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最強かもしれない少年達の冒険譚  作者: タラバガニ
生け贄の集落
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5話「滝壺での咆吼」

空は雲に覆われており、朝日が上った今も周囲は薄暗いままでいた。

息を吐くと、それは白く漂い消えていった。

地面は落ち葉が散らかっており本来の道はよく見えない。

今、この世界は冬なのだろうか。

そんなことを考えながら彩花は山道を歩かされていた。


「元気がないのう」


そう彩花に語りかけてきたのは白い髭を生やした老人であった。


「ユガーラさん、でしたっけ。生け贄にされる前に元気でいられるわけないじゃない」

「ふん。神への供物になるのじゃから光栄であろうに」


ユガーラはそう言うと黙ってしまった。


「そういえば、祐介達はどうなったの?」


今度は彩花の方から質問をする。

が、答えはユガーラの機嫌で察していた。


「ちゃんと集落の戦士になると誓ったわい」


ユガーラは平然とそんな嘘をつく。

彩花は思わず笑いそうになる。


(でも、ちゃんと助けてくれるかな)


彩花の前方にはユガーラ、マーミヤ、ナーヤル。

だけではない。

さらに多くの人が彩花を囲むように動いていた。

この包囲網から逃げ出すのは容易ではない。


「何人くらいここにいるの?」

「よぉ話す娘じゃのぉ」

「黙っていたら緊張で死んじゃいそうだわ」

「・・・集落の住民の3割は来とる」


そうは言われても集落の人口が分からない彩花には何の情報にもならなかった。


(でも見た感じ30人くらい、かな)


前の方には5人、左右にはそれぞれ10人くらい居るように見える。

後ろは不明だが同じくらいだろうと彩花は予想する。


(ま、どのみち助けを待つしかないんだけどね)


祐介達がどのタイミングでどう助けてくれるか分からない。

だからせめて少しでも油断させておくために彩花は会話を続ける。


「ねぇ、質問なんだけど」

「・・・これで最後じゃぞ」

「なんで男性は布一枚なのに女性は着物みたいな豪華な服を着てるの?」


パッと見たかんじで違和感を抱いていた。

男は腰布一枚の原始的な格好なのに女性はマーミヤのように綺麗な着物を着ている。

そこには明らかに文化レベルの違いがあった。


「簡単なことじゃ。女性は神への供物じゃからな、大切にせんとバチが当たる」

「ふーん」


実に簡単な答えが返ってきて、会話が終わってしまう。


「で、でさぁ」

「・・・」


ついにユガーラが無視を決めこみだす。


(どうしよう・・・)


このまま黙って連れて行かれなければならないのか。

そもそも本当に助けは来るのか。

別に祐介達を信じていないわけではないが、なんらかのトラブルで助けに来れなかったら


(死・・・)


目的地が近づき、彩花の不安は増す。

何かが起きる気配もなく、淡々と歩を進める。

心臓の鼓動が段々と早くなり、固唾を飲み込む。


と、そこでそれは起きた。


ドゴォオという轟音がして何もなかった地面に突如穴が開く。

その穴の中に彩花の前を歩いていたユガーラとナーヤルが見事に落ちて行く。


「落とし穴作戦、成功だ」

「逃げるぞ彩花!」


それまで物音もしなかった茂みの中から祐介と直也が現れる。


「あ、あんた達」

「さぁ行くよ」


ギリギリで落ちなかったマーミヤを押しのけて祐介が彩花の手を掴む。

周りの者は突然のことで何が起きたのかを理解するまで時間がかかった。

彩花が逃げ出した。皆がそれに気づいた時には3人は既に森の中に姿を消していた。


「良かった、ちゃんと来てくれて」

「そりゃ来るよ。でも、まだ油断しないで」


祐介は彩花の手を引っ張りながら背中に汗をかく。

そう、まだ気を抜くことは出来ない。


「そろそろ、穴に落ちた人達が動き出すころだ」


直也も走りながら後ろを振り返る。

そこからは誰もいないのに妙な威圧感がする。


「つまり」


遠い場所、さっきまで居た方角から雄叫びが聞こえる。


「ナーヤルが来る」


3人は体力の続く限り全速力で逃げる。

捕まれば、いや見つかれば終わりだ。


「くそっ!声が近づいて来やがる」

「真っ直ぐは駄目だ。ジグザグに進もう」


次の木を右。その3つめの木を左。

それを繰りかえすものの、時折聞こえるナーヤルの雄叫びはますます近づく。


「なんで僕たちの場所が分かるんだよ」

「俺がそんなん知るかよ!」


どこまで逃げても逃げ切れる気がしない。

そんな考えが皆の心を過ぎる。


「そろそろ、体力の限界なんだが」

「私も・・・」


希望も見えずに走るのは体力をいつも以上に使う。

それはゴールのないマラソンを走るのと同じだ。


「ちょ、休憩」


ついに、3人が足を止めてしまう。

木に寄りかかって息を整える。


「結構走ったよね・・・」

「あぁ、この森の中でこれだけ距離を作れば普通はなかなか見つからない」

「そういえば、もう雄叫びが聞こえなくなったわね」


3人が耳を澄ますも、聞こえるのは風で木が揺れる音のみ。

足音どころか生物の鳴き声さえしない。


「逃げきれたか?」

「今のところ誰かが近づいてる気配はないよね」


つまり、あのナーヤルの包囲網を突破した。

その事実に息を荒げながらも安堵する。


「よし、よし!」

「ここからは走らずゆっくり歩こう」

「あー怖かった。本当に死ぬかと思ったわ」

「僕たちだって殺されるかと思ったよ」

「よく無事だったよなー俺達。まぁとっととこんな森、抜け出そうぜ」


希望が見えてきたことにより、3人の力もわいてくる。

見渡す限り人はいない。足音も聞こえない。


「よし、じゃぁ行こう」


ドスッ!!という音が聞こえた。


「え?」


目の前には当たり前のようにナーヤルが立っていた。

さっきまで周りに人は見えなかったのに。


「何で、ここに」


しかし、答えは分かっていた。

足音が聞こえない?当然だ。

そう、ナーヤルは地面を歩いてなかったのだ。

木の枝から枝へと飛び移り、たった今祐介達の目の前に着地した。

それだけのことだった。


「忍者かよ、君は」

「何で俺達の居場所が分かるんだよ」


希望から絶望への急降下。

もはや感情が追いつかない。


「俺ハ、女ノ匂イナラ、3キロ離レテモ分カル」

「・・・変態かよ」


ナーヤルの馬鹿みたいな特技に、しかし笑ってツッこむ余裕もない。

絶体絶命とはこのことだ。


「僕が、時間を稼ぐ」


祐介がそう言い、ナーヤルの前に立ちはだかる。


「邪魔ダ」


ナーヤルはそんな祐介の覚悟を嘲笑うかのように、一回のジャンプで祐介を跳び越える。

そしてそのまま彩花の腕を掴み、後ろに回す。


「コレ以上邪魔スルナラ、残念ダガ、アヤカヲ殺ス」

「・・・」


もはや打つ手なし。


「一緒ニ来イ」

「くそぉ!」


彩花が人質にとられた以上抵抗ができない。

必死に考えを巡らすが、どうやっても彩花は死んでしまう。

もはや理不尽な選択肢しか残っていない。


「来ナケレバ彩花ヲ殺ス」

「行くよ・・・」


直也も、歯ぎしりしながら従う。

振り出しどころか、状況は悪化した。

そのまま、結局3人は元の場所に帰ってきてしまう。

もう動けぬように両手を縄で縛られて歩かされる。

歩くごとにタイムリミットが迫り、

焦る気持ちで策を考えても何も思い浮かばず・・・


「着いたわい」


ついに到着してしまう。

そこは、ドドドドという豪快な水の音がする滝であった。


「あそこに祈りを捧げながら飛び込むんじゃ」


滝の水は10メートルくらい上の崖から流れだしており、その水流は岩をも砕く勢いだ。

滝は地面を穿ち、深い滝壺を形成していた。

地下へ落ちた水がどこへ行くのかは暗くてまったく見えない。

しかし、助かる見込みは限りなく0だろう。


「滝・・・」

「戦神は元々水の神でしたから」


彩花の何気ない一言にマーミヤが反応する。


「私も、きっとすぐに生け贄になります」


そう言うマーミヤの足は震えていた。

彩花の姿と未来の自分を重ねたのだろう。


「・・・う」


押されるように滝が作った穴の縁まで歩かされる。

その深さと暗さを見て、彩花は思わず泣きそうになる。

どれだけ逃げようともナーヤルのいる限り逃げ切れない。


「やだ、死にたくない」


足踏みしている場合ではない。

祐介は腕を動かせずとも必死で彩花の元まで走ろうとした。


「彩花っ!」


しかし、背後からナーヤルに押さえつけられる。


「離してくれよ!おい!」

「黙ッテ見テイロ」


その隙に直也も走り出す。

が、今度はユガーラに足を引っかけられて転ぶ。


「ひっこんでろジジイ!」

「口の利き方が悪いのぉ」


倒れる直也の上にユガーラが座る。

そうこうしている内に彩花はついに滝が形成した断崖絶壁に立たされていた。


「さぁ、祈りを」


名も知らぬ女性がそう語りかけてくる。


「・・・」


彩花の心臓が破裂しそうなほど早くなる。

唾を飲み込もうにも、緊張で飲み込めない。

血の気が引いていく。


「では、行きますよ。目を瞑ってください」


両側から肩を掴まれ、もう逃げることはできない。

もはや何も考えられず、言われるがままに目を瞑る。


「我々の村に幸をもたらしたまえ」


耳からそんな言葉が聞こえた直後、

どん、と背中を押されて体中が浮遊感に襲われる。


「やっ・・・!」

「彩花ぁああ!!!」


それを目撃した祐介は、

ユガーラの腕を振りほどき、走り出す!


「うおぉおお!!!」


そのままの勢いで彩花を追って崖を飛び降りる。


「なっ!?」


誰もが想像しなかった事態。

それ故、誰にも止められなかった事態。


しかし、ほぼ同時とはいえ後から飛び降りた祐介の手は、彩花の手に届かない。

底が見える。

落ちる場所には都合よく尖った岩が突き出ていた。

そこに、彩花の背中が刺さりそうになるのが見える。

もう刺さる。

祐介は、無我夢中で手を差し伸べる。


「くっそぉおお!!」


その時、祐介の咆吼に呼応したかのように滝が暴れ出した。


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