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最強かもしれない少年達の冒険譚  作者: タラバガニ
生け贄の集落
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1話「森での攻防」

見たこともない世界に飛ばされた3人は一通り慌てた後、これからの事を考え始めた。


「とりあえず、この森を出ることが先決じゃねぇか?」

「そうだね、けどどっちに行こうか」


周囲には先程いた森と同じように木が乱立している。

どの方向も目立った物はなく、進む道を決めかねていた。


「太陽のある方向に進めば真っ直ぐ行けるんじゃねぇか?」

「太陽だって動くでしょ」

「なら、確かこういう時は木の年輪を見ればいいんだよ」

「直也は見て分かるの?」

「分からん」

「僕もだよ」

「まじかよ、彩花は?」


直也が振り返って尋ねると、彩花はやや不機嫌なトーンで返した。


「私も知らないわよ。ってかあんた達、何でそんな冷静なのよ。私は訳が分からなくて頭がパンクしそうよ」

「僕も分からないよ。けど止まっていても分からないじゃないか」

「そーそー」


祐介の意見に直也が適当に相づちを打つ。


「・・・やっぱり、ここって地球じゃないの?」

「どうだろう、でも確かにここは見たことない物であふれている」


そう言いながら、祐介は近くにあった木の幹に触れる。

その木は一見よくある普通の木に見えるが、その材質はガラスに近い。

指で叩いてみても、コンコンと甲高い音を奏でる。

枝や葉には手が届かないので詳細は分からないが、その葉の色は緑ではあるがほとんど白に近かった。

と、そこで直也が何かに気づく。


「おい、祐介その手の甲のやつ何だ?」

「え?」


見てみると、右手の甲に赤い円みたいな模様が浮き上がっていた。

線の太さは1センチくらいだろうか、その線が中指の付け根から手首までを直径としたドーナッツ状の円を形成していた。


「なんだろ、見覚えないな」

「痛くないの?」

「うん、まったく」


この世界に来てから感覚が麻痺し始めたのか、祐介はその紋様をさして気に留めなかった。


「まぁとにかく歩かなければ始まらないし、僕が今触った木の方向に真っ直ぐ進もうか」

「ま、そうだな。また迷いそうだぜ。特に彩花が」

「なっ!?あんた達も迷ってたじゃない!」

「そもそもお前が迷ったのが原因だろ!」

「仕方ないじゃない!見渡す限り木ばっかで分かりにくいのよ!」

「ねぇ、とにかく進まない?」


祐介が口喧嘩する2人に先を促して進もうとした瞬間、後ろから音が聞こえた。

いつもなら気にしない小さな音だったが、今は緊張と不安で感覚が鋭くなっているのか、3人にはやけに大きな音に聞こえた。


「っ?」


3人が反射的に振り返ると、そこには人が居た。

腰に茶色の布を巻いて、上半身は裸の20代くらいの男。髪は後ろで結っており、こちらを睨むギロリとした目がはっきりと見えた。

その手には武器らしい物は持っていないが、その肉体に備わっている筋肉の量だけで圧倒されてしまう。


「・・・どうする?助けてくれるかな?」


直也が小さな声で祐介に尋ねる。


「見た感じ文化的な格好はしてないよね。ビジュアル的には僕たちを食って殺しそうだよ」


しかし、先に口を開いたのは原始的な格好をした男の方だった。


「何者ダ?」


やや拙い言い方ではるが、相手が知っている言語を話したことで祐介達は少し安心した。


「僕、八川祐介っていいます」

「俺は菅原直也」

「・・・私は篠田彩花」

「ヤガワユースケ、スガワラナオヤ、シノダアヤカ・・・」


男は少しの間何か考え込むように目を瞑る。

そして、急に手をぽんと叩き目を開く。


「ソノ変ナ名前・・・君達『異民』カ?」

「移民?」

「ウーン」


男は再び考えこむように腕を組み、言葉を探す。

首を傾げながら、数秒かけて何とか言葉を紡いでいく。


「エット・・・他ノ世界カラ、来タ?」

「あ、たぶんそうです!」

「やっぱりここって地球じゃないのかしら」

「でも言葉が通じる人に出会えてよかったぜ!」


少なくとも、この世界の住人は他の世界というものを認知している。

だとしたら、帰る方法も分かるかもしれない。

少しだが希望が見えてきて、3人とも明るさを取り戻す。

目の前にいる男も何故かとても嬉しそうに笑う。


「ソウカ、君達、異民カ!」

「そうそう!俺達異民!帰る方法とかご存知?」


直也がそう言い、男の方に駆け寄る。

その直後だった。


「ナラ、仕方ナイ」


筋肉隆々のその腕が直也の腹に渾身の一撃を与える。

たったそれだけで、直也は一言も発さずにその場に崩れる。


「直也!」

「あんた、何してんのよ!」

「仕方ガ、ナイ!」


男は祐介との距離を一瞬で縮めると、その勢いのまま祐介の脇腹に蹴りを入れる。


「ぐっ・・・あっ!!」


祐介は痛みで呼吸もできなくなり倒れる。


「ちょっと、近寄らないでよ!」

「・・・」


男はゆっくりと彩花の方に向き直る。

彩花は少しずつ後ずさりしていくが、遂に背中に木が当たり、足を止めてしまう。

男は、腕を高々と上げ、全力で彩花の顔をめがけて殴りつける。


「させ、るかぁ!!」


祐介が歯を食いしばって起き上がり、男の足に飛びつく。

そのせいでバランスの崩れた男は拳の標準を少しずらした。

拳は彩花の顔のすぐ横を掠め、後ろの木に当たり、あろうことか、その木にヒビが入る。

ガラス質とはいえ、これだけ高い木の強度がそんなに弱いわけがない。

この一撃が彩花の顔に直撃していたらと思うとゾッとする。


「邪魔ヲ、スルナ」


祐介は再び蹴り飛ばされるも、どうにか意識をつなぎ止めて再び起き上がる。


「彩花、逃げるんだ・・・」

「でも!2人を置いて行けない!」

「すぐに後を追うよ」

「けど・・・」


男は2人の会話など待ってくれない。

抗う祐介には目もくれず、まずは近くにいる彩花から先に始末しようとする。


「させないって、言ってるだろ!!」


祐介は再び男に飛びつく。

後ろから両脇の間に腕を差し込んで動きを制止させようとする。

が、男の筋肉の量からも分かるように力の差は歴然だ。

まるで肩についたゴミを払うかのように簡単に投げ飛ばされる。

けれど、その時間の間に彩花は走り出し、男とかなり距離を作っていた。


「逃ゲテモ、スグ追イツク」


有言実行。

男の一歩は常人のそれとはかけ離れている。

たった三歩、それだけで彩花に追いついてしまった。


「くっそぉ・・・」


祐介はすぐに立ち上がろうとするが、足に力が入らない。

たった三発、三発の攻撃で祐介の体は動かなくなってしまった。

それほどまでに一撃が重い。

その攻撃を彩花が食らおうとしている。


「逃げるんだ、彩花・・・」


だが、男もそう何度も逃がしてくれるわけがない。

今度は片手で彩花の首を掴み、持ち上げる。


「うっ、あ」


息ができずに苦しむ彩花に、さらに一撃を加えるためにもう片方の拳を後ろに引く。


「おい、やめろ」


そんな言葉を聞いてくれるわけもなく、男の拳は固く握りしめられ、照準を彩花の腹部に合わせる。


「やめてくれよ!!おい!!」


ゴゴッと鈍い音がして呆気なく彩花の体から力が抜ける。

だらん、と力なく腕が下がる。


「あ、ああ」


男は彩花の首から手を放し、その場に彩花が落ちるように倒れる。

何の感情も乗せない男の目が、今度は祐介に向けられる。

しかし祐介は男など見ていない。

その視線はただ一点、ピクリとも動かない彩花だけを捕らえている。

生きているのか、もしかして死んでいるのか。


「何なんだよ・・・お前は」


さらに倒れたまま首だけ回して後ろを見る。

そこには同じように力なく倒れている直也がいた。


「何で、僕たちを攻撃するんだよ」


さっきまで、楽しい思い出になるはずだったキャンプをしていた。


「わけも分からずこんな場所に来て、今度はわけも分からず殴られて・・・」


祐介が再び迫る男の方向に首を動かす。

しかし、その視線の先にはやはり死んだように倒れている彩花の姿が映り、


「異民ナラ、仕方ナイ」

「ふざんけんな!!!!!」


祐介の感情が爆発する。

それと同時に、さらに奇妙なことが起きる。


「そんな意味不明な理由で直也が、彩花がこんな目にあったってのかよ!!」


祐介の手の甲にあった赤い円がさらに赤く光り輝く。

そのドーナッツ状の円の穴の部分に何か別の紋様が浮かんでいる気がしたが、もはや祐介にとってはどうでもよかった。


「何ダ、ソノ光・・・」


さらに、森が揺れる。

森中の木々が、葉が、揺れる。


「絶対に、許さないからな」


グオォオオオオ!!という轟音と共に、森中の葉が、蔓が、根が、男に向かって襲いかかる。

祐介も何が起きたのか理解をしているわけではなかった。

ただ、その光景を、なぜか怖いとは思わなかった。


「絶対、に」


突然、強烈な眠気に襲われて祐介はその場に倒れ込む。

それと同時に森の攻撃も静まる。

あれだけの猛攻を受けて、しかし男は立っていた。


「・・・手間ガ、省ケタ」


男は祐介と彩花と直也を同時に肩に担ぐと、森の奥へと消えていった。


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