悪役令嬢転生?~ここはゲーム内世界にあらず~
私はエリーシア・オルレアン、前世では日本人でしたが、死後この世界に転生し、公爵令嬢となりました。
ここは乙女ゲーム『女神光臨〜君は僕だけの聖女様』の世界で、私は悪役令嬢のポジションにあたります。7歳の時にこの世界に転生して9年が経ち、今日は13歳の時から通っていた王立学園の卒業式です。
なお、ゲームの世界と言っていますが、私はゲームを買って帰る際に交通事故で死にました。だから登場人物などの名前やグラフィック、少しだけ公開されていたイベントCGは雑誌やホームページで見ていますが、詳細は分かりません。
そんな状況で悪役令嬢に転生した私は一時パニックになりましたが、悪役令嬢らしからぬ人物になれば何とかなるだろうと、学問とマナーを真面目に学び、そして謙虚さに心がけて必死に生きてきました。
その成果でしょうか、ヒロイン絡みのトラブルは山ほどありましたが、以前結ばれた王太子様との婚約も破棄されることはありませんでしたし、50年に一度迎えるという聖女選定の儀でもヒロインではなく私が選ばれたのです。
余談ですが、この世界の聖女は象徴的意味合いが強く、教会で一生を過ごす必要はありません。だから王妃となっても問題ありません。
そして、目の前では、ヒロインであったはずの男爵令嬢が、攻略対象の誰とも仲良くなれず聖女にもなれなかったことに憤慨し、自らが持つ魔力を暴走させて大暴れしたものの、参列者の中にいた高位聖職者や魔術師、そして警護の騎士団の力で抑え込まれたところです。
魔力暴走時に周囲にいた学生が何メートルも吹き飛ばされて血まみれ、残念ですが亡くなっているでしょう。その後の鎮圧時に騎士団の方々にも死傷者が出ています。
なお、危険すぎるということで、ヒロインはその場で処刑されました。
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卒業式から数日後、大神殿で無事に聖女の儀が執り行われました。
そこに光臨された女神様より、貴方と男爵令嬢の件で話すべきことがあるのことで、人払いがされ、そして驚くべき真実を伝えられたのです。
「私は、貴方と男爵家の娘が異世界から転生した時から見守っていました」
なんと、女神様は私とヒロインを知っていました。それによると、異世界からの転生など今までになかったため、監視する必要があった。その際、私とヒロインの言動や思考が気になり、『おとめげーむ』とやらが何なのか、異世界の神に聞きに行ったそうです。結構アクティブな女神様なんですね。
次に、なぜ私たちがゲームの世界に転生したかについて説明してくださりました。
「10年前と5年前に、魔族による強大な魔力の暴発事件があったことは知っていますね」
「はい」
その頃魔族による侵略があり、勇者様たちとの戦いで魔力が暴発した事件がありました。10年前には魔族を逃したが、5年前には討伐に成功しており、当分の間は同じことは起こらないと言われています。なお、10年前とは私が転生する1年前、5年前はヒロインが転生する&学園の入学1年前にあたります。
「この時に世界の理、あなたの世界でいえば情報が暴発した魔力の波動に乗り、様々な場所に拡散されたのです。波動の大半は霧散しましたが、一部が貴方の世界である地球、そして日本という国のある人物の心に取り込まれました。その人物は『げーむでざいなー』という仕事に就いていたようです」
「ということは・・・」
「その『げーむでざいなー』という人物が『おとめげーむ』を作る際に、深層心理に取り込まれたこの世界の情報を元に、国や人物の設定が成されたのです。したがって、『おとめげーむ』の舞台がこの世界であることは間違いありません」
驚くべき事実でした。ずっとゲームの中と思っていたこの世界は、似ているが違う世界だったのです。でも世界や人物の設定が同じなら、ストーリーも同じように進むのでは・・・。
「この世界が舞台でしたら、ヒロインがハッピーエンドかはともかく、あのような悲惨な状況にはならないのではないでしょうか?」
「波動は遠くに飛ぶほど力は失われます。『げーむでざいなー』まで届いた情報は、国や人の姿と名前という程度だったようです。つまり、『おとめげーむ』の登場人物は、容姿と名前はこちらと同じですが、人格は『げーむでざいなー』が作り上げたものです」
そうか、私は『女神光臨〜君は僕だけの聖女様』を買って帰宅中に死んだから、ゲームの情報は雑誌やホームページで公開されている範囲しか知らない。
つまり実際のゲーム内でどんなイベントや選択肢が発生するかほとんど分からないから、こちらの世界では、人として、貴族令嬢として常識的な生活や会話を続けていた結果、皆に気に入られたんだ。
でもゲームをプレイしていたヒロインは、日本人のゲームデザイナーによる『ゲーム用に面白おかしく脚色されたイベントや会話や選択肢』を信じて行動してしまった。
王太子様をはじめとする攻略対象は曲者ぞろいだけど、実際には世界で最高の教育を受けて育った超常識人ばかり。ゲームの知識を前提にして迫られても、頭がおかしい奴としか思われなかったわけだ。
「貴方たちが転生できたのは、魔力の波動がこの世界から日本に飛んだ時に、微かな道が作られたためですが、2人が通ったことで道は失われました。今後、新たな爆発が生じて波動がまた日本まで飛ばない限り、転生者が来ることはありません」
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ここはゲームの世界ではなく、私が住む世界そのもの。いつゲーム補正がかかって没落するかと恐れながら、恐々と日々を過ごす必要はなくなった・・・。
気の抜けた私は思わずへたり込みました。そんな私に女神様が笑みを浮かべながら話しかけてきます。
「最後に聞きたいことがあります。これはあくまで私が抱いた興味ですので無理に答える必要はありません」
興味ってなんだろう? と思いながら女神様からの質問を待ちます。
「私は今回のことで、貴方たちの世界の存在や、そこに魔法は無く科学と呼ばれる文明が発展しており、そしてこの世界を舞台とした『おとめげーむ』があることを知りました。そして、『げーむ』というものは『げーむき』という『こんぴゅーたー』で遊ぶということも、あちらの神に教えてもらいました」
さらに、これからは退屈せずに済みそうです、と小声が聞こえて思わず吹き出しそうになる。だが、次に発せられた女神様からの問いに顔が引きつった。
「科学の世界で教育を受けて成人した貴方たちが、いくら人物などが似ているとはいえ、なぜ生ける者が『こんぴゅーたー』の『げーむ』内に転生するというありえないことを信じたのですか?」
私はその問いに答えることはできなかった。