしい。
その喧嘩をきっかけに両先輩の家族や友人からアリアちゃんは責められまくった。
やばーい。修羅場システムだー。
さて、「どきどきハイスクールGirls」にはいくつかシステムがある。そのうち一つが好感度が上がった相手が2人以上いるときに発生する修羅場システムだ。これはどちらかを選ぶと好感度が上がり、選ばれないと下がって隠しステータス“不満”が溜まる。なお、それを一定回数、玉虫色な選択肢を選ぶと相手同士で揉め事が起こる。結果はそれぞれだが、一様に周囲からの評価はダダ下がりする。
そしてもう一つ危険なシステムがある。それがドクロボンバーこと「ドクボン」である。これは好感度が一定まで上がったキャラが無視されたり杜撰な扱いを受け続けると隠しステータス“不満”が上がり、上がりすぎると好感度ゲージに導火線つきの髑髏が付く。そして放置すると爆発する。それで爆発すると本人だけでなく一定のキャラ全員が一気に好感度が下がる悪夢のシステムである。
これを回避するには好感度を上げないままでいるか、爆弾着いたキャラにこまめにデートや贈り物を贈り、不満をなくす必要がある。なお、爆弾が爆発すると不満度も上がるため他のキャラにも髑髏がつきやすくなり、連鎖爆発を引き起こすという厄介な特性もある。
そして慣れない者はただ鎮火作業に追われ、結果全キャラ好感度最悪よりややましで、親友とバッドエンドを迎えることになってしまう。
慣れたプレイヤーは攻略キャラ以外の好感度を制限してその事態を防ぐが、厄介なことに何もしなくても好感度が上がり、つまり爆弾が発生しやすいキャラがいる。
まず主人公の幼馴染の天才ライトニング。こいつは容姿端麗、成績優秀、運動抜群と万能属性でステータスが一定以下だと、何をしても好感度が上がらない。だがステータスが一定以上になると全キャラでも随一の好感度上昇率を発揮。急にデレて積極的になる。
そして主人公の同じクラスの能天気で軟派男リカード。こいつはすごくフレンドリーなのでイベント発生率が高い。どんなステータスが低くても自然に好感度が上がる機会が多い。こっちが何もしなくても気が付いたら好感度が上がっていくのだ。
最後に我らがシグルド王子。こいつは期末テスト、魔導祭などの特定のイベントまたはランダムなイベントで功績を上げると好感度を上げてくる。つまりステータスが上がっていて、イベントをトップレベルで過ごせばこれまた自動で好感度が上がる。
他のキャラは何もしないと好感度が上がらないし、不満もたまらないの、髑髏が付くことはない。しかし、この3人はそうではない。勝手に上がるのだ。
そのためこの3人の攻略の際はお目当て以外の相手には最初期からあまりかかわらず、親密度を最低限にして不満度があがるイベントを最小限にしておくのが最善である。
しかし、親密度を一定ラインまで超えて、かつステータスが上がった状態で、目立ち活躍するととどうなるか?その答えは主人公を狙う3人の男達による壮絶な修羅場である。
・・・うわぁ。傍から見ても露骨なまでの嫌われっぷり。
最初の修羅場から数か月。修羅場以降、アリアの周囲はギスギスし始め、結果、例の3人以外の攻略者対象全員からガチで嫌われ、人気者だった攻略対象のファンや関係者からの溜まったヘイトが一気に噴出して、悪い噂が爆発的に拡散したのだ。これはドクボンことドクロボンバーの爆発後の現象に似ている。
大分前まではハーレムを築いて楽しそうだったのに、今では負のオーラを撒き散らし見ていて気の毒な位だ。だからかな、つい手をさし延ばしたのは。
避け続け、見て見ぬふりをしていた私、悪役令嬢フランソワ=アルベルドと主人公アリア=スターロッドは本来出会うべき時期を大幅に遅れ、ついに知り合ったのだ。